ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~ 作:イジー・ムラシロ
113 再びバグの店で
屋敷に戻る馬車の中でもジミーは何も言わなかった。
アイたちも言いつけを守ってずっと口を
しかし、最後にローゼン
やがて馬車がゆっくり大きく曲がり、少しして止まると、ガタガタと音がして馬車の扉が開いた。
ジミーは低い声で「さあ、着いたぞ」と言うと、自分から馬車を降りていく。アイたちも彼に続いてぞろぞろと馬車を降りた。
ハドル「お帰りなさいませ。」
使用人たち「お帰りなさいませ。」
使用人たちがジミーやアイたちを
するとジミーが振り返る。
ジミー「まだじゃ。まだ静かに、な…話すのは屋敷に入ってからじゃ。」
エルザ「皆様、お帰りなられたと言ってもまだ外でございますよ。もっと背筋を伸ばしてしゃんとなさって下さい。」
エルザにもしかられてアイたちはいそいそと屋敷に入っていった。
屋敷に入るとジミーは笑顔でみんなをねぎらった。
ジミー「皆、朝から大変だったな。腹が減っておろう、早いがすぐに昼食にしてやってくれ。
お前たちは少しの間上で休んでおれ。よく我慢したな…」
全員が本当にぐったりして並んで階段を上っていった。
ジミーは何か言いたげなエルザに
ジミーもアイたちに続いて自分の部屋へと戻った。
アイたちはふらふらしながら何とか急な階段を上り、
ソラ「フア~~~~…疲れた~~~~」
モア「あーーーー、あとちょっとで倒れるとこだったよー…」
何人かは立ち上がって伸びをして、他の何人かは
お城の張りつめた空気に絶対顔を見せたり声を聞かれたりしてはいけないという緊張感、それに加えて
それに追い打ちをかけるような、
ルカ「……ジミーさんの言う通りだったね……」
アユミ「…だね…」
ツグミ「………」
がっくり肩を落としているツグミを見て、アカリが傍に行ってその背中をさする。
ナオ「何だか分からないけど、
ソラ「で、失敗したら死刑でしょ?マジムリなんだけど…」
アイ「まあ、ちょっとあり得ないよね…」
タクミ「ジミーさんの言う通りになっちゃったよ…」
ジミーの言葉を信じてここまでついてきたが、状況はますます悪くなっている。
他に
やがてカイが声をかけ、みんなは食堂へ向かった。
全員が暗い表情で肩を落としているのを見てジミーも一瞬厳しい表情をするが、すぐにいつもの温和な顔に戻る。
昼食は茶色っぽいクレープのようなものに温野菜やハムなどがたっぷり
マデラ「お帰りなさいませ。皆様お疲れと思いましたので
こちらは野菜やハムを
また、カスタードクリームや果物などもお載せすることができますので、そちらがご
みな目の前の食べ物を
傍に立っているエルザは怖い顔をするが、ジミーが眼で大目に見るよう伝えると大きくため息をついて
マデラの奥さん「お嬢さま、お坊ちゃま、まだお代わりがございますがいかがでしょうか。」
モア「それって、甘くできます?」
マデラの奥さん「もちろんでございます。カスタードクリームや
アカリ「私もお願いします…」
タクミ「オレもお願いします。」
ソラ「私も!」
エルザ「ソラ様、食事中に大きな声を出してはなりません。普段のお声で女中もコックも聞こえております…」
ソラ「はい…」
マデラの奥さん「(笑)…では、全員分お持ちいたしますね…」
アイ「お願いします…」
アユミ、ルカ「(笑)…」
ちょうど食堂に戻ってきたエルザに
そんな様子を見てアユミやルカがクスクス忍び笑いをした。
甘いものも食べてお腹が膨らむと、みんなも少しほっとした表情に変わった。
ジミーはそんなアイたちの様子に少し安心した
ジミー「改めて、皆ご苦労だった。昨日から今日までいろいろ大変であったろう。
アレン様からのご命令のことはあるが、とにかく今日はもうゆっくり休むがよい…
明日からのことはまた後で話をしよう。」
アイ「その、魔獣のトラ退治というのはいつ出発するのですか?」
アイからの質問にジミーはゆっくりと首を横に振る。
ジミー「まあその話は後でな…まだ
アカリ「でも…」
ジミー「お前たちの気持ちが
明日出発したからと言って、それで魔獣を倒せるわけではあるまい…
とにかく今はよおく休め、それからしっかりとどうすればいいのかを一緒に考えようぞ…」
アイ「はあ…」
アイやアカリに浮かんだ不満気な表情をエルザが
エルザ「アイ様、御父上にははっきりお返事なされねばなりませんよ。」
アイ「あっ、はい分かりました、御父上…」
ジミー「よいよい、さあもう下がって休みなさい。今日は本当によく我慢したな…」
全員「はい。」
アイたちが食堂を出ていく背中を見ながらジミーは目でエルザを呼ぶ。
近寄ってきた彼女にジミーは小さな声で言う。
ジミー「皆、この後は自室か遊戯室で横になっておろう。
まだ陽は高い時間だが疲れておるだろうからそのままにしておいてやってくれ、よいな…」
エルザ「
ジミー「そうだな…一度くらいどのような服なのかを見せるのはよかろうが、アレン様から難しいクエストを
そうすればあの者たちも前からの
また儂からお前にちょうどいい機会の時は伝えよう。それまで少し待ってやってくれ。」
エルザ「承知いたしました…」
エルザが頭を下げて向こうへ行くと、ハドルが椅子を下げにやって来る。
ジミーはそのままハドルと一緒に自分の部屋に戻った。
ジミーは部屋に入るとすぐに外出の準備を始め、部屋の中にある本をいろいろ調べ出す。彼は手を動かしながらハドルに言う。
ジミー「儂は今からまたバグの店へ行ってくる。
それとカイかダイに命じて明日練兵場を使えるかどうか調べさせてくれ。
使えるようなら明日の午後からの時間を押さえるように、とな。」
バグ「承知いたしました。」
ジミーは探していた本を見つけたらしく、薄い書物を
ジミー「実は今日、アレン様から儂とアイたち全員にセルジの村を襲っている魔獣のトラの退治を命じられた。
恐らく儂がおってもアイたちには手に余る相手であろう。それに旅の日数も下手すると一か月を越えるかもしれぬ。
そのための準備の方をお前とカイとダイで少しずつやってくれ。アイたちにも手伝わせるとよいだろう。
すまんが頼む…」
ハドル「承知いたしました。食料や水のようなものは私が出入りの者に
武器などについてはカイとダイの方が詳しいので、あの者たちからお嬢さま、お坊ちゃまに説明するように申しておきます。」
ジミーは身だしなみを整えると、一度大きく息を
ジミー「アイたちがやってきてから、お前たちにも迷惑のかけ通しになってしまった。本当にすまんな…」
ハドル「我ら使用人たち全員、お嬢さま、お坊ちゃまのために働くのに何の
ご主人様、そしてお嬢さま、お坊ちゃまのためなら何なりとお申し付けください。どのようなことでもいたします…」
ハドルがジミーの目を見てキッパリと言うと、ジミーはもう一度彼に頭を下げた。
ジミー「では、行ってくる。アイたちのことを頼んだ。」
ハドルは黙って部屋を出ると馬車を呼ぶ。そして、ジミーが馬車に乗り込むと深々と頭を下げた。
ハドル「行ってらっしゃいませ、ご主人様…」
*
ジミーがバグの店に着くと、昨日と同じように店の前には多くの人々が集まっていた。
ジミーは今日も馬車を店から離れたところに待たせ、店の傍にまで行く。
今日は昨日とは違い一番奥の家にまで行くこともなく、遠巻きに店の様子を見ている。
すると店の者らしき男がジミーのことに気づき、彼の傍までやって来た。
店の男「失礼ですが、ブロッケン
ジミー「
店の男「承知いたしました。どうぞこちらへお越しください…」
店員は小さくうなずくと、ジミーを先導して店に入った。
店の男はそのまま店の奥へ行き、階段を上って昨日ジミーが通された部屋まで彼を案内する。
店の男「ご主人様は直ぐに参ります。しばらくこちらでお待ちください。」
ジミー「騒がせて申し訳ない…」
ジミーが部屋の
ジミーはストレージからさっき自分の部屋から探し出した本を取り出すと、ページをめくって中を確かめる。するとゴソゴソと誰かがやって来た音がした。
ジミーが本を置いて立ち上がるとドアが開いた。
バグ「失礼いたします。お待たせいたしました、ジミー様…」
ジミー「いや、毎日々々
ジミーはバグと握手をすると、また互いに机の前に座った。
ジミー「今朝は時間もないのに手紙を作ってもらい、申し訳なかった。ちゃんとした中身で助かった…」
バグ「では、アレン様もあの内容で
ジミー「うむ、アレン様も側近のエドアン
とりあえず儂とアイたちの関係は信じて下さったようじゃ…」
バグ「それで
ジミー「それがな…」
ジミーは少し言いにくそうに口ごもる。
ジミー「実は儂が思っていた通り、アレン様はアイたちの
それで…お怒りになられたアレン様から
バグ「魔獣のトラと言うとあのセルジの村に
ジミー「そう、その魔獣のことじゃ…」
バグもジミーもしばらくの間何も言わず黙ってしまう。やがてバグが口を開いた。
バグ「セルジの村を襲っている魔獣のトラにつきましては先月最初の勇者パーティーが
その後に次のパーティーが参りましたが、彼らは半数の4,5人が魔獣にやられたとのこと。
そして先日二つのパーティーが
ジミー「さすがに武器商人だけあるな、お主は早耳じゃ…」
ジミーは感心して首を振るが、バグは厳しい表情をする。
バグ「店に入ってくる話を聞いても今度の魔獣はただ物ではないようで、いくらジミー様であっても
なにゆえアレン様はそのような
ジミー「まあ、腹立ちまぎれに我らに命じられたのであろう。
こういうことは難しければ難しいほど我らが困るからな…」
バグ「何とも申し上げられませぬが…」
バグは答えに
バグ「そちらの御本は…」
ジミー「おお、今日はこれのことを頼みに参ったのだ。
今度の魔獣退治は相当苦労すると思ってこの武器を用意して
ジミーは本を開いてバグに見せる。そこには何かの武器の絵や図面らしきものが描かれている。
バグ「この武器ですか?」
ジミー「うむ…最近冒険者ギルドでも2,3度見かけたことがあって調べたのじゃが、これがあれば武術の能力などが無くとも戦えるからな…」
バグ「そうですか…わたくしも最近幾度か
それで、いくつ用意いたしましょう?」
ジミー「一応儂の分も含めて10台頼みたい。
それとこちらもな…これは一部を鉄にして欲しいのじゃが…」
バグ「それは今度の魔獣のために、ということですな…」
ジミー「そうじゃ…何と言っても噂だけでもただ物ではないようだからな、相当な準備をしていかねばならぬようじゃ…」
ジミーはそう言って本をバグの方へ押しやった。
ジミー「役に立つかどうかは分からぬが、これはお主が自由に使ってくれ。」
バグ「では、ありがたくお借りいたします。」
バグは軽く頭を下げて本を手に取ると、それを自分のストレージに入れた。
バグ「他にご
ジミー「まだ命令を受けたばかりでな…武器や武具のことはカイとダイ、それとアイたちに確認させるつもりだが、儂も自分の目で確かめよう。
それで不足の物があれば屋敷の者からまたお主にお願いしようと思う。」
バグ「承知いたしました。また、何なりとお申し付けくださいませ。
それと、こちらの武器は多少お時間を
ジミー「どれぐらい
バグ「こちらも調べねばはっきりしたことはわかりかねますが、どれ程
ジミー「そうか…申し訳ないができるだけ早く頼む。」
バグ「承知いたしました…」
バグから魔獣の話を聞いたせいか、ジミーはかなり難しい顔をして黙り込んだ。
そんなジミーにバグはにっこりして話しかける。
バグ「「
バグの笑顔を見て、ジミーも表情を崩す。
ジミー「慣れぬ屋敷の暮らしに苦労しているようじゃ。エルザにしょっちゅう怒られているようだからな(笑)…」
バグ「(笑)…」
ジミー「仕方ない、儂もこの地に移り住んですぐの頃はエルザに
エルザには大目に見るようにと言ってあるのじゃが…」
バグ「
ジミー「エルザもそう思っておるのじゃろう…
アイたちもよく我慢して彼女の言いつけを聞いておるようじゃ…」
バグ「せっかくレアの村からお越しになられたので、わたくしも一度お顔を拝見いたしたいですが、それもこれも何事も落ち着いてからになりましょう…」
ジミー「そうだな…儂らが無事にこの街に戻ってこられれば…と言っておこうか。」
ジミーは
ジミー「今日も長居をしてしまった…来る度に難しいことばかり頼んで申し訳ない。武器のことはよろしく頼んだ…」
バグ「そうしたご注文にお
バグもそう言って立ち上がると、昨日と同じように自分が先頭になってジミーを案内する。
するとまた階段のところで
女中が差し
女中に案内されて、ジミーは昨日入ってきた一番奥の家のドアから外へ出た。その時にはまた難しい表情に戻っている。
ジミーはそんな表情を崩さずに再び馬車に乗って屋敷に戻った。
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