マサルっていう、大学の友達がいる。
仮にそう呼んでおくけど、こいつがまた、とんでもなく自己愛の強い男で――いや、もうちょっと言えば、自己愛性人格障害って診断がついてもおかしくないんじゃないかってレベルのやつだ。
でも、なんというか、僕はそういうマサルが嫌いじゃなかった。むしろ、妙に気に入ってた。面白いんだよ、彼は。いろんな意味で。
そのマサルが、ある日ぽつりとこう言ったんだ。
「ユウちゃんって、いいよな」って。
ユウちゃんは同じ学年の、どこか気の強そうな目元をした女の子で、でも笑うと柔らかくなるその表情に、なるほどマサルが惚れるのもわかる気がした。
それからのマサルは早かった。いつもの自己演出力をフル稼働させて、ゼミのコンパを企画した。しかも博士課程の院生まで巻き込んで、やたらと大規模な飲み会に仕立てあげた。
「全部俺が仕切ったんだぜ」とでも言いたげに、会の間じゅう得意げな顔をしていた。
ユウちゃんとも自然に話して、笑わせて、周囲の目には“いい雰囲気”に見えたんじゃないだろうか。
マサル自身も、そう確信していた。
でも、僕は知っていたんだ。
隣のテーブルで、院生の◯◯がユウちゃんにささやきかけていたこと。
グラスを重ねながら、さりげなく距離を詰めていくその手口を。
ユウちゃんが、それを嫌がっているようには見えなかったことを。
数日後、マサルから連絡がきた。
「これからユウに告白する。お前、見届け人な」
あいつらしいと思った。最後の仕上げも、人前で決めたいんだろう。
マサルの家についたとき、チャイムを押そうとした僕の耳に、部屋の中から叫び声が届いた。
「えっ……なんで……!」
「どうして……誰と……」
一瞬、胸がざわついた。けど、すぐに理解した。たぶん、告白は――
しばらくして、ドアがゆっくり開いた。
マサルが立っていた。
目が、虚ろだった。僕を見ているようで、まるで見ていなかった。
「断られました」
ぽつりと、そう言った。
「院生の◯◯と……付き合ってるって」
「ごめんなさい、って」
沈黙が落ちた。
それを破ったのは、マサルの独り言みたいなつぶやきだった。
「あいつが、あんなやつだとは思わなかった……。俺が目をかけてやる必要もなかったな……」
ああ、やっぱりマサルはマサルだ、と思った。
何が起きても、自己愛を手放さない。自分の物語の主役であり続ける。
痛々しいほどに滑稽で、それでもどこか憎めない。
その夜、僕たちは朝まで酒を飲んだ。
マサルはずっと喋っていた。
ユウちゃんのこと、院生の裏切り、そして自分の“損失”について。
僕は聞いているふりをしながら、どこか遠くで笑っていた。
やっぱり、マサルは面白い。