個性『淫魔』 作:えっちいやつ。
ヘドロによって始まった観客の居ない
少し冷え込む、月明かりだけの夜道。額から血を流したジャージ姿の少年、緑谷くんは今更になって意識を取り戻す。短時間とは言え気絶していた彼は、何で自分がアスファルトの上に寝ていたのか不思議に思いながら身体を起こし、額に走った鋭い痛みや首の痛みで顔を顰める。思わず額に手を当てて、自分が怪我をしていることに気付き、直ぐに青褪めた。気絶する直前に見た光景がフラッシュバックして、肝が冷えてしまったのだ。
「―――っっ!? 蜜月さ、っ……!?」
勢い良く立ち上がろうとした瞬間、傷が痛んで目が回る。姿勢は崩れ、顔からすっ転んでしまった。今度は鼻を強打した痛みに呻き、それでも何とか手足をバタつかせて四つん這いになる。もう一度立ち上がろうとすると、少し離れたところに、破れた制服姿の桃香が居ることに気付いた。彼女は地面に座り込んでおり、目の前に立つ大男に手を差し伸べられているようだ。
しかし、どうにも様子がおかしい。差し出された手を取ることなく、細い両腕で自分を抱き締めて震えている。明らかに何かあった桃香を見てしまった緑谷くんは、不格好でも何でも駆け出した。その時。
「―――っ♡」
妖しく輝く桜色の瞳が、駆け出し始めた少年を確かに捉えた。心配そうに駆け寄ってくれる彼を見て、確かに微笑む。それは決して、自分は無事だよと示すようなものではなく―――。
「待った少年! 今の彼女に近付いては……!!」
聞き覚えが有るのに、誰のものか思い出せない声が響く。だけど今の緑谷くんには、そんな事はどうだって良い。今はどうしても、一緒に帰っていた同級生の無事を確認する方が先だ。何度か足を絡めバランスを崩しながらも、少年は少女へと近付く。
結果から言えば。緑谷くんは大男の言葉を聞いて足を止めるべきだった。けれども、そうはならない。……いや、そう出来なかった。
彼等の周囲を覆う甘い香りが、未だ妖しく輝き続ける桜色の瞳が、どうしようもなく彼を惹き付けてしまったからだ。
―――そして。
「蜜月さ……っ!? うわっ、んむっ!?」
触れられそうな程に距離が縮まると同時、緑谷くんは桃香に抱き付かれ、押し倒されてしまう。しっかりと腕を首に回されて、直ぐには逃げられない。そもそも逃げるとか、それどころではない。
押し倒されると同時。緑谷くんは桃香に唇を奪われてしまった。驚く暇は無い。急にキスされたと思ったその時には、熱く濡れた舌を挿し込まれて舌先を絡め取られたからだ。
「んっ、んむぅっ!?」
「んっ♡ れろ……♡ んんっ♡」
口の中に舌を挿し込まれて、しかもその舌が一方的に絡まってくるなんて状況は、彼には初めてのことだ。クラスメートの中にはこういう経験をしたことが有る者が居るかもしれないが、確かなのはこれが緑谷くんにとってファーストキスだったということ。彼はこういう事は恋人同士がするものだと思っているし、どうして急にこんな真似をされたのか分からない。その理由を考えることすら、ままならない。
「んー……っ♡ んん、ちゅっ♡」
「ぅ、あ……っ。ぁ、ああ……っ」
舌を絡めるキスが続く。口の中どころか、頭蓋にすら響き始める、聞いたことのない水の音。お互いの体温がゆっくりと溶け合うような感覚が、舌から広がって脳を揺さぶる。二人の唾液が混ざり合って出来たそれは喉に迫り、緑谷くんはつい飲み込んでしまう。
かあっ、と。かつてない程、身体が熱くなる。額や首の痛みなどすっ飛んで、代わりに胸の内から溢れ出るのは凄まじい程の欲求だ。どうしようもなく身体が疼く上に、反射的に硬くなる。全身の筋肉及び、―――股間が。
気が付けば乱れるに乱れていた呼吸が、更に乱れて収拾が付かない。段々と息苦しくなって、頭もぼんやりとし始めて。もう気持ち良い以外は、何も考えられなくなって―――。
「……ふふ、おいし……♡ もうすこ、……し……」
「えっ、あ……っ。み、つき……さ……」
もう。緑谷くんは目の前の少女に意識も視線も釘付けだ。釘付けにされてしまった。急なキスひとつで、異性として意識し始めたわけじゃない。今にも消えそうな理性で思い返せば、転校生として紹介された彼女の姿を見たその時から、校舎を案内して回ったあの時から、昼休みに桃香が居る
そして。同じ帰り道を歩いた時、ヴィランに襲われ救けられ、何が何だか分からない今この時。
緑谷くんは。不自然な程に蜜月桃香に心を奪われていた。のだが。
「……きゅぅ……」
「えっ。……えっ! み、蜜月さん!?」
桃香が急に意識を失って、倒れた。緑谷くんの身体の上で、見事に気絶してしまっている。さっきまでの様子が何だったのか、どうして彼女が気絶してしまったのかは分からない。確かなのは、彼女が気を失ったことで朦朧としていた意識がハッキリしたこと。身体の疼きが弱まったこと。このふたつだけだ。
そして、今。緑谷くんはようやく、直ぐ側に居た大男が何者なのか理解した。疑問も心配も有るのだけれど、そのふたつすら吹き飛ばすような衝撃が直ぐそこに有った。
「ぉ、おオ、オールマイトっ!?」
そう。直ぐ側に居たのは、あのオールマイトだ。緑谷くんの世代の子供達なら、誰もが知っているあのオールマイトだ。
「HAHAHA! どうやら正気に戻ったようだね少年っ。取り敢えず、―――大事な話をしようじゃないか」
「ひゃ、ひゃい……! オールマイトが僕に話……!?」
「とっても大事なお話だ。耳の穴かっぽじってよーく聞けよ。
―――この少女から、離れなさい。それが君の、そして彼女の為なんだ」
ちなみに。桃香を犯していた
♡♡♡
取り敢えず場所を変えよう。
オールマイトの提案に、緑谷くんは頷くしかなかった。あの憧れのヒーローに真面目な顔で大事な話が有ると言われたら、首を横に振るなど到底無理だ。気絶してしまった桃香を軽々と運ぶオールマイトの後ろを黙って付いて行くと、やがて辿り着いたのは住宅街にある一軒家。表札は出ていないが、存在感溢れる筋骨隆々の彼が桃香のスクールバッグを探り、鍵を取り出したことから此処は桃香が住まう家なのだろう。
まさか
桃香を抱えたまま先に家に入ったオールマイトは、廊下を通りがてら家の電気を点けていく。そうしてリビングに着いた彼は、未だ意識戻らぬ桃香をソファに寝かせる。そして、たまたま肘掛けに被せてあった毛布をそっと掛けた。緑谷くんはと言うと、リビングの出入り口に突っ立っている。
「そんなところに居ないで、こっちに来いよ少年。私は大事な話が有るって言ったんだぜ?」
「は、はいっ! お、お邪魔します……!!」
NO.1ヒーローのお言葉を受け、緑谷くんは縮こまりながらリビングに入る。そそくさと足を動かして、ソファの隣に正座した。なお、オールマイトは仁王立ちである。威圧感が凄まじい。彼が一般住宅の居間で仁王立ちしているのは、何とも奇妙な光景だ。
「……っと、すまないね。蜜月少女の前では気を張ってないと行けなくてね。つい威圧してしまったよ」
「え、あ……、いえ。……そ、その。オールマイトは、蜜月さんとは……?」
あのオールマイトが目の前に居る。それ自体は、ファンとして喜ばしいだろう。もし二人きりなら、こんな状況で無かったら、緑谷くんはサインをお願いしてたのかも。しかし今、とてもそんな空気ではない。そもそもこの場所に来たのは、オールマイトに連れて来られたからだ。桃香について、大事な話が有ると言っていた。
「いざと言う時の、セーフティさ。それよりも!
君、蜜月少女から離れなさい。学校では隔離教室にも近付かないように」
「えっ。で、でもその……。僕、先生から蜜月さんの世話係に……」
「……世話係? それはナンセンスな話だ。学校には私から言っておくから、気にしなくて良い。とにかく、蜜月少女から離れること!
それと明日、病院で検査を受けること。蜜月少女の名前を出せば、直ぐに診て貰えるから!」
何故、オールマイトは桃香から離れろと言うのか。一方的に距離を取れと言われても、困惑や疑問が生まれるだけで納得は出来ない。が、だからと言ってオールマイトの言葉を無下に扱うことも難しい。彼が離れろと言うのだから、そうしなければならないだけの理由がある筈だ。それがいったい何であるのかは分からないが、確かに何か大きな理由が有るのだと緑谷くんは考えた。
そして直ぐ、ひとつだけ思い浮かぶ。
「……それって。蜜月さんが特個者だから、……ですか?」
考えられる理由は、そこしかなかった。
「……彼女の個性は、人への影響が大き過ぎるからね。さ、怪我の手当てをして帰ろう。私もこのヴィランを警察に届けなきゃならないし、家まで送るよ」
「は、はい。……救けてくれて、ありがとうございました」
こうして。緑谷くんはオールマイトに傷の手当てをして貰った後で、桃香の家を後にする。
帰ったら、指定特別個性について調べよう。そしたらオールマイトが、どうして蜜月さんから離れるべきと言ったのか分かるような気がしたから。そんな風に考えながら、緑谷くんはあのオールマイトと家の前まで並び歩くのだった。
ベロチュー書きたかったし書けちゃったので更新します。
評価とか感想、ありがとうございます。うれちぃです。
しかし転校初日にひとりえっち、ラッキースケベ、ヘドロえっち、ベロチューとはな……。随分と好き勝手してるなこいつ。