※この作品はR-18です。

ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~   作:イジー・ムラシロ

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第二章 冒険出発の篇
35 森を抜ける


 出発の朝。

 

 みんなは日の出とともに起き出し、パンと飲み物だけの朝食を済ますと装備(そうび)を整えて準備する。

 服装は(もら)った衣服に軍手をし、首元にタオルを巻くだけでなく頭にも帽子代わりにタオルを思い思いのやり方で巻きつけた。

 アイが最後の確認をする。

 

アイ「え~と、忘れ物ってないかな?どこかに道具を置きっぱにしてない?」

アカリ「大丈夫。さっきルカと2人で川原も広場も確認してきたから。」

ナオ「広場の(すみ)にあった()き木も?」

ソラ「あっ、それは私のとこに入れた。」

アイ「小屋にあった椅子も机も入れた?あと、あの赤い絨毯(じゅうたん)も…」

タクミ「うん…どっちもオレのストレージにしまった…」

アカリ「なんかあれないとヤル時に気分が出なくなってきたかも(笑)。」

 

 アユミがツグミといっしょにやって来た。

 

アユミ「私たち2人でもう一度川原から広場から小屋の中まで全部見てきたよ。」

アイ「ゴメンね…ありがとう。」

ナオ「ねぇ、この小屋はどうするの?」

モア「えー、小屋まで持ってくの?」

ソラ「まさかー(笑)…」

ナオ「そういう意味じゃないけど…」

ツグミ「とりあえず、引き戸に『ウォール』をかけておこうか?そうすれば誰も入れないと思うけど…」

アカリ「一応、そうすれば…」

 

 ツグミが魔法をかけている間、みんな改めて小屋を(なが)めた。

 

ルカ「ここともお別れだね…」

アカリ「10日ぐらいだけど、なんか愛着出ちゃってる…」

アユミ「屋根があるところのありがたみが分かったね…」

ツグミ「できたよー…」

 

 いよいよアイが出発の号令をかける。

 

アイ「さあ、行こう!」

 

 アイとアカリが剣を手に先頭になって、小屋の隅から川に沿()うように下っていく細い道に入っていく。

 道の両側はみんなの顔まで届くほどの背の高い草が鬱蒼(うっそう)と生えていて、道は細く、人が一人やっと進めるぐらいだ。

 

 最初はアイとアカリが並んで剣で草を()りながら進もうと言っていたが、道が(せま)すぎてとても2人並んで歩けない。

 自然にアイだけが先頭になるが、1人だとなかなか草を刈って道を(ひろ)げられない。

 

 彼女たちは初めて人間の手が全く入っていない自然に足を()み入れた。

 

アイ「クソっ、刈っても刈っても、草だらけだ…」

アユミ「きゃあ~、また蜘蛛(くも)の巣だよー…」

ツグミ「うわぁー、虫ばっかりー…」

タクミ「わっ、踏んづけたこれって、ヘビだ!」

ナオ「キャア~!」

ルカ「キャア~!」

アイ「ふぅ~、って、道はどっちよ…」

ソラ「マジ?迷ったって、ここって草ばっかりだよ…」

アカリ「アイ、私が先頭になるよ…」

モア「イヤ~、もう戻ろうよー…」

 

 草に(かこ)まれた中、戻るわけにもいかず全員が騒ぎながら無理矢理に進んでいくと、何とか草が途絶(とだ)えて森の方へ出た。

 だが山の中の森には道と言えるものが全くなく、おまけに大きな石や倒木もあってその(たび)に道を探しながら進まないといけない。

 

ソラ「ねえ、思い切ってこの倒れてる大きな木、ストレージに入れたら?」

ルカ「確かに…そうすればこっちにこのまま進めるね。」

タクミ「ダメだよ…もしこの木が石とか土とか押さえていたら、この木がなくなったせいでそれが坂の上から(くず)れてくるかもしれない…」

アユミ「それの方が危ないよ…」

アイ「こっちは進めないから上の方を大回りしよう。」

 

 アイたちは危険を()けるように、勾配(こうばい)のきつい坂道をお互いに助け合いながら安全を確かめて少しずつ進んでいく。

 さっきまでは虫やなんだと騒いでいたが、いつの間にか虫のことよりも目の前の道なき道をどうやって進んで山を下りていくのか、全員がそのことに集中していた。

 

 ツグミやナオが持つ『地図』という能力を頼りに、右手の沢から聞こえる水の音も手掛(てが)かりにしながら慎重に坂を下って小一時間ほど経った。

 

アユミ「この辺りでちょっと休憩しよう。」

アイ「そうだね…」

アカリ「休み休み、行かないと…」

 

 それぞれが木の根や倒木(とうぼく)などに腰かけるとルカが新しく出るようになったリンゴジュースを取り出してみんなに(そそ)いで回る。

 

モア「ありがとう~」

ソラ「ありがとう…うれしいね~」

ルカ「甘いものって、ホッとすると思って…」

アカリ「助かるよ…」

 

 リンゴジュースを飲んだおかげか、緊張が少し()けて辺りを見渡す余裕が出てきた。

 暗い森の中に鳥と虫の声、そして沢を流れる水の音がずっと聞こえている。

 

 一行は元気を取り戻して再び山の中を進み始める。

 急坂を下りたり、大岩を迂回(うかい)したり、倒木の上を乗り越えたりするたびにある者は足を(すべ)らせてこけ、ある者は倒木にひどく足をぶつけた。

 だが幸いに大きな怪我(けが)をした者はおらず、しばらく進むと何とかひどい坂も終わって辺りもなだらかになってくる。

 

アイ「何とか山からは下りてきたみたい…」

モア「やったー…」

アユミ「そろそろ休んで昼食にしない…」

ソラ「それ、大賛成…」

ナオ「私も…」

アイ「じゃあ、ここで休憩にしよう。」

 

 昼食も取ってさらに進むが、慣れない山道と森の中を進んできたことで一時間ほど経つと全員が動けなくなった。

 この日は仕方なくここでテントを張ることにする。何とか小さなテントを三つ設営(せつえい)すると、みんな建てたばかりのテントに転がり込み、横になって眠ってしまった。

 

 気がつくと辺りはもう暗くなり始めていた。急いで小さな焚き火を起こし夕食の準備をする。

 夕食はパンと飲み物だけで済ます。それでも少しだけ何かをお腹に入れると力が戻ってきたのか、誰ともなくポツポツと話し始めた。

 

アイ「…今日はホントに大変だった…」

アカリ「…ここって、ガチで誰も来たことないみたい…」

タクミ「マジで道もなんもなかった…」

ナオ「…正直言ってちょっと甘かったみたいね…私たち…」

 

アユミ「でも…誰も怪我したりしなくてよかった…」

モア「大丈夫じゃないよ…ぶつけたところ、まだ痛いよ…」

ナオ「じゃあ、後で『ヒール』したげるから…」

ソラ「ハイハイ、痛いの痛いの、飛んでけ~…」

モア「もお~…」

全員「(笑)」

 

 モアが怒っているのを見て、全員が笑う。

 

ルカ「こんな大変なこと、あとどれだけ続くんだろう…」

ツグミ「…大丈夫だよ…森ならあと1日ぐらいで出られると思うよ…」

ソラ「それなら助かった…ホントに大変だったから…」

アカリ「でも、森を出たら大丈夫とは言えないでしょ…出てバスやタクシーがあるわけじゃないし…」

ソラ「それを言っちゃうとさ…」

 

 (あわ)い希望がアカリの言葉ですぐに現実へと戻って、ソラを始め何人かはうんざりした顔をした。

 

アイ「アカリが言いたいのは、森を出たからって気を抜いちゃダメってことでしょ…」

ルカ「確かに…何が起こるか、全く分からないから…」

アユミ「とにかく今日分かったのは思ってる以上に大変で、絶対に無理はできないってことね…」

アカリ「想像するより、いつも少なめで動かないとダメみたいね…」

タクミ「明日もテント(たた)んで出発して、また着いたらテント立てないとダメだし…」

 

ナオ「でも、まだ一日目だよ…だんだんと慣れていったら変わっていくよ…」

ソラ「あ~、これから歩いてばっかになるのか~」

モア「イヤだよー…」

アイ「まあ、今日はもう寝て、また明日も夜が明けたら出発しよう。」

全員「ハーイ!」

 

 二日目も早朝に起きて出発する。

 森の中を進む足取りは重いが、山道でなくなったのとナオが言ったように少しずつ慣れてきたのか、みんな昨日ほどの大変さは感じなくなってきていた。

 虫の声や沢の水音に混じって聞いたこともない動物の鳴き声を聞いて、全員が足を止める。

 

アイ「何の鳴き声なんだろう…」

アユミ「姿は見えないけど…」

アカリ「ねえ!ほら、あそこ…」

 

 みんなが辺りを見渡す中でアカリが何かを見つけて指差す。

 指した先の木々の間を大きな影がのっそりと動く。アイやソラは身構(みがま)え、ツグミやモアは一歩後ずさりした。

 

アカリ「あれって、シカじゃない?」

 

 木の(かげ)から姿を見せたのは立派な(つの)をした牡鹿(オジカ)だった。

 シカはやや灰色味がかった()げ茶色の巨体をこちらに向けて(いぶか)しげにアイたちの方を見ていたが、すぐに森の奥へと姿を消した。

 

ソラ「…デカかった…」

ルカ「角も凄くて…」

ナオ「あれが鳴いてたんじゃないよね…」

アイ「シカの鳴き声じゃないよ…」

アユミ「へぇー、アイってシカの鳴き声も知ってるんだ…」

アイ「いや…知らないけど…」

全員「(笑)…」

 

 アイの正直な答えにみんなでクスクス笑う。

 

アイ「(笑)…とにかく、辺りに気をつけながら進もう…」

ツグミ「『索敵(さくてき)』にも気をつけとくね…」

アユミ「お願いね。」

 

 途中、昼食も含めて何度か休憩を取りながら進み、気づくともう昨日テントを建てたぐらいの時間になっていた。

 みんなは一旦休憩を取りながら、どうするのかを話し合う。

 

ナオ「もう昨日ぐらいの時間だけど…」

アカリ「今日もここで()める?」

ツグミ「でも、もう少しで森も終わるよ…」

アイ「あとどれぐらい?」

ツグミ「正確には分からないけど…一時間ほどで出られるんじゃないかな…」

アユミ「みんなはどう?まだ歩ける?…」

ソラ「モアはどうよ…」

 

 倒木(とうぼく)腰掛(こしか)けてうなだれて動かないモアにソラが声を掛けると、モアはしんどそうに顔を上げる。

 

モア「疲れたけど…」

ルカ「けど?」

モア「森からは出たい…」

アイ「他のみんなはどう?無理なら止めとくけど…」

ツグミ「私も森から出る方がいいかな…」

タクミ「テントも森から出た方が立てやすいよ…」

アカリ「じゃあ、もう少しだしがんばろうよ…」

アイ「あともうちょっと、がんばろう!」

 

 ツグミの言った通り、一時間ほどでやっと森から出た。そこは一面の草原で、山から流れてきた川がずっとその中を流れていっている。

 

アイ「とにかく今日は、ここでテントを張ろう。」

タクミ「ここなら大きなテントを張れると思う…」

アカリ「よし、急ごう…」

 

 昨日と同じように全員で協力して今日は大きなテントを建てる。

 しっかりとロープを張ってペグを打ち付けてテントを張り終わると、またみんなその中で横になってしまった。

 今日はテントを建て始めたのが遅かったせいか、目を覚ますと辺りもう暗くなっている。

 

アイ「もう暗くなってる…」

タクミ「とにかく焚き火はするよ…」

アユミ「お願い…」

 

 タクミが小さな焚き火を組むと、みんな何も言わずに集まってきた。

 アユミとルカとナオがみんなにパンと飲み物を回していく。

 

ソラ「やっと森は抜けたね…」

アカリ「ツグミ…まだ人の居そうなところは見えてこない?」

ツグミ「うん…まだ全然…」

ルカ「そんなに離れてるんだ…」

アユミ「森からは出れたけど…こんな草原でも危険なものっている?」

 

タクミ「オオカミとか野犬は、どちらかといえば草原にいるんじゃないかな…」

アイ「そうか…まだ安全とは言えないね…」

ナオ「私とモアとツグミで辺りに気をつけるね…」

モア「怖いのに、会いたくないよ…」

ソラ「それはみんな一緒だよ…」

アイ「とにかくお願いね…」

 

 アカリがふと空を見て、驚いて立ち上がった。

 

アカリ「ねえ、上見て!空が広いし、星がいっぱい見える!」

 

 アカリの言葉で全員が立ち上がって空を見上げる。

 そこには暗い夜空が白くなるほど、多くの星が(またた)いていた。みな、見たこともないほどの星の数に一様(いちよう)に言葉を失う。

 

ツグミ「すごいねー…」

アユミ「都会じゃ、絶対に見れなかったね…」

ソラ「自分で歩いてこんなとこに来たんだよね…」

ナオ「そうだよ…自分で来たんだよ…」

モア「星って、こんないっぱいあったんだー…」

タクミ「………」

アイ「きれい……」

 

 山を下り、森を抜けて、アイたちは改めて自分たちが今までとは違う世界にいることを実感した。

 

 

 

 

 

 




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