※この作品はR-18です。

ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~   作:イジー・ムラシロ

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111 アイたちの秘密

 アイたちが3階の部屋に引き上げると、ジミーはすぐに食堂と同じ階にある自室へと向かった。

 彼が部屋に入るのとほとんど同時にエルザもやって来て、すぐに奥の部屋に行き明日のための衣服を準備し始める。

 

 そこにハドルとカイとダイ、そしてコックのマデラが入ってきて机の傍に並ぶ。

 エルザもすぐに彼らの横に並んでジミーの話を待った。

 

ジミー「話の前に、他の者はこの部屋の近くには居らんだろうな…実はお前たちだけにどうしても言っておかねばならぬことがあってな…」

ハドル「大丈夫です、ご主人様。他の者たちは皆、それぞれ片付けなどをしております。どうかご心配なく…」

エルザ「それで、私たちだけが知っておらねばならぬこととは一体何でしょう?」

 

 エルザがいつものような厳しい表情で話を急かせる。

 

ジミー「実はアイたちのことなのだが…

 もしかするとお前たちなら気づいているかもしれぬが、あの者たちはレアの村の出身ではない。

 レアの村どころかこの世界の者ですらなく、魔法で別の世界からこの世界へ連れてこられた「彷徨(さまよ)い人」なのじゃ…」

エルザ「何ということ…」

 

 エルザも二の句が()げず黙り込み、カイとダイは互いに顔を見合わせた。

 

ジミー「ハドルとエルザには昨日の夜、養子に(むか)える者たちは何か特別なものを持っていると告げていたが、その特別な力の理由というのが「彷徨い人」だということじゃ。

 

 それだけにあの者たちは我々の知っているようなことをほとんど知らぬ。

 それでもこれまで持ち前の礼儀作法や頭の良さでよくやってきたようじゃが、この屋敷で生活するようになればいろいろと不都合(ふつごう)も出てこよう…。

 

 お前たちにアイたちが「彷徨い人」だと告げたのは、何か問題が起こってもあの者たちがこの世界のことをよく知らぬためだということを分かってもらいたいためじゃ。

 特にエルザ、何かと気になることがあろうが、どうか今言ったことを心に()めて許してやってくれ…」

 

 エルザたちは想像もしていなかったことを告げられ、何も言えなくなっていたが、ハドルが何とかジミーに尋ねる。

 

ハドル「お嬢さま方はこの国とはかけ離れた生活をなされていたのでしょうか?…」

ジミー「うむ…どうやら貴族など居らぬ世界だったようでな…

 (わし)もあまり詳しく話は聞けなかったが、あの者たちの言動を見ているとどうもかなり違った生活をしていたのではないか…」

マデラ「旦那様…」

 

 マデラが不安気な表情で何かを言おうとしたので、ジミーは言葉を切って彼の顔を見る。

 

マデラ「わしはそうしたことを何も知らずにお嬢さまやお坊ちゃまにお食事を出してしまいました…

 もしかすると今晩の夕食などはお口に合わなかったのではないでしょうか…」

 

ジミー「あの者たちがどのような物を元の世界で口にしていたのかは分からぬが、ナデアの店で出た食事もうまそうに食べていたので、今日出したものも大丈夫ではなかったかな…

 

 もし気になるのなら、この後に上の遊戯室(ゆうぎしつ)に儂から話を聞いたと告げて、食事について尋ねてくればよい。

 その方がいろいろと思い悩むよりよいだろう。」

マデラ「では、そういたします…」

 

 マデラが安心すると、ハドルが改めてジミーに尋ねた。

 

ハドル「アイ様を始め、皆様が「彷徨い人」だというのは分かりましたが、我らはどのようにいたせばよろしいでしょうか?」

 

ジミー「そうだな…普段はできるだけ互いに普通にしていればよいが、どうしてもアイたちが理解できないような振る舞いをしたり、逆にアイたちがお前たち執事や女中たちが言うことを理解できないような時にあの者たちにどのようなするべきか伝えたり、あの者たちにどうして欲しいのかを聞いたりしてやってくれ…

 

 それとあの者たちのうち何人かは儂と同じような魔法を使うことができる。

 お前たちの前でも使うことがあるかもしれぬから、お前たちはそのことを心しておいてくれ。

 しかし、他の執事や女中たちの前で使うようならば止めるように言ってくれ。お前たちは分かっていて驚かなくとも、他の者は驚くだろうからな…

 

 とにかくお前たちはアイたちが「彷徨い人」だというのを分かっていてほしい。誰も知らぬと皆で右往左往(うおうさおう)せねばならぬかもしれん…」

 

ハドル「承知(しょうち)いたしました。」

カイ、ダイ「承知いたしました。どなたがどのような魔法をお使いになられるのか、ご主人様はご存知でしょうか?」

 

ジミー「儂はもうあの者と同じパーティーゆえ、誰がどんな力を持っているのか分かっておるのだが、一人々々なかなか違っておってな…

 また、折に触れてお前たち2人には教えよう。お前たちももし機会があればアイたちに直接聞いてみてくれ…」

カイ「魔法の件も承知いたしました。」

 

 カイとダイは魔法のことも聞き知っているようでジミーの話を聞いても納得していたが、エルザはまだ「彷徨い人」や魔法のことなどが信じられないようで、ジミーの話を聞きながら何度も首を振った。

 それでもジミーは念を押すように言う。

 

ジミー「それと、このことは屋敷の他の者には秘密にしておいてくれ。

 お前たち以外の者を信頼していないわけではないが、「彷徨い人」というようなことは(うわさ)になりやすい。

 もしアイたちが「彷徨い人」だということがアレン様の耳に入れば、アレン様はより一層アイたちに執着(しゅうちゃく)するやもしれぬ。

 だからな、このことはとりあえずお前たちだけが心に留めておいてくれ…」

 

 ジミーはエルザの顔をジッと見る。

 

ジミー「エルザ、お前が普段から儂や屋敷の者たちにうるさく言っているのは、儂ら皆のためだというのはよく分かっておるが、アイたちについては今言ったように全く違う国からやって来ておるから、あまり口うるさく言わないでやってくれ、よいな…」

 

 エルザもジミーの顔をジィっと見ていたが、しばらくして頭を下げた。

 

エルザ「承知いたしました…」

ハドル「では、私たちはこれで…」

 

 ハドルの言葉で執事や女中たちが下がろうとすると、ジミーが手を挙げる。

 

ジミー「すまんがハドルとエルザにはまだ話したいことがあるのだ…もう少しだけここに居ってくれぬか…」

カイ、ダイ「では、我らはこれで…」

マデラ「わしはお嬢さまとお坊ちゃまにお食事のことをうかがって参りましょう…」

ジミー「すまんがそうしてくれ…」

 

 カイとダイとマデラが部屋から下がると、ハドルとエルザが何の話かとジミーの顔をうかがう。

 だが、ジミーはさっきまでと違って何か言いにくそうにした。

 

エルザ「旦那様、まだお嬢さま方のことで何かあるのではないでしょうか…どうか何でもお話ください。」

ハドル「さよう、我々お嬢さま、お坊ちゃまのためにいかなることでも(いた)すつもりです…」

 

 2人に促され、ジミーは重い口を開いた。

 

ジミー「そうか…実はもう一つあの者たちのことで言っておかねばならぬことがあるのだが…これがいささか言いにくいことでな…」

ハドル「どのようなことでしょうか?…」

 

 ジミーはどう言えばいいのか、言葉を探すような素振(そぶ)りを見せる。

 

ジミー「う~ん…それが、エルザの前では言いにくいが…あの者たちはな、まだ成人して少ししか経っていないぐらいの歳だが…実はな…」

エルザ「実は…」

ジミー「それが…タクミと、他の娘たちとが……男女の関係なのじゃ…」

ハドル「男女の関係?…」

エルザ「???」

 

 ハドルとエルザは最初ジミーが言っている意味が分からないが、ジミーが言い(よど)んでいる様子を見てその言葉の意味を(さと)る。

 エルザはいかにもいかがわしいという感じで(けわ)しい表情をした。

 

エルザ「まあ、何ともはしたない‼」

ジミー「シッ、声が大きい…」

 

 ジミーは(まゆ)をひそめてエルザに注意する。

 

ジミー「この話には続きがあってな…実はアイたちはタクミとまぐわいをすることでそれぞれが持つ能力がより強くなるのじゃ…」

エルザ「だからと言って、この屋敷で昼間からそのようなことをなされるのを見過ごすようなことはできません。」

 

ジミー「儂もそのようなことがないようにあの者たちに申しておいたし、あの者たちも他の者の目につくようなところや時間には決してせぬと申しておった…」

エルザ「そう申されましても…」

 

 エルザは(ひど)(こわ)い顔をしてジミーをジッと(にら)むが、ハドルは表情一つ変えなかった。

 

ハドル「…して、我らはいかに致しましょうか?…」

 

 ハドルの問いにジミーはうなずいて答える。

 

ジミー「アイたちは絶対に目に付くようなことはないようにすると申していたので、万が一お前たちがそうした行為に出くわしても何も言わずに儂にだけ報告して欲しい。

 

 また、他の執事(しつじ)たちや女中たちが気づくようなことがあっても先ずは儂に言ってくれ。

 お前たち、特にエルザから直接あの者たちに何か言うと逆に難しいことになるだろう。どうしても目に余るならば、儂からきつく言い渡そう。」

 

エルザ「では、私たちは見て見ぬふりをせよ、と…」

ジミー「お前たちを含め、屋敷の者が気づくような時はとにかく儂に言ってくれ。儂が必ず止めさせよう、それでよいな…

 とにかくあの者たちにとっては必要なことなのじゃ。ここは少し目こぼしをしてやってくれ…」

 

 エルザは不満そうに頭を下げると、何も言わずにまた奥の部屋に入っていった。

 ジミーはその後ろ姿を(しぶ)い表情で見るが、ハドルは改めて深くうなずいた。

 

 ジミーが「もうよい」と言うと、ハドルは軽く頭を下げて部屋から出ていった。

 エルザも明日の衣服を確認すると、仏頂面(ぶっちょうづら)のままジミーに頭を下げて部屋から下がっていった。

 

 

タクミ「う~…今日は疲れたー…」

 

 アイたちは食堂から下がると3階の奥の方にある、タクミの部屋の向かいの遊戯室に入った。

 誰もが部屋にある椅子に座り込んだり、床に()かれた毛皮や毛布に寝転んだりする。

 

 わずか一日であまりにもたくさんの変化が起こって、全員疲れ果てている。

 タクミが浴室でダイに言ったように、公衆浴場や理髪店、酒場に行ったのはいつのことだったのか、そう思えるほどいろんなことが起こった一日だった。

 

 椅子に座っていたアイが自分自身も疲れていたがみんなの様子を見て言う。

 

アイ「もうそれぞれの部屋に行って、寝た方がいいんじゃない?明日も早いし…」

モア「う~…」

ソラ「なんか寝転んだら、もう動けない…」

アカリ「ここで寝たい気もする…」

 

 アカリの言葉にアユミが首を振る。

 

アユミ「もう夏だけど、ここで寝ちゃちょっと涼しいかも…」

ナオ「そうそう…それにベッドの方が疲れが取れるよ…」

アカリ「う~…確かに、ここで寝ると明日の朝、身体がバキバキになってるかもしんない…」

ルカ「(笑)…」

 

 それでも疲れ過ぎているのか、誰もその場から動こうとしない。

 しばらくの間誰もが眠ってしまったかのように部屋の中に沈黙が流れた。それでもルカがやっとのことで口を開く。

 

ルカ「貴族の生活って…意外と大変だね…」

 

 他の女の子は皆、顔を上げて黙ってうなずく。

 

ナオ「貴族の生活って言っても、まだ半日も()ってないけど(笑)…」

アカリ「確かに(笑)…」

アイ「まあ、しばらくはあのエルザさんの小言も我慢しなきゃね…」

 

 アイがエルザの名前を出すと、床のオオカミの毛皮に寝転がっていたモアが顔を上げた。

 

モア「もう~あのおばあちゃん、イヤ!私ばっかガミガミ言ってくるんだからー…」

ソラ「まあ、あんたがバタバタするからだよー(笑)…」

アカリ「まあそうだね(笑)…」

アユミ「(笑)…」

 

 モアは身体を起こすと腹立たし気に(かぶ)っていた毛布をめくる。

 

モア「絶対私のことが気に食わないんだよ、あのババア…ムカつくー…」

アカリ「ババアとか言ってると、聞こえちゃうよ(笑)…」

アユミ「そうそう(笑)…」

モア「大丈夫だよ…」

 

…トントントン

 

 モアがそう言った瞬間、遊戯室のドアを誰かがノックした。モアはびっくりして飛び上がるように立ち上がる。

 他のみんなも驚くが、ナオが何とか返事をした。

 

ナオ「はい!大丈夫です…」

「失礼いたします。」

 

 ドアを開けて入ってきたのはコックのマデラだった。夕食の時と比べるとひどく恐縮(きょうしゅく)そうなしぐさをしている。

 アイが(あわ)てて椅子から立ち上がって彼のところへ行った。

 

アイ「どうしましたか?何かありましたか?」

マデラ「あの~…実は今しがた旦那様からわしと執事長と執事のカイとダイ、そして女中頭にだけお話があり、お嬢さま方皆様が「彷徨(さまよ)い人」と(うかが)いました…

 

 わしは何も知らずに夕食にこれまでと同じような食事を差し上げましたが、皆様のお口に合ったでしょうか?

 もし皆様が無理してお食べになられたのだとしたら、ホントに申し訳ないです…」

 

 マデラがいかにも申し訳なさそうにするので、アイは大きく首を振った。

 他のみんなも起き上がり、アユミとナオとルカは食事のことと知って急いで傍に来た。

 

アイ「全然そんなことないです…」

アユミ「わざわざありがとうございます。今日のステーキもスープもどれも私たちにとっても美味(おい)しいものでした…」

 

 アユミはそう言いながら周りにいる仲間たちの顔を見る。

 寝転がっていた者も立ち上がったりその場に座ったりして、アユミの言葉にうんうんとうなずいた。アイもその様子を見てうなずき返す。

 

アユミ「みんなマデラさんやコックの皆さんの料理に満足していますので、どうか私たちに気を(つか)わず料理を出して下さい、お願いします。

 もし、どうしても口に合わないものがあれば、ちゃんとお知らせしますので…」

 

マデラ「そう言っていただけると本当にありがたいです。

 あのー、皆様がよその国から来られたことは屋敷の他の者には言ってはならんと旦那様から言いつけられております。

 ですので、料理に何かあればわしに直接言いつけくださるようにお願いいたします。」

アイ「分かりました。料理のことは必ずマデラさんにお話します。」

 

 安心した表情のマデラに向かって、今度はルカが話しかける。

 

ルカ「あのー…お食事の時の飲み物のことなんですが…」

マデラ「そうでした…皆様はお酒をお飲みになられないということでしたが…」

 

 マデラが表情に、これからはいかがいたしましょうかというものを漂わせる。

 

ルカ「あのー、実は私たち、自分たちで多少の飲み物が出せるんです…

 だから、食事の度に私たちが飲み物を食堂に持っていくようにしましょうか?…」

ナオ「ルカ…」

 

 ルカの提案をマデラもアイやナオやアユミも少し黙って考え込む。

 だが、すぐにマデラが顔を上げた。

 

マデラ「お嬢さまのお申し出はとてもありがたいんですが、お嬢さまが飲み物をご自分で持ってこられると他のコックや女中たちが不審(ふしん)に思うと思います。

 ただ、お嬢さま方が飲まれる水をご自分で持ってきて下さると、わしらとしては助かるのも本当でして…」

 

ナオ「じゃあ、飲み水を持っていく場所とタイミングが問題かもしれないですね…」

ルカ「どうしよう…」

 

 マデラはまた腕を組んで考えていたが、何か思いついたようにナオたちの顔を見る。

 

マデラ「では、こうしましょう…皆様のことはわしのかみさんにだけ話をしますので、毎朝一番に厨房(ちゅうぼう)にその日の食事の時に飲む分の水を持ってきてもらえませんか。

 それをわしかかみさんが必ず受け取るようにしますから…

 それでいかがでしょうか?」

 

ナオ「分かりました。私たちの誰かが必ず毎朝私たち自身の飲み水を厨房(ちゅうぼう)へ持っていきます。」

 

 ナオがそう言ってうなずくと、マデラは頭を深々と下げた。

 

マデラ「本当に申し訳ありません、わしらがちゃんとしないといけないことをお嬢さま方にお願いするようなことになって…」

アユミ「そんなことありません。無理を言っているのは私たちなので、私たちが自分たちで自分のことをするだけですから…」

 

ルカ「そうです。私たち、飲み水を持っていくぐらい全然気にしませんから…

 だから、マデラさんも気にしないで下さい。」

 

 アユミやルカにそう言われてもマデラはまだ恐縮していた。

 それでも彼はもう一度頭を下げると、下がってドアを開ける。

 

マデラ「では、かみさんにはよく言っておきますので、明日から飲み水のことはよろしくお願いします。」

アユミ「分かりました。私たちも忘れずに必ず早朝に厨房に持っていきます。」

 

 マデラは「おやすみなさいませ」と言うともう一度頭を下げてドアを閉めた。

 マデラが出ていくと、それまでずっと黙って立っていたモアが大きな息を吐いて傍の椅子に座り込んだ。

 

モア「フ~~、(あせ)ったー…あのババアが来たかと思ったじゃん…」

タクミ「悪口を言うから(笑)…」

アカリ「そのタイミングがね(笑)…」

ソラ「そマ(それマジ)!(笑)…」

全員「(笑)…」

 

 モアの安心した様子に、全員が笑った。

 

アイ「でも、やっぱ私たちが「彷徨い人」ってことは何人かには知ってもらってないとダメだよね…」

アユミ「そうだね…これからいっしょに生活していくんだから…」

 

タクミ「ここで生活する中でこれから苦労しそうなことって何だろう?食事以外だと…」

ソラ「洗濯ってどう?アユミやルカが『洗浄』出してくれると、かなりきれいになるけど…」

アユミ「多分この御屋敷だと魔法とか使ってないと思うから、『洗浄』を使った時ほどはきれいにならないかもしれない…」

 

タクミ「お風呂で石鹼(せっけん)というか、それと同じものを使って身体を洗ってくれたけど…」

ナオ「あの(あさ)の袋に入ってたやつね。私たちもそれ使ってくれたけど、量は限られてるんじゃないかな?だから、人の身体を洗うだけだよ…」

ルカ「でも、きれいになってないとは言えないよ…」

ツグミ「洗濯自体が重労働だもん…」

モア「わかる~…」

 

 みんなは腕を組んだり、少し上を見上げたりしてここまでやってきたことをそれぞれに思い出す。

 

タクミ「さっきのお店で「いただきます」ってみんなが言っただけで不思議がられたけど…」

アカリ「ホントに?」

アユミ「そうかもしれない。ジミーさんとナデアさんが2人で何か言ってたから…」

アイ「言われたら分かるけど…」

ルカ「自然にやってるもんね。」

 

ソラ「タクミは何て説明したの?」

タクミ「えっ?いや、何も言えなかった。

 だって、ナデアさんには「彷徨い人」って言ってないし、自分たち独特の習慣なんて言ったら不審(ふしん)に思われるかもしれないから…」

アユミ「そうだね…」

ナオ「他にも気づかれるようなこと、あるかもしんない…」

アカリ「かもね…」

 

 マデラと交わした話を思い出すと、この屋敷でやっていくことだけでも簡単なことではないと改めて感じる。アイたちは互いに顔を見合わせた。

 そんなみんなにツグミが声をかける。

 

ツグミ「ねえ、そろそろ本当に寝た方がいいよ…」

ナオ「確かにそうかもしんない…」

アイ「じゃあ、今日はここまでにしよう…」

 

 全員が立ち上がり、ソラは大きな伸びをする。

 

ソラ「あ~あ、全員でいっしょに寝ないのはここに来て初めてだぁ~…」

アカリ「そうだ…」

 

 ソラの何気ないひと言を聞いて、タクミが不安気な声を出す。

 

タクミ「オレだけひとりぼっちだよぉ~…」

ツグミ「タクミ君…」

ソラ「あー、分かる…そりゃ、大変そうだ…」

タクミ「ねえ、明日の朝、誰か起こしに来てね…」

 

 タクミが周りを見ると、女の子たちは笑顔でうなずいた。

 

ソラ「大丈夫だって!ちゃんと起こしてやるから…」

ツグミ「うん、忘れずに起こしに行くね。」

アイ「さあ、それぞれの部屋に行くよ…」

タクミ「おやすみ~~~…」

 

 肩を落として自分の部屋に入っていくタクミの後ろ姿を女の子たちはクスクス笑いながら、自分たちもそれぞれに「おやすみ」と声を掛け合ってみな部屋に入って眠った。

 

 次の日。

 朝陽が昇るとすぐにエルザはアイたちそれぞれの部屋を訪れ、皆を起こして回った。

 

 女の子たちは遊戯室(ゆうぎしつ)に集まって順番に髪を整えられ、タクミは自分の部屋で(ひげ)()られる。

 エルザの指示で女中たちがテキパキと支度(したく)をしていく中、アイたちは誰も声すら発さなかった。

 

 アユミとナオは昨日のマデラの指示を受けて、自分たちの順番になる前に厨房(ちゅうぼう)に行く。

 そこではマデラとマデラの奥さんが朝食のパンを準備していた。

 

アユミ「おはようございます。昨日の飲み水のことでお邪魔しました…」

 

 マデラと彼の奥さんがアユミの声に気づいてすぐに傍までやって来た。

 

マデラ「おはようございます。申し訳ございません、朝早くから…」

マデラの奥さん「主人から話は聞きました。これから皆様のお口に合うようなものをお作りいたしますので…」

マデラ「それで飲み水はどこに…」

 

 アユミもナオも手ぶらなのでマデラは心配そうな顔をする。

 アユミとナオは顔を見合わせると、ストレージから水のなみなみと入った(はち)を3つ厨房の大きなテーブルの上に出した。

 マデラもマデラの奥さんも腰を抜かすほどに驚く。

 

マデラの奥さん「わっ⁉これって、なに?」

マデラ「なんと、これが魔法で⁉」

 

 突然の魔法にマデラ夫婦は抱き合って水の入った容器をジッと見ている。アユミとナオは申し訳なさそうな顔をした。

 

アユミ「すいません、何も言わずに突然出してしまって…」

ナオ「マデラさんのおっしゃられるように、私たち魔法で飲み水が出せるので…」

マデラ「はー、これが旦那様のおっしゃっていた魔法で…」

マデラの奥さん「魔法、魔法なの?スゴイねぇ~…」

 

 マデラの奥さんが大きな声を出すので、マデラは恐い顔をした。

 

マデラ「コラッ、大きな声出すな!お嬢さま方が魔法を使われるのは他のコックにも女中たちにも絶対に言っちゃなんねえからな…」

 

マデラの奥さん「それって、旦那様の言いつけかい?」

マデラ「そうだ、分かったな…すんません、わしもこいつも田舎者でなんも知らないもので…

 これぐらいで驚いて、申し訳ないです…」

 

 マデラが昨日の夜と同じように恐縮するので、アユミとナオは互いにシマッタという顔をした。

 

ナオ「本当にすいません…今まで私たちだけで過ごしていたので、驚かせてしまって…」

アユミ「これからは気づかれないように気をつけます…」

マデラの奥さん「いえいえ…それよりもお嬢さま、部屋に戻られて準備をなさって下さい。

 遅れてしまってはいけませんから…」

 

 2人がペコペコ(あやま)っているとマデラの奥さんが部屋に戻るように(うなが)す。

 マデラもうなずきながら、三つの鉢の水を別の(かめ)に移した。アユミとナオも急いで3階に戻った。

 

 全員が身だしなみを整え、これまで通りのシャツやズボン姿で食堂へ行くと、ジミーも既に用意を整えてテーブルに座っていた。

 

 ジミーも格好としては昨日までと同じでアイたちと同様のシャツとズボンを着ているが、それらの衣服は見るからに上質なものに変わっているのが分かる。

 色味は落ち着いた感じの紺色のズボンに真っ白な上着で上着には銀色の()()りがしてあった。

 

 アイたちがテーブルに着くと、すぐに皿に載ったパンと飲み物が運ばれてくる。ジミーもみんなも黙ってそれを口にした。

 簡単な食事が終わるとジミーは全員を見回して改めて言った。

 

ジミー「くどいようだが、今日は決して声を出したり顔を見せたりしてはならん。

 屋敷を出た後はここに戻ってくるまで儂の言うことをよおく聞くのだ、よいな。」

全員「はい!」

 

 全員の顔に緊張や不安よりも強い覚悟とジミーへの信頼が浮かんでいるのを見て、ジミーは笑顔で大きくうなずいた。

 

ジミー「よし!では参ろうか。」

 

 ジミーが立ち上がると、アイたちもみな立ち上がって食堂から屋敷のドアへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 




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