※この作品はR-18です。

母の写真 日常の向こう側   作:松田義和

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第四十章 もう一通のメール

また、スマホが震えた。

音は同じなのに、もうそれが「日常の通知」には思えなかった。

胸の奥がざわめく。

鼓動が、不規則に速くなる。

 

恐る恐る画面をのぞく。

差出人を見た瞬間、息が詰まった。

 

ミキオ――

あの、ミキオからだ。

 

なぜ今?

まさか……まさか彼まで?

 

喉の奥がきゅっと狭くなる。

手が汗ばみ、スマホを持つ指が少しだけ滑った。

 

まさか、母さんの?

それとも――別の、誰かの?

 

こんなふうに、次々と繋がっていくなんて想像もしていなかった。

でももう、この流れの中で“まさか”という言葉すら意味を失っていた。

 

僕は、震える指で通知を開いた。

メッセージには、たった一言。

 

「あの時はすまなかったな」

 

その下には、やはり添付ファイルのアイコンが並んでいた。

画像ファイル。

動画ファイル。

そして、見覚えのあるフォーマットの“メモ”ファイルもひとつ。

 

目の奥がじんじんと痛み出す。

画面の中にあるのは、過去ではない。

僕たちの“今”そのものだ。

 

開くか、それとも。

 

選択は、もう僕には残されていないのかもしれなかった。

 

 

写真には、思い当たる節があった。

あのとき、ミキオは確かにスマホを構えていた。

母さんが、浴衣を着て、上半身を起こしていた場面――

何をしていたのか、いや、何を“撮られていたのか”は、もうはっきり覚えている。

 

あれが写っていたのなら、驚くことではない。

 

けれど、メールには動画ファイルも添付されていた。

 

――動画?

 

写真なら、静止画。

一瞬だけを切り取った記録だ。

けれど、動画となれば、それは“流れ”だ。

映っていなかったものまで、そこには映っているかもしれない。

 

僕の知らない何かが。

僕が見ていなかった時間。

 

画面を見つめたまま、息が詰まる。

 

写真のとき、母さんは浴衣を着ていた。

 

僕が襖を開けた時、

ミキオは「驚いたな、息子くんか」と笑っていた。

あの軽い笑みの裏で、どこまでを撮っていたのか。

 

写真だけならまだしも。

今、ここにあるのは動画ファイルだ。

 

それが意味するものを、僕はまだ知らない。

けれど、もう覚悟だけはしておかなければならない気がしていた。

 

指がファイル名の上にかかる。

視線が揺れる。

心臓が、重く、静かに、打っていた。

 

 

僕は、まず写真でも動画でもなく――

テキストファイルを開いた。

それが唯一、「傷が浅くて済む」ような気がしたからだった。

でもその期待は、一瞬で打ち砕かれる。

 

表示された文章は、まるで僕に宛てた私信のようだった。

軽い口調。

だが、その軽さの下に、あの夜のすべてが沈んでいた。

 

⸻

 

あの時の息子くんの勇気には感動したよ。

 

いきなり襖を開けてくるなんて、まさかだった。

 

空気読まないっていうか、さすがだよ。

 

だからこれは、僕からのプレゼント。

 

感謝と、ちょっとしたご褒美だ。

 

……お母さんと、仲良くな。

 

⸻

 

喉が詰まった。

心が、すっと冷え込む。

 

プレゼント。

それはもう、皮肉にも罰にも聞こえた。

この手元に届いた“記録”そのものが、何より雄弁な答えだった。

 

そして最後の一文――

「お母さんと、仲良くな」

 

 

ファイルの横に並ぶ、動画と画像のアイコン。

その先に、何があるのかはもう、だいたい察しがついていた。

でも――

それでも確かめずにはいられない。

 

僕はテキストを閉じ、

再びスマホの画面を見つめた。

 

次に開くそのファイルが、

僕の中の「現実」を、またひとつ上書きしていくことになるのだろう。

 

 

僕は、動画にはまだ触れられなかった。

指が自然と向かったのは、写真ファイルだった。

あのときのものだと、どこかで確信していた。

 

それでも、ほんの一秒だけ、読み込みの時間が怖かった。

表示されたその瞬間、胸の奥に鈍いものが沈み込んだ。

 

――やはり。

あの時のものだ。

 

一枚目。画面に映っていたのは、畳の部屋。

布団の上に、浴衣をまとったお母さんがいた。

 

髪は乱れ、目は閉じている。

半身を起こしているが、頭は下を向く。

顔にはかすかな紅潮。

酔って寝ている姿。

 

 

二枚目。ミキオが母さんの顎を持ち上げた顔のアップの写真。

 

三枚目。また一枚目とほとんど同じ。

 

四枚目。布団に横たえられた母さん。

 

五枚目。浴衣の肩と裾を広げられた母さん。

 

六枚目。帯もとかれ下着姿の母さん。

 

 

【挿絵表示】

 

 

七枚目。下着を脱がされた母さん。

 

 

【挿絵表示】

 

 

八枚目。母さんの秘部。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

あの時僕はここで襖を開けた。

 

 

だから写真はこれだけだ。

 

だが、この動画はなんだ?

 

これ以外に何があるんだ?

 

 

僕は震える指で動画を開いた。

 

 

 

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