ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~ 作:イジー・ムラシロ
モア「今までずっと一緒に戦ってきたじゃん…」
ツグミ「モアちゃん、また…」
アイ「もう、一言多いよ…」
だがそんなモアの言葉が聞こえたのか、ジミーは軽く笑った。
ジミー「はっはっは(笑)、そうか、それならばよい。お前たちはこれまでよく考えて戦ってきたようだな…」
アイ「すいません…」
ジミー「何も
ならば、これからもそれを忘れないようにすればよい…」
だが、ジミーは急に真面目な表情に変わる。
ジミー「今のお前たちは自分たちがまだ十分な力を持っていないと分かっている。だから、仲間たちと力を合わせることが自然に出来ている。
しかしお前たちは「
皆が大きな力を持つようになった時、それでも全員が力を合わせることができるか…
いいか、そのことをよく覚えておくのじゃ…」
ソラ「そんな、どんな時でも全員で戦います…」
ツグミ「バラバラになることなんて考えられないです…」
ジミー「そうか…お前たちがそう言うなら、
ジミーがアイたちと話していると、そこにみんなともう少し離れたところで剣の練習をしていたタクミとアユミ、そしてダイが戻ってくる。
ダイは
ジミー「おお、お前たちも疲れたであろう。ダイ、どうじゃこの2人は…」
ダイ「はい、私の話をよく聞いて練習なされたので、どうやらお二人ともに「剣」の能力が付いたようです。」
タクミ「今までにないぐらい、木剣を振りました。」
アユミ「なかなか上手く力が入らなくて…」
ジミー「はっはっは、残念だがそんなに簡単には身につくものではない。まあ、明日からはナオたちも剣の使い方を覚えねばならぬな…」
モア「えっ~、魔法だけでも大変なのに~…」
アイ「また、なに言っての…」
ジミー「ふっふっ、モア、森で一人はぐれたお前の前にトラが出てきても後悔しないか(笑)…」
モア「もう~、話が
ジミー「はっはっはっ(笑)」
アカリ「相変わらずだよ、この子は(笑)」
全員「(笑)」
ジミーの言葉にしゅんとしたモアを見て、そこにいた全員が爆笑した。
その時、ふと空を見上げたカイがジミーに小声で言う。
カイ「旦那様、そろそろ次にここを使われる人がやって来られるかもしれません。」
ジミー「そうか、もうそんな時間か…」
確かに太陽も少しずつ西に
ジミー「さあ、では片付けをして屋敷へ戻ろう。ダイ、明日もここを使えるのか?」
ダイ「明日は申し訳ございませんが、他の方々が
ジミー「分かった。では、また日を改めてここへ来よう。さあ、全員で協力して道具を片付けてしまおう。」
ジミーに言われ、アイたちは魔法のための
そして、それぞれがマントを
ジミーは厳しい表情に変わってその人物を見つめた。
だが、練兵場の入り口に立っている人物も驚いた様子で大声を上げる。
「そこにおられるのはジミー殿ではないですか⁉」
ジミーはその声を聞くと表情を
ジミー「大丈夫じゃ、あれはグレッグ殿よ…」
ジミーがそう言いながら声の主へと近づくと、確かにその人物はオーウェン
オーウェン子爵「ジミー殿、こんなところにお
ジミー「グレッグ殿はこれからここをお使いになられるのか?」
オーウェン子爵「いいえ、私の部隊の一部が明日ここで調練を行うので、道具などを確認するために参りました。」
ジミー「わざわざご自身で来られるとは、さすがオーウェン家のお方じゃ…」
ジミーはオーウェン卿と固く握手をすると、手を振ってアイたちを呼んだ。
ジミー「お前たち、昨日お城で案内をして下さったグレッグ殿じゃ。みな集まって
アイたちはジミーに呼ばれてオーウェン
ジミー「ここは城ではない。それにグレッグ殿なら顔をお見せしても
ジミーの言葉でみんなはフードを取ると、オーウェン卿に深々と頭を下げた。
アイ「昨日はフード姿のままご挨拶をし、大変失礼いたしました。
わたくし、ブロッケン
アイが頭を下げて
だが、オーウェン卿はアイたちがフードを取ってから、ずっとあっけに取られたような顔をしている。
そして、最後にタクミが挨拶をすると、我に返ってアイたちに
オーウェン子爵「これは失礼いたしました。改めて、グレゴリー・オーウェンと申します。どうかジミー殿と同じようにグレッグとお呼び下さい…
しかし、昨日はお顔を
いや、本当に皆様全員がお美しい…ジミー殿がどうしてもアレン様に皆様の顔をお見せせぬようになされた
アイ「そのようなお言葉、お
オーウェン子爵「いえいえ、決してお世辞などではございません。今のような勇者のお姿でも十分にお美しい。
ましてや貴族のご
アイ「そんなことは…」
ジミー「まあ、この者たちの
オーウェン卿の少し大げさにも聞こえる
それに気づいたナオがまたモアの脇を
オーウェン子爵「では、今日は
ジミー「
難しいクエストと分かってこの者たちも真剣じゃよ…」
オーウェン子爵「そうですか…皆様には我らの部隊からも応援を出せればよいのですが、何分にもアレン様のお許しが無ければ…」
オーウェン卿は名家の出身だと聞いていたが、貴族にもかかわらずその話しぶりや態度の腰の低さにアイたちの方が
そんなオーウェン卿と話しているジミーにダイが耳打ちする。
ジミー「そうか、もう戻らねばな…グレッグ殿、申し訳ないが屋敷に戻らねばならぬ時間だという。
また屋敷に来て下さらぬか、その時にゆっくりと話をしよう。」
オーウェン子爵「これは失礼いたしました。皆様、またどこかでゆっくりとお話
魔獣についても分かったことをお知らせいたしますので…」
ジミー「では、失礼する…」
ジミーがオーウェン卿に会釈すると、アイたちも全員が頭を下げた。
オーウェン卿も全員に会釈を返すと倉庫の方へ歩いていった。
馬車に乗り込んでもまだ何か興奮が残っているのか、何人かが小声でこそこそと話をする。
ソラ「昨日は分からなかったけど、グレッグ様って結構イケメンだったよね…」
アカリ「
モア「私、結構タイプかな~」
アユミ「もう、
ジミー「こらこら、屋敷に戻るまで話してはならぬ。」
ジミーに注意されて全員が黙ると、馬車はまたゆっくりと走り出した。
馬車は静かな城外を進み、街の大門の辺りの
久しぶりに全力で剣を振るったり魔法を出したりしたので、全員がくたくたになっていた。
馬車を降りたアイたちが
エルザ「お嬢さま、お坊ちゃま、皆が見ておりますよ!部屋に入るまではもっと背筋を伸ばしてお歩きなさってください!」
エルザにしかられてみんなは「しまった」という顔で背筋を伸ばす。
その様子を見てジミーは「ふっふっ」と小さく笑いながらエルザの前へ行く。
ジミー「みな疲れているようだ、湯の用意をしてやってくれ…」
エルザ「ご心配には及びません、既に用意をしております。」
ジミー「そうか、では娘たちから順番に呼んでやってくれ。儂は最後でよい…」
エルザ「
アイたちがそれぞれの部屋に戻るとすぐに風呂が
最後にタクミが一人で浴場へ向かうと、またダイが待っていて、タクミはすぐに服を脱ぎ出す。
すると、そこにジミーが浴場に入ってきた。
ダイは聞いていなかったのだろう、驚いた顔で立ったまま彼に黙礼する。タクミも上半身裸のまま止まってしまう。
ジミー「ダイ、お前の仕事を
ダイ「ですが…」
ジミー「儂も生まれついての貴族ではない、自分の身体ぐらいは洗える。タクミ、お前も自分でできるだろう?」
タクミ「はい…」
ジミー「ではここは儂らだけにしてくれ。背中はタクミに洗ってもらおう。」
ダイ「
ジミーが衣服を脱いでそばの
ジミーはストレージからこの間ダイが使っていた
ジミー「これを使うと泡が立って汚れが落ちる。お前も使うといい…」
タクミ「あの、ジミーさんの分は…」
ジミー「大丈夫じゃ、儂のもここにある。」
タクミはしばらく何を言えばいいか分からず、黙って身体を洗っていた。すると、ジミーが声を掛ける。
ジミー「タクミ、儂の背中を洗ってくれ…あまり力は入れるなよ。」
タクミ「はい、わかりました…」
ジミーはもう60歳に近いようだが、その背中は
だが、背中のあちこちに大小の
ジミー「どうした?さあ、洗ってくれ…」
タクミ「はい…」
ジミー「背中の傷痕を見ていたのか?」
タクミ「えっ?…はい、ジミーさんが
ジミー「ふっふっ(笑)…」
タクミがシャボンの袋を泡立てながら手で広い背中を洗っていく。
いくつかの傷痕は結構大きなもので、タクミはジミーぐらいの腕前を持った勇者がどうしてこんな傷を負ったのかが気になってきた。
ジミー「タクミ、儂にも若い頃があってな、当然その頃儂も未熟じゃった。
大した腕前でもないのに
それに儂が最後に参加した
だから、どれだけ武術の能力や魔法があっても無傷のままではおられぬものよ…」
タクミ「そうなんですね…」
ジミーぐらいの能力と経験があってもこれだけ傷を負っているのを見て、タクミは改めて自分たちが戦う時には相当しっかりした準備と、戦場での慎重さが必要だと感じていた。
ジミー「タクミ、お前はどうしてそんなにアイたちに
タクミ「えっ?…」
ジミーから突然問いかけられ、タクミはうまく返事ができない。
ジミー「もしかして女たちの中で一人だけ男なので何も言わぬようにしているのか?」
タクミ「いや~、そんなつもりはないんですが…」
ジミー「では、皆にもっとお前から話をかけるようにするのだ。
お前を見ていると、
タクミ「はあ…」
タクミがまだ背中を洗おうとすると、ジミーがタクミの方へ振り返る。
ジミー「さあ、もうよい。湯をかけてくれ…今度は儂がお前の背中を洗ってやろう…」
タクミ「えっ?いや、それは…」
ジミー「なぜじゃ、別におかしなことなどはせぬ。それはお前たちだけがすればよい(笑)…
さあ、湯をかけてくれ…」
タクミ「はい…」
タクミがジミーの大きな背中を湯で流すと、ジミーはタクミの後ろに回って背中を洗い出した。
ジミー「よいかタクミ、
アイは立派なリーダーだし、ナオやアカリ、アユミも自分たちの責任を果たそうとしておる。
そうして見ると、お前はまだ十分とは言えぬようだ…」
タクミ「十分じゃない、ですか…」
ジミー「そうじゃ。お前は女たちの中のただ一人の男じゃ。つまり、女たちとは違う見方を持っているということだ。
お前は自分が見ているものを当然と思っているが、アイたちはそんなふうに見ていないかもしれぬ。
だからな、遠慮せずにお前も思ったことを言わねばならぬ…」
タクミ「オレにしか見えてないもの?…」
タクミがそう言うと、ジミーはタクミの背中を軽く
タクミ「イテっ…」
ジミー「何を言う、今こうして儂と裸で話をできるのは男のお前だけではないか。
女たちと儂が裸で湯に入ったり、話をしたりは出来ぬであろう…」
タクミ「それはそうですが…」
ジミー「お前はそれを当たり前と思っているが、世の中には男同士だと腹を割って話すような者も多くいる。そんな中で話を聞けるのはお前だけだ。
そんなことはただの一例にすぎぬが、お前しか見えてないものがたくさんあるかもしれぬ。
それにアイたちは同じぐらいの
それ故にお前が当たり前と思っていることに意外と気づいていないかもしれぬ。
だからな、もっとお前からアイたちに話をするようにするのだ。そうすれば他の者も別の見方を知るきっかけになるだろう、分かったか?」
タクミ「は、はい。
タクミが正直に返事をしたので、ジミーもうんうんとうなずいた。
タクミはふと思いついたことを自分も聞いてみる。
タクミ「あの~、今日のオレ…私たちを見てジミーさんはどう思いました?」
ジミー「どうとは?」
タクミ「いや、みんなの実力をジミーさんはどんなふうに感じたんだろうって…」
ジミーはタクミの背中を洗う手を一瞬止めるが、また黙って彼の背中を洗う。
そして、洗い終わると湯をタクミの背中にも全身にもかける。
ジミー「さあ、もうよかろう。一緒に湯船に入ろう…」
タクミはジミーに
ジミーは湯船に
ジミー「今日見たお前たちの実力と言ったが、儂はほとんど魔法を使うナオやツグミ、モアやソラのことばかり見ていてアイたちがどのようにしていたのか分からぬ。
お前とアユミのこともダイに
タクミ「そうですか…」
ジミー「だが、お前たちは真面目によく
魔法使いとしてはまだこの世界に来てわずからしいので、そう考えるとレベルは高い方だろう。
まあ、少し儂の言うことを聞きすぎかもしれぬが…」
タクミ「聞きすぎ、ですか…」
ジミー「まあ、もう少し自分たちがやりたいことを言ってくれてもよいがな。タクミ、お前も知りたいことはないのか?」
ジミーにそう言われてタクミは少し考え込む。
ジミー「…そのように考えるということは、何かあったのじゃな?」
タクミ「はあ、実際にクエストへ行く時にはもっと戦い方を知りたいっていう話はみんなでしました。」
ジミー「戦い方か…」
タクミ「はい…
ジミー「そうか、それでどうした?」
タクミ「最後にはボスらしき大きなオオカミが
ジミー「なるほど…それで戦い方を知りたいか…」
タクミ「はあ…」
ジミーは
ジミー「まあ、お前はそう言うが、今の話を聞くと戦闘の経験はないと言いながら上手く戦っているようじゃ。
細かいことはまたゆっくりと聞こう。だが、お前たちが心配するほどその魔獣オオカミとの戦いはおかしいものではない…
グレッグ殿のように皆が
だからタクミ、そんなに不安に思うことはない。少人数の勇者パーティーでは実際はできることも限られておる。
まあ、こんな
ジミーはタクミの顔が赤くなってきたのに気づいて彼の肩を叩いた。
ジミー「さあ、もう出ようか。戦い方の基本的なことは今度ゆっくり話をしよう。」
タクミ「は、はい…」
2人が湯船から出ると、いつの間にかまたダンが入ってきていた。
彼は黙って
お互いに身体をきれいに拭くと、ジミーはタクミに向かって黙ってうなずき、浴室を出ていった。
タクミが
ソラとルカは床に
ソラ「ハア~、つ~か~れ~た~…」
モア「だよ~…」
アカリ「なんか、身体も疲れたけど頭が疲れたというか…」
ナオ「カイさんって、そんなにすごかったの?」
アイ「単純な技術だと剣道で手合わせした大学生の人の方が上だったと思うけど、戦い方が実戦的だった…」
アカリ「
ルカ「ジミーさんはどうだった?」
ツグミ「もう、
ナオ「そう、なんか動きに無駄が無くて…」
アイ「どんなことしたの?」
ソラ「
アユミ「当たらない?」
ナオ「当たらないわけじゃないけど、中途半端だとよけられるし、こっちに隙があると「ウィンド・ブロウ」で狙われて…」
ツグミ「なんであんな上手くいくの、ってぐらいかわす動きとかよけながら魔法を出す動きに無駄がなくて…」
モア「もう無理矢理魔法出したのに全部よけられたよー…」
全員「(笑)…」
モアが
アユミも笑いながらタクミに近寄る。
アユミ「今日はお疲れさま、タクミ君も向こう向いて…『ヒール』するからね…」
タクミ「あ、ありがとう…」
アカリ「で、タクミとアユミはどうだったの?」
ナオ「
2人に聞かれてタクミもアユミも顔を上げる。
アユミ「素振りばっかってことはなかったけど…」
タクミ「え~と、最初は剣の持ち方とかの基本的なことをダイさんに教えてもらって、それから同じように振り方、振り下ろす時とか横に振る時とかって聞いて、その振り方をしばらくやって…
それからダイさんを相手に打ち込んでいくような練習だった…」
ソラ「へぇー、結構実戦的じゃん…」
タクミ「いや~、実戦的ってほどじゃなかったよ…」
タクミが首を振ると、アユミが言葉を
アユミ「ダイさんと戦うみたいな感じじゃなくて、ただダイさんを相手に真っ直ぐ打ち込めるかとか、横に
タクミ「まあ、基本的な動きを繰り返ししたってぐらいだから…」
アユミは『ヒール』をかけ終わってタクミに伸ばしていた手を離す。
2人がちょっと難しい顔をしているのを見て、アカリが傍にやって来た。
アカリ「なんか大したことないみたいな顔してるけど、そんなことないよ。私たちだって剣道を最初した時は振り下ろす動作ばっかりやらされたからね。
結構無茶苦茶振ったって、動きのいい人には剣って当たんないよ…」
アイ「そうそう、それに剣って見た目より重いしね…」
アユミ「そう、木剣だったけど何度も振ってたら腕がパンパンになってきて…」
ナオ「じゃあ、アユミにも『ヒール』しないと…」
アユミの話を聞いてナオがすぐにアユミのところに来る。
ナオ「ハイハイ、動かないでね…」
アユミ「ゴメン、ありがとう…」
ナオがアユミの腕や肩、背中に『ヒール』をかけ終わったぐらいで夕食の準備ができたと知らされる。
みんなは
ジミー「今日もお疲れだったな。明日は練兵場へは行けぬので屋敷で何か準備を行おう。とりあえず今晩もゆっくりと休むがよい。」
全員「ごちそうさまでした。」
食事が済むとアイたちは一度遊戯室へ戻るが、みな疲れているのだろう。
それぞれ特に何も言わずに自分たちの部屋へ帰っていく。タクミもひとり、自分の部屋へと戻った。
タクミ「ふはぁ~、疲れた~…」
アイたちやナオたちと違って、今日のタクミとアユミは木剣の素振りやダイの構える木剣への打ち込みなど簡単な動きの繰り返しがずっと続いた。
慣れない動きの連続で腕や肩が固まっている。
これが当分の間続くと思うとまだクエストも始まっていないのに、タクミはもう大変なことになったと感じていた。
そんなことをぼんやりと思いながらも、昼間の疲れでタクミはいつの間にかうとうとしていた。
*楽しんでくださった方や今後が気になるという方は、お気に入りや評価をいただければ励みになります。
また、面白かったところや気になったところなどの感想もいただければ幸いです。よろしくお願いします。