※この作品はR-18です。

ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~   作:イジー・ムラシロ

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103 変わった道案内

 リラの街に来て三日目。

 この日も教会の(かね)の音でアイたちは目を覚ました。

 

 あの山小屋に送られた時はまだ5月だったのが、もう季節も夏に変わって朝陽が昇るのも早い。

 みんなが食事を取っていると、昨日と同じように外からは人々が働き出している足音が響いてきた。

 

 ソラが改めてこれからのことを聞く。

 

ソラ「で、何時ぐらいに出発するの?」

アイ「そうだね…」

ナオ「街の人はもうすっかり起きてるけど…」

アユミ「やっぱり陽が昇るとすぐに働き出すんだね…」

タクミ「さっき下見たら、もうかなりごった返してるよ。(くわ)みたいな持った人が門の方へ行ったり、箱から道具が飛び出してる人が何人も通ったりして…」

 

モア「でも、そんなに早く出るの?早すぎじゃない?」

ツグミ「…このままだと7時前ぐらい?」

ソラ「早すぎ(笑)…」

アカリ「確かに(笑)…」

 

 ソラとアカリにつられて、みんなも小さく笑う。

 ソラやモアの言葉を聞いて、アイはうなずく。

 

アイ「8時前ぐらいにここを出たらいいんじゃない?

 ナニさんがドムニでお店を案内してくれた時もそれぐらいだったし…」

ルカ「そうだね…」

モア「あ~、まだまだ時間あるよ~…」

 

アカリ「早けりゃ早いって文句言うし、あんたはどっちよ(笑)…」

タクミ「なんかもう一回寝そう…」

ナオ「ダメだよ…」

ソラ「置いてちゃうぞ~(笑)…」

モア「置いてちゃうよ~(笑)…」

アイ「もう、2人とも(笑)…」

 

 アイはどこか浮かれているソラとモアの様子に苦笑いをした。

 

 

 教会の鐘が鳴る頃、リラの城の寝室でアレン・ローゼン辺境伯(へんきょうはく)は目を覚ました。

 今年30歳になったばかりの彼は180㎝を超える頑健(がんけん)体躯(たいく)に精力をみなぎらせており、毎日わずかな睡眠で大量の仕事をこなし、前夜も真夜中まで書物を読んでから眠りについていた。

 

 ローゼン辺境伯は目を覚ますと、すぐに寝室の前に誰かが(ひか)えているのに気付きその人物を呼ぶ。

 

ローゼン辺境伯「誰だ、朝から何用(なによう)だ?」

執事「閣下(かっか)、おはようございます。ウーベでございます。

 早朝から失礼いたします。

 閣下にご報告いたしたいことがあるとムグーが参っております。」

ローゼン辺境伯「ムグーがこんな朝から…(かま)わん、通せ。」

 

 ローゼン辺境伯がベッドから起き上がると、いつの間にか寝室に入ってきた女中たちが彼に新しい服を着せる。

 彼が着替えを済ませ寝室を出て隣室へ行くとそこにムグーが(ひざまづ)いていて、先に声をかけた執事(しつじ)のウーベも部屋の(すみ)に控えている。

 

 ローゼン辺境伯はすぐにそばの椅子に腰を掛けた。

 

ムグー「閣下のおやすみをお邪魔し、大変申し訳ございません…」

ローゼン辺境伯「前置きはいい、用件を言え。」

ムグー「はっ、実は昨日街中で気になる(うわさ)を聞きつけました。」

ローゼン辺境伯「噂…」

ムグー「はい、理髪店の店員が店にやって来た旅の女ども7,8人が今まで見たことがないほどの美貌(びぼう)をしていたと申しまして…」

 

ローゼン辺境伯「旅の女たちが7,8人?そいつらは何の一行だ?」

ムグー「はい、どうやら女ばかりの勇者パーティーだと言うのです。

 わたくしもその後調べ回ったのですが、真偽(しんぎ)のほどは分かっておりませんが…」

 

ローゼン辺境伯「それで、その者どもが美女ばかりという噂は本当か?」

ムグー「はあ、その()(あと)をつけてその者どもが入った酒場でも聞き込みましたが、給仕(きゅうじ)をした店員たちもかなりの美貌だったと申しておりましたので、その点は間違いないかと…」

 

ローゼン辺境伯「顔を確かめたのか?」

ムグー「それはかないませんでした…」

ローゼン辺境伯「それでどこに泊まっているのかは調べたのか?」

ムグー「はい、冒険者ギルドの傍のミルトという女将(おかみ)がやっている宿屋へ戻りました…

 いかがいたしましょうか?」

 

 ローゼン辺境伯がムグーの問いにウーベに(あご)をしゃくると、彼はすぐにローゼン辺境伯の傍に来る。

 

ローゼン辺境伯「ウーベ、城にマルダかアクレスがおればすぐにここに来るように伝えよ。

 ムグー、その女たちがミルトという女将の宿にいるのは間違いないのだな?」

ムグー「はい、確かに。」

ローゼン辺境伯「わかった…ウーベ、こいつに褒美(ほうび)を渡してやれ。

 ムグー、下がってよい。」

ウーベ「承知(しょうち)いたしました。」

ムグー「閣下より御褒美を(たまわ)り、感謝申し上げます。では、本日はこれで失礼いたします。」

 

 ムグーとウーベが部屋から下がると、別の執事が朝食を運んでくる。

 

 朝から大盛りのパンに同じく大量に()られたハムとチーズ、それにスープまである食事がテーブルに並べられるとローゼン辺境伯は黙ってそれに手を付けた。

 彼が飲み物に(ひた)したパンを口にした時、ドアがノックされる。

 

「クィーズ(きょう)とダイグ卿、お呼びにより参上いたしました。」

ローゼン辺境伯「入れ!」

 

 ドアが開くと背が高い女性の武人ともう一人体格のがっしりした男性の武人が入ってきた。

 

 女性の方は身長が180㎝はあるだろうか、まだ20代ぐらいで肩幅が広く、手足も長く腰に剣を()びている。

 いかにも腕の立つ剣士という威容(いよう)だが、その容姿(ようし)は金髪をなびかせ(すず)やかな目元をしたおどろくほどの美女である。

 

 男性の方は女性ほどではないがこちらも175㎝ほどはあるだろう。

 もう40に近い年齢に見えるが手足も胴体も太く、筋肉の(よろい)のような身体をしていて、彼も帯剣(たいけん)している。

 

 金髪の美人騎士が城内の守備隊の隊長マルダ・クィーズ士爵(ししゃく)、もう一人の男性武人がリラの街の守備隊を(たば)ねるアクレス・ダイグ子爵(ししゃく)であり、2人は立ったままローゼン辺境伯に頭を下げた。

 

ローゼン辺境伯「マルダ、アクレス、実は先ほどムグーという私の密偵が街の噂を聞き込んできた。

 ヤツの言うには最近このリラにやって来た勇者パーティーの中に女性ばかりの者どもがおり、その者どもが何やらかなりの美貌の持ち主らしいということだ。」

 

マルダ・クィーズ士爵「ムグーと申す者はその女たちの顔は見たので?」

ローゼン辺境伯「いや、確認は出来なかったそうだ。」

アクレス・ダイグ子爵「そのムグーという者の言うは信用できるのでしょうか?」

 

ローゼン辺境伯「うむ、今まで調べさせて詳細(しょうさい)(ちが)ったことはあったが、金のために(いつわ)りを告げてきたことはない。

 ムグーが言うにはギルドの傍のミルトという女将の宿屋に宿泊しているらしい。

 すぐに城に登るよう伝えよ。私が直々(じきじき)にその顔形(かおかたち)を確かめよう。」

 

ダイグ子爵「ははー、ではすぐに書状の用意を…」

ローゼン辺境伯「うむ、それだけだ。下がってよい。」

クィーズ士爵、ダイグ子爵「失礼いたしました。」

 

 クィーズ卿とダイグ卿は一礼すると部屋を出ていった。

 ローゼン辺境伯は今度はチーズの(かたまり)を手に取ると一気に(かじ)った。

 

 

 アイたちは8時前に出発すると言っていたが、やはりすることもなく7時半にはフードを(かぶ)って一階に降り、出発の準備をした。

 ミルトが笑って(むか)えてくれる。

 

ミルト「やあ、おはよう…もう出発かい?」

ソラ「おはようございます。」

アユミ「おはようございます…これから出ていきます…」

ミルト「今日はどこへ行くんだい?」

アイ「場所は分からないんですけど、ジミーさんが会って話がしたいと…」

ミルト「そうかい、ジミーさんが会って話をねえ…」

 

 アカリがミルトに尋ねる。

 

アカリ「ジミーさんって貴族なんですね…私たちがギルドでお会いした時には何もおっしゃられなくて…」

ミルト「ああそうだよ…でもジミーさんご自身が元々平民の出だし、勇者パーティーにいたから私たちみたいのと話してる方が落ち着くってね…

 だからご自分で貴族だからとはこんな場所ではおっしゃられないし、私たち町のもんもみんなジミーさん、ジミーさんって呼んでるよ…」

 

ルカ「普段から話しやすい人なんですね…」

ミルト「そうだよ…人当たりもいいし、威張(いば)らないし、それでいて困ってるもんには何でも相談に乗って下さる…

 大きな声じゃ言えないけど、私たちのような庶民(しょみん)にはご領主様よりジミーさんの方が人気があんだよ…」

アユミ「そうですか(笑)…」

 

 まだこの街に来たばかりで何と言えばいいのか分からず、アユミは苦笑する。

 

アイ「いろんなお話、ありがとうございます。」

ナオ「じゃあ、行ってきます。」

モア「行ってきま~す…」

ミルト「はい、行ってらっしゃい…」

 

 みんなはいつも通り武器を引きずりながら宿を出た。

 

アイ「さて、使いを(よこ)すとジミーさんは言ってたけど…」

ソラ「誰もいないよ…」

タクミ「貴族の使いっていったら、結構きちんとした格好(かっこう)のはずだよね…」

ルカ「そうだね…そんな感じの人っていないね…」

 

 それぞれが宿の周りをキョロキョロと見回すが、それらしい人物の姿はない。

 

アカリ「まだ早すぎたんじゃない?」

ナオ「確かにもうちょっと待ってもね…」

モア「豪華(ごうか)な馬車、どこ~?…」

ツグミ「…ねえ…」

 

 みんなが使いらしき人物を探すのを(あきら)めた時、ツグミが声を出して小さく指差す。

 

ツグミ「ねえ、あんなとこにネコがいるけど…」

アイ「うん?」

アカリ「確かにクロネコだ…」

アユミ「なんか可愛い…」

 

 ツグミが言うように、道の真ん中にやや小柄で全身が真っ黒なネコが一匹、四つ足で立ったままこちらをジッと見ていた。

 アユミがしゃがんで手を差し出すとトコトコと近づいてくるが、アユミの目の前で止まると今度はアイたちの周りをぐるっと回る。

 

ソラ「ん?なんだこいつ?」

ナオ「なんか私たちのこと、分かってないかな…」

アカリ「コラッ!」

 

 アカリが捕まえようと手を伸ばすと、そのクロネコはサッと後ろに下がって逃げる。

 だが、どこかへ走り去ったりはしないでまた離れたところからジッとアイたちのことを見ていた。

 

 ツグミが小さな声でみんなに言う。

 

ツグミ「ねえ、ジミーさんの使いって、この子じゃない?」

アイ「はあ、このネコが?」

ルカ「ネコが道案内するの?」

ソラ「マジで?」

 

 いくらなんでもと、アイたちは信じられない様子で顔を見合わせる。

 だが、クロネコはぐるっとその場で一回りすると、尻尾(しっぽ)を振ってトコトコと走り出す。

 だがアイたちがついて来ないとみると、少し離れたところに座ってまたジッとみんなのことを見ていた。

 

ツグミ「ねえ、絶対あの子がお使いだよ…だから後をついてこう。」

 

 もう一度辺りを見回すが、確かに他に使いらしき人の姿はない。

 アイは意を決してみんなに言う。

 

アイ「よし、ツグミが言う通りあのネコについていこう!」

 

 アイに言われてみんなはぞろぞろとネコの方へ歩き出した。

 それを見てクロネコはまたトコトコと先を走っていく。

 

アユミ「ああ、待って!」

タクミ「お前、走るのかよ!」

アカリ「歩いてちゃ、置いてかれるよ…」

アイ「みんな、急ごう!」

 

 みんなが走ってクロネコの後を追うと、今度は家と家の間の(せま)い路地に入っていく。

 そこは一人ずつしか通れないぐらいの狭さだ。

 

モア「(つえ)を持ってたら通れないよ…」

ナオ「もう武器はしまっちゃおう…」

 

 みんなは武器をしまってその狭い路地に入っていく。クロネコは路地の向こうでジッと待っているようだ。

 

ソラ「ねえ、どこへ連れてくんだ…」

 

 みんなが路地を抜けてソラがそう声をかけても、クロネコは鳴き声も出さずにまた走り出した。

 

 それからしばらくの間、そのクロネコは狭い路地を抜け、家の裏にある溝の端を進み、大通りを横切るとまた狭い路地に入って、その後にはトンネルのような場所をくぐり抜けて進んでいった。

 

 アイたちはその小柄なネコの姿を見失わないように、必死になってその後を追っていく。

 だが、路地は狭くて通りにくく、裏の溝からは(ひど)悪臭(あくしゅう)(ただよ)ってくる。

 みんなはいつの間にかリラの街中をぐるぐると走り回らされていた。

 

アイ「マジでどこ行くんだ…」

モア「もうダメ、ついてけない…」

アユミ「ほら、がんばって…」

タクミ「いつまで続くんだよ…」

 

 全員がフラフラになってどこにいるのか分からなくなった頃、クロネコは狭い道の先、坂道を少しだけ上ったところにある小さな家の前に座っていた。

 

 アイたちが近づいても今度はそこから動こうとしない。

 クロネコは上り坂のすぐ始めにある家の、木で出来た5段ほどの階段を上ると閉まっている(とびら)(つめ)でゴシゴシと()()いた。

 

アカリ「もしかしたら、あの家じゃない?」

アイ「かも、ちょっと見てくる…」

 

 アイが2,3歩家に近づくとゆっくりと扉が開き、家から女性が出てきた。

 

 非常に豊満(ほうまん)な体つきの小柄な女性で丸顔に小さな目を細めてアイたちにニコッと笑いかける。

 年齢は見た感じすぐに分からないが恐らく20代半ばぐらい、エプロンのように大きな布を服の前に()らし両腕の(そで)をたくし上げている様子から日々の生活を切り盛りしている感じが伝わってきた。

 

 その時クロネコが初めて「ニァ~」と鳴く。

 女性はそのネコを(かか)え上げ、ギュッと()いて(ほお)ずりした。

 

 アイたちは黙ってその様子を見ていたが、クロネコは頬ずりが嫌なのか、女性の胸の中でジタバタして飛び降りるとそのまま坂の上へ行ってしまった。

 みんながネコを追いかけるかどうか悩んでいると、家から出てきた女性が声をかけてきた。

 

豊満な女性「皆さんはもしかしたらジミーさんがおっしゃられてたお客さまかな?」

アイ「はい、ジミーさんと約束をしていて、あのネコの後をついてきたんですけど…」

豊満な女性「じゃあ、間違いないわね…さあ、どうぞ入って…」

 

 みんなはクロネコの後を追ってきたものの、本当にそれが正しいのか分からず不安だったが、ここがその目的の場所だと言われてやっと安心して言われるままに家の中に入った。

 

 女性に(うなが)されるまま家に入ると、中は(せま)く右手には小さなテーブルがあり、左手は壁に面したところに奥への入り口があり、更に部屋を真っ直ぐ数歩進んだところにまた木の扉がある。

 女性はその扉を開けてその奥へ行くようにと()(まね)く。

 

豊満な女性「ごめんなさい、とても狭いところでね…ここを降りるとずっと広いから…」

 

 女性が言うように扉の向こうにはまた下に降りる木の階段があって、その部屋には大きな楕円形(だえんけい)のテーブルが置かれていた。

 そこは坂を利用してできた半地下の部屋らしい。

 

 女性が先に立って部屋の中に降りて奥の光取りの引き戸を開けると、そこからこの家の前の坂道が見えた。

 部屋が明るくなり、アイたちはそれぞれ順番にテーブルに腰を下ろす。

 

豊満な女性「ちょっと待っててね…」

 

 アイたちがどこに座るか話している間に、女性はまた上の部屋へ戻っていく。

 そしてみんなが席についてフードを下ろしてマントを脱いだところでお盆を持って戻ってきた。

 お盆には木製のコップが乗っている。

 

豊満な女性「さあどうぞ…足りないと思うから、すぐに他のも持ってくるからね…」

 

 コップには茶色の飲み物が湯気(ゆげ)を上げていて、アイたちはそのコップを順番に回していく。

 コップからは紅茶のような(かお)りが漂ってきた。

 

 女性が残りのコップも持ってきて全員に行き渡るが、誰も口をつけようとしない。

 女性はお盆を胸に抱えたまま口を開いた。

 

豊満な女性「いらっしゃいませ、私はナデアって言うの…

 ここは酒場っていうわけではないけど、時々料理を作って集まった人に振る舞っているの。

 ジミーさんやジミーさんが連れてきたお客さんにも何度か振る舞ったことがあってね…」

 

 ナデアはニコニコとアイたちの様子を見ている。ナオがナデアに尋ねる。

 

ナオ「ありがとうございます。この飲み物って…何ですか?」

ナデア「それはお茶…ジミーさんがわざわざ皆さんに出してあげてくれって、昨日渡してくださったの…」

アユミ「ジミーさんが…」

 

ナデア「そう。お茶なんてものすごく高価なもので、私たちなんか手が届くものじゃないからね…」

アイ「じゃあ、そんな高価なもの…」

ナデア「いいのよ…ジミーさんが皆さんのために持ってきてくれたんだから…」

 

 みんなは一瞬顔を見合わせるが、アイはすぐにうなずく。

 

アイ「じゃあ、いただきます…」

アユミ「いただきます…」

全員「いただきます。」

 

 コップに口をつけると、元の世界の紅茶とは少し違った味と香りだが決しておかしなものではない。

 むしろその紅茶らしい苦味(にがみ)と香りに(なつ)かしさが()き上がってくる。

 みんなはその一杯を()みしめるように味わった。

 

 その頃、坂を()(あが)っていったクロネコは坂の上の空き地に止まっていた馬車のところへ走っていった。

 

 その馬車の傍に立っていたジミーは自分の足元にやって来たクロネコを抱き上げると、そのネコの(ひたい)を人差し指の先で軽く()でる。

 するとクロネコはジミーの腕の中でクタクタと眠ってしまった。

 

 今日もジミーはギルドで会った時と同じ(あさ)のシャツとズボンに茶色のチョッキを羽織(はお)っていたが、今日はチョッキの上からしている(かわ)のベルトに着いた飾りがやや豪華な装飾の物に代わっていた。

 頭にも一昨日と同じ帽子(ぼうし)を被っている。

 

 ジミーがクロネコを抱いたまま馬車のドアを開けると、カイが中から木の(つる)()んだ(かご)を差し出す。

 ジミーは眠っているネコをそっとその籠の中に入れた。

 

ジミー「では(わし)は行ってくるからな…カイ、宿のことなどは(たの)んだ…」

カイ「承知(しょうち)いたしました。」

ジミー「大きな馬車は正午(ひる)を過ぎてから、またここへ来てくれればよい…」

カイ「そのことも承知いたしました。では、行ってらっしゃいませ…」

ジミー「うむ、頼んだぞ…」

 

 ジミーはそうカイに言うと坂道を降りていき、ナデアの店の前へ来ると扉を小さく二度ノックする。

 すると7歳か8歳ぐらいの少女が扉を開いた。

 

 ジミーは少女を見てニコリとすると、少女の目線の高さまでしゃがんで彼女の頭を撫で、微笑(ほほえ)みながら彼女に言う。

 

ジミー「ジミーが来たと、お母さんに言ってくれ…」

 

 少女は表情を変えずにコクリとうなずいて奥に入っていくとジミーもそのまま立ち上がり、扉を開けて家の中に入った。

 そこにナデアが出てきた。

 

ジミー「すまぬ…少し遅くなったやもしれぬ…」

ナデア「そんなことはありません。皆さんはもう下の部屋におられます。」

 

 ジミーは黙ってうなずくと、下の部屋へのドアをノックした。

 

 ジミーがやって来た時、アイたちは紅茶を飲んで落ち着いたことでクロネコを追いかけ回した疲れも取れて、隣同士でそれぞれがどうでもいいようなことを話していたところだった。

 そこにノックの音が響き、みなピタッと話をやめる。

 

 ドアが開いて、ジミーが降りてきた。

 

ジミー「やあお待たせしましたかな…少し遅れてしまったようで…」

 

 ジミーが遅れたことを()びながら階段に一番近い席につくと、アイはみんなに目配(めくば)せをして全員で一斉(いっせい)に立ち上がり、ジミーに頭を下げた。

 そしてアイは立ったまま自己紹介をする。

 

アイ「今日はお時間をいただき、ありがとうございます。私がリーダーのアイです。

 よろしくお願いします。」

 

 アイは一昨日(おととい)ギルドでも名乗っていたが改めて自己紹介をして席に着くと、他のみんなも順番に自己紹介をしていく。

 ジミーはその様子を黙って見ている。

 

 やがて最後のタクミも席に着いてアイたち全員が自己紹介を終えると、ジミーはおもむろに口を開いた。

 

ジミー「丁寧に自己紹介をしていただき、痛み入ります。それがしも自己紹介をいたしましょう。

 わたくしは正式にはジムフロイド・ブロッケン男爵(だんしゃく)と申し、一応爵位(しゃくい)(たまわ)った貴族です。

 もしかすると皆さんは既にご存知(ぞんじ)かもしれませんが…」

 

 ジミーの最後の言葉にアイがうなずく。

 

アイ「はい、兵舎(へいしゃ)で兵士の方に聞きました。まさかジミー…いや閣下(かっか)が貴族だなんて思わなくて…」

 

 アイがジミーのことを「閣下」と呼ぶと、彼は(いきお)いよく手を振った。

 

ジミー「いやいや、私のことはジミーで結構です…

 爵位を賜り、(えら)そうに貴族などを申していますが、なかなかそれも肩が()るものでしてな…

 それに「閣下」などと呼ばれてはお互いに話したいことも話せないでしょう。

 どうぞただのジミーとお呼び下さい。」

ナオ「でも…」

ジミー「いや、どうかご遠慮(えんりょ)なく…」

 

 みんなが何を話そうかと互いに顔を見合うと、ツグミがジミーに聞く。

 

ツグミ「あの~…道案内のネコは…ジミーさんの魔法ですか?」

 

 ネコのことを問われて、ジミーは笑顔でうなずく。

 

ジミー「あのクロネコは私の屋敷に住み着いたもので、ここまで道案内するよう少し魔法をかけました。」

ナオ「あんなふうに動物を使う魔法もあるんですね…」

ジミー「動物に使いをさせるのは少し特殊な魔法でしてな…

 私はその魔法を師匠から学びました…かなり特別な魔法です。」

ソラ「へぇー…」

 

 ツグミの質問からジミーも自分たちも少し打ち解けてきたので、アイはナオやアユミと視線を合わせてうなずき合うと改めて話を切り出す。

 

アイ「ジミーさん、今日は私たちに聞きたいことがあるとおっしゃってましたが…

 私たちはまだ勇者パーティーを始めたばかりで、本当はジミーさんのような経験のある方にいろいろ聞きたいことが沢山あるんですが、最初にジミーさんが私たちにその聞きたいことをお話しいただけますか?」

 

 ジミーはアイにそう聞かれると、しばらくの間ジッと腕を組んでどのように話すのかを考えているようだったが、やがて静かに口を開いた。

 

ジミー「そうおっしゃってくださるなら、私もあまり余計なことは話さぬことにしましょう…

 最初は皆さんとさっきのような話をして、もう少し後に(くわ)しい話をしようと思っていましたが…

 実は皆さんのご存知ないところでいろいろとややこしいことになってましてな…」

 

アイ「ややこしいこと?」

ジミー「左様(さよう)…では単刀直入(たんとうちょくにゅう)にお聞きするが、皆さんは一体何者なんです?

 ドムニのギルドからの手紙にはレアの村から一か月ほど前にやって来たとありましたが、そうではありますまい…

 

 ゴブリン退治のクエストはまだ分かるとしても、まだ勇者パーティーとして一か月の者がラウンドウルフの退治など普通ではとてもできることではない。

 ましてや「大斧(おおおの)のダン」のような盗賊を討ち取るなどとてもあり得ないことです。

 申し訳ないが私には皆さんがレアのような片田舎の村からやって来たなどとは到底(とうてい)信じられませんな…」

 

 ジミーの顔からはさっきまでの笑顔はなくなり非常に厳しい表情に変わって、()んだ眼はアイたち一人々々を射るように見つめていた。

 アイたちも硬い表情で彼を見つめる。

 それでもアイがいつものように最初に口を開いた。

 

アイ「おっしゃる通りです…私たちは皆レアの村の出身ではなく、この世界とは別の世界から魔法で連れてこられた「彷徨(さまよ)い人」です…

 

 ジミーさんだけじゃなく、ここに来る前にいたドムニの町の武器屋のおじさんにも気づかれて…

 そのおじさんにもクエストの経歴で正体がばれるかもしれないって言われてはいました…」

ジミー「「彷徨い人」、なるほど…それでは何か特殊な力を持っておられるのですな…」

アイ「はい…」

 

 アイはジミーの言葉にうなずくと、アユミの方を見る。

 彼女のしぐさの意味に気づいたアユミは最初の山小屋で見つけた本を取り出し、ジミーのところまでその最初の箇所を見せに行く。

 

ジミー「なるほど…それぞれに能力を…」

アイ「それだけじゃなくて、武器やテントや野外で生活していけるような私たちの世界の道具もいろいろと(もら)えて…」

アユミ「それで私たち、全く違う世界ですけど何とかやっていけてるような感じで…」

ジミー「ふむ、武器も…もしよければその武器も拝見(はいけん)できますかな?…」

 

 ジミーに言われすぐ近くに座っていたタクミがストレージから剣と(やり)を取り出して渡す。

 

 ジミーは剣を(さや)から抜くと窓から入ってくる光にすかすようにじっくりと調べ、剣を鞘に収めるとその鞘も上から下まで何度も(なが)めた。

 槍も同じように()の部分も穂先(ほさき)の部分もしっかりと見て確かめる。

 

 ジミーは渡された武器を十分に調べ終わると、それをタクミに渡しながら言う。

 

ジミー「これは鉄ではなくオリハルコンという希少(きしょう)なもので出来た、特別な武器です。

 こうした武器は本来ならば王室かそれに準ずる公爵(こうしゃく)のような方々しか手にすることの出来ないもので、皆さんが例え大金を持っていたとしても手に入れること自体が難しい。

 槍の柄や鞘に(ほどこ)されている装飾も見事なもので、正に上流貴族の持ち物でしょう…」

 

アユミ「じゃあ…」

ジミー「左様…このようなものを普通に手に入れることはできないでしょう…

 皆さんが誰かから(あた)えられたというのは間違いありますまい…」

 

 ジミーは自分の席に戻るともう一度腕組みをして目を閉じ、何かを思い出すような素振(そぶ)りを見せる。

 そして目を開くとまた話し出した。

 

ジミー「私も「彷徨い人」についてはいろいろな言い伝えで聞いたり様々な書物で読んだりしましたが、それだけのことで、ましてや30年ほど勇者パーティーにおりましたが実際に「彷徨い人」を見たことも会ったこともありません。

 

 今皆さんが「彷徨い人」と(おっしゃ)られて一体どのようなことをお伝えすればよいか、よき言葉が見つかりませぬが…」

 

 ジミーはそこで一度言葉を切ると、アイたちをぐるっと見回す。

 

ジミー「私の読んだ本には「彷徨い人」は単に様々な能力を持つだけでなく、元々その力自体が非常に強く、更にそのレベルアップもまた尋常(じんじょう)よりも(はる)かに早いと書かれておりました。

 皆さんはどうですか?自分たちのお力をどのように感じておられるのか?…」

 

 みんなはジミーの言葉に顔を見合わせるが、アカリが何を思いつく。

 

アカリ「魔獣と戦えたのもそうなんですけど…

 例えば私たち元の世界だと普通に走ったり飛んだりできただけだったのが、この一か月二か月ですごく高くまでジャンプ出来たり、宙返(ちゅうがえ)りが出来たりとかそんなことが急にできるようになって…」

ツグミ「魔法もすぐに強い魔法が使えたり、守備の魔法もかなり効果があったりしたし…」

 

タクミ「それに魔法で食べ物とか飲み物とか、他にも毛布とかいろんな必要な物を出して貰ってます…」

アイ「確かにそう言われると、何も出来ないでこの世界に来たのにすぐにできるようになっていることは多いと思います。」

ジミー「左様で…」

 

 ジミーはアイたちの話を聞いて、座り直して言う。

 

ジミー「既にご存知だと思いますが、「彷徨い人」はこの世界、この国の存亡に関わるような時に現れるものであり、その存在の意味は小さいものではありません。

 この本にはなぜ皆さんがここに呼ばれたのかは書かれておりませんが、皆さんが「彷徨い人」である以上、必ず何か大きな意味があると見て間違いないでしょう…

 

 そういう意味でも皆さんがこのまま普通に勇者パーティーとして過ごされるのはいささか無理があると思います。

 皆さんは漠然(ばくぜん)と勇者パーティーとしてクエストをこなしていくのではなく、「彷徨い人」ということを自覚して活動なされねばならないでしょう…」

 

 「彷徨い人」ということを自覚する。アイたちはその言葉を聞いてまた顔を見合わせる。

 

 今まで自分たちが「彷徨い人」ということは分かっていたが、その意味まで考えるようなことはできなかった。毎日を何とかやっていくのが精一杯だったのだ。

 だが、そのことをジミーから言われると、それはまた別の意味を持ってアイたち一人々々に響いていた。

 

 

 

 

 

 




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