ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~ 作:イジー・ムラシロ
74 変わった依頼
アイたちがドムニの町に着いた頃には一日中降り続いていた雨も止んでいた。
みんなは初めてここにやって来た時と同じように馬車から下りてマントのフードをしっかりと
ソラ「ヤバい…暗くなってきてる…」
アイ「急いでこないだ
ナオ「私とアユミは両替してくるね…」
ツグミ「私もいっしょに行くよ。」
アカリ「了解。」
夕方の町中はやはり外から戻ってきた人々でごった返している。だが、さすがに前回とは違ってどこに宿や両替所があるのか分かっているので、あたふたすることはない。
アイたちは声を掛け合って離ればなれにならないようにしながら、アイたち宿屋に向かう者とナオたちの両替所へ向かう者に別れた。
アイたちは前やって来た時にナニに紹介してもらった宿へ向かった。
アイが
アイ「あの~こんばんは…まだ部屋は空いてますか?」
女将「あら、前にナニが連れてきたお客さんじゃないの?」
女将の答えにアイたちは驚いて顔を見合わせる。
アイ「私たちのこと、覚えているんですか?」
女将「当たり前じゃないの…こういう商売ってお客さんの顔や格好とかすぐに覚えちゃうものなのよ…」
モア「へぇー…」
女将「よかったね、まだ一番上の部屋が空いてるよ。8人か9人ぐらいだったよね?」
アイ「はい、9人です。」
女将「じゃあ、上に上がってね…」
アイだけがナオたちが来るのを待って、他のみんなは女将に頭を下げて階段を上っていった。
ナオたちもすぐに宿にやって来る。その頃にはもう教会の
ナオ「こんばんは。」
女将「こんばんは。お連れさんはもういるよ…」
アイ「ナオ、アユミ…」
ナオ「すいません…じゃあ、お代を…」
女将「お代は一人5シルバーだよ…」
ナオが全員分は
部屋ではルカやソラやタクミが夕食の用意をしていた。
だが、エブルの村からドムニの町までずっと雨の中を馬車に
誰もがパンと飲み物と少しのハムを口にしたぐらいだった。
食事が終わるとアイが口を開く。
アイ「明日はまず、ギルドへ行かなきゃね…」
ルカ「あのオヤジさんとおかみさんのお店へは?」
ナオ「どっちも行ったらいいけど…先にギルドじゃない?」
アカリ「私もそう思う。」
ソラ「ギルドへ行って何すんの?」
アイ「クエストが終わったのを報告して、それから新しいクエストをまた探そう…」
モア「そんなのがずっと続くってこと?」
モアの短い言葉には「本当にしなければならないことはクエストなの?」という気持ちが
しばらくの間誰もが黙っていたが、やがてアユミが言う。
アユミ「モアが言うことはわかるけど…ナニさんも言ってたけど、魔法のこととか
だから、とにかく今はクエストをしながら誰か話を聞ける人を探すようにした方がいいと思う…」
アユミの言葉にアカリやツグミもうなずく。
アカリ「ナニさんやお店のオヤジさんにもすぐに人を信用したら危ないって言われたし、モアが言うようにクエストを続けるのって遠回りに思えるけど、今のところはそれが最善じゃないかな…」
ツグミ「それにこないだもクエストが成功して感謝されたわけで…そういうふうに上手くいったら、誰か何か教えてくれるかもしれない…」
ここまで誰も口にしてこなかったが、やはり全員が元の世界に帰りたいという強い気持ちがあり、特にモアの言葉には帰るための方法を探さなきゃいけないという押し殺していた気持ちが表れていた。
みんなの話を聞いて再びアイが口を開く。
アイ「モアの言ってることも分かるし、もちろん私も帰るのを
でもアカリやアユミが言うみたいに慎重にならないとダメなこともたくさんあると思うの。
それにこの辺りってまだ結構な田舎みたいだから、レアの村の長老さんたちやナニさんのように事情が分かる人もあまり多くないみたい…」
モア「じゃあ、クエストなんてしてないで、もっと大きなとこに行こうよ…」
モアは少し唇を
ナオがそんなモアの隣にやってきて、彼女の肩を
ナオ「モア、私たちだって元の世界に帰りたいし、家族や友達にも会いたいよ…だからモアの気持ちもよ~く分かる。
だけど、実際にお金だって必要だし、この世界のことだって思ってるほどまだよく知らないと思う。
だから、もう少しだけクエストをするのは大事だと思うの…どう?…」
ナオがモアの顔を見ると、彼女の眼から涙がこぼれてきた。
そんなモアの様子にアユミとツグミとルカも互いに肩を寄せ合い、ソラも少し鼻をすする。ナオはモアの泣き顔を黙って抱きしめた。
モアとナオの姿を見て目を
アイはそのままで言う。
アイ「元の世界に帰るのを忘れたりはしてないよ…
だから、もう一回ここでクエストをこなしたら、次はもっと大きな町へ行こう。」
アイがモアの頭を
アユミが改めて確認する。
アユミ「じゃあ、明日はまずギルドへ行ってクエストの結果を言って、それから新しいクエストを決めてからまたおかみさんのお店へ行こう。」
ソラ「りょ~か~い…」
全員「(笑)…」
ソラがわざとふざけた調子で返事をしたので、みんなが笑ってまた元のリラックスした空気に戻った。
ナオがモアの頭をポンポンと軽く叩いてから立ち上がり、それを見てみんなも立ち上がってそれぞれが眠りについた。
次の日、みんなは教会の鐘の音で目を覚ます。朝から食事をして準備もちゃんと整えてギルドへと向かった。
昨日は夕方のごった返した時間ということもあって武器は出さなかったが、今朝はそれぞれがちゃんと剣を
ギルドの前にはまだ朝も早いので誰もいなかった。
アユミやツグミは建物の前で
2階の受付には以前と同じようにあの小柄な男が座っていて、アイがフードを被ったまま彼に声をかけた。
アイ「あの~…」
受付の男「うん?いらっしゃい…今日は何です?」
アイ「あの~…先日エブルの村のクエストを引き受けた者なんですが…」
男は目を細めてアイを見、それからアイの後ろに並ぶタクミたちを見渡す。そして何かを思い出したのか、大きく目を見開いた。
受付の男「あー、あのゴブリン退治のクエストへ向かったパーティーだね。で、
アイ「はい、ここで聞いたよりもゴブリンの数が多かったり、あの~…ビックゴブリンっていうのが出たりしたんですが…とにかく何とか追い払うことができました。」
アイはそう言いながらストレージからカードを取り出す。
男は何度もうなずきながら彼女からカードを受け取った。
受付の男「そうか…ビックゴブリンなんてのが出たのか…
この辺じゃあまり聞かないが、出るとゴブリンが大量に
アカリ「200か300匹ぐらいはいたと思います…」
受付の男「そりゃかなりの数だ!初めてにしては大変だったろう…」
受付の男はアカリの話に感心しながらカードを受け取ると、
そしてカードと紙の両方を横の箱に乗せる。するとこの前のようにカードを乗せたまま箱は白く光った。
光が消えると男はカードをアイに渡す。
受付の男「じゃあ、今度のクエストが成功したことはカードに書かれているから…
それにしても大変だったな、かなり時間もかかったみたいだし…」
ソラ「ゴブリン退治も大変だったけど、その後に武術や魔法の練習もしてきたんで…」
アユミ「村の村長に頼んで場所を使わせてもらって…」
ソラの話を聞いて、受付の男はますます驚いた顔をする。
受付の男「クエストが終わっても
いつも外でたむろってる奴らに聞かせてやりたいね…」
受付の男が髪のない頭を撫でながらちょっと大げさに首を何度も振るので、アイやナオは少し恥ずかしそうに顔を見合わせる。
すると男は椅子から立ち上がり、部屋の奥へと入っていった。
アイたちは男に次のクエストのことを聞こうと思っていたので、彼の姿が見えなくなり困って廊下に立ち尽くす。
少しすると男が何かを手にして受付に戻ってきた。
受付の男「実はあんた方に
受付の男からの突然の話にアイたちは驚いてそれぞれに顔を見合う。
アイ「頼み事ですか?…」
受付の男「いや、そんな大変なことじゃないんだが、あんた達のようにちゃんとした人たちじゃないとダメなんでな…」
アカリ「どんなことですか?」
受付の男「それがな…手紙をある村まで届けて欲しいんだ…」
アイ「手紙ですか…」
受付の男はアイたちの顔をジッと見る。
受付の男「実はここから西に駅馬車で三日ほど行ったところにローフという村があってな、その村の近くにラウンドウルフというオオカミの
アイ「はあ…」
受付の男「そのローフの村長が
これまで3組ほどの勇者パーティーがそのクエストを引き受けて村まで行ったのだが、みなラウンドウルフの数を見て最低でもこの倍、普通なら3倍は
タクミ「で、その村長さんは何て…」
受付の男「うむ…我々ギルドからも再三
つまり引き上げる気がないらしい…」
ナオ「それで手紙を…」
受付の男「我々としてはもう一度だけ報酬の引き上げを求めて、それでも受け入れられなければもうこのクエストを取り下げるつもりでな…」
アイ「その手紙を持っていけばいいんですか?…」
受付の男「大事なことなので、直接村長に渡して返事を
本当はギルドの者が行くべきなんだが、とにかく人手がいなくて…」
男は
受付の男「ここに20ゴールド入っている。あんた方が
何もオオカミ退治をしろと言ってるんじゃない、ただこの手紙を渡して返事をもらうだけでいいんだ…
申し訳ないが引き受けてくれまいか…」
アイたちは突然の申し出に困惑して顔を見合わせた。
アイ「どうしよう…」
アユミ「言われてることは簡単だけど…」
ナオ「どうもその村長ってのが、引っかかるね…」
手紙を持っていくこと自体は難しくないのだが、聞く耳を持たないという村長がどんなことを言うのか、それが心配になってくる。
受付の男「あんた方が引き受けてくれないなら仕方ないな…また誰かを探そう、悪かったな…」
受付の男がいかにもがっかりしたという言い方をしたのを聞いて、アイが他のみんなに言う。
アイ「どう?手紙を持ってくだけだし…やってもよくない?」
ナオ「何か気にはなるけど…」
ルカ「でも、手紙を持っていくだけって言ってるから…」
彼女たちの言葉が聞こえたのだろう、男は顔を上げる。
受付の男「手紙を持っていって、返事を貰ってきてくれればいいんだ。
もし向こうがダメだと言えばクエストを取り下げるだけだ。とにかくそれだけなんだ、悪いが引き受けてくれ…」
ナオはまだ難しい顔をしていたが、アイは意を決してうなずく。
アイ「わかりました。この手紙をそのローフの村の村長に渡してきます。
返事を貰ってくればいいんですね?」
受付の男「そう。オオカミと戦うとか、そういうことは全然必要ないから…
すまないがよろしく頼む…」
男は珍しく立ち上がってアイに頭を下げ、手にしていた手紙とお金の入った袋をアイに渡した。
受付の男「期限も気にしなくていい…とにかく手紙を渡しさえすればいいから…」
アカリやアユミはアイの顔を見てうなずくが、ナオはしぶしぶ首を縦に振った。
アイは手紙とお金をストレージにしまう。
アイ「では、行ってきます。」
受付の男「すまないが、よろしく頼んだ。村長には何を言われても、ただ使いを頼まれただけだと言えばいいから…」
アイたちはとりあえずぞろぞろと廊下を戻って、ギルドの建物の外へと出た。
ソラ「なんか、変なことになったけど…」
モア「で、今からどうすんの?」
ルカ「とにかくおじさんとおばさんのいるお店へ行くんでしょ?」
アカリ「ここでグズグズしてたら、また変な奴らがやって来るよ。」
アイ「とにかくお店へ行こう…」
アイたちは宿の方へ戻るように進み、前回武器などを買ったお店へと向かう。
その道すがら、アイのそばへアユミと、まだ浮かない顔をするナオがやって来る。
ナオ「なんか、悪いことが起きなきゃいいけど…」
アイ「その村の村長のことが気になるの?」
アユミ「
ナオ「ケチもそうだけど…何度言っても変えないってのが、だいぶ性悪に思えるんだけど…」
アイ「まあ、もう引き受けちゃったんだから…
とにかくあまり相手にならないように気をつけよう…」
ナオ「う~ん…」
ナオがずっと心配するので、アユミが言う。
アユミ「店のおじさんとおばさんにその村長のこと、聞いてみようよ…」
アイ「まあ、何でも情報は聞いた方がいいからね…」
アイたちは少し難しい顔をしながら、オヤジさんとおかみさんの店へと向かった。
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