今日のことだ。
例の“お茶会”が、なんと我が家で開かれることになった。
朝からなんとなく母さんが落ち着かない様子で、キッチンと居間を何度も行き来していた。
僕が「今日は誰か来るの?」と聞くと、ちょっと間を置いてから「ああ……うん、いつものメンバーよ」と答えた。
その返しが妙によそよそしくて、嫌な予感はしていた。
案の定、昼前にはおばちゃんたちがぞろぞろと集まってきた。
ユイちゃんのママ、マサユキの母さん、そしてトシマサのお母さん。
笑い声と甘い香りが玄関から漏れてきて、僕は居間に近づくのもためらった。
なんでまた、うちなんだよ……と思っていたら、すぐに理由が判明した。
どうやら、例の“温泉旅行のプレゼント”の件が話題になっていたらしい。
「まあ松田さん、息子さんから旅行のプレゼントだなんてすてき!」
「急にどうしたの? そんな仲良しだったっけ?」
「どこで予約したの? そういうの、最近流行ってるの?」
どうやら、母さんが何気なく話したことが思った以上に波紋を呼んでいたようで、
「それじゃあ今度は、松田さんちでお茶しようって話になって」
と、そんな流れだったらしい。
……勘弁してほしい。
僕は焦りまくった。
母さんも、明らかにオタオタしていた。
変な間ができたり、質問をはぐらかしたり――その様子が余計に怪しい。
だが、余計なことは言えない。
僕の本当の“動機”なんて、絶対に悟られてはならない。
この旅行は、世間的には「親孝行」なのだ。
ただただ、優しい息子が母を思って計画した、ささやかな贈り物でなければならない。
もちろん、母さんも同じだ。
何があったかなんて、言えるはずがない。
だからこそ、僕たちはこの瞬間、まるで見えない共犯のように、同じ嘘を守っていた。
けれど――おばちゃんたちの追及は、そんなものでは止まらない。
「でもどうして? 急に温泉だなんて、何かきっかけがあったの?」
「ネットで見つけた? 誰かに勧められたのかしら?」
「最近の男の子って、意外とそういうのスマートよねえ~」
質問は途切れず、笑いに包まれながらも、どこか鋭い。
まるで優しげな顔をした尋問官たち。
僕は心の中で「母さん、がんばれ」と祈るしかなかった。
そして、なるべく部屋の端っこで、小さく息を潜めていた。
──それにしても、母さん、よく黙っていられるな。
そう思うと、少しだけ、申し訳なさと誇らしさが同時に湧いてきた。
そうだ。
たとえどんな理由であれ、今、母さんは「贈られた母」として、誇らしくそこにいる。
僕はそのことを、ちょっとだけ嬉しく思ってしまった。
でも、本心は……誰にも言えない。