※この作品はR-18です。

ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~   作:イジー・ムラシロ

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120 最初の訓練を終えて

 練兵場(れんぺいじょう)でジミーの全員でまとまって戦わなければならないという言葉を聞いて、モアがぼそっと言う。

 

モア「今までずっと一緒に戦ってきたじゃん…」

ツグミ「モアちゃん、また…」

アイ「もう、一言多いよ…」

 

 だがそんなモアの言葉が聞こえたのか、ジミーは軽く笑った。

 

ジミー「はっはっは(笑)、そうか、それならばよい。お前たちはこれまでよく考えて戦ってきたようだな…」

アイ「すいません…」

ジミー「何も謝(あやま)らずともよい。モアの言う通りなのだろう?

 ならば、これからもそれを忘れないようにすればよい…」

 

 だが、ジミーは急に真面目な表情に変わる。

 

ジミー「今のお前たちは自分たちがまだ十分な力を持っていないと分かっている。だから、仲間たちと力を合わせることが自然に出来ている。

 しかしお前たちは「彷徨(さまよ)い人」じゃ、これから持っている力がどんどんと強くなっていくであろう。

 皆が大きな力を持つようになった時、それでも全員が力を合わせることができるか…

 いいか、そのことをよく覚えておくのじゃ…」

 

ソラ「そんな、どんな時でも全員で戦います…」

ツグミ「バラバラになることなんて考えられないです…」

ジミー「そうか…お前たちがそう言うなら、儂(わし)の杞憂(きゆう)なのだろう…」

 

 ジミーがアイたちと話していると、そこにみんなともう少し離れたところで剣の練習をしていたタクミとアユミ、そしてダイが戻ってくる。

 ダイは涼(すず)しい表情だが、タクミもアユミも疲れ切った顔をしていた。

 

ジミー「おお、お前たちも疲れたであろう。ダイ、どうじゃこの2人は…」

ダイ「はい、私の話をよく聞いて練習なされたので、どうやらお二人ともに「剣」の能力が付いたようです。」

 

タクミ「今までにないぐらい、木剣を振りました。」

アユミ「なかなか上手く力が入らなくて…」

ジミー「はっはっは、残念だがそんなに簡単には身につくものではない。まあ、明日からはナオたちも剣の使い方を覚えねばならぬな…」

 

モア「えっ~、魔法だけでも大変なのに~…」

アイ「また、なに言っての…」

ジミー「ふっふっ、モア、森で一人はぐれたお前の前にトラが出てきても後悔しないか(笑)…」

モア「もう~、話が極端(きょくたん)すぎる~…でも、怖(こわ)いから頑張(がんば)る…」

ジミー「はっはっはっ(笑)」

アカリ「相変わらずだよ、この子は(笑)」

全員「(笑)」

 

 ジミーの言葉にしゅんとしたモアを見て、そこにいた全員が爆笑した。

 その時、ふと空を見上げたカイがジミーに小声で言う。

 

カイ「旦那様、そろそろ次にここを使われる人がやって来られるかもしれません。」

ジミー「そうか、もうそんな時間か…」

 

 確かに太陽も少しずつ西に傾(かたむ)いてきていて、ジミーは全員に言った。

 

ジミー「さあ、では片付けをして屋敷へ戻ろう。ダイ、明日もここを使えるのか?」

ダイ「明日は申し訳ございませんが、他の方々が調練(ちょうれん)をなされるようです。」

ジミー「分かった。では、また日を改めてここへ来よう。さあ、全員で協力して道具を片付けてしまおう。」

 

 ジミーに言われ、アイたちは魔法のための的(まと)や木剣などの道具をまとめて最初にあった倉庫まで運んだ。

 そして、それぞれがマントを羽織(はお)って帰ろうとした時、入り口の辺りに人影が見える。

 ジミーは厳しい表情に変わってその人物を見つめた。

 

 だが、練兵場の入り口に立っている人物も驚いた様子で大声を上げる。

 

「そこにおられるのはジミー殿ではないですか⁉」

 

 ジミーはその声を聞くと表情を緩(ゆる)めてアイたちを見る。

 

ジミー「大丈夫じゃ、あれはグレッグ殿よ…」

 

 ジミーがそう言いながら声の主へと近づくと、確かにその人物はオーウェン子爵(ししゃく)だった。

 

オーウェン子爵「ジミー殿、こんなところにお越(こ)しになられているとは…」

ジミー「グレッグ殿はこれからここをお使いになられるのか?」

オーウェン子爵「いいえ、私の部隊の一部が明日ここで調練を行うので、道具などを確認するために参りました。」

ジミー「わざわざご自身で来られるとは、さすがオーウェン家のお方じゃ…」

 

 ジミーはオーウェン卿と固く握手をすると、手を振ってアイたちを呼んだ。

 

ジミー「お前たち、昨日お城で案内をして下さったグレッグ殿じゃ。みな集まって挨拶(あいさつ)をせよ。」

 

 アイたちはジミーに呼ばれてオーウェン卿(きょう)の前まで来るが、フードを取ればいいのか分からず互いに顔を見合わせる。

 

ジミー「ここは城ではない。それにグレッグ殿なら顔をお見せしても構(かま)わぬ。さあ、フードを脱いで挨拶しなさい。」

 

 ジミーの言葉でみんなはフードを取ると、オーウェン卿に深々と頭を下げた。

 

アイ「昨日はフード姿のままご挨拶をし、大変失礼いたしました。

 わたくし、ブロッケン男爵(だんしゃく)閣下(かっか)の養子となり御後見(ごこうけん)して頂(いただ)くことになりましたアイと申します。宜(よろ)しくお願い致します。」

 

 アイが頭を下げて丁寧(ていねい)に名乗ると、他のみんなも彼女と同じように丁寧に挨拶をした。

 

 だが、オーウェン卿はアイたちがフードを取ってから、ずっとあっけに取られたような顔をしている。

 そして、最後にタクミが挨拶をすると、我に返ってアイたちに会釈(えしゃく)を返した。

 

オーウェン子爵「これは失礼いたしました。改めて、グレゴリー・オーウェンと申します。どうかジミー殿と同じようにグレッグとお呼び下さい…

 しかし、昨日はお顔を拝見(はいけん)出来ませんでしたが、今日皆様のお顔を拝見し、確かに噂(うわさ)通りだと初めて分かりました。

 

 いや、本当に皆様全員がお美しい…ジミー殿がどうしてもアレン様に皆様の顔をお見せせぬようになされた理由(わけ)が分かりました。」

アイ「そのようなお言葉、お世辞(せじ)でもありがたいです。」

 

オーウェン子爵「いえいえ、決してお世辞などではございません。今のような勇者のお姿でも十分にお美しい。

 ましてや貴族のご息女(そくじょ)として着飾(きかざ)るようになされば、他の貴族のご息女では足元にも及(およ)びますまい…」

アイ「そんなことは…」

ジミー「まあ、この者たちの容姿(ようし)の話はこれぐらいでよいでしょう…」

 

 オーウェン卿の少し大げさにも聞こえる褒(ほ)め言葉にアイをはじめ女の子たちはみなもじもじするが、モアだけはその言葉をそのまま受け取って満面(まんめん)の笑みを浮かべていた。

 それに気づいたナオがまたモアの脇を肘(ひじ)でつつく。

 

オーウェン子爵「では、今日は魔獣(まじゅう)退治(たいじ)のための訓練に?…」

ジミー「左様(さよう)、グレッグ殿のお話を伺(うかが)う前からここで訓練をするのは決まっておったのじゃが、みなに今朝伺った話をすると目の色が変わってな…

 難しいクエストと分かってこの者たちも真剣じゃよ…」

 

オーウェン子爵「そうですか…皆様には我らの部隊からも応援を出せればよいのですが、何分にもアレン様のお許しが無ければ…」

 

 オーウェン卿は名家の出身だと聞いていたが、貴族にもかかわらずその話しぶりや態度の腰の低さにアイたちの方が恐縮(きょうしゅく)してしまう。

 そんなオーウェン卿と話しているジミーにダイが耳打ちする。

 

ジミー「そうか、もう戻らねばな…グレッグ殿、申し訳ないが屋敷に戻らねばならぬ時間だという。

 また屋敷に来て下さらぬか、その時にゆっくりと話をしよう。」

オーウェン子爵「これは失礼いたしました。皆様、またどこかでゆっくりとお話致(いた)しましょう。

 魔獣についても分かったことをお知らせいたしますので…」

ジミー「では、失礼する…」

 

 ジミーがオーウェン卿に会釈すると、アイたちも全員が頭を下げた。

 オーウェン卿も全員に会釈を返すと倉庫の方へ歩いていった。

 馬車に乗り込んでもまだ何か興奮が残っているのか、何人かが小声でこそこそと話をする。

 

ソラ「昨日は分からなかったけど、グレッグ様って結構イケメンだったよね…」

アカリ「歳(とし)も私たちとそんなに変わんないみたい…」

モア「私、結構タイプかな~」

アユミ「もう、喋(しゃべ)ってちゃダメだよ…」

ジミー「こらこら、屋敷に戻るまで話してはならぬ。」

 

 ジミーに注意されて全員が黙ると、馬車はまたゆっくりと走り出した。

 

 馬車は静かな城外を進み、街の大門の辺りの喧騒(けんそう)を再び抜けると石畳(いしだたみ)走って屋敷に戻った。

 久しぶりに全力で剣を振るったり魔法を出したりしたので、全員がくたくたになっていた。

 馬車を降りたアイたちが出迎(でむか)える執事(しつじ)や女中たちの前をふらふらと歩くとエルザが大きな声を出した。

 

エルザ「お嬢さま、お坊ちゃま、皆が見ておりますよ!部屋に入るまではもっと背筋を伸ばしてお歩きなさってください!」

 

 エルザにしかられてみんなは「しまった」という顔で背筋を伸ばす。

 その様子を見てジミーは「ふっふっ」と小さく笑いながらエルザの前へ行く。

 

ジミー「みな疲れているようだ、湯の用意をしてやってくれ…」

エルザ「ご心配には及びません、既に用意をしております。」

ジミー「そうか、では娘たちから順番に呼んでやってくれ。儂は最後でよい…」

エルザ「承知(しょうち)いたしました。」

 

 アイたちがそれぞれの部屋に戻るとすぐに風呂が沸(わ)いていると伝えられ、一昨日と同じように2人ずつ順番に入っていった。

 最後にタクミが一人で浴場へ向かうと、またダイが待っていて、タクミはすぐに服を脱ぎ出す。

 

 すると、そこにジミーが浴場に入ってきた。

 ダイは聞いていなかったのだろう、驚いた顔で立ったまま彼に黙礼する。タクミも上半身裸のまま止まってしまう。

 

ジミー「ダイ、お前の仕事を奪(うば)うようだが、ここは儂(わし)とタクミだけでよい。お前までいると狭(せま)いからな。」

ダイ「ですが…」

ジミー「儂も生まれついての貴族ではない、自分の身体ぐらいは洗える。タクミ、お前も自分でできるだろう?」

タクミ「はい…」

ジミー「ではここは儂らだけにしてくれ。背中はタクミに洗ってもらおう。」

ダイ「承知(しょうち)いたしました。」

 

 ジミーが衣服を脱いでそばの籠(かご)に入れるのを見て、タクミも急いで裸になり、ジミーの横の椅子に座って身体を洗い出す。

 ジミーはストレージからこの間ダイが使っていた麻(あさ)の袋を取り出すと、それをタクミに渡した。

 

ジミー「これを使うと泡が立って汚れが落ちる。お前も使うといい…」

タクミ「あの、ジミーさんの分は…」

ジミー「大丈夫じゃ、儂のもここにある。」

 

 タクミはしばらく何を言えばいいか分からず、黙って身体を洗っていた。すると、ジミーが声を掛ける。

 

ジミー「タクミ、儂の背中を洗ってくれ…あまり力は入れるなよ。」

タクミ「はい、わかりました…」

 

 ジミーはもう60歳に近いようだが、その背中は僧帽筋(そうぼうきん)や広背筋(こうはいきん)ががっしりと盛り上がっていてとてもそんな年齢とは思えない。

 だが、背中のあちこちに大小の傷痕(きずあと)があって彼が厳しい戦いをくぐり抜けてきたのが伝わってきた。

 

ジミー「どうした?さあ、洗ってくれ…」

タクミ「はい…」

ジミー「背中の傷痕を見ていたのか?」

タクミ「えっ?…はい、ジミーさんが怪我(けが)をする戦いってどれぐらい激しかったんだろうって…」

ジミー「ふっふっ(笑)…」

 

 タクミがシャボンの袋を泡立てながら手で広い背中を洗っていく。

 いくつかの傷痕は結構大きなもので、タクミはジミーぐらいの腕前を持った勇者がどうしてこんな傷を負ったのかが気になってきた。

 

ジミー「タクミ、儂にも若い頃があってな、当然その頃儂も未熟じゃった。

 大した腕前でもないのに闇雲(やみくも)に魔獣(まじゅう)や盗賊に立ち向かって返り討ちにあったこともある。

 それに儂が最後に参加した戦役(せんえき)はかなりの規模(きぼ)でな、相当の手練(てだ)れの者でも多く討ち死にした。

 だから、どれだけ武術の能力や魔法があっても無傷のままではおられぬものよ…」

タクミ「そうなんですね…」

 

 ジミーぐらいの能力と経験があってもこれだけ傷を負っているのを見て、タクミは改めて自分たちが戦う時には相当しっかりした準備と、戦場での慎重さが必要だと感じていた。

 

ジミー「タクミ、お前はどうしてそんなにアイたちに遠慮(えんりょ)をしているのだ?」

タクミ「えっ?…」

 

 ジミーから突然問いかけられ、タクミはうまく返事ができない。

 

ジミー「もしかして女たちの中で一人だけ男なので何も言わぬようにしているのか?」

タクミ「いや~、そんなつもりはないんですが…」

ジミー「では、皆にもっとお前から話をかけるようにするのだ。

 お前を見ていると、隅(すみ)に縮(ちぢ)こまっているように見えるがな…」

タクミ「はあ…」

 

 タクミがまだ背中を洗おうとすると、ジミーがタクミの方へ振り返る。

 

ジミー「さあ、もうよい。湯をかけてくれ…今度は儂がお前の背中を洗ってやろう…」

タクミ「えっ?いや、それは…」

ジミー「なぜじゃ、別におかしなことなどはせぬ。それはお前たちだけがすればよい(笑)…

 さあ、湯をかけてくれ…」

タクミ「はい…」

 

 タクミがジミーの大きな背中を湯で流すと、ジミーはタクミの後ろに回って背中を洗い出した。

 

ジミー「よいかタクミ、儂(わし)は別に男のお前がアイを押しのけてリーダーになれというようなことを言っているのではない。

 アイは立派なリーダーだし、ナオやアカリ、アユミも自分たちの責任を果たそうとしておる。

 そうして見ると、お前はまだ十分とは言えぬようだ…」

タクミ「十分じゃない、ですか…」

 

ジミー「そうじゃ。お前は女たちの中のただ一人の男じゃ。つまり、女たちとは違う見方を持っているということだ。

 お前は自分が見ているものを当然と思っているが、アイたちはそんなふうに見ていないかもしれぬ。

 だからな、遠慮せずにお前も思ったことを言わねばならぬ…」

タクミ「オレにしか見えてないもの?…」

 

 タクミがそう言うと、ジミーはタクミの背中を軽く叩(たた)く。

 

タクミ「イテっ…」

ジミー「何を言う、今こうして儂と裸で話をできるのは男のお前だけではないか。

 女たちと儂が裸で湯に入ったり、話をしたりは出来ぬであろう…」

タクミ「それはそうですが…」

 

ジミー「お前はそれを当たり前と思っているが、世の中には男同士だと腹を割って話すような者も多くいる。そんな中で話を聞けるのはお前だけだ。

 そんなことはただの一例にすぎぬが、お前しか見えてないものがたくさんあるかもしれぬ。

 

 それにアイたちは同じぐらいの歳(とし)の女ばかりだから、どうしても物の見方が同じようになる。

 それ故にお前が当たり前と思っていることに意外と気づいていないかもしれぬ。

 だからな、もっとお前からアイたちに話をするようにするのだ。そうすれば他の者も別の見方を知るきっかけになるだろう、分かったか?」

タクミ「は、はい。頑張(がんば)ります…」

 

 タクミが正直に返事をしたので、ジミーもうんうんとうなずいた。

 タクミはふと思いついたことを自分も聞いてみる。

 

タクミ「あの~、今日のオレ…私たちを見てジミーさんはどう思いました?」

ジミー「どうとは?」

タクミ「いや、みんなの実力をジミーさんはどんなふうに感じたんだろうって…」

 

 ジミーはタクミの背中を洗う手を一瞬止めるが、また黙って彼の背中を洗う。

 そして、洗い終わると湯をタクミの背中にも全身にもかける。

 

ジミー「さあ、もうよかろう。一緒に湯船に入ろう…」

 

 タクミはジミーに促(うなが)されるまま、浴場の湯船に彼と一緒に入った。湯船は木製で、この前に入った公衆浴場と同じく3,4人ぐらいが入れるほどの大きさをしている。

 ジミーは湯船に浸(つ)かると、「フー」と大きく息を吐いた。

 

ジミー「今日見たお前たちの実力と言ったが、儂はほとんど魔法を使うナオやツグミ、モアやソラのことばかり見ていてアイたちがどのようにしていたのか分からぬ。

 お前とアユミのこともダイに任(まか)せていたからな…」

タクミ「そうですか…」

 

ジミー「だが、お前たちは真面目によく励(はげ)む。ナオたちもよく儂のいうことを聞いて鍛錬(たんれん)に励んでくれた。

 魔法使いとしてはまだこの世界に来てわずからしいので、そう考えるとレベルは高い方だろう。

 まあ、少し儂の言うことを聞きすぎかもしれぬが…」

 

タクミ「聞きすぎ、ですか…」

ジミー「まあ、もう少し自分たちがやりたいことを言ってくれてもよいがな。タクミ、お前も知りたいことはないのか?」

 

 ジミーにそう言われてタクミは少し考え込む。

 

ジミー「…そのように考えるということは、何かあったのじゃな?」

タクミ「はあ、実際にクエストへ行く時にはもっと戦い方を知りたいっていう話はみんなでしました。」

ジミー「戦い方か…」

タクミ「はい…魔獣(まじゅう)のオオカミと戦った時もオレが提案して橋の前に防御魔法を張ってそこにオオカミをおびき寄せたんですけど、すぐにオオカミたちに覚(さと)られて距離を取られるようになったりして…」

 

ジミー「そうか、それでどうした?」

タクミ「最後にはボスらしき大きなオオカミが襲(おそ)ってきて、そいつを何とか倒したら群(む)れもいなくなって…」

ジミー「なるほど…それで戦い方を知りたいか…」

タクミ「はあ…」

 

 ジミーは浴槽(よくそう)のお湯で軽く顔を洗うと、もう一度「フー」と言って遠くを見た。

 

ジミー「まあ、お前はそう言うが、今の話を聞くと戦闘の経験はないと言いながら上手く戦っているようじゃ。

 細かいことはまたゆっくりと聞こう。だが、お前たちが心配するほどその魔獣オオカミとの戦いはおかしいものではない…

 

 グレッグ殿のように皆が褒(ほ)めそやすが、儂とて上手くいかなかったクエストなど数多(あまた)ある。仕方なく撤退(てったい)したことなど数知れずじゃ。

 だからタクミ、そんなに不安に思うことはない。少人数の勇者パーティーでは実際はできることも限られておる。

 まあ、こんな歳(とし)になったからそれも分かるのだがな…」

 

 ジミーはタクミの顔が赤くなってきたのに気づいて彼の肩を叩いた。

 

ジミー「さあ、もう出ようか。戦い方の基本的なことは今度ゆっくり話をしよう。」

タクミ「は、はい…」

 

 2人が湯船から出ると、いつの間にかまたダンが入ってきていた。

 彼は黙って乾(かわ)いた布でジミーの身体を拭(ふ)いていく。タクミもそれを見て急いで用意された布で自分の身体を拭いた。

 お互いに身体をきれいに拭くと、ジミーはタクミに向かって黙ってうなずき、浴室を出ていった。

 

 タクミが遊戯室(ゆうぎしつ)に戻ると、女の子たちは互いに『ヒール』を掛け合っていた。

 ソラとルカは床に敷(し)かれた毛皮の上でぐったりしている。アユミがみんなにジュースの入ったコップを渡していた。

 

ソラ「ハア~、つ~か~れ~た~…」

モア「だよ~…」

アカリ「なんか、身体も疲れたけど頭が疲れたというか…」

ナオ「カイさんって、そんなにすごかったの?」

アイ「単純な技術だと剣道で手合わせした大学生の人の方が上だったと思うけど、戦い方が実戦的だった…」

アカリ「隙(すき)を狙(ねら)ってたり、急所を狙ってきたりしてくるような感じ…」

 

ルカ「ジミーさんはどうだった?」

ツグミ「もう、凄(すご)かった…」

ナオ「そう、なんか動きに無駄が無くて…」

アイ「どんなことしたの?」

ソラ「盾(たて)で自分を守りながらジミーさんの持ってる盾を魔法で狙うんだけど…」

アユミ「当たらない?」

 

ナオ「当たらないわけじゃないけど、中途半端だとよけられるし、こっちに隙があると「ウィンド・ブロウ」で狙われて…」

ツグミ「なんであんな上手くいくの、ってぐらいかわす動きとかよけながら魔法を出す動きに無駄がなくて…」

モア「もう無理矢理魔法出したのに全部よけられたよー…」

全員「(笑)…」

 

 モアが口惜(くや)しそうに寝転んだまま手足をバタバタさせるので、みんなそれを見て大笑いした。

 アユミも笑いながらタクミに近寄る。

 

アユミ「今日はお疲れさま、タクミ君も向こう向いて…『ヒール』するからね…」

タクミ「あ、ありがとう…」

アカリ「で、タクミとアユミはどうだったの?」

ナオ「素振(すぶ)りばっかしてたの?」

 

 2人に聞かれてタクミもアユミも顔を上げる。

 

アユミ「素振りばっかってことはなかったけど…」

タクミ「え~と、最初は剣の持ち方とかの基本的なことをダイさんに教えてもらって、それから同じように振り方、振り下ろす時とか横に振る時とかって聞いて、その振り方をしばらくやって…

 それからダイさんを相手に打ち込んでいくような練習だった…」

ソラ「へぇー、結構実戦的じゃん…」

タクミ「いや~、実戦的ってほどじゃなかったよ…」

 

 タクミが首を振ると、アユミが言葉を継(つ)ぐ。

 

アユミ「ダイさんと戦うみたいな感じじゃなくて、ただダイさんを相手に真っ直ぐ打ち込めるかとか、横に払(はら)えるかとかを繰り返しやって、最後に真っ直ぐ打ち込んだのを避けられたら、横に払う動きを繰り返しやったぐらい…」

タクミ「まあ、基本的な動きを繰り返ししたってぐらいだから…」

 

 アユミは『ヒール』をかけ終わってタクミに伸ばしていた手を離す。

 2人がちょっと難しい顔をしているのを見て、アカリが傍にやって来た。

 

アカリ「なんか大したことないみたいな顔してるけど、そんなことないよ。私たちだって剣道を最初した時は振り下ろす動作ばっかりやらされたからね。

 結構無茶苦茶振ったって、動きのいい人には剣って当たんないよ…」

アイ「そうそう、それに剣って見た目より重いしね…」

アユミ「そう、木剣だったけど何度も振ってたら腕がパンパンになってきて…」

ナオ「じゃあ、アユミにも『ヒール』しないと…」

 

 アユミの話を聞いてナオがすぐにアユミのところに来る。

 

ナオ「ハイハイ、動かないでね…」

アユミ「ゴメン、ありがとう…」

 

 ナオがアユミの腕や肩、背中に『ヒール』をかけ終わったぐらいで夕食の準備ができたと知らされる。

 みんなは揃(そろ)って食堂へ行き、少し早めの夕食をとった。

 

ジミー「今日もお疲れだったな。明日は練兵場へは行けぬので屋敷で何か準備を行おう。とりあえず今晩もゆっくりと休むがよい。」

全員「ごちそうさまでした。」

 

 食事が済むとアイたちは一度遊戯室へ戻るが、みな疲れているのだろう。

 それぞれ特に何も言わずに自分たちの部屋へ帰っていく。タクミもひとり、自分の部屋へと戻った。

 

タクミ「ふはぁ~、疲れた~…」

 

 アイたちやナオたちと違って、今日のタクミとアユミは木剣の素振りやダイの構える木剣への打ち込みなど簡単な動きの繰り返しがずっと続いた。

 慣れない動きの連続で腕や肩が固まっている。

 

 これが当分の間続くと思うとまだクエストも始まっていないのに、タクミはもう大変なことになったと感じていた。

 そんなことをぼんやりと思いながらも、昼間の疲れでタクミはいつの間にかうとうとしていた。

 

 

 

 

 

 




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