※この作品はR-18です。

ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~   作:イジー・ムラシロ

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109 レア出身の商人

 ジミーは明日登城(とじょう)する(むね)を記したダイグ(きょう)(あて)の手紙を書き終わると、書斎(しょさい)を出て屋敷のドアのところでハドルにそれを渡した。

 

 彼は着替(きが)えていなかったので、午前中にアイたちと会った時と同じ(あさ)のシャツとズボンにチョッキを着ただけの簡素な服装で出ていく。

 ジミーはいつも出発の(さい)には執事(しつじ)たちや女中たちを集めて見送るようなことをさせなかったので、今もハドルだけが彼の乗った馬車を見送った。

 

 馬車に乗り込むと、ジミーはすぐに御者(ぎょしゃ)のホーグに行き先を告げた。

 

ジミー「サウル地区のバグの店へ行ってくれ。」

 

 ホーグは黙って馬車を出発させる。ジミーは馬車が屋敷を出る時に小窓から辺りに人がいないか慎重に見渡した。

 

 しばらくすると、ジミーの馬車はバグの店から少し離れた場所に止まった。

 ジミーは馬車から降りると、御者台から降りてきたホーグにここでしばらく待っているように指示をして通りの方へ向かった。

 

 ジミーが傍まで行くと、バグの店の辺りには多くの人が集まっていた。

 バグの店もドムニのオットの店と同じように隣り合う入り口の(せま)い家を使って店が広くなるようにしているのだが、オットの店のように2棟(ふたむね)ではなく、隣り合う3棟の家を使っているようだ。

 

 バグは武器商人と言われているが、店の前には兵士や勇者パーティーの一員らしき男たちだけでなく、食料品や(たきぎ)のような日用品を求める女性の姿も多い。

 ジミーは行き交う人の間を()って一番奥の家へ向かい、閉まっているドアをノックした。

 

 ジミーが待っていると、しばらくして女性がドアを開けた。

 女性は小柄(こがら)で初老と呼んでいい年齢に見えるが、どことなく品の良さが感じられる。彼女はジミーの顔を見るとすぐに軽く頭を下げた。

 

初老の女性「ジミー様、ようこそお()しくださいました。どうぞお入りくださいませ。」

ジミー「すまんな、突然押しかけて。バグは忙しいかな?」

初老の女性「すぐに主人を呼びに行かせましょう。どうぞこちらへ…」

 

 家の中に入ると、真っ暗な中にズラッと(たな)が並んでいるのが分かる。

 女性が足元に置いていた燭台(しょくだい)を持ち上げると棚に並んだ商品が姿を現した。

 

 どうやらこちらの家は倉庫にしているのだろう。棚には武器や武具、工具や農具、食器や料理道具などが所狭(ところせま)しと置かれている。

 ジミーは女性の案内で家の一番奥まで進むと彼女について奥にある階段を上った。

 

 家の2階も商品を置く倉庫のようになっていたが、3階からは整然(せいぜん)と片付けられていてここからが生活のスペースなのが分かる。

 ジミーは案内されて最上階の4階まで上がり、その一番向こう側の通りに面した部屋に通された。

 部屋には無駄な調度品(ちょうどひん)装飾品(そうしょくひん)などは全くなく、小さなテーブルと椅子だけが置いてあった。

 

初老の女性「何のおもてなしもできませんが、そちらにお座り下さい。主人はすぐに参りましょう。」

ジミー「(わし)のことなら気にしないでくれ。邪魔をしているのは儂の方だからな。」

 

 女性がテーブルに燭台を置いて下がろうとしたので、ジミーはそれを手で(せい)して自分で魔法の(あか)りを(とも)す。

 彼女はそれを見て、燭台を手にしたまま頭を下げて部屋から出ていった。

 

 家の中は静まり返っていて誰かがやって来るような様子もない。

 引き戸の窓は開いていてそこから店先の喧騒(けんそう)が聞こえてくるが、ジミーは板張りの壁を見つめながらしばらくの間何かをジッと考えているようだった。

 

「失礼いたします。お待たせいたしました。」

 

 突然男性の声がして、ジミーはハッと我に返って部屋のドアを見る。すると、そこにはきっちりとした身なりの、こちらも初老らしき男性が立っていた。

 ジミーは自分から立ち上がって彼に握手をしに行った。

 

ジミー「バグ、忙しいところ申し訳ない。仕事の方は大丈夫だったかな…」

バグ「お待たせし、申し訳ございません。店は他の者に(まか)せておりますので、どうかお気になさらぬように。」

 

 ジミーがバグに(すす)められてもう一度テーブルの前の椅子に座ると、バグも彼と向かい合う席に腰を下ろした。

 バグは席に着くとすぐに着ていたチョッキのポケットから何かを取り出す。

 

バグ「今朝(いただ)きましたお手紙に書かれていたことですが、こちらの手紙をお読み下さい。」

 

 バグはそう言ってポケットから出した手紙をジミーに渡す。

 

ジミー「この手紙は?」

バグ「こちらはレアの村長から私()てに着たものです。」

ジミー「レアの村長と言えば、アイたちが出てきたという…」

バグ「はい、お手紙にあった勇者パーティーの皆様のことが書かれております。どうぞお読みを…」

ジミー「では、失礼をして…」

 

 ジミーはそう言うと、渡された手紙を読み始めた。

 しばらくの間ジミーはその長い手紙をずっと読んでいたが、やがて読み終わると手紙を手にしたまままた何かを考えている。

 バグはその間何も言わずに彼の様子をジッと見ていた。

 

 やがてジミーはバグの方を向くと、不思議そうな表情を浮かべた。

 

ジミー「何とも奇遇(きぐう)なことじゃ。

 もしかしてレア出身のおぬしならば何か知っておるかと思っていたが、まさかこのような手紙が着ていたとは…」

 

 だが、バグはジミーの言葉に首を振る。

 

バグ「決して奇遇などではござりませぬ。

 アイ様とおっしゃる方を含め、その「彷徨(さまよ)い人」の皆様は魔獣のクマから村の者を救った方々。

 

 皆様がどのようにお思いかは存じ上げませんが、村の者にとってはいつまでも恩人であり、その行く末を心配するのは当然のことでしょう。

 村から私に「彷徨い人」の皆様のことをよろしく頼むと連絡があっても少しも不思議ではありません。

 

 それよりも、むしろジミー様が皆様とお会いになられただけでなく、その身を(あず)かろうとなされている方が驚きです。」

 

 ジミーはバグから視線を外すと、どこかあらぬ方を見て(ふく)(わら)いを浮かべた。

 

ジミー「…儂はニディア教の言う光翼(こうよく)や奇跡などは信じぬが、かの者たちとは何か運命のようなものは感じずにはおられぬ。

 それが良きものとなるか、それとも何か()しきものになるかは分からぬが…」

 

バグ「いやいや、ジミー様がその「彷徨い人」の皆様を御養子にお(むか)えされるようなことは決して偶然ではございますまい。

 

 そうしたことは間違いなく良き指針の先にあるものでござりましょう。

 その采配(さいはい)をするのを神と呼ぶのか運命と呼ぶのか、わたくしのような田舎者の商人には分かりかねますが…」

 

 バグは決してジミーを茶化(ちゃか)すような感じではなく、真面目な顔でそう言った。

 だが、ジミー自身は黙って首を振る。

 

ジミー「それもこれも明日の登城(とじょう)でいかなることになるのか、全てアレン様のお心次第(しだい)よ…

 厄介(やっかい)なことを申されなければよいが…」

 

 ジミーはそう言うと、バグの方へ向き直って姿勢を正した。

 

ジミー「そこでの、おぬしに(たの)みがあるのじゃが、レアの村長がおぬしに頼んだような文面でレアの村長が儂にアイたちのことを頼んだという手紙を作って欲しいのじゃ。

 

 大まかな話としては、アイたちは儂の若い頃の恩人の縁者でその恩人はレアの村の出身だったのじゃが、その恩人を始め、アイたちの親類縁者がみな亡くなり儂に後見人を頼みたいという内容じゃ。

 急な頼みで済まないが、至急(しきゅう)にその手紙を用意してほしい…」

 

バグ「承知(しょうち)いたしました。お届けは明日の早朝でよろしいでしょうか。」

ジミー「うむ、明日の午前中の間には登城をせねばならぬのでな。

 それとレアの村長に()せた筆跡(ひっせき)がよいのじゃが、そうしたことも出来るか?」

 

バグ「もちろんでございます。その手紙はアレン様もご(らん)になられるので?」

ジミー「そうじゃ。他の者は儂の言葉だけでも信じてくれようが、アレン様はそうはいくまい。

 何か形のあるものが必要なのじゃ。」

バグ「分かりました。すぐに用意をさせましょう。

 明日の早朝には必ず御屋敷にお届けいたします。」

 

 バグがそう言うと、ジミーは座ったまま丁寧に頭を下げる。そして顔を上げるとフッと息を一つ()いた。

 

ジミー「じゃが、アイたちはレアの村で魔獣(まじゅう)のクマを(たお)したというようなことは何も言わなんだが…」

バグ「「彷徨(さまよ)い人」の皆様も急なことで何をお話すべきか、分からなかったのでしょう…」

 

 バグの言葉にジミーは「ククク」と笑う。

 

ジミー「確かに、アイたちとは一昨日(おととい)に少しと今日の午前中に3時間ほど話しただけだからのう…」

バグ「今朝(いただ)いたジミー様のお手紙も、かなり急いでお書きになられたように見受けました…」

 

 その言葉にバグもニッコリして答えた。ジミーはもう一度手にした手紙を読み返して言う。

 

ジミー「だが、この手紙を読んで改めてあの者たちのことが少し分かった気がする。

 確かに魔獣のクマに立ち向かうなど無謀(むぼう)にも(ほど)があるが、それでも誰かを助けようという一心で戦ったのじゃろうて…

 

 そうした誰かのために戦おうという姿がレアの村の人々の心を動かし、この手紙のようにあの者たちを助けたいという形に変わっているのだろう。

 そうしたあの者たちの真摯(しんし)姿勢(しせい)がここまで様々な者たちに彼らを手助けしたいと思わせてきたのかもしれぬ…」

バグ「ジミー様のそのお一人でござりましょう(笑)…」

 

 バグが笑顔でそう言うと、ジミーは「ハハハ」と軽く笑った。

 

ジミー「(笑)…確かにその通りじゃ。あの者たちには何か手を差し伸べたくなるようなところがある。

 謙虚で真摯で、それでいて野心のようなものが微塵(みじん)も感じられぬ…

 まだこの世界のことに全く染まっていない感じじゃ…」

バグ「では、我らの世界にずっと居れば、いつかはその皆様も染まってしまうとお思いで…」

 

ジミー「…分からぬ…だが、若い者が月日を重ねて良き意味でも()しき意味でも染まってしまうようなことを何度も見てきたからな…」

バグ「ジミー様はそのように染まらぬようにその「彷徨い人」の皆様を庇護(ひご)されようと思われたのではないのですか?」

ジミー「さあな…あの者たちが染まるのか染まらぬのか、それはあの者たち次第であろう。儂に出来ることなど多くはなかろうて…」

 

 ジミーは少しの間何かを思い浮かべるように壁の方をジッと見ていたが、やがて気がついてバグの顔を見る。

 

ジミー「いや、長居をしてしまったようですまなかった。

 手紙にも簡単に書いたが、明日の午前中にはアイたちと共に登城をしてアレン様に御挨拶(ごあいさつ)をせねばならぬ。

 

 アレン様はあの者たちの顔形(かおかたち)を確かめ、もし本当に美貌(びぼう)の者ならご自分の側女(そばめ)になさろうとするだろう。

 それ(ゆえ)に儂はアレン様には決してアイたちの容姿(ようし)を見せぬつもりじゃが、それが如何(いか)なる結果になるのか、皆目(かいもく)見当(けんとう)もつかぬ。

 

 アレン様が(おっしゃ)られることの次第ではまたお前にも世話になるやもしれぬ。

 その折には無理を言うと思うが、どうか許してくれ…」

 

バグ「ジミー様からどのようなご無理を(おお)せつかっても、わたくしどもは必ずお力になります。

 どうぞ何なりとお申し付けくださいませ。」

ジミー「うむ、ではまたその折にはよろしく頼んだ。」

 

 ジミーはそう言うと、椅子から立ち上がった。

 バグも立ち上がり、自分が先に立ってジミーを案内した。その背中にジミーが言う。

 

ジミー「難しいことを言うが、手紙のことはよろしく頼む。」

バグ「承知いたしました。明日の早朝には必ずお届けいたします。」

 

 バグが先になって部屋を出て上ってきた階段のところまで行くと、そこに女中らしき若い女が待っていた。

 彼女が燭台を手に下の階を手で指すので、ジミーは今度はその女性について階段を下りようとする。

 バグがジミーに頭を下げるとジミーも深くうなずき、そのまま階段を下りていった。

 

 ジミーがその女性の案内で最初に入ってきたドアから出ると、まだバグの店先には多くの人が買い物をしようと集まっていた。

 だが、太陽は次第(しだい)(かたむ)いてきている。ジミーは早足(はやあし)で自分の馬車のところへ戻った。

 

 ホーグは馬の(くつわ)を持ってまるでジミーがバグの店に向かってからずっと同じところに居たかのように、行った時と同じような姿勢で頭を下げて自分の主人を(むか)えた。

 ホーグが馬車のドアを開けると、ジミーは笑顔でうなずいて乗り込む。

 ホーグが御者台(ぎょしゃだい)に座って準備が出来たのが分かり、ジミーは御者に声を掛けた。

 

ジミー「すまんが屋敷に戻る前にミドとキリの家へ向かってくれ。もうギルドの仕事も終わっておろうからな…」

ホーグ「承知いたしました。」

 

 ホーグが馬に(むち)を当てると、馬車はまたゆっくりと動き出した。

 

 馬車が走っている間に教会の(かね)の音が街に響いてきた。だが、初夏の街はまだまだ明るく人々が通りを行き交っている。

 ジミーは馬車の窓をわずかに開いて街の様子を見ていた。

 

 やがて馬車は人通りの少ない場所で止まった。

 ジミーは自分でドアを開けて馬車から飛び降りる。

 辺りは商店などない人家ばかりの地区のようだ。ジミーはまた馬車を待たせて近くの家へと向かった。

 

 ジミーが前に立った家は他の家と同様に間口が非常に狭かったが、どうやら2階までしかないこぢんまりとした家らしかった。ジミーはその家のドアをノックする。

 返事をしてドアを開けた男性はジミーの姿を見て固まった。それは昼にギルドで会ったミドだった。

 ジミーは言葉が出ないミドに笑顔で尋ねる。

 

ジミー「すまんな、突然やって来て…少し邪魔をしてもよいかな?」

ミド「ジミーさん…すいません、まさかいらっしゃるとは思ってなかったもので。

 どうぞ入って下さい、狭い家ですが…」

 

 ジミーが中に入ると少し入ったところに小さなテーブルと椅子があり、その椅子にはキリが両手で顔を押えた格好(かっこう)で座っていた。

 

ミド「キリ、ジミーさんが来られたよ…」

 

 ミドの言葉に顔を上げたキリは視線の先にジミーの姿を認めると、立ち上がって彼に()け寄り、また胸に顔を(うず)めて泣き始めた。

 

キリ「ジミーさん、ジミーさん、ジミーさん、ジミーさん……」

 

 ジミーの胸の中でうなされたようにキリが彼の名前を繰り返すのを見て、ジミーも少し目元を(うる)ませながら彼女の頭を()でた。

 ミドもそんな彼女を見て、少し涙を浮かべた。

 だが、ジミーは平静(へいせい)(よそお)って普通の調子でミドに話しかける。

 

ジミー「今日は少し帰りが早かったんだな?」

ミド「はい…妻がギルドでもずっとジミーさんが居られなくなったのを悲しんでいて、それを見て仲間たちが今日はもう帰るように言ってくれたので…」

ジミー「そうか、それはお前たちにもギルドの者たちにも迷惑をかけたな…」

 

 ミドはジミーの胸の中で泣くキリの肩にそっと手を置く。

 キリが泣いたまま顔を上げると、彼はうなずいてキリに座るように手で椅子を指す。

 ミドはキリがジミーから離れると、今度はジミーに別の椅子に座るように(うなが)した。

 ジミーが黙ってその椅子に座ると、キリは泣き顔のままジミーに尋ねた。

 

キリ「どうして、どうしてギルドを()めるなんて…どうしてですか?…」

 

 キリは射抜(いぬ)くような視線でジミーの顔をジッと見ていた。ミドも別の椅子に腰を下ろし、同じように彼の顔を見ている。

 ジミーは少しの間黙っていたが、言葉を選ぶようにゆっくりと話し始めた。

 

ジミー「ギルドでも言ったが、お前たち2人も他の者も、皆もう鑑定士(かんていし)としては十分な知識あり、経験も付いてきた。

 お前たち2人はもう王都でもローダニアの他のどこに行っても通用するだけの力がある。

 儂はもうお前たちに教えることなど何もないのじゃ。

 

 だがギルドに儂がおると、今でもみな儂の言うことを聞こうとしてくる。

 まだ儂の言うことが絶対に正しいと思っているようじゃな。

 せっかく一人前になっておるのにこれではいつまでたっても半人前の気持ちのままじゃ。

 

 だからな、儂もいつかはここを離れねばならぬと思っておった。

 だが皆が儂を(した)ってくれているのを見ると、なかなか言い出すのは難しかった…」

 

キリ「ジミーさん…」

ミド「ジミーさん…」

 

 ジミーは座り直すと2人の顔をしっかりと見る。

 

ジミー「お前たちはもう儂の助けなど何も()らぬ。

 だが、今度やって来た勇者パーティーの者たちにはどうしても儂の助けが必要なのじゃ。

 それに鑑定士としての知識はお前たちに全て伝えたが、それ以外の知識はまだ誰にも伝えられておらぬ…」

ミド「じゃあ、ジミーさんが勇者パーティーの生活で学ばれたことを…」

 

 ジミーはミドの言葉に深くうなずく。

 

ジミー「その通りじゃ。儂にまだ時間が残されておるのなら、儂の知っていることを出来るだけ教えてやりたいのじゃ。

 だからな、儂がギルドを去るのをどうか分かってほしい…」

 

 それでもキリはまだジミーが去る事実を受け入れられず椅子に座ったまま、また泣き出した。

 それを見てジミーは立ち上がって彼女の頭を軽く()くと、キリは彼の腰に頭をつけて泣き続けた。

 

ジミー「キリ、そんなに泣かないでくれ…

 儂はまだ死んだわけでもなく、ギルドでの仕事を辞めるだけでリラの街を去るわけでもない。

 

 ただこれまでのように毎日顔を合わすのではなくなるだけじゃ。

 それだけのことで、儂らが(つちか)ってきたものが失われるわけではなかろう…

 さあ、顔を上げてくれ…」

 

 だが、顔を上げたキリの眼にはまだ何か暗いものが(ただよ)っていた。

 

キリ「ジミーさんはもう私たちのことなど忘れて、あの勇者パーティーたちのことだけを考えるのでしょう…」

ミド「キリ…」

 

 キリの言葉を聞いてジミーは彼女の眼をしっかりと見て言う。

 

ジミー「何を言うのだ…儂がお前たちの祝言(しゅうげん)の日に何と言った?

 お前たちもギルドの皆も儂の子どもと同じじゃと申しただろうが。

 

 確かにあの勇者パーティーの者たちは儂の養子となるが、儂とお前たちとはあの者たちと同じかそれ以上に強く結ばれている。

 だからな、儂がギルドに邪魔しないならお前たちが儂の屋敷に来てくれ。

 儂はいつでも歓迎するからな…」

 

 ジミーはそう言うと、キリの腕を軽く(つか)んで立ち上がるように(うなが)す。そして彼女が立ち上がると、彼女を抱擁(ほうよう)した。

 

キリ「ジミーさん…」

ジミー「うむ、儂はいつでもお前たちの力になるからな。だから、困ったことがあればいつでも言ってきてくれ。

 また会うまで、しばしのお別れじゃ…」

 

 ミドがジミーに近づいてくると、ジミーはミドにも腕を伸ばして彼も一緒に抱擁する。

 しばらくの間2人を強く抱きしめると、やがてジミーは力を弱めて腕を離した。

 そしてミドやキリの顔を見ながらドアの方へ向かう。

 

ジミー「ではな、またすぐに会おう。それまで息災(そくさい)でな。」

ミド「ジミーさん…」

キリ「ジミーさん!」

 

 ジミーは笑顔で2人に向かってうなずくと、手を振ってドアを出ていった。

 

 ジミーはそのまま足早に自分の馬車へ戻ると、今度はホーグの横を少し難しい顔をして馬車に乗り込んだ。

 そして、馬車のドアを閉める前に「屋敷に戻ってくれ」と一言かけると、ドアを閉めて席に腰を下ろし、大きく息をついた。

 

ジミー「これで、儂に何があっても、十分な別れだろう…」

 

 ジミーがそう(つぶや)くと、馬車また静かに動き出した。

 

 

 

 

 

 




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