ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~ 作:イジー・ムラシロ
アイたちは店を出た後、
すると、ちょうど明日の朝に出発する便がある。
アイたちが前にナニに教わった裏道を通って宿に戻ると、正午はとっくに過ぎていた。
ツグミ「パンとか飲み物とか出すね…」
ツグミやルカが用意をしてみんなで食事にするが、アイはその間も何か考え込んでいる。
アカリ「ねえ…何を考えてるの?」
ナオ「そうだよ…ひとりで考えてないで、言ってちょうだい…」
下を向いているアイの傍にアカリやナオ、ソラがやって来て、アイはやっと顔を上げた。
アイ「うん…みんなゴメンね、軽い気持ちで仕事を引き受けちゃって…」
アイが申し訳なさそうにするのをソラが笑顔で肩を叩く。
ソラ「いいって…あん時は村長がどんな奴か分かってなかったし、なんか
アカリ「そうそう、アイだけじゃないって…
みんなあの状況だったら、引き受けたと思うよ…」
ナオ「アイだけが気にすることじゃないよ…みんなでやるんだから…」
アイはまだ難しい顔をしていたが、それでもみんなにそう言われて少しホッとしたようだった。
アユミ「店のおじさんにも手紙を持っていくだけだって何度も言われたんだから、そんなに心配することないよ…」
アイ「みんな、ありがとう…そうだね、手紙を渡せばいいだけだもんね…」
アイはやっと少しだけ笑みを浮かべた。
その日はそのまま宿で食べ物と飲み物をそれぞれに分けたり、
次の日は朝からまた雨だった。
アイたちは鐘の音を聞きながら準備をし、早朝から駅馬車に乗り込んだが、出発の時にはまだ小降りだったのが馬車が走り出してしばらくすると本降りに変わる。
みんなは身体を冷やさないようにそれぞれに毛布を出してお互いに身を寄せ合った。
モア「もう雨はヤダよー…」
ナオ「ナニさんが言ってたけど、やっぱり今は雨期なんだね…」
ルカ「でも、ちょっと寒すぎない?」
タクミ「ホント、風が冷たい…」
遠慮してるのか、タクミがひとりだけ離れて毛布を
タクミ「えっ?いや、それは…」
ソラ「なに言ってんの…」
アイ「そうそう…とっくにそんなの気にする必要ないでしょ…」
タクミ「まあ、そうかも…」
アイとソラはニヤニヤしながらタクミに身体を押しつけた。
だが雨はその日も次の日もずっと降り続き、馬車は
そして増水が激しいと川は渡れず、自然と
ギルドではローフの村へは3日ほどと言われたが、結局エブルの村に向かった時と同じく余分な日数が必要で、到着まで5日かかってしまった。
馬車がローフの村に着いた頃には雨はすっかり止み、あちこちの川の増水も収まっていた。
アイたちは
そこには馬車から荷物を下ろすために男たちが集まっていた。
ソラは辺りをキョロキョロと見渡して、何となく話し出す。
ソラ「やっと着いたわけで…村長の家を探さなきゃなんないね…」
ツグミ「そうだね…誰に聞けばいいんだろう…」
だが、そんな声が聞こえていたのだろう。
集まっていた人々の先頭にいた男が傍にいた別の男に何かを言いつけると、ソラやツグミのところへ歩み寄ってきた。
男「おい、お前たち!村長様のおいでになるところまで行きたいのか。」
ソラやツグミだけでなく、ナオと話をしていたアイも男の
男は背が低く、丸顔に身体も小太りで手足の短い丸い体型をしている。
服装は周りの男たちと同じく
だが、目つきは
アイは少し不愉快に感じながらもできるだけ丁寧な言葉づかいで男に答えた。
アイ「こんにちは、私はアイと言います。
実はこの村が出しているクエストの件でギルドから村長への手紙を
男は最初はアイを、それからアイの周りにいるソラや他のメンバーのことをジロジロと
小太りの男「アイとやら、お前はパーティーでやって来たのか?」
アイ「はい、ギルドへ私の仲間といっしょに行った時に勇者パーティーとして
小太りの男「ふ~ん…」
男は相変わらずジロジロとアイたちのことを見ていたが、また口を開く。
小太りの男「それじゃあ、そのギルドの手紙ってのを今見せてもらおうか。」
アイも他のみんなも男の言葉にびっくりするが、アイはとにかく
アイ「ギルドの人からは村長に直接渡すようにと言われています。」
小太りの男「ふ~む、分かった。じゃあ、村長様の御自宅へお前たちを連れていこう。
それと必ず村長様と言うんだ、いいな!」
男はどこまでも
男のあまりに
だがアイはみんなの方を振り返ると、落ち着くようにと何度も手のひらを下へ向けるしぐさをする。
誰もが
男のあとについて村に入ると、そこは今までの村と
まだ陽も高いのに、
家はどこの村とも同じような板壁に
小太りの男はアイたちの方を振り返ることもなく、黙ってスタスタと進んでいく。
そして村の奥の方へ進んでいくと、突然大きな家が見えてきた。
ドムニの町のギルドの建物ほどの大きさがあり、家というよりも屋敷という雰囲気だ。
村の家々がみすぼらしいので、その
男はその屋敷の何やら
小太りの男「今から村長様をお呼びするから、お前たちはそこでしばらく待っていろ。」
男はそう命じると、扉を開けて今までと全く違う丁寧な言葉づかいで屋敷の中に話しかけた。
小太りの男「失礼いたします、マヒナでございます。村長様、実はお話がございまして…」
すると中から甲高い声で「マヒナか、入るがよい」という返事がする。
マヒナと言った男はペコペコと何度も頭を下げて屋敷の中へと入っていった。
アイたちは互いの顔を見ながら、手持ち
すると、急に屋敷の扉が開いて背の高い男が出てきた。
男はマヒナとは対照的に
男は麻のズボンに麻のシャツという姿に赤い毛織のチョッキを着ていて、その上から何かの動物の毛皮を
毛織のチョッキはアイたちがシャツの上から羽織るものと似ているのだが、その赤い色がこの辺りでは見たことがないくらい
そして羽織っている毛皮はクマのものらしく、クマの頭が帽子のように頭の上にくるようにしていて、おまけに首にはキツネの頭も
男は
首に巻いたキツネもぬいぐるみのように見えて、威厳があるというよりどこか可愛らしい印象がして、みんなは吹き出しそうなのを何とかこらえてとりあえず一斉に頭を下げた。
マヒナ「お前たち、何をしている!村長様の前で立ったままの奴があるか、すぐ
アイたちが頭を下げただけなのを見て村長が不機嫌な顔をしたので、彼について出てきたマヒナがすぐに大声で命令した。
彼女たちはまた驚いて顔を見合わせるが、しぶしぶ跪いて頭を下げる。だが、マヒナがまた
マヒナ「どうした?なぜフードを脱がないんだ!全くお前らはどこの田舎者だ、村長様の前でちゃんと
アカリとソラは怒りで肩を
他のみんなもアイに合わせてフードを取った。
村長「うむ、リーダーはアイとか言うそうだな…
村長は
レアでもエブルでも村長は村人たちから尊敬されていたが、身分という意味では互いに全く同じ接し方をしていた。
だがマヒナの態度と言い、村長自身の態度と言い、どうやらこの村の村長は貴族のように思える。
アイは
アイ「勇者パーティーのアイです。今日はドムニの町のギルドから村長様へのお手紙を持ってきました。」
アイは出来るだけうやうやしくしようと丁寧な言葉づかいで話した。
だが、村長は返事もせずにジロジロと彼女の顔を見ている。と、突然大口を開けて笑い出した。
村長「なんだ、勇者パーティーというからどんなゴツイ奴かと思えば、ただの小娘ではないか。」
村長にいきなり「小娘」と言われ、ここまで
だが、村長はそんなアイの様子など何も気にせず、彼女の周りに
村長「おい、お前ら一度みな、顔を上げろ。」
村長の言葉を受けてマヒナも言った。
マヒナ「村長様のお言いつけだ。お前たち全員、顔を上げて村長様によぉーくお見せしろ。」
村長とマヒナのあまりに
村長「こら、さっさと顔を上げんか。その
アカリやナオもしぶしぶ顔を上げ、それに続いて全員が顔を上げる。
村長は
村長「なんじゃ、一人を除いて全員まだ成人したばかりの小娘ではないか。
勇者パーティーを名乗るなど、おこがましいにも程がある。」
マヒナ「全く村長様のおっしゃる通りで…これでは礼儀を知らぬのも無理ありますまい。」
村長「ドムニの町のギルドもこんな小娘ごときに手紙を渡すなど、どうせ大したことではあるまい。全く時間の無駄だ。」
村長とマヒナの暴言にソラが思わず立ち上がろうとするが、隣にいたアユミがすぐに手を押さえ、顔を見たソラに目で我慢するようにと伝えた。
だがソラだけでなく、アカリやモアも怒りに身体が
マヒナ「さあ、もうよい。アイと
マヒナはまた偉そうに命令する。その間に村長は
村長「こら、その持ってきたという手紙をさっさと渡せ。」
さすがのアイもこの偉そうな2人に
マヒナ「馬鹿者!村長様に直接差し出す奴があるか。私に渡すのだ。」
マヒナはそう言うとアイが差し出した手紙をひったくるように
ナオやアユミはこの芝居がかったやり取りにすっかりうんざりした。
村長はギルドからの手紙に目を通すが、すぐにくしゃくしゃと丸めてその場に捨ててしまう。
村長「ふん、何を馬鹿なことを言っとる。
それに逃げ帰った勇者パーティーの者どもはただの
あんな奴らの言葉を信じるなど、全く何も分かっとらん。」
村長はギルドからの手紙に書かれていた報奨金の
マヒナは村長に
マヒナ「全く村長様の言う通りでございます。ギルドの無能どもに我が村を襲うオオカミのことなど分かるはずがございません。」
村長はマヒナの言葉にうんうんとうなずくと、アイに向かって言う。
村長「いいか、アイとやら。ドムニに戻ったらギルドの奴らに言うのだ。
今の
だからこれ以上はびた
ワシに文句を言う
村長は一度ふんぞり返ると、
村長「全く、大事な手紙をこんな小娘どもに
お前たちも出来もせん勇者パーティーなどを名乗るような身の
村長は一度屋敷の中へ入ろうとするが、振り返ってアイに付け加えた。
村長「アイ、ギルドへ戻ったら必ず言うのだ…
今度は使者としてちゃんとした勇者パーティーを差し向けるように、と。
お前らのようなガキどもでは使いにすらならん、いいな!」
アイが怒りの眼で村長を
マヒナ「馬鹿者!村長様に頭を下げて
アイはしぶしぶ頭を下げ、村長の言ったことを
アイ「クエストの報酬は
村長はいかにも満足したという様子で今度こそ屋敷に入っていこうとした。
すると突然、アイが村長を呼び止める。
アイ「村長様!申し上げたいことがあります。」
アイが突然声を上げたので、マヒナが怒った。
マヒナ「何度言えばいいのだ。勝手に
だが村長はふんぞり返ったまま振り返り、マヒナを手で
村長「アイ、お前の話を聞いてやろう。」
アイは村長に向かって深く頭を下げた。
アイ「ありがとうございます。
村長様、もしも我らがクエストで言っていた
アユミ「アイ⁉」
マヒナ「これは
お前らごとき小娘にオオカミ退治のようなことができるわけがなかろう。身の
村長「まあ待て…」
村長は口をへの字に結んだままアイの顔をしばらく見ているが、また急に笑い出した。
村長「ハハハハハ(笑)…お前らのような小娘に何ができる?
まあ、もしオオカミどもを退治してその
小娘は小娘じゃのう。身の
アイ「村長様…今の言葉、決してお忘れないように…」
アイは頭を地面につけながら低い声で言う。
だが、村長は「フン」と鼻を鳴らしただけで屋敷に入っていった。
マヒナ「もうよい。さっさとドムニの町に戻れ。もう顔を見せてはならんぞ、いいな!」
マヒナはまたそう怒鳴ると、彼も屋敷の扉をバタンと音を立てて閉めて中に入った。
アイたちはマヒナの姿が見えなくなって、やっと立ち上がった。
ソラが何かを言おうとするとナオが
ナオ「しぃー…ここで大きな声を出すと、中に聞こえるよ…」
ナオがそう小声で言ったので、ソラだけでなくみんな口を閉ざす。
アイ「とりあえず宿を探そうよ…」
アイの言葉を合図に、みんなは厩の方へぞろぞろと歩き出した。
村長の屋敷からしばらく歩いて、だいぶ離れたところまで来たところでアユミが足を止める。
アユミ「ねえ、アイ…ホントに魔獣オオカミ退治に行くの?」
アユミに聞かれて、アイも足を止めて下を向く。
ナオ「アイ…」
全員が心配そうにアイのことを見つめると、アイはやっと顔を上げた。
アイ「ごめんなさい…また先走ったこと言っちゃって…
魔獣オオカミの退治なんて、無理だよね…私、頭に血が上っちゃって…」
アカリ「アイ…」
ソラ「ううん…アイだけじゃないよ…私だってあんなにバカにされて
だからあんな事言ってくれて、私はうれしかった…」
アイ「ソラ…ありがと…」
ソラはアイの手を取るが、ツグミは不安そうな顔をする。
ツグミ「でも、ホントにオオカミ退治に行くの?
認めたくないけど…まだ私たちには難しくないかな…」
ナオ「しっ…そこで誰かが私たちの話を立ち聞きしてる…」
ナオは急にツグミやソラの
他の子もすぐ近くまで身体を寄せ合った。
アイ「ねぇ、どこにいるの?」
ナオ「私の後ろの方…アイから見て左の奥の家の
それを聞いてソラやツグミが少し
アカリ「ねえ、どうする?」
ソラ「このまま
ツグミ「それよりも…あの人たちに話を聞かない?」
アイ、ナオ「えっ?」
思ってもみなかったことをツグミが言い出す。
ツグミ「私たち、まだこの村であの村長たちの話しか聞いてないでしょ…
他の人はどう思ってるのかな…」
ソラ「確かに…」
ツグミ「それに…もしホントにクエストに向かうなら、道案内がいないとダメだよ…」
ナオ「ツグミの言う通りだね…」
アイたちは固まってひそひそ話をしていたが、ナオとツグミが意を決して陰にいる男女のところへ向かった。
ツグミ「あの~…」
ナオ「お話、
陰にいた男女は2人ともまだ20代前半ぐらいに見える。
アイたちの様子をうかがっていたが、まさか向こうから話しかけられるとは思ってなかったのだろう、2人とも
ナオ「待って下さい。あの、お話を
ツグミ「お願いします…」
ナオとツグミの声を聞き、男性の方が足を止めた。
若い男「あの~…お話はしたいのですが…村長に知られてしまうと…」
男女は2人とも不安そうな表情をするので、ナオが女性の手を取って言う。
ナオ「じゃあ明日、村から出たところで会ってお話しませんか…
私たちも是非伺いたいことがあるんです…」
若い女「村の外で…」
ナオがうなずくと、ツグミが尋ねる。
ツグミ「あの~…今晩泊まるための宿を探しているんです。どこか分かりますか?」
男性は女性の肩を
若い男「わかりました。明日の朝、村の門を出たすぐのところでお待ちしております。
宿は
男性はそれだけ言うと辺りを見渡してナオとツグミに頭を下げ、急いで走り出した。
女性も男性の後ろにつき、一度振り返ってナオとツグミに礼をしてから走り去った。
2人の姿が見えなくなると、ナオとツグミは固まってこちらを見ていたアイたちのところへ戻った。
アカリ「どうだった?」
アカリの問いにナオは黙ってうなずく。
ナオ「名前とかは聞けなかったけど…明日の朝に門の外で待ってるって…」
ツグミ「村の外でなら話ができるみたい…」
アイ「そう…」
アイはナオとツグミの顔をジッと見ている。
ツグミ「あと、厩の隣に宿があるんだって…」
ルカ「じゃあ、急ごうよ…もう暗くなっちゃうよ…」
ソラ「だよね…」
宿のことを聞いて、アイはやっとうなずく。
アイ「オーケー…とりあえず宿へ急ごう…」
アカリ「分かった…」
ソラ「了解。」
日が暮れてきてみんなが宿へ向かってぞろぞろと歩き出すと、どこか遠くから何かの鳴き声が響いてくる。
ウォ~ン…
ウォ~ン…
ワォ、ワォ~ン、ワォ~ン…
その声は野犬かオオカミの
静かな村にその遠吠えがずっと響いていて、ツグミとモアは表情を硬くした。ルカとアカリがそんな2人の肩を
アイ「厩までもうちょっとだよ…行こう…」
アイの言葉に全員が黙ってうなずき、また歩き出した。
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