※この作品はR-18です。

ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~   作:イジー・ムラシロ

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104 突然の提案

 「彷徨(さまよ)い人」ということの自覚をジミーに言われて、アイたちはすっかり黙ってしまった。

 ジミーもまた、黙ったままでいる。

 

 日々の生活と旅を本当に手探りでやってきた自分たちに何ができたのか、何が必要だったのか。

 突然知らない世界に放り込まれた高校生でしかない彼女たちにとって、それは重すぎる問いかけだった。

 

 しばらくしてナオがやっと口を開く。

 

ナオ「ジミーさんがおっしゃることは分かります…

 でも、私たちにはその「彷徨い人」ということを自覚してやっていくというのが、難しすぎて分からないんです…」

 

 ジミーはナオの問いかけに大きくうなずく。

 

ジミー「皆さんが私の言うことに困惑(こんわく)されるのは無理ないでしょう…

 しかし、私が言っているのはそんなに大げさなことではないのです…例えば…」

アイ「例えば…」

 

 ジミーが何か教えてくれようとしていると思って、みんなは顔を上げる。

 

ジミー「例えば皆さんは昨日公衆浴場へ行かれたそうだが、その時にその浴場の店の者に何と言われました?

 その容姿(ようし)のことを何か言われませんでしたか?」

アカリ「どうして私たちの行動を知ってるんですか?」

 

 ジミーの予想外の答えに全員が(かた)い表情で彼を(にら)む。だが、彼はそうした視線を全く気にしない。

 

ジミー「その後には理髪店に行き、皆さん全員が身なりを整えられた。

 店員たちがあなた達に何と言われたのか。その美貌(びぼう)()められ、いい気持ちになったのではないですか?」

ナオ「ジミーさん!誰かに私たちの(あと)をつけさせたんですか⁉」

ルカ「そんな!」

モア「(ひど)い!」

 

 ジミーは大きく息を吐いてアイたちのことを見ると、みな厳しい目で彼のことを見ていた。

 だが、彼は落ち着いた声で話し続ける。

 

ジミー「確かに私は街の知ってる者に(たの)んで、昨日一昨日(おととい)の皆さんの様子を見ておいてもらった。

 それは皆さんに興味があったから、というわけではなく、むしろ皆さんのことが大いに心配だったからです…

 

 皆さんはギルドで私に「大斧(おおおの)のダン」のことを話された時もダンの()(がら)のことや皆さんがダンを討ち取ったことを知られることは心配しておられたが、自分たち自身のことを知られることは気に()めておられなかった…

 

 ビックゴブリンやラウンドウルフの死骸を取り出す時もそれを私がどのように受け止めるのか、少しも考えておられなかった…」

アイ「それは…」

 

タクミ「でも、それは単にクエストで得た物を換金(かんきん)しようとしただけで…」

ジミー「だが、ドムニのギルドからの手紙にはあなた方がまだ勇者パーティーになって一ヶ月だと書かれてしました。

 皆さんはドムニの町で勇者パーティーとして活動を始められたはずだ。

 

 だとすれば、そのことがギルドの手紙に書かれているのはお分かりになられるはず。

 だが、そのパーティーがあれだけの数のラウンドウルフの死骸を持っていると疑われる、そうは思われなかったようだ…」

ナオ「それは確かに…」

 

 ジミーの言葉にアイやナオはまだ不満そうに口ごもるが、ジミーは話をやめない。

 

ジミー「公衆浴場や理髪店の件も同様でしょう。

 自分たちの姿形(すがたかたち)のことを皆さんは一切気にされなかった、店員たちがあなた方のことを特別に美しいと言ったのに…

 皆さんはそのことが他人(ひと)の口に上らないと思っていたのですか?」

 

 ジミーがそう言うと、アイたちは驚いて顔を見合わせる。

 

アユミ「口に上るって…私たちのことが(うわさ)になってるってことですか?」

タクミ「噂なんて…街の誰もオレたちのことを気にしてるふうじゃなかったけど…」

 

 ジミーはアユミやタクミが言うのを聞き、黙って首を横に振った。

 

ジミー「やれやれ、どうやら何も気づいておられないようですな…

 私がわざわざあのネコに多くの路地を通ってここまで案内させた理由も分かっておられないようだ…

 

 もう公衆浴場や理髪店、その後に皆さんが立ち寄り食事をした酒場の界隈(かいわい)では、皆さんの美しさのことがすっかり噂になっています。

 皆さんはそのことにも気づかずに、またミルトの宿屋に戻られるつもりだったようですな…」

 

ソラ「そんな…」

アユミ「じゃあ…」

ジミー「私が皆さんの身辺(しんぺん)を調べさせたのを不愉快(ふゆかい)に感じられるのはよく分かります。

 ですが、そうせずにはいられないような不安を私は皆さんから感じたのです…

 

 あなた方のことを丸一日見ていた私の知り合いも、皆さんがあまりに無自覚(むじかく)無防備(むぼうび)に振る舞っておられるのを心配しておりました…」

アイ「でも、私たちのことが噂になってるからって…」

 

 アイはまだ不満そうにジミーの言葉に反論する。

 すると彼はもう一度座り直すと、背筋を伸ばしてアイたちのことをジッと見つめる。

 アイたちもその真剣な視線にグッと黙ってしまった。

 

ジミー「さて、これからが本題なのですが…

 実は皆さんの噂を聞きつけたのは市井(しせい)の者どもだけではないのです。

 お城にお住まいのご領主様も既に皆さんが特別な美貌の持ち主だということを聞きつけておられる…」

アイ「ご領主様って…」

ソラ「何とか辺境伯(へんきょうはく)とか言ってた人?」

 

 ソラの言葉にジミーはうんうんとうなずく。

 

ジミー「そう、今おっしゃったアレン・ローゼン辺境伯閣下(かっか)が皆さんのことを耳にしておられる。

 恐らく皆さんがこの後ミルトの宿屋へ戻られると、お城から明日登城(とじょう)するようにという閣下の御命令が書かれた書状が届いているでしょう…」

 

ナオ「なぜローゼン閣下は私たちにお城へ来いとおっしゃるんですか?」

ジミー「それは皆さんが噂通りに美しいかどうかを確かめるためです。そして確かに皆さんが美しいと分かれば…」

アカリ「分かれば…」

 

 ジミーはそこで一度話を切る。

 みんなは自分たちの美しさを知られればどうなるのか、話を聞き逃さないように身を乗り出した。

 

ジミー「もし皆さんが本当に美しいと分かれば、アレン様は女性の方々全員をご自分の側女(そばめ)になされるでしょう。

 男性の方は運が良ければこのリラの街から追放ぐらいで済むかもしれませんが、恐らく地下牢(ちかろう)に押し込まれることになるでしょうな…」

アカリ「そんな!」

ソラ「そんなバカなこと!」

 

 ソラとアカリが椅子から立ち上がるのを、隣にいたツグミとアユミが落ち着くように(そで)を引っ張る。

 だが、ソラとアカリは立ったまま叫ぶ。

 

アカリ「そんなこと、絶対に受け入れません!」

ソラ「私たち、戦って城から逃げます!」

 

 だが興奮している2人に、ジミーは落ち着いた表情のまま問いかける。

 

ジミー「戦って逃げる…それは(いさ)ましいですな。だが、どうやって逃げるおつもりですか?

 城には衛兵が常時数百人はおり、アレン様のお傍にはダンとは比べ物にならないぐらいの手練(てだ)れが(ひか)えております。

 どれだけ皆さんに特別な力があっても、アレン様のお傍にも同じかそれ以上の力がある者が(そろ)っております。

 

 例えそれを切り抜けても、皆さんはお忘れですか、大門のところでギルドのカードを確かめられたでしょう?

 もう一度同じことをせねば、アレン様のご領地では勇者パーティーとして働くことは出来ません。

 

 また、このリラの街自体が高い城壁に守られていることも忘れてはなりません…

 皆さんがアレン様のご意向(いこう)から(のが)れることはできないのです…」

 

タクミ「(にげ)げられないって…」

ソラ「マジで?…」

ツグミ「酷い…」

 

 ジミーの話を聞いて、ツグミは顔を(おお)って泣き出した。

 ナオがその背中を(さす)るが、彼女自身も泣きそうな顔をしている。

 

 自分たちのことを自覚する。自分たちで自分たち自身のことを守る。

 

 ドムニでナニや武器屋のオットからそう忠告されたはずだったが、今の今までそれが本当に何を意味しているのか、アイたちには分かっていなかった。

 全員が今、本当に何を言われていたのかをはっきりと(さと)ったが、それも全てあとの祭りだった。

 

 自分たちの無自覚でとんでもない窮地(きゅうち)(おちい)り、もうどこにも逃げ場はない。

 それでもアイが声を()(しぼ)ってジミーに尋ねた。

 

アイ「…ジミーさんがおっしゃるように…私たちは、何も分かっていませんでした…

 もうどうしようもないかもしれないけど…

 けど、私たち、どうすればいいですか?ジミーさんには何か考えはないですか?…」

 

 いつの間にか全員が立ち上がってジミーの方をジッと見ていた。

 アイたち全員の顔に(あせ)りと後悔、そして不安と失望が浮かんでいた。

 

 ジミーはしばらく黙っていたが、フッと息を吐き出す。

 

ジミー「いかんともし(がた)いようだが…

 たった一つだけアレン様のお側に(つか)えずに()む方法があります…」

アイ「それは何ですか?」

 

 みんなはじりじりとした目でジミーの答えを待つ。だが、ジミーは目を閉じて首を振った。

 

ジミー「まずは皆さん、席に着きませんか…そのようにいきり立っては話もできますまい…」

ソラ「そんな落ち着いてられないっすよ!」

アカリ「そうだよ!」

ルカ「ソラちゃん、アカリちゃん、ダメだよ…」

 

 ジミーは身振りでまあまあという具合にみんなをなだめる。

 アイやナオが指示してみんなが何とかもう一度席に着くと、ジミーは落ち着いた声で切り出した。

 

ジミー「そこで皆さん…皆さん全員で私の養子になりませぬか?

 いや(わし)の養子になる、今この目の前の死地から逃れるたった一つの方法はそれしかありません…」

タクミ「ジミーさんの養子に?」

 

モア「養子って、ジミーさんがお父さんで、私たちが娘になるってことでしょ?」

アユミ「私たちみんなが…」

ナオ「どうしてジミーさんの養子になると大丈夫なんですか?」

 

 ジミーはまたうなずいて答える。

 

ジミー「皆さんのような平民の場合、ご領主であるアレン様のご命令に(そむ)くことはできません。

 

 我々のようにお側に仕えている者がそれに意見することすらかないません。

 ですので、皆さんがこのままお城へ行かれると有無(うむ)を言わさずアレン様の側女になるしかありません。

 

 ですが、この国では貴族の地位は例えどれだけ低い者でも守られております。

 アレン様がある貴族のご息女(そくじょ)に目を掛けられても、それをアレン様のご命令で連れていくことはできず、必ずそのご息女の父上である貴族の方とアレン様が同意をせねばならぬのです。

 

 もしその貴族がアレン様の申し出を(ことわ)れば、アレン様がそのご息女を連れていくことはできません。

 それは国王陛下(へいか)であっても同様なのです。

 

 今私は(さいわ)いにも男爵という爵位(しゃくい)(たまわ)り、末席(まっせき)とは言え貴族の地位におります…

 もし皆さんが私の養子となれば、私が首を(たて)に振らねばアレン様とて皆さんを城に(とど)()くことは出来ぬのです。」

アイ「ジミーさんの養子になる…」

 

 ジミーからの突然の提案に、アイたちは頭が混乱してしばらく誰も口を開かなかった。

 

 それだけでなく自分たちが街で噂になり、そのためにご領主様の城に呼ばれていて、城へ行けばそのご領主様の側女(そばめ)にされるかもしれない。

 今朝、宿で目覚めてからこの場所にやって来るまで誰ひとり想像すらしていなかった事態の推移(すいい)に、みな何も考えられなくなっていた。

 

ジミー「皆さんにとって大変難しいことでしょう…

 一昨日(おととい)ギルドで会い、そして今日ここで少し話をしただけの私の何を信頼できるのか。

 そう思われて当然のことだと思います。

 

 だが、それは私も同じでしょう。

 わずか二度しか会っていない皆さんを自分の子として(むか)えようとしている…

 そういう意味では皆さんも私も不安は同じではないでしょうか。」

 

ナオ「ジミーさんは、どうして私たちを養子に迎えてくれようと思ったんですか?

 どうしてわざわざ私たちを助けてようとしてくれるんです?」

 

 ナオがそうジミーに問いかけると、他の者もまた彼の顔をジッと見る。

 

ジミー「まず一つは皆さんが「彷徨(さまよ)い人」だからです…

 先ほども言ったように「彷徨い人」はこの国が何かの危機にある時に現れます。

 つまり「彷徨い人」という存在には何か大きな意味がある…

 

 皆さんがここにいるのは大変な理由があるはずじゃが、もしアレン様が皆さんをご自分のものになされればその理由も分からぬままでしょう。

 だが、それはどちらかと言えば些末(さまつ)なことでしかない…」

アイ「じゃあ…」

 

ジミー「もう一つの大きな理由は、皆さんの人となりです。

 皆さんはギルドで「大斧のダン」を()ち取った話をした時も、私に一度もそのことを(ほこ)るようなことをされなかった…

 

 ラウンドウルフ退治(たいじ)のことも、それがどれほどのことか分かっておられないとしても、大きなクエストをしたと胸を張ってもよいはずじゃがどなたもそのような振る舞いを見せなかった…」

 

アカリ「それは、そんなことが(すご)いことだってあまり思わなかったから…」

ジミー「そう、それじゃ!

 ビックゴブリンを討ち取った時もラウンドウルフを退治した時も、村人たちから感謝されなかったですか?

 

 (いわ)いの(うたげ)も受けずに戻られたのか?それとも宴の席で、村人たちに自分たちが魔獣(まじゅう)を倒したと胸を張って大威張(おおいば)りされたのかな?

 そうではありますまい…」

 

アユミ「それはまあ…」

アカリ「エブルの村では宴はしてもらって…」

ルカ「確かにそんな威張ってお(いわ)いしたわけじゃないけど…」

タクミ「お金も(もら)ったし、そんな祝ってもらうのも気恥ずかしいし…」

ソラ「まあ、それはあったよね…」

 

 アイたちが自分たちの手柄(てがら)のことや祝いの宴を持ち出されて困ったような様子を見せるのに、ジミーはうんうんとうなずく。

 

ジミー「それに皆さんはここに私が姿を見せた時もどうされましたか?

 私が何も言わずとも礼をし、各々(おのおの)自己紹介をされたでしょう…

 

 (ぞく)を倒し、魔獣を退治しても(ほこ)ることなく謙虚(けんきょ)に振る舞い、まだわずかしか言葉を交わしていない者にも礼を()くす…

 

 それを見ただけでも皆さんが元の世界で礼節(れいせつ)を重んじ、人徳を身につけるような教えを受けてきたのがよく分かります。

 それも皆さんお一人お一人全員が、そうした礼儀と謙虚さを身についておられる。

 これはこの世界では特別なことなのです…」

 

ナオ「そんなこと全然…」

ソラ「言われたことない…」

 

ジミー「儂が養子にお迎えしようと申し出たのは皆さんにとっては驚くようなことかもしれませんが、それがしにとっては何も不思議なことはありません。

 皆さんが特別な能力を持っている、特別な人であることよりも、むしろそうした人となりが優れていることの方が大事なのです…

 

 皆さんを我が屋敷に養子としてお迎えしても何の問題も起きることはない。

 いや、むしろ儂が皆さんに是非ともそれがしの養子になってもらいたいとお願いすべきなのかもしれませんな…」

 

アユミ「そんな…」

アイ「そんなことを言われるなんて…」

 

 ジミーの言う一言々々(ひとことひとこと)がアイたちにとって想像すらしたことがないようなことだった。

 

 元の世界ではただの高校生で自分たちが他の人よりも礼儀正しいとか人徳があるとか、そんなことを言われたことなどもちろんなく、ここに来ても行儀良く振る舞おうとはしたが、それは度を過ぎたものではなく当たり前だと思うことをしただけだった。

 

 アイたちはここまでの事態(じたい)変転(へんてん)と同じぐらい、ジミーからの評価にも戸惑(とまど)っていた。

 

アイ「あの~…少しだけみんなで話していいですか?」

ジミー「もちろんです…どうぞ時間は気になされずに…」

 

 みんなは部屋の(すみ)に集まり、(ひたい)を寄せて相談を始める。

 

アイ「で、どうする?」

ソラ「どうするって、他に選択肢はないんでしょ…」

モア「尾行をさせるような人の養子って…ホントに大丈夫なの?」

アカリ「モアが言うのは分かるけど…」

 

アユミ「でもそれって、悪意があってのことじゃないでしょ…」

ナオ「そうやって私たちのことを外から見ている人がいなかったら、私たちどうしようもなくなってたってことだし…」

タクミ「あのさあ…」

ソラ「ん?」

 

 タクミが女の子たちに何かを聞こうとしたので、彼女たちはみなタクミの顔を見る。

 

タクミ「もしオレたちがジミーさんの養子になったら、オレたちってどうなんの?

 ジミーさんは貴族だけどギルドで働いてて、オレたちはそのまま勇者パーティーとしてやっていいの?」

ルカ「確かに…そこはどうなるんだろう…」

 

モア「貴族の娘になるんでしょ?もう好き勝手やっていいんじゃないの?」

ソラ「綺麗(きれい)なドレス着て、美味(おい)しいもの食べさせてもらって(笑)…」

ナオ「はい?そんな贅沢(ぜいたく)するつもりなの?」

アイ「そんなわけないじゃん(笑)…」

ツグミ「(笑)…」

アユミ「でも真面目な話、どうなるんだろう?…」

 

 タクミはみんなの輪から離れ、座って待っているジミーに聞く。

 

タクミ「ジミーさん…オレ…私たちがジミーさんの養子になったら、勇者パーティーの活動ってどうなるんですか?

 ジミーさんは鑑定士(かんていし)のお仕事をされているわけだし…」

ジミー「うむ、そのことじゃが…」

 

 ジミーは椅子を座り直し、姿勢を正した。

 

ジミー「私は今日を限りにギルドの仕事を()めるつもりです。

 そして皆さんの勇者パーティーに加わり、共にクエストをやっていこうと思っています。

 

 そうすれば儂と皆さんがバラバラになることもなく、また皆さんが知りたいことにも直接答えられる機会も増えることでしょう…どうですか?」

アイ「ジミーさんが私たちのパーティーに加わるんですか?…」

 

 アイとナオはそれはマズいという表情をして顔を見合った。

 タクミもヤバいという感じでジミーから目を()らし、他のメンバーも困った様子でもじもじし出したので、ジミーは不審(ふしん)そうな顔をする。

 

ジミー「どうしました?儂が皆さんのパーティーに加わるのに何か不都合(ふつごう)でも?…」

ソラ「はあ、ちょっと…」

 

 ジミーに加わってもらって一緒にクエストをやっていくこと自体は願ったり叶ったりなのだが、タクミの能力と自分たちの関係のことを考えると、ジミーがパーティーの一員になると全てがばれてしまう。

 

 アイとアカリはタクミに説明させようと、彼の脇腹(わきばら)を突いて小声で指示する。

 

アイ「…タクミ、ほら言いなよ…」

アカリ「あんたのことでしょ…」

タクミ「いや~…そう言われても…」

 

 タクミがもじもじして何も言い出せないのを見て、ジミーはますます(まゆ)をひそめる。

 

ジミー「何か儂が加わるとマズいことがあるようですな…では別のことを考えねば…」

タクミ「い、いや、そうじゃないんです…ジミーさんに何か問題があるんじゃなくて…」

 

 タクミはしぶしぶ話し出した。

 

タクミ「あの~…オレ…私たちってそれぞれに能力があって、ある人には武術の能力、ある人には魔法っていう具合に力を(もら)ってるんですが…

 オ、オレだけがその…ちょ、ちょっと変わってて…あの、それが…」

ジミー「それが、どうされました?」

タクミ「そ、それが…」

 

 さすがにタクミもその先が言い出せず、アイやナオが小声で何度も「早く」や「ほら、さっさと…」と声をかけ、やっとタクミも切り出す。

 

タクミ「あ、あの、オレの能力ってのが…い、異性と性行為をすると、そ、その相手に経験値が付くって能力なんです…」

ジミー「???…」

 

 ジミーも最初は何のことか分からず、眉をひそめながらタクミの顔をジッと見た。

 

 女の子たちはもう顔を真っ赤にしてもじもじと下を向いてしまっている。

 タクミももう一度言うわけにもいかず、黙ってジミーの顔を見ていた。

 ジミーはしばらくの間頭の中でタクミの言葉を反芻(はんすう)していた。

 

ジミー「異性と性行為…経験値が付く…性行為…」

 

 ジミーは難しい顔をしたまま、下を向いているアイたちのことをぐるっと見回し、もう一度タクミの顔をジッと見る。

 と、何かが(ひらめ)いたような表情に変わると急に笑い出した。

 

ジミー「ハハハハハ(笑)…

 なるほど、そなたと他の皆さんが男女の関係で、そうすれば修行と同じことになってスキルを得たり、レベルアップをしたりということですな(笑)…

 えー、そなたは…」

タクミ「タクミ、タクミです…」

ジミー「タクミ殿と皆さんはもうそういう男女の関係だというわけですな…」

アイ「あ、はい…一応…」

 

 タクミも含めて全員が真っ赤な顔をして、ずっと下を向いたままでいる。

 ジミーはいかにも面白いと笑いをこらえられない。

 

ジミー「ハハハハハ(笑)…それで儂が皆さんの勇者パーティーに加わると、儂も皆さんの関係に加わらねばならぬのでしょうか?」

アイ「はい?」

ナオ「まさか⁉そんなことないです、絶対に!」

 

 ジミーの言葉に女の子たちはブルブルと首を横に振る。ジミーは微笑(ほほえ)みながらうなずいた。

 

ジミー「では、何の問題もないでしょう…

 儂は皆さんの関係についてあずかり知らぬ者ですから、儂が何も言わねば儂が加わっても勇者パーティーとしてやっていくことは可能ですな…」

アイ「はい、ジミーさんが気になされないとおっしゃるなら…」

 

 アイが()の鳴くぐらいの小さな声で答えると、ジミーは椅子から立ってアイたちにもう一度席に着くよう(うなが)す。

 みんなもまだ釈然(しゃくぜん)としないまま、椅子に座った。

 

ジミー「皆さんの、特にタクミ殿の能力については十分に承知(しょうち)しました。

 (わし)としては皆さんが大っぴらにそうした関係を他人に見せるようであれば問題ですが、まさか皆さんもそんなことはされますまい…」

タクミ「それはもちろん…」

 

ジミー「そうであれば、儂もそのことは知っているというだけにいたしましょう。

 ただし、それが表沙汰(おもてざた)になるようでしたら、それは考え直さねばなりませんが…」

 

ナオ「もちろんそんなことしません…」

ソラ「大っぴらにってそんなことするわけないし…」

アイ「そこは私たちも絶対に気づかれないようにします…」

ジミー「その言葉を信じましょう…」

 

 ジミーはそこで話を切ると、アイたち一人々々の顔をまじまじと見つめる。

 

ジミー「では、もう一度養子についてお答えを(いただ)きたいが、その前にまだ何か儂に聞きたいことがありますかな?」

 

 ジミーの問いかけにみなは首をひねっていたが、ナオが思い出したように尋ねる。

 

ナオ「あの~…さっきジミーさんは私たちに普通の勇者パーティーとして活動するんじゃないというような言い方をされましたが、ジミーさんが私たちに加わると何が違うんですか?」

 

 ジミーは深くうなずいて答える。

 

ジミー「まず、今はアイ殿がリーダーをされているが、これは私と交代していただかねばなりません。

 リーダーは全ておいてパーティーのことを決定せねばなりませんが、経験ということを考えると儂がアイ殿の指示を受けるというのはどこかで不都合(ふつごう)が起きてしまうでしょう。

 この点はアイ殿、いかがでしょうか?」

アイ「あっ、そ、それはそうですね…」

 

 アイは突然リーダーの交代を告げられ、少し困惑した表情になる。ジミーはその表情も見逃さない。

 

ジミー「リーダーの交代と言っても、皆さんのリーダーがアイ殿であることは変わりません。

 儂もアイ殿のことや皆さんのことを無視して何かを進めるようなことはありません。

 

 ただ、ご領主様とのことや貴族同士のことは儂がせねばなりませんゆえ、儂がリーダーの方が何かと都合がいいでしょう。

 お城でのことなどはいろいろと決まってからお伝えせねばならないかもしれません…」

ソラ「ジミーさんが勇者パーティーに加わってくれたら、もう何とか辺境伯(へんきょうはく)様のことは関係ないんじゃないんですか?」

 

 ジミーはソラの言葉にゆっくりと首を振った。

 

ジミー「残念ながら皆さんが儂の養子となってくださり、儂が皆さんの勇者パーティーに加わってもまだご領主様とのことは終わりではありません。

 まずは明日、儂と共に皆さんもお城へ登らねばなりません。

 アレン様からご命令があればそれは絶対なのです。」

 

アユミ「お城へ行けばどうなるんですか?」

ジミー「恐らくアレン様は儂が皆さんを養子にしたと申し上げても、皆さんが本当に美貌(びぼう)の持ち主なのかを確かめようとなされるでしょう…

 儂はそれを断固(だんこ)としてお断りするつもりじゃが…」

ソラ「ジミーさんが断れば、それで終わりでしょ…」

 

ジミー「ご領主であるアレン様が皆さんをお側にお仕えさせたり、皆さんの顔を確かめたりするようなことは、儂が断ればできません…

 しかし、恐らくアレン様は儂と皆さんのそうした行動を(こころよ)く思われないでしょう…

 なので、我々に何か無理難題(むりなんだい)を申し付けられるやもしれません…」

ルカ「そんな…」

モア「ひどーい!」

 

 ジミーはもう一度首を振って話を続けた。

 

ジミー「皆さんのお言葉を(うかが)っていると、どうやら皆さんがおられた国には貴族はおらぬようですな…それはそれで素晴らしいでしょう…

 だが、この国ではまずは国王陛下のお言葉、その次に貴族諸侯の言葉が絶対なのです。」

アカリ「でも、さっきジミーさんが貴族の地位は守られてるっておっしゃって…」

 

ジミー「確かにアレン様が儂に無理矢理家族のことを命令することはできません。

 ですが、それとご領主としてのアレン様の体面(たいめん)とはまた別のことです。

 

 儂のような末席の貴族がアレン様のご命令を断固として断るとなれば、アレン様の体面に大きな傷がつくというもの…

 アレン様が儂や皆さんにその代償(だいしょう)(はら)わせようとされるのはある意味当然でしょう…」

ソラ「当然って…」

 

アイ「アレン様が命令する無理難題ってどんなことですか?」

ジミー「そうですなあ…まあどのようなことかは分かりませんが、我々が命懸(いのちが)けでせねばならぬようなことであり、万が一にも仕損(しそん)じれば、恐らく全員が死罪ということになりましょう…」

 

 ジミーがサラッと命懸けや死罪ということを言うのに、アイたちは開いた口が(ふさ)がらない。

 

タクミ「死罪になるような無理難題って…」

ナオ「じゃあ、どうやっても私たちは危険な状況なんですか?」

ジミー「まあ、そうでしょうな…明日、城から無事に下がってきても到底安心はできますまい…」

ソラ「じゃあ、何のために私たちジミーさんの養子に…」

 

ジミー「何のために?もし何もなされずにお城へ行けば、皆さんは間違いなくアレン様のお側に仕えねばならぬ仕儀(しぎ)となりましょう。

 例えどんな無理難題を(おお)せつかっても、それでも明日皆で(そろ)ってお城から下がって来られれば、まだ無事なのに変わりはないでしょう…

 

 一度皆さんのことがアレン様のお耳に入った以上、もはやこれからはずっと死地にいるのと同じなのです。

 もし此度(こたび)の無理難題を何とか終えたとしても、更に別の難題を仰せつけられるに違いありません…

 

 だが、それ(ゆえ)に儂も皆さんのパーティーに加わると申しているのです。

 皆さんのお力に儂が何かしらを加えられれば、そうした死地の連続からも逃れられるやもしれません。

 だからこそ、皆さんが儂の養子になることには大きな意味があるのです。いかがでしょうか?…」

 

 アイたちはまたお互いに顔を見合わせる。

 もう話の展開が早すぎてとてもついていけない。

 

 だが一つだけはっきりしているのは、自分たちにはどうなるのか全く分からないこれからのこともジミーにははっきりと分かっているということだ。

 彼にだけはこれから何がどう起こっていくのか、明確に見えている。

 

 みんなが不安に押しつぶされそうになっている中で、目の前に座っているジミーは泰然自若(たいぜんじじゃく)とした様子でアイたちのことを見ている。

 その姿は彼女たちにとって何とも言えない心強さを感じさせた。

 

 アイはもう一度メンバー全員に目配せをしてそれぞれの気持ちを確かめる。

 全員がアイからの視線に黙ってうなずくのを見て、彼女はジミーの顔をしっかりと見て言った。

 

アイ「分かりました…私たち全員、これから養子としてジミーさんのお世話になろうと思います。」

ジミー「それは皆さん全員の意思ですかな?」

アイ「はい。」

 

 アイがうなずくと、他のみんなも同じようにジミーを見てうなずく。

 ジミーもそれを見て笑顔で大きくうなずいた。

 

ジミー「分かりました。では本日これより、それがしと皆さんは親子としての(ちぎ)りを結び、互いに助け合って参りましょう。」

 

 ジミーがそう言うとアイは椅子から立ち上がる。

 それを見て他のみんなも立ち上がるとアイはジミーに深々と頭を下げ、みんなも同じように彼に頭を下げた。

 

 ジミーはその姿を見て、満足そうに笑顔で何度もうなずいた。

 

 

 

 

 




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