※この作品はR-18です。

ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~   作:イジー・ムラシロ

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100 ジミーの正体

 アイたちは武器も準備し、フードもちゃんと(かぶ)って昨日ジミーに教えられた通りに大門の向こうにある兵舎(へいしゃ)へ向かった。

 その道でアユミが思い出す。

 

アユミ「ギルドのすぐ隣が両替所なんだって…」

タクミ「両替って()るの?」

ナオ「ナニさんがリラの方が手数料が安いって言ってたから、ドムニに戻ってから両替しなかったの…」

アユミ「手持ちが少ないわけじゃないけど、ここでどうなるか分からないでしょ…だからちょっとしてくるよ…」

ナオ「私とツグミもいっしょにいくよ…」

アイ「じゃあ、私たちは外で待ってるから…」

 

 大門へ向かってしばらく歩くとギルドの建物が見えてくると、アユミはキョロキョロと目印を探す。

 

アユミ「え~と…」

ツグミ「なに探してるの?」

アユミ「丸が三つ書いてあるところが両替所なんだって…」

ルカ「じゃあ、あそこじゃない…」

アカリ「確かに…丸が三つある…」

アユミ「じゃ、ちょっと行ってくるね…」

ソラ「行ってらっしゃ~い…」

 

 アユミとナオとツグミが中で両替を(たの)むと、金貨を銀貨に両替する手数料は金貨1枚につき銀貨4枚だと言う。

 3人は顔を見合わせながら、とりあえず金貨30枚を両替した。

 

ツグミ「すごい…ドムニの時の半分…」

ナオ「ナニさんの言う通り、ホントに安いね…」

アユミ「よかった…これだけでもかなりの節約(せつやく)だよ…」

 

 3人は両替された銀貨を確かめると、急いで店の外へ出た。

 

アユミ「ごめんね…お待たせして…」

アイ「全然大丈夫…」

アカリ「じゃあ、次は兵舎だ。」

 

 みんなはまた武器を引きずって兵舎に向かった。相変わらずソラがすぐ文句を言う。

 

ソラ「いつまでたってもこれを持ち歩くのには()れないよ…」

タクミ「(やり)は邪魔だし、剣は重いし…」

アイ「シッ、声が大きいよ…」

アユミ「忘れたり、無くしたりしないでね…」

 

 剣をぶら下げ長い槍や(ほこ)(つえ)を持ちながら大門を通り過ぎて兵舎に着くと、入口には見張りの兵士が2人立っていた。

 彼らは2人とも薄い革鎧(かわよろい)を身につけ、剣を()び、槍を持っている。

 アイがゆっくりと彼らに近づいた。

 

アイ「あの~…」

衛兵1「ここは兵舎だ。用の無い者は近づいてはならん…」

アイ「実は冒険者ギルドのジミーさんという方から手紙を(あず)かっていて…」

衛兵2「なに?ギルドのジミー?…」

アイ「はい…」

 

 アイはおずおずと彼らにジミーの書いた手紙を差し出す。2人はアイから手紙を受け取ると顔を見合わせた。

 

衛兵1「お前たちはここで少し待っていろ…」

 

 見張りの一人がそう言うと手紙を持って兵舎の中へ入っていき、アイたちはそのまま兵舎の前で待たされる。

 

 しばらくの間誰も兵舎から出てこず、残った見張りの兵士も仏頂面(ぶっちょうづら)で立っていてアイたちも仕方なく道の(はし)に寄って何か言われるのを待っていた。

 するとガチャガチャと武器の音がして、入っていったのとは別の兵士が2人やって来た。

 

衛兵3「この者らが手紙を持ってきた奴らか?」

衛兵2「はい!」

衛兵4「おいお前たち、こっちについてこい!」

 

 アイたちは衛兵たちに言われるがまま、後について兵舎に入った。

 

 兵舎に入るとそこはすぐ広い土間になっていて、兵士たちがいくつものテーブルに座っていたり、立ったままでいたりする。

 壁には剣や槍や弓矢などの武器がところ(せま)しと並んでいて、若い男が多いが、浮かれているような様子はなく皆真剣な面持(おもも)ちをしていた。

 

 アイたちがぞろぞろと入っていくと、誰もがジッとこちらを見るが先を行く衛兵は誰かに何かを説明することもなく黙って奥へ進んでいく。

 みんなは緊張して出来るだけ兵士たちの顔を見ないようにしながら後について奥へ行く。

 

 すると、案内の衛兵は部屋の一番奥、右に曲がる廊下が始まる手前にあるドアの前で立ち止まり、そのドアをノックした。

 

衛兵3「手紙を持ってきた者たちを連れてきました。」

 

 中から「入れ!」という低い声がして、衛兵はドアを開けるとアイたちに入れと手招(てまね)きする。

 アイたちは案内してくれた衛兵にそれぞれ軽く頭を下げて、恐る恐る部屋の中に入った。

 

 部屋の中は外から見るよりも広く、小さいテーブルに年配の兵士が座っていて隣に若い兵士が立っている。年配の兵士はアイが渡した手紙を手にしていた。

 アイたちは自然とその年配の兵の前に並ぶ。

 

年配の兵士「お前たちがこの手紙を持ってきたのか?」

アイ「はい、私はアイと言います。このメンバーで勇者パーティーとして活動していて、私がリーダーです。」

年配の兵士「ふ~ん…」

 

 年配の兵士はアイが何も言われなくても自己紹介をしたので、少し驚いた顔をする。

 

年配の兵士「では、アイとやら…お前だけでいいのでフードを取って顔を見せろ。」

 

 フードを取れと言われてアイは一瞬躊躇(ちゅうちょ)し、他のみんなも互いに顔を見合うが、アイはここが兵舎ということを考えて黙ってフードを取り、顔を見せた。

 年配の兵士はアイの顔を見て、彼女が女と分かってますます驚く。

 

年配の兵士「ふむ、女がリーダーの勇者パーティーがダンを…

 分かった、ではお前たちが討ち取ったという「大斧のダン」の()(がら)とヤツの(おの)を出してもらおう。」

 

 年配の兵士に言われて、タクミが急いで前に出てきて部屋の床に毛布に包んだダンの死体と大斧をストレージから出して並べた。

 

 年配の兵士が(あご)をしゃくると若い兵士はポケットから手配書らしきものを出して(ひざまづ)き、毛布をめくってダンの死体と大斧を子細(しさい)に調べていく。

 アイたちは息をのんでその様子を見ていた。

 若い兵士は長い間死体と大斧を調べていたが、やがて直立して大きな声で言う。

 

若い兵士「手配書と比べても間違いありません。これは「大斧のダン」の亡き骸とヤツの武器の大斧です。」

年配の兵士「よし分かった。お前は奥へ行ってそのことを報告してこい!」

若い兵士「はい!」

 

 若い兵士が出ていくと年配の兵士も立ち上がって一度部屋を出ていくが、すぐにいくつもの椅子を持った兵士たちを(ともな)って戻ってくる。

 入ってきた兵士たちは椅子を机の前に並べると、ダンの死体と大斧を部屋の外へ運んでいった。

 年配の兵士はアイたちに椅子に座るように(うなが)す。

 

年配の兵士「さて、ブロッケン男爵閣下(かっか)のお手紙によると、お前たちが乗っていた駅馬車がダンに(おそ)われ、それを返り討ちしたというが…」

 

 年配の兵士はアイたち全員がまだ椅子に座り終わらないうちに話し始めるが、最初の言葉がアイに引っかかった。

 

アイ「あの~…「ブロッケン男爵閣下」っておっしゃったんですけど…それって誰ですか?もしかしてジミーさんのことですか?…」

 

 年配の兵士はアイの言葉を聞いて怪訝(けげん)な顔をする。

 

年配の兵士「うん?なんだ、お前たちは知らないのか?

 あの方はな、ジムフロイド・ブロッケン男爵とおっしゃる、れっきとした貴族であらせられるんだぞ。」

ナオ「ジミーさんが?…」

 

 アイたちはみなびっくりしてお互いに顔を見合わせた。

 年配の兵士は表情に「そんなことも知らないのか」というものを見せる。

 

アユミ「でもギルドで働いていたし、昔は勇者パーティーにいたって…」

年配の兵士「閣下は確かにかつて勇者パーティーにおられたが、その時に傭兵(ようへい)として加わられた戦役(せんえき)で王太子であらせられた今の国王陛下をお救いになられ、その大功(たいこう)で先王陛下から男爵を(たまわ)られた。

 

 だがこのリラの街に来られてから、ご自分の知識をお役に立てたいとおっしゃられてギルドで働いておられるのだ。」

タクミ「ホントに(すご)い人なんだ…」

 

年配の兵士「閣下は元々平民の出であらせられるので、我々のような一兵卒(いっぺいそつ)にも気軽に話しかけて下さるが、本来ならばお声をかけて(いただ)くだけでも光栄な地位におられる。

 

 ただご本人が我々にでも愛称で呼ぶようにおっしゃるので街の者も「ジミー」と呼んでいるが、本来は閣下とお呼びせねばならぬ。お前たちもよく覚えておけ…」

アイ「は、はい…」

 

 思いもよらずジミーの本当の姿のことを聞き、アイたちはちょっと頭が混乱してしまう。

 だが彼女たちの相手をする兵士はそうしたことを全く気にせずに話を進めた。

 

年配の兵士「うむ、どこまで話をしたか…そうか、お前たちがダンを返り討ちにしたと言うが、その辺りを出来るだけ(くわ)しく話すんだ…」

 

アイ「え~と…私たちはドムニのギルドで頼まれてローフの村長に手紙を持っていったんですが、村長が私たちがその時出没(しゅつぼつ)していた魔獣(まじゅう)のオオカミ退治のクエストをすれば褒美(ほうび)を出すと言われて、それで村の近くに表れていた魔獣のオオカミの退治に行ったんです。」

年配の兵士「…それで…」

 

アイ「それで、私たちだいぶ苦労しながら何とかオオカミたちを追い払ってローフの村長から褒美を(もら)って、それでドムニに戻るために駅馬車に乗ったんです…」

年配の兵士「その駅馬車がダンの一党に襲われたと言うんだな。」

 

アイ「はい、多分三日目だったと思います…」

アカリ「そう、三日目…」

アイ「それで私たち駅馬車に他のお客さんもいたので戦って追い払らおうと思って馬車を下りたら、ダンが私にローフの村長から貰った金を持っているのは分かっているって言って…」

 

 話を聞いていた兵士はダンの言葉を聞いて顔をしかめた。

 

年配の兵士「ダンは確かにお前たちが褒美に貰った金があるのを知っていると言ったのだな。」

アイ「確かにそう言いました。」

年配の兵士「それでどうなった?ダンはかなりの手練(てだ)れだが、よく(たお)せたな…」

 

 今度はアイが表情を暗くするが、何とか答える。

 

アイ「実は私がダンの相手をしたんですが、確かに実力差があって私、彼にやられかけたんです…」

年配の兵士「ほう…」

アイ「その時に馬車に同乗していたおばさんがダンに荷物のイモを投げつけてくれて、それがダンに当たって(すき)が出来て、それで私は何とか反撃をしてそれで倒すことが出来たんです…」

 

 年配の兵士はアイの話の最後は腕を組んで聞いていたが、彼女が話し終わるとうんうんとうなずく。

 

年配の兵士「お前は運が良かったな…ダンは元々名の知れた騎士で、「大斧のダン」という二つ名もその頃に付けられたものなのだ…」

ナオ「じゃあ…」

 

年配の兵士「そう、ヤツはかなり高名な騎士でいくつかの戦役(せんえき)(こう)も立てていたのだが…

 ある貴族の御婦人の護衛(ごえい)に失敗してその(せき)をヤツ一人が(とが)められ、そのせいで山野に(のが)れて盗賊になってしまったのだ。

 ヤツの実力を知っている者は長い間盗賊になってしまったのを勿体無(もったいな)いと言っていたが…」

アイ「そうだったんですか…」

 

 アイはダンが自分との戦いで彼女の攻撃をやすやすと(しの)いでいたのを思い出し、彼が本当にただの盗賊ではなかったんだと改めて感じた。

 年配の兵士はアイの話を一通り聞くと、もう一度うなずいて言う。

 

年配の兵士「ダンの亡き骸と大斧を持ってきたこと、ダンを倒したという話の辻褄(つじつま)も合っていること、そしてジ…ブロッケン男爵閣下のお手紙も持参(じさん)していることを(かんが)みるとお前たちがあの賞金首(しょうきんくび)の「大斧のダン」を()ち取ったとみて間違いあるまい。」

 

 ソラが目の前の兵士が「ブロッケン男爵閣下」と言うところを「ジミー」と言いかけたのを見て「プッ…」と小さく吹き出したので、隣に座っていたルカが(あわ)てて(そで)を引っ張る。

 兵士はそんな2人を一瞬ジロッと(にら)むが、そのまま何も言わずに立ち上がった。

 

年配の兵士「お前たちは少しだけ待っていろ…」

 

 彼はそれだけ言うと部屋から出ていった。睨まれて身体を(かた)くしていたルカはホッと息を()く。

 

ルカ「もう、ソラちゃん…ダメだよ…」

ソラ「ゴメンゴメン…だって自分が(えら)そうに「閣下」って呼ぶんだって言いながら「ジミーさん」って呼びそうになって(笑)…」

ナオ「ダメだって…ここじゃ聞こえるよ…」

 

アユミ「すぐに戻ってくるって…」

ツグミ「…ジミーさんって凄いんだね…」

タクミ「でも、昨日ギルドで会った時には全然貴族みたいな感じじゃなかった…」

ルカ「すごく丁寧に話してくれたもんね…」

 

アカリ「正直に言うと、初めて会った貴族があの人ってちょっと…」

アイ「なに?もっと偉そうにしている人がよかった?」

アカリ「せっかくだから(笑)…」

アユミ「もう、なに言ってんの…」

ツグミ「…誰か来るよ。」

 

 みんなが口を閉じるとすぐにさっきの兵士が入ってきた。手には(あさ)の袋を持っている。

 

年配の兵士「さあ、これがダンを討ち取った褒美(ほうび)の金貨100枚だ。中を確かめるか?」

ナオ「はい、お願いします。」

年配の兵士「うむ、ではここで確かめろ…」

 

 年配の兵士がそう言いながら麻袋をテーブルの上に置いたので、ナオはアユミとツグミに目配(めくば)せをして3人で袋の中身を調べ始めた。

 袋には金貨がそのまま入っていて、それを見てアカリとルカも立ち上がって手伝う。

 

 5人は手早く金貨を数えて、確かに金貨100枚が入っているのを確認する。金貨を元のように袋にしまうと、ナオがそれを胸に()いた。

 

ナオ「確かに金貨100枚、ありました。」

年配の兵士「よし、お前たちが大斧のダンを討ち取ったことはご領主様であるローゼン辺境伯(へんきょうはく)閣下のお耳にも入ることだろう。

 

 閣下も(こと)(ほか)ダン一党の狼藉(ろうぜき)のことをご心配されていたので、大いに喜ばれるに(ちが)いない。

 これからも辺境伯閣下のために(おお)いに働くよう…では以上だ、帰ってよし!」

 

 アイたちは一斉(いっせい)に立ち上がると、兵士に頭を下げて部屋を出た。

 部屋の外には入ってきた時の衛兵が待っていて、また彼について外まで案内され、兵舎の外に出た。

 

 アイは一応振り返って、ここまで自分たちを案内してくれた衛兵にも頭を下げる。

 その衛兵は小さくうなずくと、そのまま黙って入口の見張りに着く。

 他のみんなもアイと同じように頭を下げ、兵舎を離れた。

 

 みんなが兵舎に入ってから結構な時間が()っていた。

 大門の辺りは朝に通った時よりもずっと人が多く、よく見ると人々が外から街にぞろぞろと入ってくる。

 アイたちは人波でバラバラにならないように、また声をかけ合う。

 

アイ「さあ、こっちだよ。」

ナオ「遅れちゃダメだよ…」

モア「あ~ん、はぐれちゃう…」

ツグミ「待って、私も…」

ソラ「ハイ、タクミ、これ持ってて。2人ともこっちだよ…」

 

 ソラは自分の槍をタクミに渡すと、モアとツグミの手を取ってはぐれないように他のみんなを追いかける。

 全員が何とかギルドの辺りで落ち合った。

 

モア「あ~、よかった…」

ツグミ「ソラちゃん、ありがとう…」

ソラ「やれやれ、ホントにバラバラになるところだったよ…」

アユミ「何か、すごく人が多かったね…」

タクミ「昨日より多いかもしんない…」

 

 慣れない人波を抜けて、誰もがホッと息をついた。

 

アカリ「じゃあ、教えてもらったお風呂に行こうよ…」

アユミ「でも、お風呂の傍が理髪店だから、このまま行くと食事をするとこがないけど…」

アイ「そうだね…どうせ宿はこの道沿()いだから、早いけど宿に戻って何か食べてから行こうか…」

モア「そうしよ、そうしよ…」

ツグミ「(笑)…」

 

 アイの提案でみんなは一度宿に戻り、部屋で昼食を済ます。食事の間も話題はジミーのことばかりだ。

 

ソラ「ジミーさん、ギルドで働いてるから顔が広いって言ってたけど…」

ルカ「そうじゃないよね(笑)…」

アユミ「確かに…」

 

ツグミ「そんな貴族のジミーさんが私たちと話って、何を話したいんだろ?」

ナオ「何だろね…」

アカリ「こっちは聞きたいことがいっぱいあるけど(笑)…」

タクミ「今の王様を助け出したとか言ってなかった?

 そんな人だと戦いのこととかいろいろ聞きたくない?」

 

アイ「でも、ジミーさんが貴族のお偉いさんだって知っちゃったから、あんまり気軽に聞けないよね…」

ソラ「わかる…普通に勇者パーティーの経験者として聞きたかったけど…」

タクミ「でも、明日の約束は変わんないでしょ?」

ナオ「それはね…ジミーさんも何も言わなかったし…」

 

モア「使いを(よこ)すって言ってたけど…すごい御屋敷に連れてかれるのかなあ…」

ソラ「なんか想像してるよ、あの子…」

アカリ「あんたもね(笑)…」

アイ「ハイハイ、(しゃべ)ってないでご飯をさっさと食べないと…

 まだいろいろ行くとこあるんだから…」

 

 アイに()かされ、他の子たちも急いで食事をして午後から出ていく準備をした。

 

アカリ「石鹼(せっけん)なんてないよね…」

ナオ「()らないじゃん、私たちが『洗浄』を出すから…」

タクミ「オ、オレは?…」

ソラ「要るヤツがいたけど(笑)…」

ツグミ「タクミ君…」

アユミ「…こればっかりはどうしようもないよ…

 男女別々だから、今日はお湯で流すだけで我慢して…」

アイ「またどっかへ行った時にしてもらいな…」

タクミ「わ、わかった…」

 

 それでもタオルやティッシュペーパーなどを分け合ってから、宿の一階へ降りていく。

 

ミルト「やあ、また出掛(でか)けるのかい?」

ルカ「午前中は別のところで、これから公衆浴場へ行きます…」

ミルト「そうかい、お代は確か銀貨5枚だったよ…」

ナオ「ありがとうございます。」

ミルト「気をつけてね…行ってらっしゃい…」

 

 ミルトに教えてもらった通り、最初の角を左に曲がって三筋目まで進んでいった。

 アカリはミルトが言った公衆浴場の料金のことを気にする。

 

アカリ「宿が一泊銀貨4枚で公衆浴場は銀貨5枚って、ちょっと高くない?」

ナオ「そうね、ちょっと高く感じる…」

アイ「なんか理由がありそうね…」

ルカ「元の世界なら、宿が安すぎると思うけど…」

ソラ「銀貨1枚ってどれぐらいなのかな…」

 

 そんな話をしているうちに言われた3つ目の通りにまで来るが、四つ角を前後左右(なが)めても同じような家ばかりが並んでいる。

 

アユミ「あれ?間違ったかな…」

アイ「この通りだって言ってたんだったら、とりあえず歩いて探そう。」

 

 アイの言葉通りにしばらく道沿いを進むと、アカリが何かを見つけた。

 

アカリ「ねえこの先の建物、あそこから石造りになってない?」

ソラ「確かにそうだ…周りと違う…」

モア「もっと近づこうよ…」

 

 アカリが見つけた建物に近づいていくと、確かに石造りでかなり大きな建物なのが分かる。

 そして石段を降りていく階段の横に()き火のようなものを描いた木の立札が掛かっていた。

 

ルカ「多分ここだよ…」

ナオ「でも、入口は一つだけだ…」

アユミ「宿の女将(おかみ)さんが混浴じゃないって言ってたから大丈夫だよ…」

アイ「とにかく入ってみよう…」

 

 石段を降りて下にあるドアを開けてみると、そこが少し広いエントランスになっていて魔法の『光源』らしき明かりが(とも)って、そのエントランスの中に男女で別れた入口があった。

 

 エントランスの中でも少し熱気のようなものを感じる。アユミがタクミに少し多めに銀貨を渡すと、アイが言う。

 

アイ「多分あんたの方が先に出てくるだろうから、ここか石段を上った道のところで待っててね…」

タクミ「ああ…わかった…」

アイ「なんかウロウロして、一人だけはぐれないでよ…」

タクミ「分かってるって…」

ソラ「そんじゃね…」

アカリ「行ってくるよー…」

 

 タクミが分かれて中に入るとすぐに(せま)い通路の先にカウンターがあってそこで料金を(はら)う。

 カウンターの前を通って右奥が更衣室。その更衣室には木の(たな)(しつら)えられていて、木の(つる)で出来た(かご)が並んでいた。

 

 2,3人の先客はその籠に自分の衣服を入れていく。その棚の(かげ)に若い男が立っていて、衣服を脱いだ客はそれを籠ごとその男に渡した。

 店の男は受け取った籠に木製の番号札を乗せ、それと同じ番号の札を籠を渡した客に差し出す。

 

タクミ「なるほど…」

 

 タクミも急いで同じように衣服を脱いで籠に入れる。衣服の入った籠を男に渡すと、彼から3という番号が打たれた木札を渡された。

 タクミはそれも失くさぬようにストレージにしまう。

 

 先に風呂場に行った男たちはみなタオルのようなものを持っていなかったので、タクミも一応全裸のまま何も持たずに風呂場へ向かう。

 

タクミ「おお、せ、銭湯だ…」

 

 エントランスからカウンターへ向かう通路、更衣室から風呂場まで建物自体は床も壁も天井もどこも石造りなのだが、肝心の浴槽(よくそう)は木製で3,4人ぐらいが入れる程度の大きさのものが五つも六つも並んでいる。

 

 お湯は壁から出ている石造りの口を通って湯船に入っていた。

 何か石造りの大きな浴槽を予想していたタクミは()てが(はず)れて拍子抜(ひょうしぬ)けする。

 

 浴槽の手前の場所が洗い場になっているようで、ここにもいくつもの大きな(おけ)にお湯が()められている。

 タクミは何も思わずその桶の前に行くと、急に誰かが後ろから呼びかけた。

 

男「お客様、お身体を洗いましょう…」

タクミ「わっ、びっくりした!」

男「お客様はこちらのご利用は初めてですか?こちらでは私がお客様の身体を洗います。」

タクミ「はあ…」

 

 タクミの前には水着のような紺色のパンツだけを身につけた若い男が白い布を手に立っている。

 辺りを見回すと、確かに先に入った男たちも別の男に身体を洗ってもらっている。

 どうやらそうするのが普通らしく、タクミも素直(すなお)(したが)った。

 

タクミ「じゃあ、お願いします…」

若い男「では、こちらにお座り下さい…」

 

 男はタクミが桶の前にある木の椅子に座ると、タクミに手をかざしてから(はだ)(こす)る。するとそこが泡立っていった。

 どうやら彼は魔法の『洗浄』が使えるらしい。

 

タクミ「魔法が使えるんですか?」

若い男「魔法というほどではありません。私ができるのはこれだけです。

 街の他の人でも簡単な生活魔法を一つぐらい使える人はいます。

 それがいくつも使えたり、回復魔法も使えたりすると(まじな)()になる人もいますね…」

 

タクミ「そうなんですね…」

若い男「リラの街には初めてお越してでしょうか?…」

タクミ「は、はい…分からないことが…多くて…」

 

 彼は手際(てぎわ)よくタクミの腕から上半身、脚、それから背中と洗っていく。

 タクミは真っ裸だったので股間をどうされるのかを少し心配したが、男はさすがにここには触れず別の場所を洗う。

 タクミは彼が背中に回った時にこっそり自分で股間を洗った。

 

若い男「お客様、頭も洗いますか?」

タクミ「…この後、傍の理髪店に行くつもりなんですが…」

若い男「それなら頭も洗っておかれるのがいいでしょう。」

タクミ「じゃあ、お願いします…」

 

 男はタクミの身体の泡を桶のお湯で流すと、頭も洗っていく。動きに一切無駄がなく、毎日何人もの身体を洗っているのがよく分かる。

 彼はタクミの頭を洗い終わると、(かわ)いた布で頭を軽く()いた。

 

若い男「浴場から出られれば理髪店はすぐ目の前です。このまま乾かさずに行かれる方がいいでしょう…」

タクミ「ありがとうございます。」

 

 タクミはふと思い出し、チップを渡そうとするが銀貨しか持っていない。

 仕方なく銀貨を1枚ストレージから出して男に差し出した。だが、彼は首を振る。

 

若い男「お金は店から十分に(もら)っていますので…」

タクミ「じゃあ…はい…」

 

 タクミはちょっと恥ずかしかったが、チップ文化のある世界でないのに少しホッとした。

 

 男はタクミに立ち上がるよう指示すると、そのまま浴槽(よくそう)の方へ案内していく。

 だが空いている浴槽がいくつもあるのに、男はわざわざ別の男が入っている浴槽へと導いていく。

 

若い男「さあ、どうぞ…」

タクミ「えっ?いや~別の人が…」

中年の男「さあ、こちらへどうぞ…」

 

 中年の男はタクミが入りやすいように場所を()けるので、タクミはしぶしぶ2人に言われるがままその浴槽に入った。

 

タクミ「ハア~…久しぶりだあ~…」

 

 湯船に()かると湯加減はちょうどいいぐらいの熱さで、タクミの口から自然と声が出てしまう。

 すると身体を洗ってくれた男がタクミに尋ねた。

 

若い男「お客様、お酒をお持ちしましょうか?」

タクミ「ええっ?」

中年の男「どうですか、いっしょに?」

 

 タクミは正に度肝(どぎも)を抜かれて声が出ないが、このままだとお酒が運ばれてきそうなので(あわ)てて(ことわ)る。

 

タクミ「す、すいません…オレ、あまり飲めなくて…」

中年の男「それは残念…それじゃ、私には一杯(たの)む…」

若い男「承知(しょうち)いたしました…では、どうぞごゆっくり…」

 

 身体を洗ってくれた男が行ってしまうと、全く知らない中年の男と浴槽の中で二人っきりになってしまった。

 タクミはバツが悪くて黙ってしまうが、相手はそんなことを全く気にしない。

 

中年の男「どうですか、ここは?気持ちいいし、何よりサービスがいい…」

タクミ「はあ…」

中年の男「この浴場は初めてですかな?」

タクミ「いや、オ…私はドムニの町からここの街に初めて来たので…だから公衆浴場も初めてで…」

 

中年の男「そうですか、どおりで慣れておられないご様子だ…

 ここでは身体を洗って湯に入ってリフレッシュして、それでこうして色々な人と話をして楽しむ、そういう場所なんです…」

タクミ「そうですか…」

 

 男がちょうどそう言ったタイミングで頼んだ酒杯(しゅはい)がやって来た。

 タクミはこんなとこでどうするのかと思っていると、酒を持ってくるのと別の男が来て、タクミと中年の男が()かる浴槽に板を渡してそこに酒杯が置かれた。

 

 中年の男は酒杯を手にすると、(かか)りの男たちにありがとうという具合(ぐあい)に杯を(かか)げてから酒を一口飲む。

 

中年の男「う~ん、美味(うま)い!風呂で飲む酒はまた格別ですな…

 実は私は商人で、ドムニとは違ってもっと南に行って戻ってきたばかりなんです。

 旅の汚れを落として酒を飲む…これは(たま)りませんなあ…」

タクミ「はあ…」

 

 目の前の男は酒も飲んで上機嫌になってきたが、タクミは風呂の熱さに徐々にのぼせてきて会話もままならない。

 

タクミ(は、早く終わってくれ~!)

 

 タクミの心の声も知らずに、同じ浴槽の男は機嫌良さそうに歌を歌い出した。

 

 

 

 

 

 

 




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