ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~ 作:イジー・ムラシロ
この日の午後、リラ城内のアレン・ローゼン
集まったのはローゼン辺境伯に加えて朝にもやって来た城内の守備隊隊長であるマルダ・クィーズ
オーウェン
幾つかの
アクレス・ダイグ子爵「今日我が守備隊に伝えられた情報によりますと、セルジの村に出た
アレン・ローゼン辺境伯「魔獣は取り逃がしたということだな。」
ダイグ子爵「さようでございます。」
ナイアル・エドアン伯爵「…う~ん…何ということだ…」
ローゼン辺境伯「そのセルジの魔獣のトラのことが最初に伝わったのはひと月ほど前だったと思うが、そのすぐ後に何組か勇者パーティーが退治に行ったのではなかったか?」
ダイグ子爵「はい、今日報告のあった勇者パーティーよりも前に二組の勇者パーティーが退治に向かったのですが、最初のパーティーは準備不足だったのか、魔獣の姿を見てすぐに怖気づいて逃げ帰り、次のパーティーはしっかりと準備はして向かったのですが人数は10人にも満たず、このパーティーも4人が魔獣のトラに喰い殺されています。
そのこともあって今回は複数のパーティーによりしっかりした準備をさせて向かわせたのですが…」
マルダ・クィーズ士爵「それでもまるで歯が立たなかったか…」
クィーズ卿はダイグ卿の話に
エドアン伯爵「もはや勇者パーティーに
ローゼン辺境伯「ナイアルの言う通りのようだな…
アクレス、グレッグ、お前たちは今一度セルジの村に人を送ってこれまでの魔獣のことを調べさせろ。
それを
ダイグ子爵、オーウェン子爵「ははー…」
クィーズ士爵「芳しい知らせはないな…」
クィーズ卿が唇を
ダイグ子爵「いえ、悪い話ばかりではありません。部下たちからの報告では盗賊の
エドアン伯爵「ほう、それは
ローゼン辺境伯「それはいつ頃だ?」
ダイグ子爵「はい、2,3日前にこの街にやって来たという勇者パーティーの一団が、この街にやって来る前にドムニの町に向かう途中で盗賊に駅馬車を襲われたところを返り討ちにしたそうです。」
クィーズ士爵「それは確かに大斧のダンだったので?」
ダイグ子爵「はい、部下たちがその勇者パーティーが持ち込んできたダンの
エドアン伯爵は椅子に座り直すと、大きく息を吐いた。ローゼン辺境伯も大きく
エドアン伯爵「大斧のダンがいなくなったとすれば相当安心できる…」
オーウェン子爵「ヤツにはかなり手を焼かされましたので…」
クィーズ士爵「その、ダンを討ったという勇者パーティーとはどんな者どもだったと?」
エドアン伯爵「相当年季の入った男たちだったのだろう。」
ダイグ子爵「それがまだかなり若い勇者たちのパーティーだったそうです。
みな身体も大きくなく、もしヤツの亡骸や得物が無ければ信じられなかっただろうと…」
エドアン伯とクィーズ卿はちょっと信じられないという表情をするが、ローゼン辺境伯は特に表情も変えずにダイグ卿に聞く。
ローゼン辺境伯「その勇者パーティーたちはまだこの街にいるのか?」
ダイグ子爵「そこまでは何とも…部下たちに調べさせましょうか?」
クィーズ士爵「何か気になる点でも?」
ローゼン辺境伯「いや、分からぬならよい…」
エドアン伯爵「若くて
領主と部下の貴族たちがそんな話をしていると、突然、執務室のドアがノックされた。
ローゼン辺境伯「誰だ!」
ウーベ「ウーベでございます。ムグーが
クィーズ士爵「今は
ローゼン辺境伯「待て…」
ローゼン辺境伯はクィーズ卿の言葉を
ローゼン辺境伯「
クィーズ士爵「アレン様…」
ローゼン辺境伯「よい、難しい話は終わっている…」
エドアン伯爵「では、我らは…」
ローゼン辺境伯がムグーを呼ぶというので、エドアン伯だけでなくダイグ卿も席を
ローゼン辺境伯「お前たちもここにいろ…お前たちもヤツの話を聞いている方が
エドアン伯爵「それでは…」
エドアン伯とダイグ卿が再び席に腰を下ろしたところで、ドアが開いてムグーが入ってきた。
ムグー「閣下、失礼いたします。」
ムグーは驚いて頭を深々と下げた。
ムグー「失礼いたしました。皆様がおられるとは存じ上げず参りまして…わたくしの話はまた後ほど…」
ローゼン辺境伯「構わん、私がそのまま居れと言ったのだ。話を続けろ。」
ムグー「ははー…」
貴族が居並ぶのに
ムグー「朝に申しました女ばかりの勇者パーティーのことですが、ミルトという
クィーズ士爵「ブロッケン卿と?」
ムグー「はい。それがその後にジミー様の屋敷の者が宿にやって来て、かの勇者パーティーの者たちは今晩からジミー様の御屋敷へ移ると申したそうです。」
ローゼン辺境伯「確かにジミーの屋敷へ行くと言ったのだな。」
ムグー「はい、確かに。それだけでなくアレン様からの
朝のことを知らないエドアン伯がローゼン辺境伯に話の内容を確かめる。
エドアン伯爵「アレン様、その女ばかりの勇者パーティーとは?」
ダイグ子爵「何やら女ばかりの勇者パーティーの者どもがこのリラにやって来ているらしいのですが、それがかなりの
オーウェン子爵「それで?」
ダイグ子爵「うむ、それでアレン様が御書状を出されてその者どもにお城へ参るようにと命じられたのだ…」
ムグーの報告を聞いて、ローゼン辺境伯は
ローゼン辺境伯「
ムグー「はあ、ミルトが申すにはその勇者パーティーの者どもはジミー様のことをあまりよく知らない様子だったと…」
クィーズ士爵「なぜよく知らないブロッケン卿にその勇者パーティーの者どももついていったのだ?」
クィーズ卿がややきつい口調でムグーに
ムグー「はあ…そのことについてその後冒険者ギルドで聞いたところ、
クィーズ士爵「ブロッケン卿がかの勇者パーティーの者どもを養子にしただと?」
オーウェン子爵「ジミー殿が鑑定士を辞められたとは…」
ダイグ子爵「それで勇者パーティーに加わるとは何とも…」
その場にいる貴族たちもジミーの行動を聞いて互いに顔を見合わせた。
ローゼン辺境伯は不満げな様子でムグーに尋ねる。
ローゼン辺境伯「宿の者はその勇者パーティーの女どもはジミーのことをよく知らぬようだと言ったそうだが、それがなぜジミーの縁者になるのだ?」
ムグー「はっ、ギルドでジミー様が申したことによると、その勇者パーティーの者はジミー様のかつての恩人の縁者らしく、ジミー様はその時の恩返しのためにその者どもを自分の養子に迎えて後見人になるとおっしゃられたそうです。」
ダイグ子爵「恩人の縁者を養子に…」
その場にいるものは皆、ジミーの意図を
クィーズ士爵「ブロッケン卿は、どうやってかは知りませんがアレン様のお考えを知り、先回りしてその者どもを自分の物にしたのではありませんか?」
エドアン伯爵「
どこかでアレン様を軽んじていてもおかしくありません…」
ローゼン辺境伯「だが、ジミーはどこで私がその女たちを城へ呼んだのを知ったのだ?
ムグー、お前は誰かにその勇者パーティーの者どものことを
ムグー「めっそうもございません。お城で申し上げたことは城下では一切誰にも申しておりません。」
クィーズ士爵「いや、ブロッケン卿は
誰かがそうした動きを知り、ブロッケン卿に伝えたとしてもおかしくはないでしょう…」
オーウェン子爵「アレン様…」
クィーズ卿とエドアン伯がジミーの行動に
オーウェン子爵「わたくしはジミー殿と親しくさせていただいておりますが、あの方は
おそらくはそこに
オーウェン卿の言葉にクィーズ卿は「フン」と鼻を鳴らす。
クィーズ士爵「いずれにせよ、アレン様の御書状を持っていったままというのが
ブロッケン卿はかの者どもを自らの養子としたのでアレン様の命令には従わずともよいと思っているのか?…」
ダイグ子爵「そうであれば、改めて登城の命をせねばならぬかもしれぬな…」
ローゼン辺境伯「さあな…」
ローゼン辺境伯はジミーの行いを聞いて明らかに不機嫌そうに窓の外を見た。
他の者もジミーの不可解な行動に難しい表情をする。するとそこに、再びウーベがドアの外から声を掛けた。
ウーベ「失礼いたします。アクレス様の配下の方がお伝えしたいことがあると申しております。」
ダイグ子爵「このような時に何であろう?アレン様、失礼いたします。」
ダイグ卿はそう言うと席を外して部屋の外へ出ていった。
部屋に残った者が黙ったままでいると、ダイグ卿はすぐに部屋に戻ってきた。
ダイグ子爵「アレン様、
ダイグ卿はジミーから届いた手紙をローゼン辺境伯に差し出し、彼もその手紙を受け取って読む。
ダイグ卿の話を聞き、オーウェン卿は
オーウェン子爵「やはりジミー殿はアレン様のなされることを妨げるようなおつもりはないのでしょう。
明日、お城で直接アレン様へ御説明をなされるのではないでしょうか。」
エドアン伯爵「アレン様、いかがいたしましょう?」
ローゼン辺境伯はエドアン伯の言葉に手紙から顔を上げると、手紙を返しながらダイグ卿へ言った。
ローゼン辺境伯「アクレス、ジミーに明日の正午までに必ず登城するようにと伝えよ。」
ダイグ子爵「ははー…」
クィーズ士爵「さて、グレッグ殿のおっしゃられる通りならばよいのですが…」
ローゼン辺境伯はムグーからの報告を聞いて明らかに不機嫌になり、椅子から立ち上がった。
ローゼン辺境伯「ウーベ、ムグーに
エドアン伯爵、ダイグ子爵、オーウェン子爵、クィーズ士爵「ははー…」
貴族たちが頭を下げると、ローゼン辺境伯は憮然としたまま執務室を後にした。
*
アイたちはカイやダイ、エルザの案内で一通り屋敷内を見て回ると、部屋を決めるために3階に戻った。
とりあえず階段に近い部屋に入ると誰と誰が相部屋になるのかを話し合う。
アユミ「とりあえずアイとアカリ、ナオとツグミは決まりかな…それ以外の私たちで決めないと…」
アカリ「いや、別に私たちもバラバラで、くじ引きとかで決めていいけど…」
ナオ「まあ、アカリが言うのも分かるけど…私たちとアイたちはこれで決まりの方がいいんじゃない?その分手間が省けるし…」
ソラ「それじゃあ、後は私たちだね…」
モア「えー、私、ひとりぼっちとかヤダよー…」
アユミ「ハイハイ、じゃあ私がモアといっしょね…ソラとルカはそれでいい?」
ルカ「ソラちゃんはそれでいい?…」
ソラ「もちだよー…いっしょにタクミとヤった仲じゃん…」
ソラが大声でタクミとのことを言ったので、アイが「シッ!」と唇の前に人差し指を立てる。
アイ「ジミーさんにも私たちとタクミのことは秘密にするようにって言われたでしょ…」
ソラ「ゴメンゴメン…自分たちだけだとつい…」
アカリ「まあ、誰もいない野原の真ん中じゃないからねー、ここは…」
ソラがアイに
アユミ「それじゃあ、アイとアカリ、ナオとツグミ、ソラとルカ、そして私とモアに分かれて…部屋割りはどうしよう?」
ルカ「ここがトイレから一番遠くなるんだよね?…」
ナオ「そう、ここの廊下の反対側だから…」
ソラ「夜にトイレに行くのは大変そう…」
アカリ「ここまで誰も夜中に起きたりしなかったじゃん(笑)…」
だが、ここまでの話を聞いてアイが
アイ「ちょ、ちょっと待って!私とアカリじゃ、どっちも
アユミ「確かに…2人とも魔法はないから…」
アイ「それじゃあ夜中に何かあった時に動けないよ…」
ソラ「何かってなに?…って思っちゃうけど(笑)…」
ナオ「いや、火事とかあったら危ないよ…じゃあ、私とアカリが交代しようか…」
アカリ「り(了解)、それでバランスもいいかな?」
タクミ「オ、オレも『光源』ないけど…」
タクミも困った顔をするが、アイは仕方なさそうに首を振る。
アイ「ホントは私たちはいいんだけど、屋敷の人たちのことを考えるとタクミの一人部屋は仕方ないと思う。
だから、いろいろ不便かもしんないけど、今回は我慢して…」
タクミ「そうかー…」
タクミが少し肩を落とす傍にソラは笑いながら行く。
ソラ「大丈夫だって…何かあった真っ先に助けに行ったげるから(笑)…」
アカリ「そうそう…置いてけぼりになんてしないから…」
タクミ「はあ、真っ暗って、ちょっと想像できないよ。今までみんなと一緒にいたから…
マジで何かあったら教えてね…」
ツグミ「…タクミ君…気をつけてね…」
ナオ「ハイハイ、さっさと部屋を決めて、順番にお風呂行かないと…またエルザさんが怒ってやって来るよ…」
モア「ヤダー…」
モアが本当に
ナオ「えーと、階段から遠い方の二部屋はアユミとモア、ソラとルカが使って、近いこっち側は私とアイ、アカリとツグミにしよう…廊下の右左はそれぞれで決めて…」
アイ「じゃあ、私とナオとはこの部屋にさせてもらう代わりに、先にお風呂に行くよ…」
アカリ「オーケー、私とツグミは向かいの部屋だね、行こ、ツグミ…」
ツグミ「うん…」
モア「私、隣がいいー…」
ソラ「ハイハイ、じゃあ私たちがその向かいね…」
アイ「誰が私たちの後にお風呂に来るのか、決めといてね…ナオ、もう行こう…」
ナオ「
アユミ「分かったから…行ってらっしゃい…」
アイはナオといっしょにお風呂に行こうとドアを開けるが、ナオが何かを思い出して足を止めた。
ナオ「それと下で女中の人に洗濯物を渡した方がいいと思うけど…」
ナオの言葉にアユミもうなずく。
アユミ「それぞれ洗濯物を渡す時に、
それの方が洗う時に洗いやすいはずだから…」
ソラ「血で汚れてるやつね…」
アユミ「そう…泥とか汗とかとは違って落ちにくいから…」
アイ「さあ、急ごう。」
アイとナオは今度こそ急ぎ足で浴室に向かった。
浴室にはアイたちの身体を洗うために女中が2人、それとは別にエルザもいてアイたちや女中たちにいろいろと指図をして入浴をさせた。
だが、アイたちもこんな御屋敷の浴室を使うのが初めてなら、エルザを含めた女中たちも女性たちを入浴させるのが初めてということで、お互いに勝手が分からずバタバタしてしまう。
エルザが口うるさく言うのも今回ばかりは逆効果で、どうしても
大分経ってから最後に残ったタクミが浴室にくると、そこには誰もおらずタクミ一人がポツンと取り残されたようだった。
タクミ「みんなは女中さんに身体を洗ってもらったって言ってたけど…」
タクミもさすがに女中の誰かに身体を洗ってもらうのは気が引けたが、自分だけ放っておかれるのもちょっと気になり、困りながら一人で服を脱ぎ出した。
「タクミ様、お身体を洗いましょう…」
タクミ「わっ、誰⁉」
ドアに背を向けて服を脱いでいたタクミは突然ドアの方から声がして、驚いて振り向く。
そこには小さな
ダイ「タクミ様が最後に入浴されるとうかがって、急いで参りました。
さあ、こちらの椅子にお座りください。」
タクミ「あ、ありがとうございます…」
タクミはダイに言われるがまま、裸になって浴室にある木の椅子に座る。やって来たのが女中ではなかったので、内心はホッとしていた。
ダイは公衆浴場の洗い役のように『洗浄』の魔法を使うのではなく、手にした小さな
そこから小さな
タクミ「ダイさんは『洗浄』を使われないんですね…」
ダイ「はい、私は魔法は全く使えません。カイは『光源』で明かりを灯すことができるのですが…
今のお話を
タクミ「はい、そう言えば昨日街中の公衆浴場へ行きました。そこで身体を洗ってくれた人は『洗浄』を使っていて…
なんか今日いろいろあって、まるで昨日のことじゃないみたいです…」
ダイ「そうですか…ご主人様から急に御屋敷へ来られるようにお話があったのですね。」
タクミ「はい…」
ダイは話をしながら手にした麻袋を使って身体を洗っていくが、タクミはその麻袋が気になって仕方なかった。
タクミ「その袋は
ダイは「石鹼」と言われて
ダイ「これは木灰に
私は名前までよく知りませんが、泡が立って汚れがよく落ちるようです。これもご主人様が西方で学ばれた技術らしいです。」
タクミ「へぇー…」
タクミは元の世界で売っている石鹼しか知らなかったので、それがそんな方法でできるとは思ってもみなかった。
タクミが口を
しかし、二人の間に流れる沈黙に耐え切れずタクミはまた口を開いた。
タクミ「ジミー…父上は皆さんのためにもいろんなことをしているんですね…
部屋にあった女中部屋への連絡装置もそうですけど…」
ダイ「はい。ご主人様はかつてお知りになられたことが無駄にならないように、様々なものを思い出して作って下さっておられます。
他の屋敷に仕えている者にこんな話をすると、どこでも
お優しいですし、我らがするようなこともご自分でなされますので、我々の方が
ダイは笑いながらそんな話をしつつ、ずっと手を動かしてタクミの身体を洗うと、お湯をかけて泡をきれいにながした。
タクミの身体がきれいになると、ダイが声をかける。
ダイ「さあ、泡も流しました。
タクミはダイの声掛けにうなずくと、軽く頭を下げてから浴槽に入った。
今朝会ったナデアといい、今自分を洗ってくれたダイといい、ジミーの話をする時はどこか
ジミーは顔だけを見ると
それは単にやさしく落ち着いた雰囲気だけではなくて、ナデアやダイに対しても本当にやさしいのだろう。
そういったことが今のダイの話からもタクミには感じられた。
タクミとしては昨日
待っていたダイが布で全身をきれいに
その様子を見てダイは
タクミが入浴を終えると、すぐに夕食と知らされた。まだ夕方の6時ぐらいだが食堂へ全員で行くと、もうジミーも戻ってきて自分の席に座っている。
アイたちが慌ててそれぞれ席に着くと食事が運ばれてきた。
この日の夕食は豚肉のステーキに甘い果物のソースがかかったものにえんどう豆のスープ、それに山のように置かれたパンとチーズがあってバターと、もう一つ果物のジャムらしきものが
マデラ「ステーキのソースとジャムはキイチゴのものです。お飲み物はエールかワインになりますが、いかがいたしましょうか?」
飲み物のことを聞かれ、アイたちは顔を見合わせる。
アイ「あの~、実は私たち、あまりアルコールに強くないんですが…」
マデラ「そうですか…ですが、ここの水はあまり
アイ「それでも
マデラ「
マデラは水を頼まれた時に少し難しい顔をしたが、すぐに普通の表情に戻って頭を下げ、
アイが大きくため息をつくと、エルザが「ううん」と
ジミー「飲み物がまだだが、
アイたちはそれぞれ「いただきます」と言うと、各々でパンやチーズを取って食事を始めた。
出てきた豚肉のステーキは元の世界やこれまでにアユミやルカやナオが出してくれたものと比べるとやや硬かったが、それでもしっかりと肉々しい味のする美味しいものだった。
えんどう豆のスープには他に玉ねぎも入っていたが、味付けは塩だけで少し物足りないところもある。
それでも昨日の居酒屋や村の宴会で出されたものよりはずっと美味しい料理だった。
それぞれが食事を終え、食器も片付けられるとジミーがアイたちに明日のことを伝える。
ジミー「明日は早朝に起きて、アイたち女どもは女中たちに手伝ってもらって
ソラ「私たちの顔は出さないんですよね…」
「身繕い」と聞いて、ソラが不思議そうにジミーに尋ねる。ジミーはうんうんとうなずく。
ジミー「確かにアレン様の御前でも他の方々の前でも絶対に顔を出してはならんが、そうした身繕いをすることで、言わば気持ちを
明日は一つの戦場だからな。しっかりした
ジミーに言われて、アイたちはタクミも含めて大きくうなずいた。
ジミー「朝はパンと水だけの簡単な食事を取ってから、すぐに馬車に乗り込んで城に向かう。
屋敷を出る時から決して顔を出したり、喋ったりしてはならん。
今日着ていたマントを
ジミーは改めて厳しい口調で言い渡した。
ジミー「城ではアレン様が使者などに
恐らくアレン様が
アイたちは互いの目を見てから大きくうなずいた。するとルカが口を開く。
ルカ「あの~、御父上…アレン様はどうして私たちの
私たちじゃなくてもご領主様ならいくらでも女性をお城に呼べると思うんですが…」
ルカの問いに他の女の子たちもうんうんとうなずくと、ジミーはそれを見て顎髭を
ジミー「お前たちはアレン様のことをどれほど知っておる?反乱があったことなどは存じておるのか?」
ナオ「はい、ドムニの町の武器屋のおじさんにこの辺りで以前に反乱があったことは
ジミー「うむ…アレン様がまだ成人されたばかりの時に先代のご領主様がお亡くなりになり、それを機に先代のご領主の弟が反乱を起こして自らが辺境伯になろうと望み、この辺り一帯を支配しようとしたのじゃ。
アレン様は若年ながら先代からの配下をよくおまとめになられ、苦労の末に反乱軍を破り、自分の叔父を捕らえられた。
その後もこのような辺境の地をよくお治めになられ、酷い
だが、アレン様はまだ30歳になったばかりとお若い…それ故にそのお力をもっと大きな場所、いわゆる国政でも試したいとお思いになられておる。
だが、この辺境の地では王都にいる貴族や国王陛下の目に
タクミ「じゃあ、まさかアイさんたちを王様への
ジミーは言いにくそうに口を
ジミー「アレン様は恐らくお前たちが1人、2人ではなく、何人かのパーティーであることもご存知であろう。
ならば国王陛下だけでなく、複数の貴族にも
ソラ「なにそれー…」
モア「ホント、キモ~イ…」
モアの隣に座るアユミが彼女の
エルザ「まだ旦那様がお話されてますよ!それを勝手に私語をなされるなど…」
エルザにまた怒られてモアはふくれっ面をするが、アユミが手を握ってなだめる。
ジミーもエルザの顔を見て、よいよいという表情をした。
ジミー「まあ、非常に言いにくいがアレン様がお前たちの容姿にこだわるのはそのような
お前たちが本当に絶世の美女ならば、王都の人々へのこれ以上ない贈り物になろう。そして、実際にお前たちは確かに優れた容姿をしている…。
これは全て儂の推測じゃが、恐らく間違いはあるまい。
それだけに明日、アレン様が万が一お前たちの容姿をご覧になられれば、ますますお前たちにご
儂はお前たちの
くれぐれもアレン様やお側におられる方々に顔を見られるようなことがないように気をつけるのじゃ…」
ジミーからローゼン辺境伯の思惑を聞かされ、アイたちは硬い表情をした。
明日、もしも自分たちの容姿のことがローゼン伯に知られると最悪の場合自分たちは連れていかれて、バラバラにされてしまうかもしれない。
明日の謁見がどんな意味を持ち、どれぐらい難しいことなのか、アイたちは皆、改めて気を引き締める。
ジミーはアイたちが難しい顔をするのを見て、やさしく言った。
ジミー「まあ、とにかく明日はお城でアレン様にお会いすればよい。そのように難しく考えずとも思っているより早く済むやもしれん。
お前たちは下を向いて黙っているだけでよいのじゃ。後は儂に
さあ、今晩はもう休むがよい…」
ジミーの言葉を聞いてハドルがジミーの席を引きにきたので、アイたちも椅子から立ち上がってジミーに頭を下げた。
ジミーはおやすみという代わりに、みんなに会釈をした。
アイたちがぞろぞろと食堂を出ていき、夕食の時間は終わった。
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