返信すべきか――
僕はしばらく、スマホを持ったまま動けずにいた。
コウジの文面に不自然な点は何一つなかった。
むしろ、丁寧で気配りのある内容だった。
だからこそ、余計に引っかかった。
あれほど濃密で、どこか取り返しのつかない何かを見てしまった気がしていたのに、
彼の口ぶりはまるで、それが存在しなかったかのようだった。
もしも僕が返信すれば――
その“夢”は完全にただの記憶違いとして処理されてしまうのかもしれない。
それでも、何か一言返すべきなのか。
礼儀として、あるいは自分のために。
迷っていると、再び通知音が鳴った。
また、コウジからだった。
“追伸”とだけ書かれた件名。
喉が鳴る。
今度こそ、何か言及されるのではないか――
そんな一抹の緊張を抱えながら、僕は指先で開封ボタンを押した。
追伸:
そうそう、書き忘れてたことがあって。
息子くんに――
あの時のお土産を、送ります。
ちょっと遅くなっちゃったけど、受け取ってくれると嬉しいな。
喜んでもらえるかな。どうだろう。
あれ、君の記憶にもちゃんと残ってるといいんだけどね。
じゃあ、また。
コウジ
⸻
僕はメールの文面を、何度も読み返した。
「あの時のお土産」
その言葉が、じわじわと胸の奥に染み込んでいく。
――あの時。
やはり、僕が見たものは、夢なんかじゃなかったのか?
いや、それとも……まさか、まさか本当に何かが届くのか?
「喜んでくれるかな」
その軽やかな一文が、異様なほど重たく響いた。
僕はスマホをそっと伏せた。
スマホを伏せたはずの手が、勝手に動いていた。
画面に視線を戻したその瞬間、さらに一通の新着通知が表示されていた。
件名:ほんの気持ちです
差出人は、またコウジだった。
開くかどうか、数秒迷った。
だが、指は拒むように震えながらも、画面をタップしていた。
メールは短かった。
⸻
本文:
さっき言ってたお土産データ送ります。
あの夜を、思い出してもらえると思う。
君にも、そしてお母さんたちにも。
楽しんでくれるといいな。
⸻
スクロールすると、画面下部に複数の添付ファイル。
動画、写真、そして名前のつけられていないテキストファイルがいくつか。
僕は喉の奥が詰まったような感覚に襲われ、思わずスマホを遠ざけた。
開くべきか、それとも――
このまま見なかったことにすべきか。
でも、目はすでに、そのうちのひとつのファイル名を捉えていた。
「mothers_night_01.mov」
鼓動が耳の中に響く。
空気が薄くなる。
視界の端がわずかに滲んでいく。
僕は唇を強く噛んだまま、スマホを握りしめた。
このファイルを開いたら、もう元には戻れない。
そんな直感が、胸の奥で警鐘のように鳴り響いていた。
僕はそれでもなぜか興奮していた。
そして意を決してまず画像データを開く。
僕は呼吸をすることすら忘れてしまった。
そこにあらわれたのは
男女の結合部をアップで撮った写真。
続けて豊満なおっぱいが揺れているのであろう写真。
3枚目。僕は絶望した。
そこには快楽で淫蕩に蕩けるようなイクミさんの顔。