ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~ 作:イジー・ムラシロ
ドムニの町は大きな道でも人が3人も並べばいっぱいになるぐらいだったが、ナニが教えてくれた路地は人が一人通るのもやっとなぐらいの
そんな家の住人たちは、武器を持ってわざわざ狭い路地を歩くアイたちをある者は
アイたちは最初こそそんな視線にペコペコしていたが、あまりにずっと続くのでいつの間にかそんな目も気にならなくなった。
そしてナニが教えてくれたように大きな通りを渡って、入った路地の最初の四つ角を曲がった先に出ると、そこはすぐそこが両替所というところだった。
アイたちはギルドの前にたむろしていた奴らをやり過ごしてホッとする。
アイ「何とかアイツらに会わずに来れたね…」
アユミ「とりあえず宿屋に入ろう…」
モア「もうお腹ペコペコだよー…」
モアだけでなく全員が空腹を抱えて宿屋に入ると、
女将は武器を持ったアイたちを見回すと、ニッコリする。
女将「やあ、おかえり。いろんなものを仕入れてきたんだねー…
また一番上の部屋に上がっておくれ。」
アイ「ありがとうございます。」
アカリ「さあ、みんな行こう…」
それぞれが手にした武器をガチャガチャ、ゴトゴト鳴らしながら昨日も泊まった4階の部屋へと何とかたどり着く。
みんなすぐに武器をストレージにしまうと、取り出した毛布の上に転がった。
ソラ「あー、やっと戻ってきたー…」
ルカ「いろいろあって、さすがに疲れたね…」
タクミ「武器って、持ち歩くとここまで邪魔になるんだ…」
アユミ「すぐ食べる物、出すね…」
パンと飲み物が出てくると、全員が黙ってそれらを口に運ぶ。
朝からたくさんのことがあったが、今はそんなことも考えられないぐらい食べることに夢中だった。
それでもお腹も満たされ、飲み物を飲んで落ち着いてくると、それぞれが朝から起こったことを頭の中で
アユミ「なんか、落ち着かないうちにまた明日、出発するんだね…」
モア「いろいろあり過ぎだよー…」
アイ「でもナニさんの言う通り、この町にずっといても仕方ないからね…」
ソラ「今日買った武器は、全部持ち歩くためだけなんだね…」
ソラはまた武器を引きずって歩いたのを思い出したのか、
アカリ「まあ、
ナオ「でも、武器は武器だからなんかの時には使ったらいいんじゃない?」
タクミ「使わないともったいないよ…」
ルカ「あの手裏剣なんて使えるでしょ?」
アカリ「いっぺんどこかで試しておきたいけど…」
ツグミ「今日買った
ツグミが二種類の杖を取り出して、何度も見比べる。アユミやナオも同じように杖を出してみた。
アユミ「貰った方は杖の頭とお尻に何とかかんとかとか言う金属が付いてるけど…」
ソラ「オリハルコンね(笑)…」
ナオ「持った感触とか重さも違うけど、それって元々の木が違うからだし…」
アカリ「今日買った杖は何ていう木だっけ?」
ルカ「
アイ「
ナオ「貰った方は何の木かわからないけど、もうちょっと軽い気がする。」
モア「でも、結局杖でしょ…おんなじだよー…だったら軽い方がいいー…」
アカリ「(笑)。」
みんなは杖だけでなく、それぞれの武器を取り出してしばらく見比べる。そんな中、アイは一度出した剣も槍もすぐにストレージにしまった。
アイ「あのさ、今度の相手はゴブリンだから剣とか槍とか
ルカ「じゃあ、なに使うの?」
アイ「だから
ソラ「確かにこの前襲ってきた時は木の棒で叩いただけで死んでたもんね…」
モア「それでも剣でいいんじゃないの?」
モアがせっかく武器があるのに、という顔をする。
アカリ「剣とか使うと血がいっぱい出ちゃうんじゃない?そうすると後が結構大変かも…」
タクミ「叩いて殺すだけなら、それほどじゃないかもしれない…」
アイ「それに結局追い返すのが目的だから、木剣で追い回すだけで逃げてくれないかな…」
ナオ「数がかなり多いって言ってたから、そこまで上手くいくかはわからないけど…」
アユミ「でも、血があまり出ないっていうのはいいかもしれない…」
ツグミ「魔法は使わなくていいの?」
ナオ「小屋を襲われた時みたいに火を使うと、山の中だと危ないよ…」
ツグミの問いにナオが自分の
ソラ「山火事はマジでヤバいって…」
モア「えー、じゃあどうすんの?」
ツグミ「『ウォーター』とか『ウィンド』もあるから、使い方次第でうまくやれないかな…」
アユミ「追い返すだけだから、それでうまくいくよ。」
木剣や木槍を使うことや今までとは少し違う魔法を使った戦い方のこと。
そういったことを話すうちに、全員に新しいことが始まるという実感が
アイ「向こうの村に着いたら、クエストの前にいろいろ試しておきたいね…」
ナオ「確かに…」
ソラ「なんか、本格的になってきた(笑)…」
アカリ「なに?ワクワクしてんの?」
ソラ「実は(笑)…」
アユミ「ダメだよ…ゲームじゃないんだから…」
ソラ「そりゃあ分かるけど……」
アイ「いや、ここはアユミの言う通りだよ…ゴブリンだからって油断は絶対にダメだから…」
ツグミ「本当に始まるんだ…」
ルカ「だね…」
みんな、自分の武器を手にそわそわ落ち着かなくなってくる。
そんな様子を見て、アイが声を掛けた。
アイ「ぼーとしてても仕方ないから、私とアカリとルカとソラはあの手裏剣を分けたりしよう。」
アユミ「私とモアとナオで食べ物と飲み物を出しておくね…」
ツグミ「私もするよ…」
ナオ「お願いね…」
タクミ「え~と、オレは…」
ソラ「あんたはどっちにも顔出して、両方手伝いなよ。」
どちらか決めかねてるところに両方手伝えとソラに言われて、タクミは目を白黒させた。
タクミ「りょ、両方?」
アカリ「武器整理すんのも、食べ物整理すんのもできるでしょ?」
アユミ「さすがに両方は無理だよ(笑)…」
ルカ「だよー(笑)…」
タクミの困った姿にみんなが笑い出し、ソラやアカリもわかった、わかったと首を振る。
ソラ「じゃあ、こっちに来て手裏剣の整理を手伝いな(笑)…」
タクミ「は、はい…」
アイ「(笑)…じゃあ、とりあえずそれぞれに実際の戦いとか生活とか考えて、いろいろ準備しよう。」
アカリ「こっちが終わったら、そっちも手伝うから…」
ナオ「オーケー。」
みんなは分かれて明日からの準備を始めた。
アイやアカリ、ソラ、ルカ、タクミは小分けにしてもらった手裏剣の袋の中を確かめながらそれぞれに分けていく。
アイ「手裏剣とかナイフはこれでいいとして…」
アカリ「まだ石とか残ってる?」
ソラ「まだ結構あるよ。意外とゴブリンに襲われた時しか使ってないから…」
ルカ「私もまだだいぶ数ある。」
タクミ「オレのストレージにもまだ入ってるけど…」
タクミやルカも石を持っていると聞いて、アイは少しだけ考える。
アイ「オーケー、タクミが持ってるのは今はそのままにしといて…また使って無くなってきたら分けよう。」
ルカ「予備ってことね…」
アイ「そう…」
タクミ「りょ、了解…」
アカリ「じゃあ、私のところに木剣とか
タクミ「あっ、オレ、
ソラ「まだ、みんな持ってないしょ…」
アカリ「
アイ「全員に木剣と棍を、とりあえず1本ずつ渡してね。」
アユミとナオはモアやツグミと食べ物と飲み物、それ以外の生活用品をどのように分けるかを相談していた。
ナオ「モアが今出してくれたパンと水を私にちょうだい…その代わりにこのパンとか野菜とか飲み物を入れておいて…」
モア「オーケー…」
ツグミ「食べ物や飲み物も上手く分けて持っとかないと…」
ナオ「そう、誰が怪我したり具合が悪くなったりしても、食事はできるようにしとかないと…」
アユミは食べ物や飲み物以外のことも思い出す。
アユミ「
モア「私、あんまり持ってないよ…」
ツグミ「じゃあ、それも分けてもらわないとダメだね…」
アユミ「アイとかタクミ君とかにも食べ物と飲み物を渡しておく?」
ナオ「これから何があるかわからないから、全員が少しずつでも持っておく方がいいかもね…」
アユミ「じゃ、焚き木をもらう代わりに食べ物と飲み物を渡しとく…」
ツグミ「本当に何があるか、わからないもんね…」
アユミ「不安なことがあったら言ってね…ここで何とかできることもあるかもしんない…」
ツグミ「わかった…」
オオカミや魔獣のクマと
ある者はこれから起こることに興奮し、ある者は不安に
作業が一段落して少し落ち着くと、ソラが何かに気づく。
ソラ「そうだ、明日雨かもしんない…」
ツグミ「そう、私の『天気』も反応してた…」
アイ「雨か…」
雨と聞いてアイだけでなく、ナオやアユミもちょっと困ったという表情をする。
アカリ「ナニさんが、これから雨が増えるって言ってたね…」
モア「雨って何か関係ある?」
タクミ「気温が下がって寒くならないかな…」
ルカ「あの道に雨が降ったら、かなり大変だよ…」
アカリ「馬車も普通には進まないだろうね。」
ナオ「どこかで足止めもあるかもしんない…」
アイ「期限はなかったからそこは安心だけど…」
モア「足止めはやだなー…」
アユミ「仕方ないよ…これからは雨とか風とかで上手く進めないってこともありそうだね…」
ソラ「『天気』、しっかり確認しとくよ。」
アカリ「よろしくね!」
ソラ「まかせなさい!(笑)」
全員「(笑)」
それぞれが武器や食べ物と飲み物の整理を終えると、アイが改めてアユミとナオに尋ねる。
アイ「今日は結局どれぐらい掛かったの?」
アユミ「う~んと、武器だけで80ゴールドぐらいだったと思う。
だから、そば粉とか椅子とかそんなのも含めて、80ゴールドちょっとくらいで収まったよ…」
そんなやり取りを聞いてアカリが驚く。
アカリ「一人あたま30から40ゴールドぐらいで収めようって言ってたでしょ?」
ナオ「確かにそうだけど、その時は武器一つがどれぐらいの値段するのか、全く分かってなかったからね…」
アイ「でも、一人8ゴールドぐらいでしょ?だいぶ安くで済んだんだよね…」
ルカ「安くで済むような武器を探してくれたってことかな?」
アユミ「私はそんな気がするけど…」
みんなは午前中に会った、
ナオ「なんか色々なこと言ってたけど、店のおじさん、結構いい人だったね…」
ソラ「口が悪いのはやっぱ
アカリ「確かに(笑)…」
アイ「で、お金は2人が出したんでしょ?まだお金ってあるの?」
アユミ「う~ん…実は私とナオの持ち合わせはもうあまりないの…」
アイやアカリはそれを聞いてびっくりする。
アイ「ねえ、そんなこと、早く言ってよ…みんな、お金出してアユミとナオに渡しておこう…」
アカリ「ホントだ…」
タクミ「えーと、どれぐらい渡せばいいんだろう…」
アユミとナオは顔を見合わせるが、その間に他のみんなは自分の持っているお金を取り出した。
ナオ「じゃあ、とりあえず一人30ゴールドずつ出してくれるかな…」
アカリ「それぐらいで大丈夫?」
ツグミ「全部渡していてもいいんじゃないの?」
アユミが首を横に振る。
アユミ「私とナオしかお金を持ってなかったら、まさかの時にみんなが困るでしょ…
食べ物とか飲み物もそうだけど、それぞれがちょっとずつ持ってる方がいいよ…」
ナオ「誤解しないでほしいけど、会計みたいなことをするのがイヤって言ってるわけじゃないから…
ただ、何が起こるか分からないから、それでね…」
アイ「ごめんね…2人にばっかりやらせてるみたいで…」
ツグミ「ホントにそうだよ…私も手伝うから言ってね…」
アユミ「みんな、ありがとう…出来るだけみんなにも手伝ってもらうように声を掛けるから…」
アカリ「じゃあ、とにかく2人にお金を渡そう。」
みんながお金を出し合って、アユミとナオに渡した。
アイ「じゃあ、もう一度必要なものを確認したらみんなで夕食の用意をしよう。」
ソラ「ここで働かなきゃね…」
モア「り(了解)!」
ナオ「じゃあいっぱい働いてもらおうかな(笑)…」
全員「(笑)」
ナオの言葉で全員が立ち上がると、明日の準備や夕食の用意を始めた。
*
アイたちが食事を終え、寝付いた頃から町に雨が降り出した。
そして次の日の朝もまだ降り続いていた。
全員が日の出前に起きて食事を取り、馬車酔いのための魔法を掛け合い、まだ暗いうちに
雨は本降りで、それぞれが着ているマントはすぐにぐっしょりになった。
みんなが厩舎に着くと、雨など関係なしに何両かの馬車が出発の準備をしていて、もうたくさんの人が働いていた。
アイたちは
それからアイがなんとか
アイ「エブル行きの馬車に乗りたいんですが…」
男「エブル行きの馬車は一番奥のヤツだ…」
男はそれだけ言うと建物の方へ走っていってしまった。
アイは頭を下げると、みんなに一番奥の馬車だと伝える。
教えられた馬車のところへ行くと、背の低い、少し目つきの悪い男が荷物を持った別の男と話している。
荷物を積み終わったところで、アイたちはエブルへ行きたいことをその男に伝えた。
男は一瞬アイたちをにらむように見渡すが、すぐに「ああ、乗りな」とだけ言う。
みんなが頭を下げても一向に気にせず男は馬のところへ行ってしまった。
アイ「とにかく乗り込もう。」
アイの言葉で全員が馬車に乗り込み、
すると、しばらくしてさっきの男が御者の席に座って何も言わずに馬車を出発させた。
馬車が村を出てからも雨は止むことなく、むしろ進んでいくにつれて強まっていく。
風も強まってきて、それぞれが毛布を出してしっかりと
アユミとナオ、モアは交代でみんなに『ヒール』をかける。雨がひっきりなしに麻布の幌を叩いた。
雨が強くなるにつれて道も悪くなり、昼前には何度も誰か数人が降りて、
昼休憩の時も馬車から降りることはできず、皆馬車の中で少しのパンと飲み物を口にするだけだった。
御者の男は悪路にアイたちの手伝いが必要な時以外にはほとんど何も言わずに馬車を進めていく。
午後になっても雨足は変わらず、馬車は前後左右に大きく揺れながら進んだ。
そんな中、二時間ほど経って馬車が突然止まった。
アイたちがまた降りるのだろうと準備をすると、前から大きな声で罵声のようなものが響く。
何人かが慌てて馬車の前から外をうかがうと、御者の男が馬の前に行って何か騒いでいるようだ。
アイたちがどうしたものかとお互いの顔を見合わせていると、男が馬車の方へ戻ってきた。
御者の男「すまねぇが、全員降りて馬車の向きを変えるのを手伝ってくれ…」
アカリ「馬車の向きを変えるんですか?」
御者の男「ああ…そこの川が増水してとても橋を渡れねえ。
引き返して、手前の村に行くしかねえ…」
アイ「わかりました…」
全員が馬車から降りると、男の指示で馬車を180度反対向きへと変えることにする。
雨の中、アイたちはジャッキも何もないなかで
男を含めて全員がずぶ濡れになり、泥だらけになりながら何とか馬車は向きを変え、元来た道を戻り始めた。
アイたちが濡れた身体をお互いにタオルで拭いたりしている間に、馬車は通り越していた村へと到着した。
御者の男「今日はもう先には行けねえ。この村が泊まりだ。」
男が馬車や馬を
その宿屋は今までで一番小さく、古ぼけていたが、とにかく部屋は空いていた。
アイたちは一階の
ソラ「ううう…寒いよ…」
アユミ「とにかくかまどで火を炊いて、飲み物を温めるね…」
ツグミ「私も手伝うよ…」
アカリ「このままだとみんな風邪引いちゃうよ…」
それぞれが部屋でもう一度しっかりとそれぞれの身体を
それから何人かが炊事場で飲み物を温め、二階の部屋で全員がその飲み物を口にして暖を取った。
モア「今日は大変だったー…」
ナオ「あとでみんなに『ケア』をかけるね…」
アイ「お願い…まだちょっと背中が寒いよ…」
ルカ「アイちゃん、大丈夫?」
ルカがもう一枚毛布を出してアイに被せた。
アイ「ありがとう、ルカ…」
アユミ「ナニさんにも病気と怪我には十分に気をつけろって言われたからね…」
ソラ「でも、いつまで足止めになるんだろう…」
タクミ「なんか雨は止んできてるけど…」
タクミは立ち上がって部屋の外へ出て、雨の様子を確かめる。
アイ「どう?」
タクミ「うん、もう大丈夫。雨は完全に止んでるよ…」
モア「よかったー…」
ソラ「じゃあ、明日は大丈夫だね。」
ナオ「いや、まだわかんないよ…」
そう言ったナオの顔をみんなが見る。
ナオ「雨が止んでも川の水が引かないと、橋は渡れないんじゃないかな…
それに増水って雨が止んでからも起こるから…」
ソラ「そうなんだ…」
ルカ「そう言ったら、台風の時とか雨が止んでも川に近づいちゃダメって言ってるもんね…」
アカリ「明日も足止めかなあ…」
アカリがちょっとウンザリという表情をすると、何人かがうなずいた。
ルカ「ギルドで聞いた時はエブルまで二日とか言ってたけど…」
ソラ「これで最低一日は増えた感じだね…」
ナオ「道もだいぶ悪かったし、もう少しかかるかもしれない…」
アユミ「ゴブリン退治の時も、雨になるのかなぁ…」
モア「ずっと雨は絶対ヤダー…」
アイ「天候のことはどうしようもないよ…ただ、体調のこととかお互いに気をつけよう。」
アカリ「わかった。」
アユミ「とにかく夕食も何か温かいもの、出せるようにするね…」
ツグミ「夕食も手伝うから…」
アイ「みんなで手伝うよ。」
アユミの言葉通り、夕食には焼いたソーセージや温めた飲み物が出る。
雨と風の中を進んできた一日が終わり、みんなにとってやっとホッとできる時間になった。
楽しんでくださった方や今後が気になるという方は、お気に入りや評価をいただければ励みになります。
また、面白かったところや気になったところなどの感想もいただければ幸いです。よろしくお願いします。