※この作品はR-18です。

母の写真 日常の向こう側   作:松田義和

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補章 ひと月後 

あれから、ひと月。

 

何かが変わったようでいて、

表面上は何ひとつ変わっていない。

 

トシマサやマサユキとは、今まで通りの友達付き合いをしている。

学校の話、将来の話、ちょっとした冗談。

僕も、普通に笑えている――ふりをしている。

 

母さんも同じだ。

イクミさん、ユキさん、そしてユウナさん。

四人で集まっては、週末ごとに誰かの家でお茶会を開いている。

 

ケーキを持ち寄って、

笑って、

昔話や近況を語り合って。

 

「いつもの日常」だ。

 

でも、僕のスマホには――

まったく別の世界が保存されている。

 

あの廊下の映像。

あの浴衣の皺。

あの肌にかかる手。

 

静かに笑う母さんの写真。

拒まない母さんの姿。

 

現実の中の母さんたちとは別の、もう一つの“世界”。

 

そこには音も、空気も、熱もある。

それがたまらなく僕を引き寄せる。

 

そう、いけないのはこの**“別世界”**だ。

頭ではそうわかっている。

でも、どうしようもなく惹かれてしまう。

 

お茶会で笑い合う母さんたちを見ながら、

ふと、こう思ってしまうことがある――

 

あの人たちの“裏側”を、また見たい。

 

どうなっているのか。

どこまで映っているのか。

新しいファイルはあるのか。

次は、誰が――

 

そんなときは、

スマホを取り出す。

画面を開いて、保存フォルダを覗き込む。

 

でも、それもすぐに飽きてしまう。

 

また、“新しい世界”が見たくなる。

過去の記録だけでは、もう足りない。

 

ある日、母さんたちの会話が耳に入った。

 

「今度は、四人で旅行しましょうよ」

「いいわね、どこか温泉でも」

 

四人で――。

 

ユウナさんまで、あの中に入るのだろうか。

 

もう、わかっている。

そのときも、同じことが繰り返されるのかもしれない。

 

でも、僕は――

もうそこにはいない。

 

いないほうがいい。

いないべきなんだ。

 

わかっている。

 

それでも、

もしまたファイルが届いたら。

あの人たちの笑顔の裏側が、

また、僕のスマホに映されていたとしたら――

 

僕は、きっとまた、

見てしまうのだろう。

 

僕は、わかっている。

これは望んではいけないことだと。

そんなものを期待する自分を、軽蔑すべきだと。

 

でも――

 

それでも、僕はまた望んでいる。

 

母さんの、新しい写真を。

 

あの画面の中で静かに微笑む姿。

無防備で、抗えないままに身を委ねる一瞬。

視線の先に誰がいるのかさえわからない、あの遠く沈んだ表情。

 

僕は、それをまた、見たいと思ってしまっている。

 

画面を開きながら、

「今度はどんなふうに映っているだろう」

そう考えている自分に、ふと寒気が走る。

 

これは病気なのかもしれない。

でも、それでもなお――

治すことより、その続きを知ることを選んでしまう。

 

そういう自分が、もうここに出来上がってしまっているのだ。

 

たとえ、

その先にあるものがどれだけ破滅的でも。

 

次の旅で何が起こるのか。

誰がどこまで踏み込むのか。

僕には、何もわからない。

 

ただひとつ、わかっていることがある。

 

僕はまた、新しい“記録”を待っている。

 

そしてそれが届いたとき、

僕はきっと、

誰よりも早く、それを開いてしまうのだ。

 

 

 

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