※この作品はR-18です。

ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~   作:イジー・ムラシロ

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106 再び冒険者ギルドへ…

 ジミーに指示され、アイたちは再びマントを羽織(はお)ってフードを被(かぶ)り、並んで部屋を出た。

 

 部屋のすぐ外にはナデアが2人の娘ともう1人、5歳ぐらいの男の子と一緒にいる。

 男の子はどこで拾(ひろ)ってきたのか、長い木の棒を剣のように背中に背負っていた。

 

ジミー「長い時間、邪魔をしたな。」

ナデア「いえいえ、こちらこそたくさんの方に料理を褒(ほ)めてもらいましたから…」

 

アユミ「ごちそうさまでした。クリームスープ、本当に美味(おい)しかったです。」

ソラ「ホントに美味しかった…」

タクミ「スープ、たくさんいただきました、ホント美味(うま)かったっす。」

 

ナオ「できれば、また来たいです。」

ナデア「そう言ってもらえて、嬉(うれ)しいです。是非、また来てくださいね。」

ジミー「では、今日はこれでな…」

アイ「ごちそうさまでした。」

全員「ごちそうさまでした。」

 

 ジミーはナデアに何度もうなずき、アイたちはみな頭を下げて店を出た。

 ジミーはそのまま何も言わずに坂を上り始め、みんなは黙って彼について行った。

 

 すると坂を上り切った先、朝にジミーがクロネコを待っていた空き地に朝の時より一回り以上大きな馬車が止まっていて、傍にカイが立っていた。

 彼はジミーの姿を見つけると、深々と頭を下げる。

 

カイ「ご主人様、お帰りなさいませ。」

ジミー「うむ、手筈(てはず)通(どお)りにしてくれたようだな。

 こちらにいるのが今日から我が屋敷に養子となってやって来る者たちじゃ。」

 

 ジミーはそうカイに言うと、振り返って今度はアイたちに彼を紹介する。

 

ジミー「この者は儂(わし)の屋敷の執事(しつじ)でカイという者じゃ。

 もう1人のダイというものといっしょにこれからお前たちの世話をしてくれよう。」

 

カイ「皆様、ようこそブロッケン男爵閣下(かっか)の御養子となられました。

 わたくしはご紹介頂(いただ)きました執事のカイと申します。これからは何なりとお申し付けくださいませ。」

アイ「こちらこそよろしくお願いします。リーダーのアイです。

 これから本当にお世話になります。」

 

 アイが自己紹介をしてカイに頭を下げると、みんなも同じように頭を下げた。

 

ジミー「では、各々(おのおの)の自己紹介はまた後じゃ。とにかくまず馬車に乗り込もう。」

全員「はい。」

カイ「どうぞ、そのままお入りください。」

 

 アイたちはカイに促(うなが)されるまま、馬車に乗り込んだ。

 

 馬車の内部は装飾(そうしょく)もほとんどなく、みんなが想像していたほど豪華(ごうか)というわけではなかった。 

 しかし、それでもここまで乗ってきた駅馬車とは違ってちゃんと座席があり、座面にも背もたれにも何かの動物の毛皮が張られていて、その快適(かいてき)さは比べようもなかった。

 

 ジミーが最後に乗り込む前にカイに聞く。

 

ジミー「宿屋のことはうまくいったか?」

カイ「はい、女将(おかみ)に皆様が御屋敷に参(まい)られるので戻らないとのことを説明し、宿代もそのまま取っておいてもらうようにと申しました。」

 

ジミー「お城からの書状はどうじゃ?」

カイ「そちらも届いておりましたので、わたくしが預(あず)かって参りました。」

 

 カイはそう言うと、自分のストレージから書状を取り出す。ジミーはうなずいてその書状を受け取った。

 

ジミー「ようしてくれた。では、このまま冒険者ギルドへ向かってくれ。」

カイ「承知(しょうち)いたしました。」

 

 ジミーの後にカイが乗り込むと、馬車はゆっくりと動き出した。

 

 馬車の中は左右に向き合うように設(しつら)えられた座席があり、更に一番奥が幅の狭(せま)い前向きの座席になっている。

 両側には引戸の窓があるようだが、今は固く閉じられている。

 

 女の子たちは奥から詰めるように席に分かれ、タクミが流れで最後に乗ってきたカイとジミーに並んで小さくなって座った。

 馬車の中には木製の車輪の軋(きし)む音や馬の足音が響いてくるが、ジミーは声を落として話す。

 

ジミー「まず先に言ったように冒険者ギルドへ行き、儂とアイだけがギルドの中へ参(まい)る。

 お前たちがこの馬車で儂の屋敷へ行くのは秘密なので、時間が掛かるだろうが決して声を立ててはならん、よいな。

 

 アイは建物の中でも今のようにフードを深く被って絶対に顔を見せぬようにな。

 ギルドでは何かしら騒がれるようなこともあるやも知れぬが、そんな時でも顔を出してはならぬ。」

アイ「わかりました…」

 

ジミー「それと、儂はまだアイとタクミ以外は十分に顔と名前を覚えておらぬ。

 他の者には悪いが、しばらくの間は名前を尋ねると思うがどうか機嫌(きげん)を悪くせんようにな。できるだけ早く覚えるゆえ…」

ナオ「わかりました。私たちも自分で名乗るようにしますので…」

ジミー「すまんな…」

 

 ジミーが話終わると、しばらくの間誰も何も言わなかった。

 やがて馬車が止まると、まずカイが外に出て辺りを確かめる。

 カイが顔を出してうなずくとジミーもうなずき、みんなの方を見た。

 

ジミー「ではアイ、ギルドへ行くからな。他の者も気づかれぬよう十分に気をつけよ、いいな。」

アイ「じゃあみんな、行ってくるね…」

アカリ「気をつけて…」

タクミ「気をつけてください。」

 

 ジミーが馬車を出て、アイもマントを羽織ってフードを真深(まぶか)く被って降りると、ジミーはもう一度馬車の中のみんなに笑顔でうなずいてドアを閉めた。

 アイは辺りを見渡すが、そこがどこなのか、皆目(かいもく)見当がつかない。

 

アイ「ジミーさん…」

ジミー「馬車が大きいゆえ、かなり離れた場所に止めたのじゃ。少し急ぐから遅れぬようにな…」

 

 ジミーはそう言うと大股(おおまた)で歩き出す。

 ジミーは少し速足(はやあし)で歩いているぐらいのつもりかもしれないが、身体も大きく脚も長いジミーにアイはついていくのが精一杯(せいいっぱい)だ。

 

 ジミーの言う通り、馬車は大分離れたところに止めたのだろう、最初はそれほど人通りが無かったのが、ギルドに近づくにつれてどんどん人の数が増えていく。

 それでも大柄(おおがら)なジミーを見失うようなことはないが、アイは人波に飲まれないように少し小走りで一生懸命に彼の跡を追った。

 

 やがてギルドの傍までやって来ると、ジミーは一度足を止めてアイが追いつくのを待った。

 アイが傍に来ると、彼は小声で耳打ちする。

 

ジミー「中へ入ると、すぐに3階まで行くからな。3階には所長がいるはずなので、儂が今日で辞めることをまずは彼に伝えねばならん。」

 

 アイがうなずくと、ジミーはすぐにギルドの入り口へ向かった。

 アイも遅れないようについていくと、ジミーは入ってすぐに階段を上っていった。

 

 正午(ひる)を過ぎて建物の中は人が多くなってきていた。

 階段を上る間にも、ジミーは何人も知り合いとすれ違って声をかけられるが、彼は挨拶(あいさつ)もそこそこに3階へと上っていく。

 アイも居心地の悪さを感じながらもその後ろに従った。

 

 3階に着くと、ジミーはそのまま廊下を奥まで歩いていく。

 相変わらず声をかけてくる人はいるが、ジミーはほとんど簡単な挨拶だけで一番奥の部屋へと向かう。

 そして部屋の前まで来ると、そのままドアをノックした。

 

「どうぞ…」

 

 ドアの向こうから返事が聞こえると、ジミーは何も言わずにドアを開けて中に入った。アイもすぐ後に続く。

 部屋に入ると、小太りで口髭(くちひげ)を生(は)やした男が机の前の椅子から立ち上がろうとしていた。

 

ジミー「いやいや、所長。突然にお邪魔して申し訳ない。仕事の邪魔だったかな?」

所長「おー、ジミー様でしたか。いかがしましたか?

 御用(ごよう)とあれば、私の方から出向いたものの…」

 

 所長はギルドの他の者とは違って、ジミーに丁寧な言葉遣(づか)いで話した。

 その様子を見ながらジミーは彼に握手をしようと手を伸ばす。

 

ジミー「所長、ジミー様は無しにしましょう。そのように丁寧にされるとできる話もできなくなってしまう。」

所長「おー、そうでした。では、ジミーさん、今日はどのような御用でお越しになれたので…」

 

 所長は最初笑顔でジミーと握手をしていたが、その後ろにフードを被ったアイがいるのを見て、やや怪訝(けげん)な表情に変わった。

 それでも彼はジミーに椅子を勧(すす)めようとするが、ジミーは手振りでそれを断る。

 

ジミー「うむ…実は少々言いにくいのじゃが…」

所長「ジミーさん、どのようなことでもおっしゃってください。

 これまで我がギルドはジミーさんにさんざん世話になってきましたから…」

 

ジミー「それがな……実は突然で申し訳ないのじゃが、儂は今日でこのギルドでの仕事を辞(や)めようと思うのじゃ…」

所長「ええっ⁉今、何とおっしゃられたのか?ここを辞めると?

 一体何があったのですか?…」

 

 所長が驚きのあまり大声を出したのでジミーは渋(しぶ)い表情をするが、それでもゆっくりと話を続けた。

 

ジミー「実は、もう所長もお気づきと思うが、そこにいる者は儂が若い時に世話になった人の縁者(えんじゃ)でな…

 いつかその恩人にかつての御礼をしようと消息(しょうそく)を探っておったのじゃが、偶然このギルドに手紙を携(たずさ)えてやって来たのじゃ…」

アイ「ジ、ジミーさん?…」

 

 ジミーが所長に向かって何の打ち合わせもしていない話を始めたのでアイは焦(あせ)る。

 しかし、アイの声を聞いて振り返ったジミーは「任(まか)せておけ」というふうに笑顔でアイにウインクをした。

 アイはそれを見て何も言えなくなる。

 

ジミー「実はその縁者というのがこの者1人だけでなく、もう何人かおってのう…

 よく話を聞くとその恩人は既に亡くなられていて、他の親類縁者ももうおらぬというのじゃ。

 

 それでこの者たちが何とか勇者パーティーとしてやっていこうというので、儂はかつての恩返しではないが、この者たちを養子に迎(むか)えて彼らの後見人になり、彼らと共にまた勇者パーティーの一員としてやっていくことにしたのじゃ。」

所長「そのようなことが…」

 

 所長はジミーの話を聞いて、ジミーとフードを被ったままのアイを何度も交互に見る。

 ジミーは首を横に振ってなおも話を続けた。

 

ジミー「本当ならこのように大急ぎでする話ではないのだが、何分突然のことでな…

 所長にもギルドの皆にも申し訳ないのだが、今日で鑑定士(かんていし)の仕事を辞(じ)してこの後すぐに勇者パーティーに加わる手続きがしたくてな…」

 

所長「では、ミドやキリのような他の鑑定士たちもこの話は知らないのですか?」

ジミー「そうなのじゃ…彼らにも申し訳ない気持ちで一杯なのだが、今回のことは本当に全てが突然分かったことなのじゃ…すまん…」

 

 所長よりずっと身体の大きなジミーがいかにも申し訳なさそうに背中を丸めて頭を下げようとするので、所長の方が慌(あわ)てる。

 

所長「ジミー様、そのようなことはせんでください!

 突然にお辞めになられるというのは確かに驚きましたが、お話を伺(うかが)っていると仕方ありません。」

ジミー「そうか…これまで皆には世話になったのに、このように前触れもなく辞めると言って本当に申し訳ない…」

 

所長「いえいえ、頭を下げねばならぬのは我々です。

 ジミー様には私を始め、このギルドの者全員が大変お世話になりました。

 

 ジミー様がおられなくなるのは我々にとって大変厳しいことですが、今まで多くのことをしていただきましたので、それを思えば無理にお引止めするわけにはいきません…

 分かりました、本日限りでジミー様がお辞めになるのを了承(りょうしょう)いたしましょう。」

 

 所長の言葉を聞くと、ジミーはもう一度彼に近づいてその手を強く握った。

 

ジミー「そう言ってもらえるとありがたい。

 本当に所長には世話になった。儂は再び勇者パーティーに加わるので、またここに来る機会もあろう…

 その時には必ず所長にも挨拶をしよう…」

 

所長「礼を言うのは我々です。勇者パーティーとして、などとおっしゃらずにお時間があればいつでもお越しください。

 ジミー様なら我々は皆、何時(いつ)でも大歓迎ですから。」

ジミー「そうか…では、お言葉に甘えてまたお邪魔しよう。」

 

 ジミーと所長は固く握手を交わすと、軽くハグをしてからジミーは部屋を出ようとする。

 所長は急いで自分がドアを開けた。

 

ジミー「所長、本当にすまぬな…」

所長「いえ、是非またお越しください。」

 

 所長がドアを開けると、ジミーは彼に軽く会釈(えしゃく)をして部屋を出た。

 アイも軽く所長に頭を下げてその後に続いた。

 

 だが、所長の声が大きかったのだろう。ドアの外にはもうギルドの職員たちが何人か集まっていた。

 

男性事務員1「ジミーさん…今、お辞めになると聞こえたのですが?…」

女性事務員1「まさか、ウソですよね?…」

 

 所長室の前に集まった3,4人のギルドの職員たちは、ジミーから事態の真偽(しんぎ)を聞き出そうと彼に近づいてくる。

 ジミーはまた渋い顔をした。

 

ジミー「うむ…実は辞めるというのは本当のことじゃ…

 ここにいるのは儂の恩人の縁者でな、この者も含めて数人が天涯孤独(てんがいこどく)の境遇(きょうぐう)となって儂を頼(たよ)ってきたのじゃ。

 それでな、儂はこの者たちを養子に迎えてまた勇者パーティーの一員になることにしたのじゃ…」

 

女性事務員2「そんなー…」

男性事務員1「それじゃあ…」

ジミー「勇者パーティーの一員となれば、クエストにも行かねばならぬ。

 それ故、これ以上ここで働くのは難しくなってな…

 皆には事前に何も伝えられず本当に申し訳ない。」

 

 ジミーは話しながらも何とか前を塞(ふさ)ぐ人々の間を縫(ぬ)って階段の方へ向かう。

 

男性事務員2「ジミーさん…もうお越しにならないのですか?」

ジミー「いやいや、儂は勇者パーティーに加わるわけで、また度々ここにも邪魔をするだろう。

 だからな、その時にまた旧交を温めよう。

 皆、世話になったな…息災(そくさい)で仕事に励(はげ)んでくれ!」

 

 ジミーは振り返ってそう言うと、急ぎ足で階段を下りていく。アイも慌ててその後を追った。

 

アイ「ジミーさん…」

ジミー「アイ、すまんがもうしばらく話はしないでおいてくれ。声を聞かれるとマズイかもしれぬからな…」

アイ「…はい…」

 

 ジミーとアイが2階へ下りると話を聞きつけたのだろう、もう何人かの職員がジミーを待(ま)ち構(かま)えていた。

 

男性事務員3「ジミーさん!」

ジミー「おお、サジではないか!ちょうどいいところにいてくれた。

 儂は今から勇者パーティーの一員になる登録をするのだ…お前が受付をしてくれんか。」

 

サジ「では、ギルドをお辞(や)めになるというのは…」

ジミー「…まあ、とにかく頼む、さあ!」

 

 いつの間にか集まっていた数人の人々に囲(かこ)まれながら、ジミーは話しかけてきた職員のサジと肩を組んで受付へと歩き出した。

 ジミーがニコニコとしているせいもあり、誰も彼に何かを尋ねたりはしない。

 

 受付まで来ると、サジと呼ばれた職員は横のドアから中に入って受付から顔を出した。

 ジミーはアイの方へ振り返り、手を伸ばす。

 

ジミー「アイ、ギルドのカードをこちらへ…」

アイ「は、はい…」

 

 アイは急いでストレージからギルドのカードを出してジミーに渡した。

 ジミーはカードを受け取るとアイに向かってうなずき、受付へと向き直って今度はそのカードをサジに手渡した。

 

ジミー「うむ…では、このカードに登録を頼む。」

サジ「はい…」

 

 サジが受付にある白い箱にカードを乗せると、カードは白く光った。ジミーはそのカードに指先でそっと触れる。

 するとカードは一瞬さらに強く光って、すぐに消えた。

 

 サジはカードを箱から取り上げた。

 

ジミー「もう一つ、このパーティーのリーダーをこの者から儂に交代したいのだ。そのことも頼む。」

サジ「このパーティーのリーダーになられるのですか?」

ジミー「そうじゃ…よろしく頼んだ…」

 

 サジはまるでジミーが考え直すと言い出すのを待っているかのように、しばらくの間黙って彼の顔を見ていた。

 だがジミーが何も言い出さないと分かると、フッと息を吐いてもう一度カードを箱に置いた。

 カードがまた白く光ると、ジミーはすぐ傍にいるアイに言う。

 

ジミー「まず、お前が触れるのだ…」

アイ「はい…」

 

 アイがカードに触れると一瞬カードが強く光る。

 アイが手を離すと、今度はジミーが光るカードに触れる。するとまたカードは強く光り、そして消えた。

 

サジ「…これで全部済(す)みました…」

ジミー「そうか…すまんかったな…」

サジ「ジミーさん…」

 

 サジは名残(なごり)惜(お)しそうに箱から取り上げたカードをジミーに渡す。

 ジミーはカードを受け取りながら、サジに向かって強くうなずいた。

 

男性事務員4「じゃあ、やっぱり今日でギルドを…」

 

 ジミーが受付でカードのやり取りをするのを見ていた人々は、その意味を悟(さと)ってまたジミーの周りに集まってきた。

 彼ら彼女らの表情にはジミーが考え直すのを懇願(こんがん)するようなものが浮かんでいた。

 ジミーは困惑(こんわく)しながら、手振りで落ち着くようにと指示をする。

 

ジミー「皆、ちょっと落ち着いてくれ…

 確かにみなが言う通り、儂は今日でここを去ることにした。

 ここにおる儂の恩人の縁者を養子とし、この者とそれ以外にもう数人と共に勇者パーティーとして活動せねばならなくなったのじゃ…

 みんなにはもっと前に知らせることが出来ればよかったのじゃが、本当に昨日今日、それが決まってな…」

 

女性事務員3「じゃあ、もうジミーさんにはお会いできないんですか?」

ジミー「まあ、今も見ていたように儂は勇者パーティーに加わったので、またここにも来ることがあるじゃろう。

 だから、今日ですっかりお別れというわけではない…

 だからな、そのような淋(さび)しい顔はせんとってくれ、頼むからな…」

女性事務員4「ううう…」

 

 だが、女性はもちろん男性の何人かもジミーさんがギルドを去ると聞いて涙を流していた。

 それでもジミーは淋しいそうな顔はせずにまた言う。

 

ジミー「皆には本当に世話になった。

 儂は間違って貴族のようなものになったが、ここは居心地が良く、皆に会うのが毎日楽しかった。また、ここにも顔を出そう。

 だからな、しばしのお別れじゃ…皆、息災でいてくれ…」

全員「ジミーさん…」

 

 ジミーは泣きついてくる何人かの女性の頭や肩を軽く撫(な)でると、笑顔でまた階段の方へ歩き出した。

 何人かが握手を求めても、ジミーは軽く手を握っただけですぐに1階へと下り始めた。

 

 アイはすぐ後についてジミーに聞く。

 

アイ「これで終わりですか?…」

ジミー「いや、交換所(こうかんじょ)に立ち寄り、一昨日(おととい)鑑定(かんてい)して貰(もら)ったものの代金を受け取らねばな…」

 

 ジミーは階段を下りながら少し難しい顔をした。

 その表情が示すように、1階にももう話を聞きつけた人々がたくさん集まっていた。

 

 2階、3階にはギルドの職員しかいなかったが、1階には職員や鑑定士だけでなくジミーのことを知る勇者パーティーもいるようだ。

 階段を下りたジミーとアイはあまりにも増えすぎた人々を搔(か)き分(わ)けて廊下を進む。

 

勇者1「ジミーさん、ギルドを辞めるってのはホントなんすか?」

勇者2「なんでそんなことに…」

女性事務員5「ジミーさん…」

 

 集まってきた人々を何とか抜けて交換所の受付まで来ると、受付の前の廊下にはもう6,7人ほどの男女が勢揃(せいぞろ)いしていた。

 一番前にいたキリがジミーの傍に駆(か)け寄(よ)ってくる。

 

キリ「ジミーさん‼ここを辞(や)めるって、本当ですか⁉」

 

 ジミーはキリや他の鑑定士(かんていし)たちの顔を見て、再び身振り手振りで落ち着くようにと指示するが、キリはそんなジミーのしぐさなど無視して大きな声を出す。

 

キリ「ジミーさん、どうして、どうしてここを辞めるんですか?どうして私たちに何も言ってくれなかったんですか⁉」

 

ジミー「キリ、そしてお前たち…本当にすまない…だが、黙っていたわけではないのじゃ。

 この者は儂の恩人の縁者なのだが、この者を含めて数人が天涯孤独(てんがいこどく)の身で儂を頼(たよ)ってきたのじゃ。

 

 それでな、儂は恩返しのつもりでこの者たちを儂の養子とし、この者たちの勇者パーティーの一員になることにしたのじゃ。

 それもこれも全て昨日今日分かったことゆえ、皆にも何も言えんかったのじゃ…本当に申し訳ない…」

キリ「ダメです、ダメです!ここを辞めるなんて、そんなこと絶対に……」

 

 鑑定士たちに事情を説明するジミーに、キリはすがって泣き出した。

 他の鑑定士たちもそれにつられて何人かが泣き始める。

 ジミーは何も言わずにすがりつくキリの頭をそっと撫(な)でた。

 

 すると、鑑定士たちが集まっている集団の最前列に後ろから若い男が出てきて、そのままキリの傍にいってその肩にそっと手を置いた。

 

若い男「キリ、そんなに泣いたらジミーさんのお邪魔になるだろう…さあ、私と一緒に向こうへ行こう。」

 

 若い男がそう声をかけても、キリはいやいやと首を振ってジミーから離れようとしない。

 ジミーはその男に声をかけた。

 

ジミー「おうミド、すまぬが一昨日キリが後ろにいるこの者たちの勇者パーティーの戦利品を査定(さてい)してくれているはずなのじゃが…

 その金を持ってきてもらえぬか?」

ミド「わかりました。さあキリ、一緒に来ておくれ…」

 

 ミドと呼ばれた鑑定士に促(うなが)され、キリはしぶしぶジミーから離れて受付のドアから中へ入っていった。

 すると今度は、別の女性鑑定士たちがジミーのところにやって来た。

 

女性鑑定士1「キリの言う通りです…ジミーさんがいなくなるなんて…」

女性鑑定士2「そうです。そんなこと、絶対にダメです…」

 

 他の女性たちもキリと同じようにジミーの腕や身体にすがって泣き出す。

 ジミーはその一人々々の頭や肩をやさしく撫でた。

 

ジミー「本当にすまない…だがな、儂は今度はこの者たちを儂の養子とするが、ここにいるお前たちも儂にとって我が子と同じじゃ。

 儂が愛した以上にお前たちが儂を愛してくれたのは、天涯孤独であった儂にとって至上の喜びであった…

 

 しかし、真実を言えばお前たちは儂の言うことをよく学んでくれた。儂はもうお前たちに教えることなど何もないのじゃ。

 だが居心地の良いのをいいことに、儂はようここを離れられなかった…

 だからな、これでいいのじゃ。儂がこれ以上ここにいてもお前たちに邪魔になるばかりじゃ…」

 

男性鑑定士1「そんな…ジミーさんが我々の邪魔になるなんて、そんなこと、絶対にありません‼」

全員「そうです!」

キリ「そうです!ジミーさんが邪魔になんて…」

 

 再び奥から出てきたキリが、また一際(ひときわ)大きな声を出してジミーの言葉を否定した。

 そこにいる鑑定士たちは男性も女性もみんな、泣きながらジミーの言葉に首を振る。

 

 そんな中、ミドだけは黙って何かを書いた紙と麻(あさ)の袋を持ってジミーに近づいてきた。

 ジミーはそれを見て、彼にすがっている女性鑑定士たちに身振りで少し離れるように合図する。

 するとミドがその紙と袋をジミーに渡した。

 

ジミー「ミド…そして、キリ…すまんかったな…」

ミド「キリがしっかりと査定を済ましていました。全部で金貨38枚と銀貨50枚になります。

 内訳(うちわけ)はここに書いてあります…」

ジミー「そうか、それは結構な金額になったな…では、これは確かにあの者たちに渡そう。」

 

 ジミーがそう言ってミドに軽く会釈(えしゃく)すると、ミドはうなずいて他の鑑定士たちの方へ振り返った。

 

ミド「みんな、これまでさんざんジミーさんに世話になってきたじゃないか‼

 それをジミーさんがここを去るとおっしゃっているのに困らせるようなことを言うなんて…

 

 残念だけど、いつかジミーさんもここを去る時があって、それが今日だったということなんだ。

 だから、我々はしっかりとジミーさんにお礼を言って、快(こころよ)く送り出してあげようじゃないか‼」

 

 ミドが強い口調でいうので、他の鑑定士たちはしぶしぶうなずくが、それでもみなジミーとの別れを受け入れられずに涙を流していた。

 ミドはまたジミーの方へ振り返ると、彼と固く握手をした。

 

ミド「ジミーさん…本当にこれまでありがとうございました。

 未熟な私たちに我慢強く教えていただいたおかげで、私たちも何とか鑑定士と名乗れるぐらいになれました。

 全てジミーさんのおかげです。」

 

ジミー「いやいや、ミド、それに他の者もよお我慢して学んでくれた。

 お前たちが儂に文句も言わずについてきてくれて、儂の方こそ礼を言わねばならん…」

 

 ジミーはミドと固く握手しながら彼の肩を叩くと、顔を上げて改めて鑑定士たち全員の顔を見渡した。

 

ジミー「儂はこの者たちの勇者パーティーの一員となったので、また必ずここへ来ることがあろう…だからな、その時にまた旧交を温めよう。

 お前たちはもう王都のギルドへ行っても十分に通用するだけの鑑定士となっておる。だから、胸を張って仕事を続けてくれ。

 では、みな息災(そくさい)でな‼」

 

男性鑑定士1「ジミーさん…」

女性鑑定士1「ジミーさん、行かないで下さい…」

キリ「ジミーさん‼…」

 

 ジミーは全員に挨拶(あいさつ)をして大きく手を振ったが、鑑定士たちは皆ジミーとの別れに次々と泣き出した。

 

 アイはその様子に胸を打たれていたが、また複雑な気持ちもあった。

 

 ジミーがこのギルドの鑑定士たち、そしてここで働く者全員にどれだけ愛されていたのか。

 彼らのジミーへの態度を見ているだけでその気持ちが痛いほど伝わってきて、それがそのままジミーという人物の人柄を表していた。

 

 だが、そんなジミーをまだわずか2度しか会っていない、実際には何の縁(えん)もゆかりもない自分たちがまるで奪っていくような形になっているのが、アイには何とも言えなかった。

 

 本当に自分たちのためにこんなことになって良かったのか。

 アイの胸の中に何とも言えない複雑なものがもやもやと渦巻(うずま)いていた。

 

 まだ泣いている鑑定士たちをぼんやりと見ていたアイに、ジミーが肩を軽く叩いてお金を渡した。

 アイは我に返ってうなずいてお金を受け取ると、それをストレージにしまい、彼の後についてギルドの建物を後にした。

 

 アイは先を行くジミーの背中を見て、ふと彼もギルドの人たちとの別れに泣いているのではないかと思い、少し足を速めて彼の前に出てその顔を見た。

 

 だが、追いついて見たジミーの顔は何か晴(は)れ晴(ば)れとした表情をしていて、アイは驚いて足を止めた。

 

 アイが止まったのに気づき、ジミーは振り返る。

 そして、アイが怪訝(けげん)そうな表情を浮かべているのに気づいて彼女に近づいた。

 

ジミー「アイ、よおく覚えておくのじゃ…

 この世で最も辛(つら)い別れとはな、クエストの場や戦場で仲間と死に別れることじゃ。

 

 昨日まで互いに助け合い、楽しく笑い合っていた仲間が突然に死に、それだけでなく首を失ったり、身体を真っ二つにされたり、乱戦に肉塊(にくかい)にされたりし、しかもその亡骸(なきがら)が獣(けもの)に喰(く)われたり、谷底に落ちていったり、敵に奪われたりして持ち帰ることすら叶(かな)わぬ…

 

 儂はな、これまでに何度もそんな理不尽(りふじん)な別れをしてきた。

 そのことを思えば今日の別れなど、何も悲しくない…皆の顔を見て、しっかりと言葉を交わして別れてきたのじゃ…

 儂は今、清々(すがすが)しい気持ちでいっぱいじゃ…」

 

 ジミーはそう言ってアイの顔を見ると、沁(し)みいるような笑顔を浮かべた。

 その表情を見て、アイもまた笑顔でうなずいた。

 

 

 

 

 

 




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