※この作品はR-18です。

ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~   作:イジー・ムラシロ

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43 彷徨(さまよ)い人

 アイたちが倒れている男性の近くまで行くと、その身体に毛布がかけられていた。

 

 彼女たちは一瞬、男性が亡くなってしまったのかと思ってギョッとする。

 だが毛布は彼の上半身にだけかけられ、脚のところにモアが座って魔法をかけていた。

 その近くでアユミはぐったりしてナオに寄りかかっている。

 

 女の子2人はまだ警戒(けいかい)しているのか、男性から少し離れたところに座ったままモアやアイのことをジッと見ている。

 アイはアユミに小声で話しかけた。

 

アイ「アユミ、大丈夫?…」

アユミ「ありがとう…私は大丈夫…」

アカリ「この人はどう?」

ナオ「クマにやられた傷がかなり深かったらしくて、アユミが『ヒーラー』をかけて傷は(ふさ)がって血も止まったんだけど…」

アユミ「痛みがだいぶキツイみたいだし、出血がかなり(ひど)かったから…」

アイ「命も危ないの?…」

アユミ「分からないの…

 今はモアが『ヒーラー』と『ケアラ』をかけてくれてるけど…」

 

 アイたちの話し声に気がついたのか、男性は身体を動かそうとする。

 アイとナオが(あわ)てて男性のそばへ行った。

 

ナオ「動かないで下さい。傷が深かったし、出血も多かったので…」

男「……あんたら……一体どこから……」

アイ「山の方から来ました…数日かけて歩いて…そこで皆さんがクマに襲われているのに出会って…」

 

 すると年長の少女がアイをキッと(にら)む。

 

少女「あの山…魔獣(まじゅう)住処(すみか)…あそこから…人…来ない…」

 

 アイとナオは顔を見合わせる。ナオはそれでも男性が起きないように声をかける。

 

ナオ「とにかく、今はお話も身体を動かされるのもしない方がいいです…」

アイ「私の仲間が魔法をかけていますので…」

男「魔法……あんたたち…一体……」

アイ「話は後で…今は休んで下さい。」

 

 男性はやはり苦しいのだろう。少し(うな)ると話を止めて目をつぶった。

 

 『ヒーラー』や『ケアラ』をかけていたモアも疲れてきたので、今度はナオが代わる。

 他のみんながその場にぼんやりと座っているのに気づき、ルカがストレージからパンと飲み物を取り出した。

 

ルカ「あまり食欲が出ないかもしれないけど…」

アカリ「ううん…ありがたいよ…」

ソラ「でも、正直あまり食べたくないかな…」

 

 格闘(かくとう)の激しさと疲労に何人かがソラの言葉にうなずく。

 そんな声に、タクミがちぎったパンと飲み物を見せながら言う。

 

タクミ「例えばパンをオレンジジュースとかミルクティーに(ひた)して食べるだけでも違うよ…」

アイ「食べやすくなるってこと?」

タクミ「そう。それに今あるパンって菓子パンじゃないから、ちょっと甘さをつけたらいいんじゃないかな…」

ソラ「じゃあ、やってみるよ…」

 

 タクミは実際にやってみせ、他の女の子らも思い思いのパンを甘い飲み物に浸して口に運ぶ。

 ソラは自然と2口目、3口目、また次とパンを食べ続けた。

 

ソラ「確かにこれの方が食べやすい…」

ルカ「私も…」

モア「これ、美味しい…」

 

 タクミは自分の提案がうまくいって内心ホッとする。

 

タクミ「ちょっと変えるだけで違ってくるから…」

ツグミ「これって、おかゆ代わりのものとちょっと似てるね…」

ソラ「あー、確かに…」

アユミ「こういうのって、正直行儀悪いと思ってたけど…」

 

 アカリはパンを手に少女たちのところへ行った。

 

アカリ「私たち、パンを持ってるんだけど…食べない?」

 

 アカリの言葉に年長の少女がかぶりを振る。

 

少女「私たちも持ってる…()らない…」

 

 2人の女の子は背負っている(かわ)の袋からパンと革の水筒を出して、自分たちも食べ始めた。

 アカリは無理に(すす)めずに仲間のところに戻った。

 

 食事を終えた後も、アユミとモアとナオが交代で男性の怪我(けが)の箇所に回復魔法をかけ続ける。

 すると、次第に男性の顔に生気が戻ってきた。

 モアがまた『ヒーラー』をかけている間にアイとアユミが男性に(たず)ねる。

 

アイ「お加減(かげん)はいかがですか?」

アユミ「まだ、痛みは酷いですか?」

 

 男が身体を起こそうとするのでアイが支える。

 アユミがコップに入れた水を差し出すと男はそれを口にした。

 

アユミ「大丈夫ですか?」

男「…ああ…済まない…酷い痛みは…収まってきた…」

アイ「集落(しゅうらく)は近いんですか?」

男「いや、歩いて3,4時間はかかる。オレたちは今日、日の出前に村を出てきたから…」

 

 アカリやナオも男のそばまでやって来た。

 

アカリ「私たちが村までお送りしましょう。」

男「…それは…ありがたいが……それより、あんたら…一体誰なんだ?…」

 

 アイたちはみな顔を見合わせ、アイが自分たちのことを話し始める。

 

アイ「名乗るのが遅れてすいません。私はアイと言います。

 実は私たち、この世界の人間じゃないんです。全く別の世界にいたのが、気づいたらあの山の中の小屋にいて…

 その小屋にあった本に、私たちを魔法でこの世界に連れてきたって書いてあって…」

男「……まさか……「彷徨(さまよ)い人」とは……ただの言い伝えだと思っていたが……」

 

 男の口から出た「彷徨い人」という言葉を聞いて、みんな、何度もその言葉を繰り返した。

 アイが、アユミが取り出した本を男に見せようとする。

 

男「……ダメだ……オレは字が読めない……だが、もう疑ってはいない……」

アイ「「彷徨い人」って…私たちみたいな人がいたんですか?…」

男「……(くわ)しいことは…オレには分からない……村の長老たちは…知っているかもしれんが…」

 

 男の言葉を聞いて、アイがみんなの顔を見る。

 

アイ「私たちも誰かのお話を聞きたいんです…だから、村まで送らせてもらえませんか?…」

 

 男はまだ傷が痛むのだろう。「フー」と一度大きく息を吐き出した。

 

男「…分かった…オレの名前はギリア…

 アイとか言ったが…あんたがたに送ってもらうのが一番良いのだろう…申し訳ないが、よろしく頼む…」

 

 ギリアはまだ(つら)そうだが、それでもしっかりと頭を下げた。

 2人の女の子のうち姉の方はギリアのそばにいたが、妹は虫でも見つけたのだろう、何かを追いかけて少し離れたところまで行ってしまっている。

 ギリアはそばにいる少女の頭を()でた。

 

ギリア「この子はリカ…そして妹はリア…二人ともオレの娘だ…」

 

 アカリがギリアのそばに行き、(ひざまず)いて名乗る。

 

アカリ「私はアカリと言います。私がギリアさんを背負っていきましょう。」

 

 ギリアは女性が自分を背負うと名乗り出たのに驚いて、辺りを見回す。

 そして、そこにいるのがほとんど若い女性なのに気づき、さらに驚いた。

 

ギリア「…あんたらが……本当にあの…化け物を……」

アイ「ハイ…でも、かなり運が良かったと思います…」

ギリア「……そうか……「彷徨い人」……だからか……」

 

 ギリアは最後の言葉を独り言のようにつぶやいた。

 アカリが跪いてギリアに背中を向けるとアイやルカが、ギリアが背中につかまるのを助ける。

 ギリアの傷のある脚を持たないようにするため、ルカがギリアの背中を支える。

 

 彼を背負ったアカリが立ち上がったのを合図に、全員が出発の準備をした。

 リカは走ってリアを父親のそばまで引っ張ってくる。

 アユミが体をかがめてリカに尋ねた。

 

アユミ「リカさん、村まで案内してくれませんか?」

 

 リカはまだ警戒しているのか、ジッとアイたちを見回すが、小さくうなずいて歩き出した。

 リカは川の方へ行くのではなく、むしろ川から離れるように進む。

 全員がリカについて歩き始めた。

 

アイ「ギリアさんがいるから、ゆっくりと進もう!」

 

 リカは父親のことが気になるのか、アカリの少し前を歩いて時々父親の方を見る。

 リアはいつの間にかソラやモアと話をするようになっていた。

 

アカリ「…どうですか?苦しかったり、痛かったりしたら言って下さい。」

ギリア「……ああ……」

 

 ギリアたちの村へと出発して1時間ほどが経ち、ツグミが何かに気づく。

 

ツグミ「あの~、前から何か来るみたいなの…」

アイ「えっ、ホント?」

ツグミ「そんなに大きな生き物ではないみたい…」

アイ「みんな、ちょっと止まって…」

 

 アイの指示で全員が立ち止まり、アイとアカリが前方に目を()らす。

 すると遠くに薄っすらとこちらへやって来る影が見えてきた。

 アイとアカリはそれが何かを確かめようとし、ソラやルカは身構(みがま)える。

 

 だがリカとリアはその影を見たとたん、一目散にそれに向かって走り出した。アイたちが制止(せいし)する間もなかった。

 啞然(あぜん)とするアカリにギリアが声をかける。

 

ギリア「……下してくれないか……あれは…私の兄弟だ……」

アカリ「見えるんですか?」

ギリア「……ああ…すぐここに……やって来るだろう……」

 

 次第(しだい)に前からやって来た影ははっきりとした人影に変わり、こちらへ向かって走ってくる。

 アカリが背中からギリアを下ろすと、ギリアは立ち上がろうとするがまだ脚が痛むのだろう。アイとアカリが肩を貸して両側から支え、彼は何とか立ち上がった。

 

 やがて体格のがっちりした男性が数人、リカとリアといっしょにアイたちのところまでやって来た。

 男たちはギリアの姿を見ると急いで彼のそばへ近寄ってくる。

 先頭の男はアイたちを見回すと、ギリアに声をかけた。

 

男「大丈夫か?…何があった?」

ギリア「……化け物のようなクマに……襲われた……この人たちがクマを討ち取り……助けられた……」

 

 男はそれでもアイたちに(いぶか)しげな視線を向ける。するとギリアが言った。

 

ギリア「……この人たちは…「彷徨(さまよ)い人」だ……」

男「「彷徨い人」⁈……まさか?……」

ギリア「……そうだ……信じられないだろうが……」

 

 先頭の男性がアイに向き直って言う。

 

男「あなた方を疑うようで悪いが、クマを討ち取ったという証拠があれば見せて欲しいのだが…」

アイ「…分かりました。タクミ、クマの死骸を出して…」

 

 タクミは急いでストレージからクマの死骸をその場に出した。

 男たちは現れたクマの巨大さと共に、タクミがその死骸をストレージから出したことにも驚く。

 先頭にいた男性はクマの死骸を(くわ)しく見て回った。特にクマに残る多くの刀傷(かたなきず)と顔の焼かれた跡をジッと見つめる。

 

男「この顔の跡は…もしや、魔法が使えるのか?…」

ギリア「…そうだ…この人たちは魔法使いで……魔法で私の傷も……直してくれた…」

 

 男は驚き、改めてアイたち全員を見渡す。

 

アイ「私たち全員ではありませんが、仲間の何人かは魔法を使えます。

 このクマを倒す時にも仲間が魔法を何度も使ってくれました…」

男「それにこのクマは魔獣だ…信じられない、あなた方のような若い女性が…

 しかし刀傷(かたなきず)もあるが、武器は持っていないようだが…」

アイ「武器はストレージに入れています…」

 

 アイの言葉を聞いて、アカリがすぐに剣をストレージから取り出す。

 何もないところから剣が現れたのを見て、男も彼と一緒に来た者もまた驚く。

 

 タクミがクマをストレージに入れると、一緒にやって来た男たちが近づき、アイとアカリに代わってギリアの身体を背負おうとする。だが、ギリアは痛そうなしぐさを見せた。

 

アユミ「あの、ギリアさん、太ももに大怪我を負ってらっしゃるので…」

 

 アユミに言われて先頭にいた男がギリアを背負った男に声をかける。

 すると彼らはギリアを背負うのを止めて自分たちで(かか)え上げた。

 

 男たちは決して相撲取りのような大柄な身体をしているわけではないが、そのパワーにツグミやルカは目を見張った。別の男はそばにきたリアを抱え上げる。

 すると先頭でやってきた男性が改めてアイの前へと進み出た。

 

男「私はドニア。この傷ついた男、ギリアの兄だ。

 今日は弟と(めい)たちがあなた方に命を救われたようだ…家族を代表して礼を言う。」

 

 ドニアはそう言うと(ひざまず)いてアイたちに頭を下げた。

 ギリアやリアを抱えている男以外の者も、ドニアのその姿を見て同じように跪いて頭を下げる。

 アイが慌てて言った。

 

アイ「そんな…気にしないで下さい。私はアイと言います。

 私たち全員、ギリアさんが言うように全く別の世界からやって来ました…」

 

 ドニアは身長が170㎝を超えるくらい、()せてはいるががっちりした体つきをしていて、顔は陽に焼けて真っ黒になっている。

 着ているものはギリアと同じような(あさ)の上着とズボンで、背中には弓矢を背負い、腰に剣を差していた。

 他の男性もみな同様の衣服で腰に剣を差していて、若い2人は(やり)も持っている。

 

ドニア「皆さんは「彷徨い人」らしいが、とにかく私たちにとっては家族の恩人だ。どうか我々の客人として村に来てもらいたい…

 貧しい村で十分なもてなしもできないが…」

アイ「ご招待、ありがたくお受けします。私たちもどなたかにお話を(うかが)いたいと思ってましたので…」

ドニア「…では、詳しい話は歩きながら…村はまだ先で、弟の怪我も心配なので…」

 

 ドニアはそう言うともう一度丁寧に頭を下げる。

 それからドリアは槍を持っている2人を呼んだ。

 

ドニア「お前たちは急いで村に戻って村長に伝えるんだ。

 弟たちが魔獣のクマに襲われ、「彷徨い人」の方々に助けられた、と…行け!」

 

 2人はうなずくと、急いで元来た道を走っていった。

 ドニアが目配(めくば)せをするとギリアやリアを抱えた男たちも歩き出す。

 ドニアはアイにうなずいて、自分も歩き始めた。

 

 アイも仲間に手を振って合図をしてドニアたちについていく。

 アイとナオは話を聞こうとドニアと並んで歩いた。

 

アイ「ドニアさんは何かが気になって、探しに来られたのですか?」

ドニア「ええ、弟が子供たちを連れて(りょう)に出たと聞いていて、あまりに帰りが遅かったので…」

ナオ「リカさんから聞きましたが、あの山々は魔獣の住処なんだとか…」

ドニア「そうです。私たちの祖父(じい)さんの、その祖父さんがまだ子供の頃から言われ続けていることです。あの山のところまで行くものはおりません。」

 

 ドニアはそう言いながら山の方を弓で指した。

 

ドニア「あの連なる山々はずっと魔獣たちの領域で、人が住むところではありません。

 あの山の向こうに何があるのか、誰も知りません。」

アイ「私たち、ある日気がついたらあの山の中の小屋に居たんです。」

ナオ「小屋にあった本に、魔法で私たちをこの世界に連れてきたと書かれていて…」

 

 ドニアは何度も首を振る。

 

ドニア「もしあなた方が単に村にやって来たのなら、誰もあなたたちの言うことを信じなかったでしょう…

 だが、あの魔獣を倒して弟たちを救い、しかも魔法で傷を(いや)したと言えば疑うことはできない…」

 

 アイが改めてドニアに尋ねる。

 

アイ「この辺りにも魔獣は出るんですか?…」

ドニア「いや、魔獣をこの辺りで見たことはほとんどありません。私がまだ子供の頃、魔獣のシカをみなで狩ったことがあったが…

 ここにはクマですら、冬眠明けで迷ったようなものしか現れません。」

ナオ「じゃあ、こんな魔獣のクマなんて…」

ドニア「そうです…魔獣が出ると分かっていたら、弟も子供を連れて来なかったでしょう。

 この辺りは野鳥やウサギ、他に出てもキツネぐらいです…」

 

 モアはドニアたちのすぐ後ろを歩いていたが、彼らがみな自分たちと同じ人間なのを見てひと安心していた。

 ツグミとルカがその様子を見て、クスクスと笑う。

 

 一行は草原の中を村に向かって歩き続けた。

 

 

 

 

 

 

 




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