※この作品はR-18です。

ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~   作:イジー・ムラシロ

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76 ローフの村長

 アイたちは店を出た後、厩舎(きゅうしゃ)に行ってローフの村へ行く馬車のことを確かめる。

 すると、ちょうど明日の朝に出発する便がある。

 アイたちが前にナニに教わった裏道を通って宿に戻ると、正午はとっくに過ぎていた。

 

ツグミ「パンとか飲み物とか出すね…」

 

 ツグミやルカが用意をしてみんなで食事にするが、アイはその間も何か考え込んでいる。

 

アカリ「ねえ…何を考えてるの?」

ナオ「そうだよ…ひとりで考えてないで、言ってちょうだい…」

 

 下を向いているアイの傍にアカリやナオ、ソラがやって来て、アイはやっと顔を上げた。

 

アイ「うん…みんなゴメンね、軽い気持ちで仕事を引き受けちゃって…」

 

 アイが申し訳なさそうにするのをソラが笑顔で肩を叩く。

 

ソラ「いいって…あん時は村長がどんな奴か分かってなかったし、なんか(ことわ)るのも気が引けたしね…」

アカリ「そうそう、アイだけじゃないって…

 みんなあの状況だったら、引き受けたと思うよ…」

ナオ「アイだけが気にすることじゃないよ…みんなでやるんだから…」

 

 アイはまだ難しい顔をしていたが、それでもみんなにそう言われて少しホッとしたようだった。

 

アユミ「店のおじさんにも手紙を持っていくだけだって何度も言われたんだから、そんなに心配することないよ…」

アイ「みんな、ありがとう…そうだね、手紙を渡せばいいだけだもんね…」

 

 アイはやっと少しだけ笑みを浮かべた。

 

 その日はそのまま宿で食べ物と飲み物をそれぞれに分けたり、()き木や武器を分けたりして旅の準備をして一日を終えた。

 

 次の日は朝からまた雨だった。

 アイたちは鐘の音を聞きながら準備をし、早朝から駅馬車に乗り込んだが、出発の時にはまだ小降りだったのが馬車が走り出してしばらくすると本降りに変わる。

 みんなは身体を冷やさないようにそれぞれに毛布を出してお互いに身を寄せ合った。

 

モア「もう雨はヤダよー…」

ナオ「ナニさんが言ってたけど、やっぱり今は雨期なんだね…」

ルカ「でも、ちょっと寒すぎない?」

タクミ「ホント、風が冷たい…」

 

 遠慮してるのか、タクミがひとりだけ離れて毛布を(かぶ)っているのを見て、互いに身を寄せ合っていたアイとソラが両側からタクミを(はさ)むように寄っていく。

 

タクミ「えっ?いや、それは…」

ソラ「なに言ってんの…」

アイ「そうそう…とっくにそんなの気にする必要ないでしょ…」

タクミ「まあ、そうかも…」

 

 アイとソラはニヤニヤしながらタクミに身体を押しつけた。

 

 だが雨はその日も次の日もずっと降り続き、馬車は泥濘(ぬかるみ)水溜(みずたま)りを苦労しながら進むだけでなく、増水した川を渡らねばならなかった。

 そして増水が激しいと川は渡れず、自然と滞留(たいりゅう)になってしまう。

 

 ギルドではローフの村へは3日ほどと言われたが、結局エブルの村に向かった時と同じく余分な日数が必要で、到着まで5日かかってしまった。

 

 馬車がローフの村に着いた頃には雨はすっかり止み、あちこちの川の増水も収まっていた。

 アイたちは(うまや)に着くとマントを着て、フードを(かぶ)ってぞろぞろと馬車から下りる。

 

 そこには馬車から荷物を下ろすために男たちが集まっていた。

 ソラは辺りをキョロキョロと見渡して、何となく話し出す。

 

ソラ「やっと着いたわけで…村長の家を探さなきゃなんないね…」

ツグミ「そうだね…誰に聞けばいいんだろう…」

 

 だが、そんな声が聞こえていたのだろう。

 集まっていた人々の先頭にいた男が傍にいた別の男に何かを言いつけると、ソラやツグミのところへ歩み寄ってきた。

 

男「おい、お前たち!村長様のおいでになるところまで行きたいのか。」

 

 ソラやツグミだけでなく、ナオと話をしていたアイも男の傲岸(ごうがん)な物言いに振り返った。

 

 男は背が低く、丸顔に身体も小太りで手足の短い丸い体型をしている。

 服装は周りの男たちと同じく(あさ)のシャツに麻のズボンを(はい)いていて、顔の造りは鼻が大きく唇も分厚く、目だけは小さい、いわゆる金壺眼(かなつぼまなこ)をしていた。

 

 だが、目つきは(にら)むような感じで物言いと同じような傲岸なものが顔つきに(ただよ)っている。

 アイは少し不愉快に感じながらもできるだけ丁寧な言葉づかいで男に答えた。

 

アイ「こんにちは、私はアイと言います。

 実はこの村が出しているクエストの件でギルドから村長への手紙を(あず)かってきました。」

 

 男は最初はアイを、それからアイの周りにいるソラや他のメンバーのことをジロジロと詮索(せんさく)するように見回す。

 

小太りの男「アイとやら、お前はパーティーでやって来たのか?」

アイ「はい、ギルドへ私の仲間といっしょに行った時に勇者パーティーとして(たの)まれました…」

小太りの男「ふ~ん…」

 

 男は相変わらずジロジロとアイたちのことを見ていたが、また口を開く。

 

小太りの男「それじゃあ、そのギルドの手紙ってのを今見せてもらおうか。」

 

 アイも他のみんなも男の言葉にびっくりするが、アイはとにかく平静(へいせい)(よそお)って答えた。

 

アイ「ギルドの人からは村長に直接渡すようにと言われています。」

小太りの男「ふ~む、分かった。じゃあ、村長様の御自宅へお前たちを連れていこう。

 それと必ず村長様と言うんだ、いいな!」

 

 男はどこまでも高慢(こうまん)な態度を崩さず、(あご)をしゃくって自分についてくるように指示した。

 

 男のあまりに傲慢(ごうまん)素振(そぶ)りにナオやアユミは驚いて目を丸くし、ソラやアカリは(おこ)って眼を()り上げた。

 だがアイはみんなの方を振り返ると、落ち着くようにと何度も手のひらを下へ向けるしぐさをする。

 誰もが憮然(ぶぜん)としてその男のあとについていった。

 

 男のあとについて村に入ると、そこは今までの村と(ちが)って驚くほど静かだった。

 まだ陽も高いのに、(うまや)以外の場所ではほとんど人の姿を見かけない。

 

 家はどこの村とも同じような板壁に板葺(いたぶき)の小屋だがひどくみすぼらしく見えて、アイたちはレアやエブルの村とは全く違う雰囲気にどこか不気味なものを感じていた。

 

 小太りの男はアイたちの方を振り返ることもなく、黙ってスタスタと進んでいく。

 そして村の奥の方へ進んでいくと、突然大きな家が見えてきた。

 ドムニの町のギルドの建物ほどの大きさがあり、家というよりも屋敷という雰囲気だ。

 村の家々がみすぼらしいので、その豪華(ごうか)さが一層違和感(いわかん)を高めている。

 

 男はその屋敷の何やら装飾(そうしょく)(ほどこ)された扉の前まで行くと、振り返ってアイたちに言う。

 

小太りの男「今から村長様をお呼びするから、お前たちはそこでしばらく待っていろ。」

 

 男はそう命じると、扉を開けて今までと全く違う丁寧な言葉づかいで屋敷の中に話しかけた。

 

小太りの男「失礼いたします、マヒナでございます。村長様、実はお話がございまして…」

 

 すると中から甲高い声で「マヒナか、入るがよい」という返事がする。

 マヒナと言った男はペコペコと何度も頭を下げて屋敷の中へと入っていった。

 アイたちは互いの顔を見ながら、手持ち無沙汰(ぶさた)にその場で次に何を言われるのかを待っていた。

 

 すると、急に屋敷の扉が開いて背の高い男が出てきた。

 

 男はマヒナとは対照的に()せ型で、顔も細く(あご)(とが)っている。眼も細く()り上がって鼻はちょっとびっくりするぐらい高い。

 口髭(くちひげ)()やし、口をへの字にしてアイたちを(にら)むように見るしぐさに現れる高慢(こうまん)な印象はマヒナとそっくりだった。

 

 男は麻のズボンに麻のシャツという姿に赤い毛織のチョッキを着ていて、その上から何かの動物の毛皮を羽織(はお)っている。

 毛織のチョッキはアイたちがシャツの上から羽織るものと似ているのだが、その赤い色がこの辺りでは見たことがないくらい(あざ)やかに出ている。

 

 そして羽織っている毛皮はクマのものらしく、クマの頭が帽子のように頭の上にくるようにしていて、おまけに首にはキツネの頭も尻尾(しっぽ)も残った毛皮を巻きつけている。

 男は威厳(いげん)をつけるためにクマの毛皮を羽織っているようなのだが、アイたちにはまるで頭から着ぐるみを(かぶ)っているように見えた。

 

 首に巻いたキツネもぬいぐるみのように見えて、威厳があるというよりどこか可愛らしい印象がして、みんなは吹き出しそうなのを何とかこらえてとりあえず一斉に頭を下げた。

 

マヒナ「お前たち、何をしている!村長様の前で立ったままの奴があるか、すぐ(ひざまづ)くんだ。さあ、早く!」

 

 アイたちが頭を下げただけなのを見て村長が不機嫌な顔をしたので、彼について出てきたマヒナがすぐに大声で命令した。

 彼女たちはまた驚いて顔を見合わせるが、しぶしぶ跪いて頭を下げる。だが、マヒナがまた怒鳴(どな)る。

 

マヒナ「どうした?なぜフードを脱がないんだ!全くお前らはどこの田舎者だ、村長様の前でちゃんと挨拶(あいさつ)しろ!」

 

 アカリとソラは怒りで肩を(ふる)わせるが、アイは下を向いたまま落ち着いた声で「申し訳ありません」と答えてフードを脱ぐ。

 他のみんなもアイに合わせてフードを取った。

 

村長「うむ、リーダーはアイとか言うそうだな…(おもて)を上げよ。」

 

 村長は(えら)そうな口調(くちょう)でアイにそう呼びかける。

 

 レアでもエブルでも村長は村人たちから尊敬されていたが、身分という意味では互いに全く同じ接し方をしていた。

 だがマヒナの態度と言い、村長自身の態度と言い、どうやらこの村の村長は貴族のように思える。

 アイは戸惑(とまど)いながらも言われるままに顔を上げた。

 

アイ「勇者パーティーのアイです。今日はドムニの町のギルドから村長様へのお手紙を持ってきました。」

 

 アイは出来るだけうやうやしくしようと丁寧な言葉づかいで話した。

 だが、村長は返事もせずにジロジロと彼女の顔を見ている。と、突然大口を開けて笑い出した。

 

村長「なんだ、勇者パーティーというからどんなゴツイ奴かと思えば、ただの小娘ではないか。」

 

 村長にいきなり「小娘」と言われ、ここまで(おさ)えてきたアイもさすがに顔をしかめる。

 だが、村長はそんなアイの様子など何も気にせず、彼女の周りに(ひざまづ)いている他のメンバーのことを見回す。

 

村長「おい、お前ら一度みな、顔を上げろ。」

 

 村長の言葉を受けてマヒナも言った。

 

マヒナ「村長様のお言いつけだ。お前たち全員、顔を上げて村長様によぉーくお見せしろ。」

 

 村長とマヒナのあまりに傍若無人(ぼうじゃくぶじん)な態度にアイたち全員、怒りがこみ上げてくるが、2人はそんなことを全く気にしない。

 

村長「こら、さっさと顔を上げんか。その(つら)をしっかりと見せろ。」

 

 アカリやナオもしぶしぶ顔を上げ、それに続いて全員が顔を上げる。

 村長は無遠慮(ぶえんりょ)に彼女たちの顔を見回すと、また笑い出した。

 

村長「なんじゃ、一人を除いて全員まだ成人したばかりの小娘ではないか。

 勇者パーティーを名乗るなど、おこがましいにも程がある。」

マヒナ「全く村長様のおっしゃる通りで…これでは礼儀を知らぬのも無理ありますまい。」

村長「ドムニの町のギルドもこんな小娘ごときに手紙を渡すなど、どうせ大したことではあるまい。全く時間の無駄だ。」

 

 村長とマヒナの暴言にソラが思わず立ち上がろうとするが、隣にいたアユミがすぐに手を押さえ、顔を見たソラに目で我慢するようにと伝えた。

 だがソラだけでなく、アカリやモアも怒りに身体が(ふる)えている。

 

マヒナ「さあ、もうよい。アイと(もう)す者以外は()が高い、顔を()せよ。」

 

 マヒナはまた偉そうに命令する。その間に村長は上目(うわめ)づかいにアイを見ながら彼女に言う。

 

村長「こら、その持ってきたという手紙をさっさと渡せ。」

 

 さすがのアイもこの偉そうな2人に嫌気(いやけ)が差していたが、しぶしぶ(あず)かってきた手紙を村長へ差し出した。だが、マヒナがまた怒鳴る。

 

マヒナ「馬鹿者!村長様に直接差し出す奴があるか。私に渡すのだ。」

 

 マヒナはそう言うとアイが差し出した手紙をひったくるように(うば)い取り、自分が村長へうやうやしく差し出した。村長はさも満足そうにマヒナから手紙を受け取る。

 ナオやアユミはこの芝居がかったやり取りにすっかりうんざりした。

 

 村長はギルドからの手紙に目を通すが、すぐにくしゃくしゃと丸めてその場に捨ててしまう。

 

村長「ふん、何を馬鹿なことを言っとる。報奨金(ほうしょうきん)が少なすぎるなど、ギルドの奥に座ってるだけの奴らに何が分かるか。

 それに逃げ帰った勇者パーティーの者どもはただの臆病者(おくびょうもの)にすぎぬ。

 あんな奴らの言葉を信じるなど、全く何も分かっとらん。」

 

 村長はギルドからの手紙に書かれていた報奨金の増額(ぞうがく)のことが気に入らなかったのだろう。ブツブツとギルドへの悪態(あくたい)をつぶやいた。

 マヒナは村長に()びを売るような様子で彼のそばへ寄っていく。

 

マヒナ「全く村長様の言う通りでございます。ギルドの無能どもに我が村を襲うオオカミのことなど分かるはずがございません。」

 

 村長はマヒナの言葉にうんうんとうなずくと、アイに向かって言う。

 

村長「いいか、アイとやら。ドムニに戻ったらギルドの奴らに言うのだ。

 今の報酬(ほうしゅう)がクエストにちょうど合うだけの報酬だと…

 だからこれ以上はびた一文(いちもん)も増やしたりなどせん。

 ワシに文句を言う(ひま)があればクエストをできるようなちゃんとした勇者パーティーを探すのだ、とな。」

 

 村長は一度ふんぞり返ると、(ひげ)を触りながらアイをまたジロジロと見る。

 

村長「全く、大事な手紙をこんな小娘どもに(まか)すなど、それだけでギルドの程度が知れるわ。

 お前たちも出来もせん勇者パーティーなどを名乗るような身の(ほど)もわきまわえぬようなことは止めて、さっさと元いた村に帰るがよい。」

 

 村長は一度屋敷の中へ入ろうとするが、振り返ってアイに付け加えた。

 

村長「アイ、ギルドへ戻ったら必ず言うのだ…

 今度は使者としてちゃんとした勇者パーティーを差し向けるように、と。

 お前らのようなガキどもでは使いにすらならん、いいな!」

 

 アイが怒りの眼で村長を(にら)みつけると、マヒナがまた怒鳴る。

 

マヒナ「馬鹿者!村長様に頭を下げて復唱(ふくしょう)せんか!」

 

 アイはしぶしぶ頭を下げ、村長の言ったことを()り返す。

 

アイ「クエストの報酬は適切(てきせつ)なものだということ、ちゃんとした勇者パーティーを差し向けるようにということ、以上をお伝えいたします。」

 

 村長はいかにも満足したという様子で今度こそ屋敷に入っていこうとした。

 すると突然、アイが村長を呼び止める。

 

アイ「村長様!申し上げたいことがあります。」

 

 アイが突然声を上げたので、マヒナが怒った。

 

マヒナ「何度言えばいいのだ。勝手に(しゃべ)ってはならん。」

 

 だが村長はふんぞり返ったまま振り返り、マヒナを手で(さえぎ)る。

 

村長「アイ、お前の話を聞いてやろう。」

 

 アイは村長に向かって深く頭を下げた。

 

アイ「ありがとうございます。

 村長様、もしも我らがクエストで言っていた魔獣(まじゅう)のオオカミを退治いたしましたら、どれぐらいの褒美(ほうび)がいただけますか?」

アユミ「アイ⁉」

 

マヒナ「これは(あき)れた奴じゃ…

 お前らごとき小娘にオオカミ退治のようなことができるわけがなかろう。身の(ほど)を知れ!

 (おろ)かなことを言わずにさっさとドムニへと帰ればよい。」

村長「まあ待て…」

 

 村長は口をへの字に結んだままアイの顔をしばらく見ているが、また急に笑い出した。

 

村長「ハハハハハ(笑)…お前らのような小娘に何ができる?

 まあ、もしオオカミどもを退治してその(あかし)を持ってくれば、金貨150枚はおろか、500でも600でも出してやろう。ハハハハハ(笑)…

 小娘は小娘じゃのう。身の(ほど)知らずが面白いことを言う。ハハハハハ(笑)…」

アイ「村長様…今の言葉、決してお忘れないように…」

 

 アイは頭を地面につけながら低い声で言う。

 だが、村長は「フン」と鼻を鳴らしただけで屋敷に入っていった。

 

マヒナ「もうよい。さっさとドムニの町に戻れ。もう顔を見せてはならんぞ、いいな!」

 

 マヒナはまたそう怒鳴ると、彼も屋敷の扉をバタンと音を立てて閉めて中に入った。

 

 アイたちはマヒナの姿が見えなくなって、やっと立ち上がった。

 ソラが何かを言おうとするとナオが(あわ)てて口元に人差し指を当てる。

 

ナオ「しぃー…ここで大きな声を出すと、中に聞こえるよ…」

 

 ナオがそう小声で言ったので、ソラだけでなくみんな口を閉ざす。

 

アイ「とりあえず宿を探そうよ…」

 

 アイの言葉を合図に、みんなは厩の方へぞろぞろと歩き出した。

 村長の屋敷からしばらく歩いて、だいぶ離れたところまで来たところでアユミが足を止める。

 

アユミ「ねえ、アイ…ホントに魔獣オオカミ退治に行くの?」

 

 アユミに聞かれて、アイも足を止めて下を向く。

 

ナオ「アイ…」

 

 全員が心配そうにアイのことを見つめると、アイはやっと顔を上げた。

 

アイ「ごめんなさい…また先走ったこと言っちゃって…

 魔獣オオカミの退治なんて、無理だよね…私、頭に血が上っちゃって…」

アカリ「アイ…」

ソラ「ううん…アイだけじゃないよ…私だってあんなにバカにされて(くや)しいよ…

 だからあんな事言ってくれて、私はうれしかった…」

アイ「ソラ…ありがと…」

 

 ソラはアイの手を取るが、ツグミは不安そうな顔をする。

 

ツグミ「でも、ホントにオオカミ退治に行くの?

 認めたくないけど…まだ私たちには難しくないかな…」

ナオ「しっ…そこで誰かが私たちの話を立ち聞きしてる…」

 

 ナオは急にツグミやソラの(うで)を取って、アイやアカリと顔がくっつくぐらい近くになるまで引っ張る。

 他の子もすぐ近くまで身体を寄せ合った。

 

アイ「ねぇ、どこにいるの?」

ナオ「私の後ろの方…アイから見て左の奥の家の(かげ)…」

 

 それを聞いてソラやツグミが少し隙間(すきま)を作ると、確かに左手の奥の家のところに男女が2人、こちらをうかがっているようだ。

 

アカリ「ねえ、どうする?」

ソラ「このまま(かた)まったまま歩いて、やり過ごそうか?…」

ツグミ「それよりも…あの人たちに話を聞かない?」

アイ、ナオ「えっ?」

 

 思ってもみなかったことをツグミが言い出す。

 

ツグミ「私たち、まだこの村であの村長たちの話しか聞いてないでしょ…

 他の人はどう思ってるのかな…」

ソラ「確かに…」

ツグミ「それに…もしホントにクエストに向かうなら、道案内がいないとダメだよ…」

ナオ「ツグミの言う通りだね…」

 

 アイたちは固まってひそひそ話をしていたが、ナオとツグミが意を決して陰にいる男女のところへ向かった。

 

ツグミ「あの~…」

ナオ「お話、(かま)いませんか?…」

 

 陰にいた男女は2人ともまだ20代前半ぐらいに見える。

 アイたちの様子をうかがっていたが、まさか向こうから話しかけられるとは思ってなかったのだろう、2人とも(おどろ)いて逃げ出そうとした。

 

ナオ「待って下さい。あの、お話を(うかが)いたいんです…」

ツグミ「お願いします…」

 

 ナオとツグミの声を聞き、男性の方が足を止めた。

 

若い男「あの~…お話はしたいのですが…村長に知られてしまうと…」

 

 男女は2人とも不安そうな表情をするので、ナオが女性の手を取って言う。

 

ナオ「じゃあ明日、村から出たところで会ってお話しませんか…

 私たちも是非伺いたいことがあるんです…」

若い女「村の外で…」

 

 ナオがうなずくと、ツグミが尋ねる。

 

ツグミ「あの~…今晩泊まるための宿を探しているんです。どこか分かりますか?」

 

 男性は女性の肩を()くと、ナオとツグミにうなずいて言う。

 

若い男「わかりました。明日の朝、村の門を出たすぐのところでお待ちしております。

 宿は(うまや)のすぐ隣です。厩まで戻られるとわかります。」

 

 男性はそれだけ言うと辺りを見渡してナオとツグミに頭を下げ、急いで走り出した。

 女性も男性の後ろにつき、一度振り返ってナオとツグミに礼をしてから走り去った。

 

 2人の姿が見えなくなると、ナオとツグミは固まってこちらを見ていたアイたちのところへ戻った。

 

アカリ「どうだった?」

 

 アカリの問いにナオは黙ってうなずく。

 

ナオ「名前とかは聞けなかったけど…明日の朝に門の外で待ってるって…」

ツグミ「村の外でなら話ができるみたい…」

アイ「そう…」

 

 アイはナオとツグミの顔をジッと見ている。

 

ツグミ「あと、厩の隣に宿があるんだって…」

ルカ「じゃあ、急ごうよ…もう暗くなっちゃうよ…」

ソラ「だよね…」

 

 宿のことを聞いて、アイはやっとうなずく。

 

アイ「オーケー…とりあえず宿へ急ごう…」

アカリ「分かった…」

ソラ「了解。」

 

 日が暮れてきてみんなが宿へ向かってぞろぞろと歩き出すと、どこか遠くから何かの鳴き声が響いてくる。

 

ウォ~ン…

ウォ~ン…

ワォ、ワォ~ン、ワォ~ン…

 

 その声は野犬かオオカミの遠吠(とおぼ)えで、それも鳴き声の様子から一頭ではなくかなりの数いるのが分かる。

 静かな村にその遠吠えがずっと響いていて、ツグミとモアは表情を硬くした。ルカとアカリがそんな2人の肩を()く。

 

アイ「厩までもうちょっとだよ…行こう…」

 

 アイの言葉に全員が黙ってうなずき、また歩き出した。

 

 

 

 

 

 




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