※この作品はR-18です。

ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~   作:イジー・ムラシロ

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114 遊戯室での対話

 朝早くから登城(とじょう)してきたアイたちは正午頃には昼食を終えてそれぞれが自分の部屋に戻った。

 それからみんな、何も言わずにベッドに入って本当に何時間か眠ってしまった。

 

 そして午後3時ぐらいになって、目を覚ました者から三々五々(さんさんごうごう)遊戯室(ゆうぎしつ)に集まってきた。

 

モア「フア~~~~~…」

アカリ「よく寝れた?」

ソラ「う~~~ん、まあよく寝たほう…」

アユミ「うん、私はよく寝れたよ…」

ルカ「うん、大丈夫。ツグミは?」

ツグミ「私も寝れたよ…」

 

 そこにアイとナオ、そしてまだ寝ぼけた顔をしたタクミも入ってきた。

 

タクミ「う~~~ん、よく寝たー…」

ナオ「昨日の夜はどうだったの?上手く寝れた?」

タクミ「あー、昨日の晩の方が寝つけなかった…静かだし、真っ暗だし、誰もいないし…

 本当は誰かの部屋に入れてほしいよ…」

アイ「大の男がなに言ってんのよ。」

ソラ「…まあ、気持ちは分かるけど(笑)…」

アユミ「確かに(笑)…」

 

 部屋に入ってきたみんなは思い思いに椅子に座ったり、床の上の敷物(しきもの)に寝そべったりする。

 モアはテーブルの上のボードゲームやカードを触ってみるが、どれもやり方が全く分からないので直ぐに諦(あきら)めて床に敷かれた毛皮の上に寝転がった。

 ルカが気を利(き)かせて紅茶を入れてみんなに渡す。

 

アユミ「あっ、ごめん…」

ルカ「ううん、これぐらい一人で大丈夫…」

アイ「ありがとう…」

ソラ「ありがとう、いただきまぁ~す!」

アカリ「いっつも調子良すぎだよ(笑)…」

ナオ「そマ(それマジ)(笑)…」

 

 それでも紅茶を飲んで落ち着くと、それぞれがやっと頭が回ってくる。

 

 ジミーと会ってわずか4日で状況が目まぐるしく変わって落ち着く暇(ひま)もなかったが、とりあえずやっと一息つくことができた。

 アイたちは互いに何を言えばいいのか分からず、しばらく誰も何も言わなかった。

 

ソラ「でーーー、これからうちらどうなるんだろう…」

 

 ソラが誰かに尋ねるような、独り言を言うような、そんな何とも言えないような感じで声を上げると、それを合図にしたように何人かが「フー」とため息をついた。

 

アカリ「まあ、魔獣(まじゅう)退治に行くって言やあ当たり前なんだけど…」

ルカ「でも、ジミーさんは直ぐに行くわけじゃないって言ってたし…」

アユミ「じゃあ、いつ頃出発するんだろう?」

ツグミ「準備って、いろんな物が要(い)りそうだけど…」

 

 アイたちもここまで旅をしてきたわけであり、自分たちで危険なクエストもしてきたが、やはり今度は失敗した時のことが頭に引っかかっているのか、今までのクエストへの旅とは違うという気持ちがある。

 だが、いざ何が必要なのかと考えると、直ぐにこれが必要だと浮かんでくるわけではなかった。

 

タクミ「ジミーさんも言ってたけど、まずは相手の魔獣のトラの情報だよ。

 どんなヤツか分からなかったら、どんな準備が要るのかも分かんないし…」

ナオ「それはタクミの言う通りだね。今まで戦ってきた魔獣もかなり凶暴(きょうぼう)だったけど、今度はわざわざ討伐(とうばつ)の命令をされるぐらいなわけだから…」

アユミ「だとしたら、人も殺してるのかな?…」

アイ「かもしれない。そうじゃないと領主の貴族が命令なんかしないと思う。」

ツグミ「…怖(こわ)い…」

 

 全員が準備のことを考え出したところで遊戯室のドアがノックされた。

 傍にいたルカが急いでドアを開けると、そこにはジミーが立っていた。

 

ジミー「休んでいるところ、すまんな…今は邪魔してもよいかな?」

アイ「もちろんです。私たちもさっき起きたばかりなので…」

 

 テーブルの前の椅子に座っていたタクミが立ち上がり、その椅子をジミーに勧(すす)める。

 ジミーは断ろうとするが、他の女の子たちも勧めるのでそこに座った。

 ルカがすぐにジミーの分の飲み物を出した。

 

ジミー「おお、自分たちの分の飲み水を出したとは聞いたが、他の飲み物も出せるのか?これはお茶だな…」

ルカ「はい、お茶が3種類とコーヒーや牛乳、それに果物の果汁で作ったジュースも出せます。」

 

ジミー「なるほど、それはたくさん出せるのだな…え~っと、お前は?…」

ルカ「私はルカです。私以外にもアユミちゃんとナオちゃんも飲み物が出せます。

 他の女の子も飲み水は出せるので…」

 

 ルカが名前を出したので、アユミとナオは立ち上がってルカの傍に行った。

 ジミーはうなずいてアユミとナオを小さく指差す。

 

ジミー「お前がアユミで、こちらがナオでよかったかな?」

アユミ「そうです。」

ナオ「はい、私がナオです。」

ジミー「すまんな…もう歳(とし)でなかなか名前が覚(おぼ)えられぬものでな…

 間違った時もすまんが教えてくれ。よろしく頼む…」

ナオ「わかりました…」

 

 他の女の子たちもジミーに向かってうなずくと、ジミーはコップの紅茶に口をつける。

 ルカとアユミとナオも椅子や敷物に腰を下ろした。

 ジミーが落ち着いたのを見て、アイが口を開いた。

 

アイ「あのー御父上、さっきも私たちで言ってたんですが、準備って何をすればいいですか?」

 

 ジミーはアイが「御父上」と言ったのを聞いて首を横に振る。

 

ジミー「儂(わし)らだけの時は「御父上」などと言わずともよい…

 それはエルザや他の使用人たちがいる時だけでよいからな…。

 

 まあ、儂もエルザからこの地に移り住んですぐの頃には礼儀作法も言葉遣(づか)いも厳しく言われたが、そのおかげで今はお城などで恥をかかずに済んでおる。

 お前たちには爵位(しゃくい)は受け継(つ)がれなくとも、今後何かしら貴族たちと付き合うようなことがあるかもしれぬ。

 そう思うとうるさいかもしれぬが、しばらくはエルザの言葉を聞いてくれ。」

アイ「分かりました…」

 

 ジミーはコップをテーブルに置くと、改めて全員の顔を見回す。

 

ジミー「さて、アイから準備という話があったが、確かに今度の旅には食べ物や飲み物、武器や武具といった物をしっかりと準備する必要がある。

 だが、そうした物の準備よりももっと大切なことがある…」

ナオ「もっと大切なこと…」

 

ジミー「それはな、儂らがお互いのことをもっとよく知るということじゃ。

 アレン様からのご命令があって儂らは直ぐにクエストに行かねばならなくなったが、儂らが知り合ってまだ4日、互いに十分話もできていない。

 それでこのまま魔獣退治に行って上手くやるのは難しいだろう…」

アカリ「じゃあ、そのための時間を…」

 

ジミー「そうだ。今もこうしてお前たちと話をしようと思ったのは少しでもお前たちのことを知りたいと思ってな。

 それでルカやアユミがいろいろな種類の飲み物を出せると分かった。これも旅では大事なことじゃ…」

モア「じゃあ、私たちがいちいち何ができるとか話す方がいいですか?」

 

 モアがそう言うと、ジミーは微笑んでテーブルの上のコップをまた手に取った。

 

ジミー「このコップはどうしたんじゃ?これも魔法で出せるのか?」

ツグミ「はい、私やナオやルカちゃんが出せます。」

ジミー「そうか、お前は名前は…」

ツグミ「ツグミ、ツグミです。」

 

 ジミーはツグミが答えるのを見て、大きくうなずく。

 

ジミー「確かにさっき言ったように一人々々から能力を聞くのもよいが、どうじゃ、こうして互いに話をする方がよいとは思わぬか?

 儂も一人々々が話しているのをずっと聞いていると疲れてしまうし、お前たちもつまらないじゃろうて…

 だからな、お前たちから儂に聞きたいことがあれば、何でも聞いてくれればいいのじゃ。そうして、互いに話をしよう…」

 

 アイたちはジミーの言葉に顔を見合わせるが、ナオとアユミは目を見合ってから切り出した。

 

アユミ「あの~、ジミーさんは食事は何がお好きですか?…」

ナオ「私とアユミとルカが主に食事の用意をしているので…」

ジミー「ではお前たちが食べ物や飲み物が出せて、その調理もしているのだな…」

アユミ「はい。」

 

 アユミとナオの話を聞いて、ジミーはにっこりする。

 

ジミー「儂は長い間クエストで旅ばかりしてきたので、それほど好き嫌いなどはない。

 美味(うま)い料理や贅沢(ぜいたく)なものも口にするようになったのはこのリラにやってきてからじゃ。

 

 だが、マデラの料理はかなり美味いので、もしかしたら舌が肥(こ)えてしまっているやもしれぬな…

 これまではどのようなものを作ったのじゃ?」

 

アユミ「自分たちで出せるハムやソーセージを焼いたり、肉を焼いたりするのが多かったです。

それとレンズ豆でスープを作ったりもしました。」

ナオ「今日の昼食に出たのはガレットでしたが、自分たちでは小麦粉でクレープを作ったこともあります。」

ルカ「それ以外だと、サンドウィッチを作るのが多かったです。」

 

 ジミーはうんうんとうなずく。

 

ジミー「パンや肉やハムなども出せるのか?それに野菜もそうか?」

アユミ「パンは私たちだけじゃなくて、ソラやモアやツグミも出せます。

 肉も鶏肉や豚肉や牛肉が出せて、ハムやソーセージも何種類か…」

 

ナオ「野菜もいろんな種類が出せますが、それ以外にドムニの町ではお店でレンズ豆や果物や蕎麦(そば)粉(こ)を買ったりもしました。」

ジミー「そうか、食べ物の種類もよいが、量はどうじゃ?一度にどれぐらい出せるかな?」

 

 アユミとナオとルカは顔を見合わせ、しばらく考えていたが、ちょっと考えながら答える。

 

ルカ「あまり正確には分からないんですけど…どの食べ物も一回で4,5人分ぐらいの気がします…」

ナオ「なので、出来るだけ何もない時にいろんな種類の食べ物と飲み物を出して、それぞれのストレージに分けて持っておくようにしています。」

 

 ジミーはナオの答えを聞いてますます笑顔になった。

 

ジミー「やはりお前たちはちゃんとした教えを受け、考えるということができるのぉ…

 儂が勇者パーティーを率(ひき)いていた頃に多くの若い者を見たが、この世界の者にはそうした先のこと考えるということが出来ぬ者も少なくなかった。

 

 そういう者は食料もあればあるだけ食べようとしたし、先を見越して貯(た)めておくということを教えねばならなかった。

 そうした知恵を授(さず)かっている者もいたが、多くはそうしたことを知る機会すらないのじゃ…」

アユミ「そうですか…」

 

 ジミーは今度はアイやアカリの方を見る。

 

ジミー「それではアユミやルカなどが料理をして、お前たちは最前線で身体を張って戦ってきたのじゃな…」

アイ「まあ、私やアカリはどちらかと言えばそうですね…」

アカリ「料理や洗濯を手伝ったり、焚(た)き木を集めたりはしてました…」

 

 アイが少し口ごもるのを見て、ツグミが急いで言う。

 

ツグミ「アイちゃんは戦いの時は真っ先に魔獣と戦ってくれたし、村や町の人と話す時も最初にいろいろ言ってくれてました。」

ソラ「そうそう、うちらなんかしょっちゅうアイの後ろに隠(かく)れてたもんね。」

アカリ「あんたは別に隠れてなんてないよ…」

ソラ「え~、そうだっけ?」

アイ「ソラ、あんたはいいよ…」

 

 ソラが調子に乗って話し出すのをアイがたしなめるが、ジミーはその様子もニコニコして見ていた。

 ナオがツグミの話を引き取る。

 

ナオ「私やアユミやルカは生活魔法が多く使えるので、自然に料理や洗濯をすることが多いです。

 でも、他のみんなもちゃんと手伝ってくれますし、戦う時は確かにアイやアカリが先頭になってくれてますが、全員で力を合わせて、っていう感じです。」

 

ジミー「そうか、よく分かった…それよりも今のお前たち同士の話でお前たちそれぞれの役割が何となく分かってきたわ(笑)…」

アイ「それは…」

 

 アイはまだソラの方をちょっと睨(にら)むが、ジミーは首を振る。

 

ジミー「儂にとってはな、お前たちのそれぞれの能力よりもそうしたやり取りで見えることの方が大切じゃ。

 アイがリーダーなのはすぐに分かるが、それ以外のリーダーは誰で、盛り上げ役は誰なのか。

 誰が誰の言葉をよく聞いているのか。一緒に旅をして、一緒に戦う時にはそんなことが大事だからな…

 だが、ナオの話もありがたい。では、戦う時には全員が参加できるのじゃな。」

タクミ「あっ、いや~…」

 

 ジミーの言葉にタクミがすぐに口を開いた。

 

タクミ「実は…アユミさんは生活魔法と回復魔法が使えるだけで、戦うための能力はありません。それと、オレも…」

ジミー「そうか、タクミも夜のための能力だけだったかな?」

タクミ「まあ、ステイタスに出てくるのはそればっかりなんですけど…」

 

 タクミは自分の変わった能力のことを言われてそれ以上何も言えなくなる。

 するとツグミがすぐに引き取った。

 

ツグミ「でも、タクミ君も一生懸命戦ってくれてます。

 初めてオオカミに襲(おそ)われた時もタクミ君がソラちゃんを助けたし、ゴブリンもいっぱいやっつけてくれたし、それに戦う前にどうやって戦うのかも教えてくれます。」

ジミー「ほう…」

 

 ツグミの言葉にジミーは改めてタクミのことをジッと見た。タクミは一層もじもじする。

 

ジミー「タクミ、お前は武術の能力はほとんどないが、それでも戦闘に参加しているのだな…」

タクミ「ま、まあ、アユミさんを守るぐらいですけど…」

アユミ「そんなことないです。ツグミちゃんが言ったみたいにソラを助けたり、魔獣のオオカミと戦った時もみんなと一緒にいました。」

 

ジミー「では、なぜそんなに隠そうとするのじゃ…実際に戦っておるのなら、そう言えばよい…」

タクミ「いや~、オレより他のみんなの方が役に立ってるんで…」

 

 ジミーはタクミの言葉を聞くと、椅子から立ち上がって彼の傍まで行く。

 

ジミー「タクミ、お前はこの中でたった一人の男だが、それにもかかわらずアイやアカリの方が武術の能力が高く、お前より活躍しているのが気になっているのではないか?」

タクミ「いや~、そんなつもりはないんですけど…」

 

ジミー「では何を気にしておる?他の者もお前がちゃんと仲間を助けていると言っているではないか…

 お前がもし男ながら女たちに助けられているのを気にしておるのなら、何も心配することはない。

 お前はお前のできることをすればいいのじゃ。実際にそうしてきたのを皆も認めておる。

 だからな、そんなに自分のことを卑下(ひげ)することはない…」

タクミ「はあ…」

 

 ジミーはタクミの肩に手を置くと、他の女の子たちのことも見回す。

 

ジミー「他の者も同様じゃ。お前たちの能力はそれぞれ少しずつ違う。だから、活躍できるところもそれぞれ違うはずじゃ。

 だが、戦うのが偉(えら)く、料理や洗濯は偉くないわけではない、そうだろう?

 

 儂らのようにクエストで旅をして戦う時にはそれぞれができることで助け合うのが一番大事なのじゃ。

 だから、誰かのように出来ないからといって気に病むことはない。

 それよりも出来ることをやって、助け合おう、よいな…」

 

 ジミーはもう一度タクミの顔を見ると、ニコッと笑って肩を叩く。タクミも黙ってうなずいた。

 彼は改めてテーブルの前の椅子に腰を下ろすと、また全員を見渡した。

 アイがジミーが腰を下ろしたのを見て口を開く。

 

アイ「さっきも話していたんですけど、今度相手にする魔獣のトラってどんな魔獣なんですか?

 例えば何人ぐらい人を殺しているのかとか、どれぐらい大きなヤツなのかとか…」

 

 ジミーはテーブルの上のコップに一度口をつけると、フッと息を吐いた。

 

ジミー「その魔獣については儂もまだ詳(くわ)しいことは分からぬ。

 この後、今朝我らを案内して下さったオーウェン卿(きょう)が来られて詳細をお話して下さることになっている。

 わずかに聞いた話だと、既に何人かを咬(か)み殺しているらしい。

 そういう意味では準備もしっかりとしていかねばならぬだろう…」

タクミ「人喰い虎って…」

 

 タクミがそう言うのを聞いて、アイたち全員の顔がこわばった。

 だが、ジミーだけは微笑んだまま軽くうなずく。

 

ジミー「お前たちが不安に思うのは当然で、それに人を殺(あや)めていると聞けば尚更(なおさら)だろう。

 だが、相手がどんなものであれ、十分な準備をすることには変わらぬ。

 今度の魔獣はある程度その姿を見た者もいるようだが、これからクエストで相手にするような魔獣の中にはどんな姿をしておるのか、よく分からぬようなことも少なくない。

 

 そんな時でも戦わねばならぬと思えば、細(こま)かなことまで気をつけて用意をしていく必要がある…

 だからな、相手のことを知るのももちろん大事だが、どんな相手でも戦えるようにしておく、そうした心構(こころがま)えで準備をしておこう、よいな…」

 

 失敗すると死罪になるということや相手が人喰い虎だということを聞いて、アイたちが不安に固まってしまっているのに対して、ジミーは初めてギルドで出会った時と同じような落ち着きを払(はら)った様子のままだった。

 

 昨日から次に何が起こるのかをはっきりと見通してきたように、ジミーの態度を見ているとこれからの魔獣退治でも何が起こるのか何もかも分かっているようで、そんなジミーの様子にみんなの不安も少しずつ和(やわ)らいでいくような気がした。

 ジミーは話を切ると、もう一度椅子に深く座り直した。

 

ジミー「では、明日からのことを少しだけ言っておこう。

 まずいつ頃出発するのかということじゃが、儂は一週間から十日、もしかすると二週間ぐらい後になるのではないかと思っておる。」

アカリ「一週間から二週間後…」

 

 ジミーからかなり経ってから出発すると聞かされて、アイたちは互いに顔を見合わせた。

 ジミーはゆっくりと首を振る。

 

ジミー「まずは食料や薪(たきぎ)、武器や武具やそれ以外の道具を用意せねばならぬ。魔獣退治にどれだけの日数が掛かるのかも分からぬ。

 かなり念入りに準備をせねばならぬし、それだけの食料や薪を買い入れるだけでもある程度日にちが要(い)るからな…」

アイ「その間、私たちは何をすればいいですか?」

 

 アイの質問にジミーは黙ってうなずく。

 

ジミー「お前たちのストレージはかなりの量入れることができるようなので、こうした食料や薪、武器や武具などはお前たちが一つ々々確かめて用意するのだ。

 武器庫や食糧庫などはカイやダイに案内させよう。儂が案内してもよいしな…」

ナオ「全員で準備したほうがいいですか?」

 

ジミー「戦(いくさ)の時に何かを考えられるのは一瞬だけじゃ。

 だから、自分たちが何を用意してきたのかを全員が知っていなければならぬ。一瞬の判断の遅れが命取りになるからな。

 誰が何をストレージに入れていくのだとしても、全員がしっかりと何を準備したのかを見ておくのじゃ、よいな…」

アイ「分かりました…」

 

 アイがみんなの顔を見ると、みんなも黙ってうなずいた。

 

ジミー「それと明日の午後からは街の外にある練兵場(れんぺいじょう)へ行って戦闘の訓練を行う。

 お前たちが実際に武器を奮(ふる)ったり、魔法を使ったりしているところを見たいし、またどのように戦うのがよいのか、そうしたことの訓練も必要だからな…」

アカリ「実際の戦い方について…」

 

ジミー「そう、それでまた別の機会でよいのでこれまでどのように戦ってきたのかをお前たちから聞かせてほしい。

 お前たちがどれだけのことができ、何が必要なのかを確かめねばならぬからな。

 まあ、リラの村でクマを倒したり、魔獣のオオカミと戦ったりしておるので、そこまで心配はしておらぬが…」

 

 ジミーが話を切ると、タクミが言う。

 

タクミ「オレたちも何とか考えなければ戦ってきましたが、元の世界ではこんなふうに魔獣や盗賊なんかと戦うことなんてなくて、それで本当に我流で何とかやってきて…

 だから、みんなと誰かにちゃんとした戦い方を聞きたいって話していたんです。」

 

 タクミの言葉に全員がうなずく。ジミーはその様子をジッと見ていた。

 

ジミー「わかった、それぞれがどのような役割を果たすのがよいか、それを教えるようにしよう。

 だがな、一つだけ分かっておいてくれ。

 お前たちは実際にいくつかのクエストを果たして魔獣や盗賊を倒しておる。その経験が結局は最も大切なのじゃ。

 

 もちろんそれが過信(かしん)に繋(つな)がることは危険なことじゃが、お前たちがしてきた戦い方にも必ず意味があるからな。

 だから、我流だからといって卑下することはない。

 

 王都で参謀(さんぼう)たちから戦い方を習っても、それが実際の戦場で役に立たねば意味はない。

 お前たちは既に魔獣を退治しておるのだから、その時にはそれが正しかったのじゃ。だから、もっと自分たちに自信を持てばよい。」

モア「じゃあ、今までやってきたようにすればいいじゃん」

ナオ「モア…」

 

 ジミーはモアを見ながら首を振る。

 

ジミー「だが、戦場というのは一回々々それぞれが違っておる。

 だから今までの成功に囚(とら)われると、思わぬ落とし穴に足をすくわれてしまう。多くの者がお前のように考え、命を落としてきた…」

モア「じゃあ…」

ジミー「そう、そこが難しいのじゃ。自信を持つということと、それでも己(おのれ)を省(かえり)みてその都度(つど)しっかりと準備を行うということ。

 その両方ができる者は意外と少ない。だが、その準備が戦場やクエストの場で生死を分けるのじゃ、よいな…」

 

 モアはジミーの言葉にこくんとうなずきながらポツリと言う。

 

モア「……あの~…モアって言います……」

ジミー「うむ?どうした?」

モア「…モアって…名前…」

 

 モアのか細(ぼそ)い声に気づき、ジミーは笑い出した。

 

ジミー「ふっふっふ(笑)…分かった、儂が悪かった。お前の名前を聞かなかったな(笑)…

 そうか、お前の名はモアだな、頑張(がんば)って覚えるようにするからな。」

モア「ありがとうございます(笑)…」

アユミ「もう、モア…」

ジミー「よいよい(笑)…」

 

 モアのせいで話題が変わってしまい、アユミだけでなくアイも怖(こわ)い顔をするが、当の本人は名前を呼ばれてニコニコしていた。

 ジミーはそんなモアの様子を見ながら、椅子から立ち上がった。

 

ジミー「では、長話になってしまったな。明日の午前中も特に何もなければもう少し話をしよう。

 まあ、今日は儂が話してばかりだったな…また何でも聞いてくれ。」

アイ「いえ、わざわざ来てくださってありがとうございました。私たちもお話できて嬉(うれ)しかったです。」

 

 アイが立ち上がったのを見て他のみんなも立ち上がるが、ジミーは仕草でそのままでよいというふうに言って、部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 




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