※この作品はR-18です。

母の写真 日常の向こう側   作:松田義和

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第六章 母たちのお茶会②

おばちゃんたちの笑い声が、一段と大きくなっていく。

 

お菓子の皿が空いていき、紅茶の香りが部屋に広がる。

母さんも、最初こそ緊張していたものの、今では自然に話に混じって笑っていた。

その表情を見て、僕も少しだけ肩の力が抜けた。

 

「ほんとにねえ、こんな気がきく息子、うちにも欲しいわよ〜」

 

「いやいや、ウチなんて、『旅行行ったら?』って言っても、面倒くさいって言われたのよ」

 

「男の子ってそうよねえ。でも松田くんは別格だわ〜」

 

そんなやりとりに僕は苦笑いを浮かべつつ、もう笑うしかないとあきらめていた。

 

――そのときだった。

 

ふと、ユイちゃんのママがカップを置いて、言った。

 

「ねえ……今度、私たちで温泉旅行行きましょうよ。一泊でいいから」

 

一瞬、空気がやわらかく変わった。

それまでの笑いが、少し落ち着くように、ふっと静まった。

 

「私たち、ずいぶん働きすぎたわよね」

「たまには息抜き、いいかも」

「ほんと、家のことばっかりで、気づけば何十年も……」

 

「こんな気がきく子ども、私たちにはいないけどさ」

 

そう言って笑ったけれど、その声にはどこか本音がにじんでいた。

少しだけ寂しそうで、でも穏やかで、どこかあたたかかった。

 

どうかしら、と誰かが言って、みんながうなずき合う。

それぞれの表情に、ほんの少しずつ、いろんな想いが浮かんでいる気がした。

母さんも笑っていた。

でもその目元に、どこか懐かしいような、安心したような影がちらついた気がした。

 

……ああ、そうか。

こうやって、母さんたちはずっと、自分のことを後回しにして生きてきたんだな。

家族のこと、子どものこと、生活のことばかり。

そういう日々を、ずっと、何十年も。

 

僕が贈った温泉旅行は、ただの「イベント」だったはずなのに。

その背後には、きっとたくさんの積み重ねがあって、押し殺してきた気持ちがあって。

それがほんの少し、浮かび上がった瞬間だった。

 

僕は、居間の片隅でただそのやりとりを聞いていた。

何も言えずに。

でも、少し胸があたたかくなるのを感じていた。

 

母さんも、行けばいい。

今度は、友だちと。

僕とは違う場所で、違う時間を、笑って過ごせたらいい。

それを願っている自分に、ふと気づいた。

 

そして、そんなふうに思えた自分を、ちょっとだけ許せた気がした。

 

そのあとはもう、旅行の話で大盛り上がりだった。

どこへ行こう、なにを着ていこう、あの宿は料理がすごく評判らしい――

そんな言葉が飛び交って、紅茶のおかわりが何度も注がれていた。

笑い声は絶え間なく、まるで女子高生の放課後みたいで。

その中心にいる母さんの姿を見ていたら、なんだか少し泣きそうになった。

 

母さん、楽しんで。

そう思った。

 

 

 

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