ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~ 作:イジー・ムラシロ
ダイ「お嬢さま、お坊ちゃま、こちらへどうぞ…」
アイたちが食堂を出てカイとダイについていくと、2人は玄関から二股に分かれて伸びる階段を通り越して、2階の廊下を奥へと進んでいった。
カイが歩きながら右手を指す。
カイ「こちらがご主人様の
ダイ「お嬢さまとお坊ちゃまのお部屋は3階になっております。」
2人がジミーの部屋を通り越して廊下を奥まで行くと、そこには上にも下にもいく階段があった。
玄関の立派な階段と比べると
アイたちも後についていくが、
おまけに
アイ「わっ、危ない!しっかり手すり持たないとダメだ…」
アカリ「ねえ、一列になってゆっくりと上ってこないとダメだよ…あと、手すりをちゃんと持ってね。」
ソラ「なに⁉これはかなりヤバいよ…」
ナオ「狭いし、急だよこの階段!」
ツグミ「キャッ!」
ルカ「ツグミ、気をつけて!ゆっくりでいいから…」
ツグミ「滑って落ちそう…怖い…」
タクミ「これは下りる時がもっと怖そう…」
それでも階段を上り切ったところをカイとダイが
カイ「さあ、こちらが皆様のお部屋になります。」
カイとダイは3階の廊下の両側の部屋を指差し、まず一番手前の部屋のドアを開けた。
アイたちは
ソラ「わー、かなり広い…」
ナオ「そうだね…」
部屋はほぼ正方形のように見え、窓は食堂と同じような引き戸らしく細く開いたところからわずかな光が入ってきている。
床は木の板だが、動物の毛皮が何枚も
アイたちの感覚だと3,4人で使えるぐらいの広さがあった。
モア「ねえ、ベッドだよ、ベッド!」
タクミ「うわっ、マジでベッドだ!」
部屋の奥には大きなベッドが
それを見つけたモアは興奮して室内に飛び込んでいく。みんなもこの世界に来て初めて見るベッドに目を丸くした。
モアが走ってベッドに飛び乗ろうとするのを、アカリが寸前のところで捕まえる。
モア「よーしっ!…って、誰?離してよー…」
アカリ「モア、ダメだよ…はしゃぎすぎだって…」
モア「えー?いいじゃん!」
すると、いつの間にか部屋にやって来ていたエルザが怖い顔でモアを
エルザ「お嬢さまのお名前は…えーとっ?…」
モア「……モアです……」
エルザ「…モアお嬢さま、そのように御屋敷の中ではしゃいではなりません。
先ほども申し上げたように、今日からモア様は貴族の
モア「……はい……」
いきなりしかられたモアは顔を
だが、エルザは
他のみんなはベッドを
タクミ「デ、デカいし、天井が付いてる…」
ナオ「天井じゃなくて、天蓋ね。部屋の天井が高いから、
ルカ「このカーテンってレース?いや、麻布みたいだけど…」
ツグミ「…ちょっと上等過ぎないかな…」
アイ「あの~…ちょっとベッドを触ってもいいですか?」
エルザ「もちろんでございます。」
ベッドはキングサイズは優にありそうで、2人でも3人でも一緒に寝られそうなほど広い。
そしてそこには真っ白なシーツに
みんなエルザの目を気にしながらマットレスにも掛け布団にも触ってみるが、それは両方ともこの世界では見たことがないぐらいフカフカしていた。
ソラ「夢じゃないよ…これ、ちゃんとしたベッドだ…」
ツグミ「ホントだ…フカフカだよ…」
アイ「何が入ってんだろう?…」
すると、ダイがアイの言葉を聞き逃さずに答える。
ダイ「敷かれているマットレスには
ナオ「羊毛に羽毛って…」
アユミ「
アカリ「マジで貴族…」
想像以上の
昨日まで板の間に毛布を敷いて寝るのが普通になっていたことを思うと、羊毛や羽毛のベッドの存在は想像を
朝からの変化のあまりの速さに誰も思考が追いついてこなかった。
ベッドを見てポカンとしているアイたちにカイが言う。
カイ「申し訳ございませんが、お嬢さま方にはお一人ずつ使っていただくだけの部屋がございません。
お客様用のお部屋がこの部屋と合わせて4つございますので、そちらをそれぞれお二方でお使い下さい。
タクミ様は
アイ「…は、はい…」
部屋を見回すと2人でも大きすぎるぐらいの広さなので、アイはちょっと
するとまた、エルザが
エルザ「アイ様、返事ははっきりとおっしゃってください。」
エルザに言われて、アイは我に返ってもう一度返事をした。
アイ「はい、わかりました。部屋を案内していただいてから、みんなで部屋割りを決めます。」
アイの答えにエルザは黙って深くうなずいた。カイも同じようにうなずく。
カイ「では、そのようにお願いいたします。他にお部屋のことで気になることはございませんか?」
そう言われて、アイたちは部屋の中をキョロキョロと見渡す。すると、ベッドの横の壁から長いロープが
そのロープは天井を伝って壁の上の方の穴の中へと続いている。
ソラが何も考えずにそのロープを引っ張ろうとしたので、ダイが
ダイ「お嬢さま、そのロープは女中部屋に続いておりまして、引っ張ると女中部屋で
ソラ「へぇー…」
ルカ「そうか、電話もないものね…」
ルカが
ルカはそれに気付いて慌てて口を押えたが、幸いにもカイやダイには聞かれなかった。
ナオは何もなかったようにダイに尋ねる。
ナオ「結構すごい仕組みですね…」
すると、ダイが答える前にエルザが話し始めた。
エルザ「この仕掛けは旦那様がこの御屋敷にやって来られた際にわざわざ屋敷中に
旦那様がおっしゃるには、西方の国にいらっしゃった時にそこの御屋敷でご覧になられたそうです。
我々に御用がございましたら、こちらの
アカリ「どの部屋から呼んだのかも分かるんですか?」
エルザ「それも分かるようになっております。」
ツグミ「へぇー…」
タクミ「アナログだけどスゴい…」
ルカ「便利な仕掛けだね…」
エルザ「さようでございます。旦那様のおかけで女中たちも
エルザはこの部屋に来て初めてニコリとした。
冒険者ギルドで初めて会った時の落ち着いた
兵舎で聞いた今の国王を助けたという武人としてのエピソード。
午前中に自分たちには想像もつかない状況を的確に先を呼んでいった分析力。
そして今、屋敷の人々のためにこの国にはない技術を持ち込む先進性。
まだわずかしか話もできず、行動もそれほど共にしていないにも関わらず、行く先々でジミーという人物の様々な顔を知らされてタクミやアイたちは本当に顔を見合わせるしかなかった。
カイ「他の部屋もご覧ください。」
カイの言葉に
どの部屋も基本的には最初に見た部屋と同じような広さで、同じくベッドや机などが
ダイ「タクミ様のお部屋だけは向こうになりますので、そちらにも参りましょう。」
女の子たちが使う部屋は3階の奥に二部屋ずつ向かい合わせになっているが、タクミが使うという部屋は廊下のずっと先だと言う。
みんながぞろぞろとカイとダイについていくと、1,2階のちょうど階段がある右手の場所が広い部屋になっているようだ。
ダイが右手を指しながら説明する。
ダイ「こちらもご主人様の書斎と書庫になっております。ご主人様はよくこちらで調べ物などをされておられます。」
ナオ「ジ…御父上はかなり多くの本をお持ちなのですね…」
ナオが2階にも書庫があったのを思い出してダイに尋ねる。
ダイ「ご主人様は元々王都におられた時に多くの書籍をお求めになられ、それらをこのリラの街へ移られた際に運ばれたとのことです。
このリラの街では
アイ「じゃあ、御父上は魔法についての本もお持ちなんですか?」
アイがちょっと勢いよくダイに聞くが、ダイもカイも首を振った。
カイ「我々はそれほど文字に明るくないのです。
簡単な言葉や数字ぐらいは分かりますが、ご主人様がどのような御本をお持ちなのかは私たちには分かりかねます…」
カイもダイも申し訳なさそうな表情をするので、アイは慌てて言う。
アイ「すいません。失礼なことを聞いてしまって…」
カイ「いえ…我々はお互いのことをまだ十分に存じておりませんので、これから私たちは皆様のことを、皆様は我々のことを知っていけばよいと思います。
我々は気にしておりませんので、どうかお嬢さまもお気になさらないでください。」
アイ「ごめんなさい…」
アイがうなだれながら小声で
アイは申し訳なさそうな顔をアカリにするが、アカリは軽くアイの肩に手を
ダイ「こちらがタクミ様のお部屋でございます。そして、その正面にあるお部屋は
ジミーの書庫と言われた部屋のすぐ奥にタクミの部屋があり、廊下を挟んだ正面がダイの言う遊戯室だった。
タクミが使う部屋にも机やベッドがあり、広さも女の子たちの部屋とほぼ変わらない。
対して遊戯室はみんなの部屋の二部屋分かそれよりも広そうで、大きめのテーブルと人数分の椅子に何枚もの動物の皮や毛布、それに長椅子やいくつものクッションも置かれていて「遊戯室」というよりもここで沢山の人がくつろぐための部屋のようだった。
カイ「こちらの部屋では、以前はお客様が大勢でお越しになられた際にここでお飲み物などを飲まれながらお話をされたり、テーブルの上のものでお楽しみになられたりなされました。
ご主人様からは皆様が集まってお話される場所が
アユミ「すいません、何から何まで気にしていただいて…」
アユミやナオが見る限り誰の部屋でも十分に全員が集まって話が出来そうなのだが、そんなことまで気を
だが、カイやダイ、エルザは至って普通のこととして話を続けた。
カイ「こちらのテーブルには時間をつぶせるような遊具を用意しております。遊び方などがお分かりにならなければ我々にお尋ね下さい。」
みんなでテーブルの上を見てみると、そこには皿に乗った3個のサイコロ、トランプのようなカード、チェスやチェッカーに似たようなボードゲームの他に何なのかよく分からないようなボードゲームもあった。
皆、恐る恐る手にとってみる。
カイ「レアのような村の方ではこうした遊び道具は使われていないと思います。
また、機会があれば詳しく遊び方をご説明いたしますから、どうか遠慮なくおっしゃってください。」
ダイ「この辺りは冬になると外に出るのは難しいので、こうした遊び道具を使うことが増えると思います。」
ダイに言われてアユミがテーブルから顔を上げた。
アユミ「この辺りは雪が多いんですか?」
ダイ「雪で屋敷が埋もれてしまうようなことはありませんが、街中が真っ白になるぐらいには降ります。
それよりも寒さが厳しいので、外に出ていくことは少なくなるのではないでしょうか。」
ルカ「そんなに寒くなるんだ…」
今いる場所がどこなのか。今日、そして明日は何をしなければならないのか。そして、その後にはどこへ行って何をするのか。
毎日々々目先のことを必死に考えなければならなくて、みんなはずっと先のこと、例えば冬のことなどは全く考えられなかった。
しかし、本当はそんな少し先のことも考えておかなければならない。
わずかな言葉の
それでも改めて遊戯室を見渡すと、遊んだりして時間を
ソラとアカリとモアがテーブルの上のもので遊ぼうとし始めたので、エルザがまた声をかける。
エルザ「お嬢さま、次は1階に参りましょう。」
エルザがそう言うと、カイとダイも遊戯室のドアを開けた。
ソラたちも手にしていたものをテーブルに置いて、またぞろぞろと部屋から出ていく。
カイとダイはそのまま廊下の端にまでアイたちを連れていった。
カイ「ここはお手洗いになっております。また、水は
カイの言う通り、廊下の端には右隅にトイレがあり、左の隅は着替えや水浴びができそうな場所が
そして、その手前にはここにも下に下りる階段があった。
ダイ「では、一階まで下りましょう。階段は急ですのでお気を付けください。」
カイやダイ、エルザはこの階段も手すりも持たずにスタスタと下りていくが、アイたちには狭くて
だが、またエルザに怒られるのもイヤなので、みんなは声を掛け合い、助け合って階段を何とか1階まで下りていった。
アイ「何とかみんな下りてきたね…」
タクミ「ホントに危ないよ、ここ。暗いし狭いし、階段も急だし…急いでは降りれないよ…」
ルカ「ツグミちゃん、大丈夫?…」
ツグミ「…うん…」
アカリ「まだ足が震えてるよ…」
ツグミ「頭から落っこちそうだったから…」
アユミ「これって、下りる方が大変だね…」
モア「これを毎日って…ヤダ…」
1階に下りてくると目の前にすぐ部屋があり、右手にも廊下が少し続いている。
ソラやナオが目の前の部屋を覗き込むとそこは
エルザ「厨房には食堂に直接続く階段がございます。ですが、もしお飲み物などが御入用でしたら、こちらから厨房にお声をかけて下さい。」
ダイ「さあ、今度は向こうまで参りましょう。」
ダイはそう言うと廊下をまた階段ホールの方へ進んでいく。
今度は階段の前を通って一階の廊下の反対側まで行く。
廊下の先は少し短い階段になっていて、そこを下りて右側にまた別の部屋がある。
ダイは黙って部屋のドアを開けた。みんなはその部屋も覗き込む。
ダイ「ここは浴室になっております。必要であればおっしゃっていただくとお湯の方をご準備致します。」
ダイが言う通り、ドアを入ってすぐは着替えや洗い場でその向こうについこの間見たのと同じような木製の浴槽があった。
ただし、広さは多くても4人入るのがやっとなぐらいに見える。
それでもお風呂があると分かって、みんなは内心ホッとしていた。
よく見ると浴槽から湯気が少しずつ上がってきているように見えて、アカリがアイの脇をつつく。
他のみんなも湯気が上がっているのに気付いたのを見たエルザが言う。
エルザ「
廊下は浴室の前を横切ってそのまま外へ続いていて、外の廊下には屋根がずっと設えられている。
その少し先には離れらしき建物が見えた。アカリがその場所を指差す。
アカリ「外には離れがあるんですか?」
カイ「あちらの建物は小さいですが
アイ「はい、是非お願いします。」
練武場と聞いてアイとアカリはすっかり興奮していたが、他のみんなは少し疲れてきたのか、それぞれが別々に話をし出した。
それを見て、エルザが
エルザ「う、うん…執事たちが案内をすると申しておりますよ。それを口々にお話などされて…
余計なおしゃべりなどしてはなりません。さあ、静かに2人について参りましょう。」
エルザにまたしかられてモアは
カイとダイに
床は一面板張りだが、よく使われているのか表面がツルツルになっているところもあった。
ダイがそのまま奥の大きなドアを開くと、そこにすぐ様々な武器や木剣や木槍、練武用らしい道具が並べられていた。
アイとアカリは目をキラキラさせて並んでいる武器へと引き寄せられる。
他の女の子たちはある子は興味津々に、ある子はちょっとこわごわ置かれているものを触ってみた。
ダイ「これらの武器や道具はご主人様が
それ以外の普段お使いになられない物はこの裏にある武器庫にしまっています。
皆様もここで鍛錬をなされたい時はどうぞご自由にお使いください。
ただし、このように武器がございますので、この練武場を使われる際には私かカイに必ずお知らせください。
何か事故があるといけませんので、私かカイが必ずお側に参りますので。」
アイ「自由に使っていいんですか?」
ダイ「はい、ご主人様からはそのように伺っております。」
ツグミ「魔法の練習もしていいんですか?」
練武場の雰囲気から武術の練習をする場所のように見えるので、ツグミが思わず尋ねる。
が、それを聞いてナオが慌ててツグミの
ツグミはハッと気づいて両手で自分の口を
だが、アイの方を向いていたダイにはツグミの質問がはっきり聞こえていなかったのだろう。ダイはツグミの顔を見て尋ねた。
ダイ「お嬢さま、何かご質問はございませんか?」
ツグミ「いえ…大丈夫です…」
ナオもツグミの腕をギュッと
ダイもカイも武器を見ようとするアイやアカリの傍へ行ったので、ナオが小声でツグミに言う。
ナオ「魔法のことはまだ言わない方がいいよ…」
ツグミ「ゴメン…私、いつも何も考えないで
アユミ「いいよ、気にしないで…」
傍に来たアユミも
その間にもアイとアカリはもう勝手に木剣を手に取り、それを振りながら部屋の様子や足元の感じを確かめようとしていた。
だが他のみんなは見たこともないような武器にこわごわ触れてみるぐらいで、手持ち
エルザ「皆様、そろそろ3階に戻ってお部屋を決めねばなりません。
それが済めば、お嬢さま方から順番に身体をお洗い下さい。
ご主人様がお帰りになられれば、
アユミ「浴室を使うのは一人ずつですか?」
アユミの問いにエルザは首を振る。
エルザ「お一人様ずつお使いになられると時間がかかり過ぎてしまいます。今日はまだ早うございますので、お二方ずつお入りください。
入浴は我々女中がお手伝いを
モア「お風呂ぐらい一人で入れます…」
モアがそう言ってもエルザは
エルザ「入浴をお手伝いするのも我々の仕事ですので、どうかお気になさらぬよう…」
入浴を女中たちが手伝うと言われてアイたちはまた互いの顔を見合わせるが、アカリがすぐに声をかけた。
アカリ「じゃあ、とりあえず上に戻って部屋を決めちゃおう。それからお風呂の順番もね。」
アイ「分かった…じゃ、とにかくここは上の部屋に戻ろう。」
アイとアカリが指示をして、みんなはまた揃って練武場を後にした。
だが、ナオとアユミとタクミは練武場から屋敷に繋がる渡り廊下を通りながら屋敷の外観を見て、改めて自分たちがやって来た場所がどんなところなのかを確かめていた。
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