そういえば――
母さんたちの集まりが、いつも“飲み会”ではなく“お茶会”になるのには理由がある。
もちろん、家のこともあるけれど、それ以上に単純で、ちょっと微笑ましい理由だ。
……母さんたち、あまりお酒に強くないのだ。
四人の中で一番飲めるのは、イクミさん。
さすが蕎麦屋の女将を長年務めているだけあって、場慣れしていて、飲みっぷりもいい。
ビールも日本酒もさらりとこなして、ついでに場を盛り上げる話題まで自然に振ってくるから、彼女がいるだけで場が明るくなる。
気がつけば、周りもつられて笑っている。そんな存在。
ユキさんは、まあ普通。
人並みに飲めるけれど、自分から進んで飲むことは少ない。
ほんのり頬を赤らめながら、お猪口を持つ姿は、どこか上品で静かだ。
昔から物腰がやわらかくて、僕の中では「優しいお母さん」の典型みたいな人。
ユウナさんは、ほとんど飲めない。
ワインを一杯飲めば、顔がぱっと赤くなるタイプで、すぐに水やお茶に切り替える。
そのかわり、酔った人のお世話は手慣れたもので、誰かが飲みすぎたときには、率先して世話を焼く。
まるで保健室の先生みたいに、てきぱきと動く姿が印象的だった。
……で、うちの母さん。
これはもう、昔から変わらないけれど、ほんの少し飲んだだけですぐに眠ってしまう。
口に一杯運んで、「なんか眠くなってきたかも〜」なんて言ってたと思ったら、数分後には完全に爆睡している。
実際、僕が何度か迎えに行ったこともある。
まだ家にいた頃、ユウナさんから「お母さん寝ちゃったの、ごめん、迎えに来てくれない?」ってLINEが来て、駅前の居酒屋まで行ったことがあった。
今思えば、あれも思い出のひとつだ。
僕が下宿を始めてからは、そんな飲み会は自然と減って、お茶会ばかりになったらしい。
きっと“何かあっても呼べる人がいない”というのも、理由のひとつなんだろう。
でも、今回の旅行となると――
もしかしたら、久しぶりに夜の宴が開かれるかもしれない。
そんなふうに思ったら、なんだか想像が膨らんで、ひとりでふっと笑ってしまった。
……目に浮かぶ。
盛り上がって陽気になるイクミさんとユキさん。
その隣で手際よく水を配ったり、酔い止めを差し出したりするユウナさん。
そして、誰よりも先に座布団で気持ちよさそうに寝息を立てる母さん。
――うん、間違いない。きっと、そうなる。
旅先でも、変わらないんだな、この四人は。
ちょっと安心して、ちょっと笑えて。
そんな夜がやって来る気がして、僕はなんだか嬉しくなっていた。