3年前。
母さんの“写真事件”以来、僕の中の何かは確かに狂っていた。
大学で過ごした3年間、外側はいつも通りの日々だった。
講義に出て、レポートを書いて、人と話して、笑ったふりもした。
けれど内側では、ずっとあの瞬間に縛られていた。
そして、一年前。
あの夜の映像。
母さんの姿。
理解も整理もできないまま、それだけが胸の奥に残っていた。
今回の旅行は――もうすぐひと月になる
妄想だったのか、夢だったのか、自分でもよくわからない。
でも、あれが僕の中の執着の、最後の形だったように思う。
それが終わったとき、何かが静かに抜け落ちた。
そして、ユイちゃんに再会した。
たった一言、「久しぶり」と微笑んだ彼女の顔を見て、
僕はようやく、自分が戻ってきた場所を知った気がした。
あの日からずっと、僕はどこにもいなかったのかもしれない。
時間だけが進み、心は止まっていた。
でも今は、少しだけ前を向ける気がしている。
母さんの影が完全に消えることはないだろう。
けれど、それに囚われる必要も、もうないのかもしれない。
あの3年間は確かに僕のものだった。
そして、それは今、過去になろうとしている。
スマホが光る
ユイちゃんからのメールだ。
ユイちゃんとは、あれからちょくちょくメールのやり取りをするようになった。
内容は本当に些細なことばかりだ。
「今日、駅まで歩いたら汗だくになった」とか、
「紫陽花がようやく咲き始めた」とか。
そんな他愛のない話を、時間を気にせず送り合っている。
でも、不思議とそれが心地よかった。
少しずつ、ゆっくりと、お互いの距離が縮まっているのがわかる。
焦らなくていい、と思える関係だった。
ユイちゃんは医学部に通っていて、あと2年は九州にいるという。
遠い場所にいるけれど、不思議と“遠さ”は感じなかった。
言葉を交わすたび、どこかでちゃんとつながっているような、そんな安心感があった。
その2年という時間――
僕にとっては、自分を立て直すための猶予のようにも思えた。
今までずっと立ち止まっていた。
過去に囚われて、目を逸らし続けていた。
でもそろそろ、前に進まなければいけない。
ユイちゃんが戻ってくる頃には、
僕は自分の足で、ちゃんと立っていられるようになっていたい。
そう思うようになった。
それは誰かに見せるためじゃなく、
ただ自分のために。
ようやく、そんなふうに思えるようになったのだ。
僕は就職も決まり来年はおそらく家を出ることになるだろう。
どこに赴任するかわからない。
海外かもしれない。
でも僕はもう大丈夫だ。
これで僕の歪んだ物語は終わり。
と書いたところでまたスマホが鳴った。