ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~ 作:イジー・ムラシロ
夕食を終えて体力が回復してきたアイたちは改めて明日からのことを話し合う。陽が落ちてもオオカミの
珍しくタクミが最初に口を開く。
タクミ「さっきアイさんが言ってたことだけど…明日オオカミたちがどんなふうに攻めてくるかは分からないけど、できることはあると思う…
例えば『バリラ』をもっと高くするとか、後は両側の『バリラ』は二重にしてみるとか…」
ソラ「二重にするの?」
ナオ「それじゃあ、側面からの攻撃は相手にしないってこと?」
タクミ「そう…横が破られにくいってなったら、オレたちも正面からの攻撃だけに集中できるんじゃない?…」
アカリ「人数がばらけなくてもすむね…」
アイ「確かに…」
タクミの提案を聞いて、女の子たちは顔を見合わせる。
モア「じゃあ、横の『バリラ』が弱くなったら?」
タクミ「それは前ばかりだけじゃなくて、横もちゃんと注意して、そこが弱くなってきたらまた新しい『バリラ』を張り直す…」
ソラ「ねえ、それって全部タクミが自分で考えたの?」
ソラは真剣に話すタクミの顔をジッと覗き込んだ。
タクミ「そうだけど…何で?…」
アカリ「いつもはあんまり何にも言わないし…」
モア「SEXの時しか元気ないしー(笑)…」
ルカ「それは
ツグミ「そうだよー…」
ソラ「でも、そうだから(笑)…」
タクミ「いや~…」
タクミはみんなにそう言われて口ごもってしまう。
だがソラたちの言う通りで、普段はアイやナオやアユミなどが言ってることに何も言わずに従っているだけなのが、なぜ今だけこんなにいろんなことが浮かんでくるのか、タクミ自身にもよく分からない。
話が
アイ「ソラが言うのは分かるけど、でもタクミが言ってくれてるおかげで私たち上手く戦えてるわけでしょ…
昨日だってタクミが『バリラ』をしっかり
ツグミ「戦えてなかったどころか、『バリラ』を盾にしなかったら、私たちあっという間にオオカミに食べられてるよ…」
アカリ「『バリラ』無しでオオカミを相手にするなんて、とても無理…」
アイたちに言われて、ソラは少しバツの悪い表情をする。
ソラ「そうだね…ゴメン、別に
タクミ「いや、オレだって不思議だから…何でこんなこと思い浮かぶんだろう…」
ルカ「ホントに何かを読んだり、調べたりしたわけじゃないの?」
タクミ「マンガ読んだり、アニメ見たり、ゲームはしたりしたけど…
そんなに具体的なことが書いてたわけじゃないから…」
アカリ「じゃあ、余計にありがたいね…そう言うのが役立つように今出てきてるってことでしょ…」
ナオ「アカリが言う通りだよ…タクミがいろいろ思い出してくれたからみんな無事なわけで…」
タクミは
そのわざとらしい
アイ「(笑)…とにかく明日はタクミが言うように『バリラ』を高くして、横は最初から二重に張ってもらおう…誰か他に気になることってある?」
ナオ「気になったのは、最初にソラが『ファイア』を投げても届かないぐらいのところにオオカミがいたでしょ…
明日もそれぐらいの距離を取られたらこっちからは攻めようがないよね…」
ツグミ「それだって、わざとそれぐらいの距離を取ってるって誰か言ってたもんね…」
ソラ「当たらないギリぐらいにいたから…」
アカリ「でも、今より前に出ていくと後ろが危なくなるよね…」
タクミ「横から攻めてくるぐらいだから、橋の入り口から離れすぎるのは危険だよ…そこをオオカミたちに固められると逃げれなくなるから…」
モア「それはヤバすぎるって…」
アイ「う~ん…」
攻撃されてもただ逃げ回っていたゴブリンと
そんな沈黙にまた遠吠えが
しばらく全員が考え込んでいたが、ナオが口を開く。
ナオ「とりあえず『バリラ』の高さと横に張る数を増やして、それで明日はやってみよう…
相手が距離を取ることは明日のオオカミの
アイ「そうするしかないよね…」
ナオの言葉にみな顔を上げた。それを見てアユミも言う。
アユミ「みんな今日はもう休んだ方がいいよ…また『ヒール』や『ケア』をするし…」
ナオ「それは私とモアがするよ…アユミは片付けしなきゃいけないでしょ…」
アカリ「ここは考えても仕方ないよ…また明日戦って、それで考えてこう…」
ナオ「じゃあ、こっち来て…『ヒール』と『ケア』するから…」
モア「私もー…」
一応話が終わって、それぞれがナオやモアに回復魔法を受けてテントに入って休んだ。難しい一日が終わった。
次の日はそれまでの晴れた天気から変わって、どんよりとした
相変わらずオオカミたちは早朝から遠吠えを繰り返している。
昨日の状況に応じたオオカミの戦い方がまだ頭にあるのか、みんな朝食を取りながらも浮かない顔をしている。オオカミの遠吠えや吠え声は全く途切れない。
アイは食事を終えると、昨日の朝のように自分の
それぞれが
アイ「昨日言ったようにツグミたちは『バリラ』を手が伸びるところまでいいから、前よりも高くして、左右にはもう一重中に張ってほしいの…
それと今日はオオカミたちが攻めてこなくても無理に前に出ていくようなことはやめよう…」
ソラ「攻めてこなかったら
アイ「そうなるかもね…」
ソラ「ふ~ん…」
アカリ「分かった…」
全員が
みんなアユミの顔を見て、うなずいたり笑ったりしてから橋を渡っていった。
向こう岸に渡るとツグミたちはすぐに『バリラ』を張る。背の低いメンバーが多いが出来るだけ高くなるようにつま先立ちをしたりする。
アイとアカリはこの二日と同様にオオカミたちの偵察に向かった。
この二日間の戦闘でさすがにオオカミたちの数も減ってきたようだ。アイたちの姿を見て動き出したのが10頭ほど。元の場所に残っているのも同数ぐらいに見える。
アイ「最初30頭ぐらいって聞いてたけど…
アカリ「ってことは…元々40頭ぐらいはいたかもしんない…」
アイ「だよね…」
オオカミたちは今日も10頭ほどがアイたちの方へやって来るが、昨日までのような勢いはなく、群れ全体がゆっくりとこちらの様子をうかがっているようだ。
アイとアカリもゆっくりと
アイとアカリが距離を取りながら他のみんなのところまで戻ってくる頃には、オオカミたちもゆっくりと近づいてきていた。
しかし、ずっと様子を見ているだけでここまで攻めてくるような雰囲気はない。
ソラ「どうしたんだろう…
ナオ「もしかしたら、そうかもしれない…」
ルカ「じゃあ、私たちどうするの?」
アイ「ここで睨み合うしかないかも…」
モア「う~ん…」
だがアイが言うように、オオカミたちはこちらの様子をうかがうだけで全く襲ってこようとはしない。
昨日のように二手に分かれるような動きも『バリラ』を飛び越えようとすることもなく、ただ立ち止まったり左右にうろうろと歩き回ったりするだけで何もしてこなかった。
それでもアイたちは半時間ほど緊張を解かずに離れたところに固まるオオカミたちを睨んでいた。
しかし、さすがに相手が何もしてこないと分かると次第に疲れてくる。
ナオ「ねえ、どうしよう…」
ツグミ「このままじゃ、
アカリ「じゃあ、ちょっと誘ってみる?」
アカリがそう言うと、みんなが彼女の顔を見る。
ルカ「大丈夫?…」
アカリ「大丈夫…そんなあいつらの鼻先にまで近づくつもりはないから…
ちょっと近づいて、こっちへ誘い出せないか見てみるだけだから…」
アイ「アカリ…無理はしないでね…」
アカリ「分かった…」
ソラ「私も行く!」
ソラが自分も行きたそうにするが、アカリは首を振った。
アカリ「一人の方がいいって…それよりソラはここで魔法を出すように待ち
ツグミ「アカリちゃん…」
アカリは笑顔になると、軽く手を振って『バリラ』の外に出た。
まず、アカリは『バリラ』のすぐ外側に立って相手の様子を見る。
オオカミたちはアカリが出てきたので一斉にこちらを注目するが、それでも近づいてくるような
アカリはそのオオカミの様子に一歩々々ゆっくりと相手の方へ近寄っていく。
オオカミたちも最初はアイたち全員を見ているような感じだったのが、段々とアカリだけを目で追うようになる。
アカリはゆっくりと進んで、ちょうど『バリラ』とオオカミたちの中間ぐらいにまで行った。
アカリがそこで止まると、オオカミたちもジッと彼女の様子を見ている。『バリラ』のこちら側にいるアイたちも
アカリ「イェーイ!」
突然、アカリはアイたちの方を向いて両手を大きく振る。
アイたちがびっくりして目を丸くしていると、アカリはオオカミの方を向いて急に踊り始めた。
アカリ「エイッ、エイッ、エイッ、エイッ、イェーイ‼」
アイ「アカリ!」
両腕だけでなく、時々脚も大きく振り上げ、右に左にクルクルと回ったりもする。それもずっと笑顔を絶やさない。
元の世界にいた時には、アカリが剣道で成績優秀なのはクラスの誰もがよく知っていることだったが、今みんなの目の前にいる彼女は手足を大きく振ったり、回したり、何度も回転技を見せたりしても姿勢が全くぶれず、美しいダンスを
そこにいる誰もが彼女がそれほどダンスができるのを知らなかったので、彼女の素晴らしいダンス姿にしばし目を奪われた。
みんなが口をポカンと開けてアカリを見ている間中、アカリは踊り続けた。オオカミたちもなぜかずっとその様子を見ているだけだ。
アカリ「エイッ、エイッ、エイッ、イェーイ!」
アカリは数分ほど踊っていただろうか。彼女は最後に「イェーイ」と叫ぶと同時に、ストレージから取り出した大きな石を思いっ切りオオカミたち目がけて投げつけた。
ウ~、ワォン!
ワォン、ワォン、ワォン、ワォン…
ウォ~ン…
アカリは石を投げつけるとすぐに元の『バリラ』の方へ向かって全力で走り出した。オオカミたちもそれを追って走り出す。
アイ「アカリ!」
ルカ「急いで!」
ツグミ「魔法を用意して!」
先頭のオオカミがアカリの背中に追いつきそうになると、アイとルカが同時にオオカミに石を投げる。
アカリは転がるように『バリラ』に飛び込み、アイたちは石や投げ
オオカミたちは前を行く何頭かがアイたちの攻撃を受けるが、それが誘導だと気づくとすぐに
ナオ「アカリ!大丈夫?…」
オオカミたちが戻っていくと、みんなはすぐに座り込んでいるアカリの傍へ集まる。だが、アカリはずっと笑っていた。
アカリ「フフフフフフ(笑)…」
ルカ「アカリちゃん、大丈夫?…」
アイ「アカリ、何であんなこと?…」
アカリはまだ笑いが止まらない。
アカリ「(笑)…何でだろう(笑)…でも、まあ何て言うの…ストレス発散?…
それでちょっと踊ってみた、ってわけ…」
ツグミ「そんなー…」
ソラ「何か分かるけど(笑)…」
アカリ「でしょ(笑)…」
アイ「でしょ、じゃないよ…」
アカリの
オオカミは誘導に乗って仲間が何頭かやられたことで、より慎重にこちらの様子を見ているようだ。
そうした睨み合いが更に半時間以上続いたが、もうこれ以上の動きは期待できそうもなかった。
アイはツグミたちに新しい『バリラ』を張るのを指示しながら言う。
アイ「仕方ない…今日はこのまま戻ろう…」
モア「『バリラ』張るのに?」
ナオ「これは追い打ちを受けないためでしょ…」
アイ「そう…私たちが後退したらオオカミは一斉にやって来るかもしれないから、その時のためにちゃんと守っておかないと…」
ツグミ「じゃあ新しい『バリラ』が出来たら言うね…」
ルカ「お願い…」
ツグミたちが新しい『バリラ』を張り、最初に張った『バリラ』が消えかかるとアイが合図する。
アイ「じゃあ私が
アカリ「殿は私がするよ…」
アイ「アカリは今日はもう十分働いたよ(笑)…」
ルカ「じゃあ、私がアイちゃんの前を行くよ…」
アイ「ありがとう…お願い…」
オオカミたちはアイたちが後退して橋を渡り出したのに気づくと、ゆっくりと『バリラ』の方へと進み出した。
ソラ「あいつら、動き出したよ…」
アイ「大丈夫…順番に渡って…」
最後のアイも橋の方へ行くと、思った通りオオカミたちは一斉に『バリラ』の方へ突進してきた。
だが、新しい『バリラ』はまだ十分な強度でオオカミが向かってくるのを防ぐ。アイは『バリラ』がオオカミを
アユミはアイが渡ってくるのを待っていて、彼女が渡り切るとすぐに元の板を出して橋を塞いだ。
オオカミたちは『バリラ』の向こうからアイたちに何度も吠え続けていた。
アユミ「みんな…大丈夫?…」
アイたちがこの二日よりもずっと早く戻ってきたので、アユミは少し不安そうに尋ねた。
ソラやモアが笑顔で首を振る。
ソラ「大丈夫…今日はオオカミが攻めてこなかったから…」
ナオ「そう…ずっと距離を取って相手もやられないようにしてて…だからこれ以上はどうしようもなくて…」
アユミ「そう…それで戻ってきたんだ…」
最後に橋を渡ったアイはまだ心配そうなアユミの肩を軽く叩くと、みんなに向かって声を張り上げる。
アイ「さあ、鎧兜を脱いだら集まって明日のことを話し合おう…」
アイの言葉通りに、みんなは装備を脱ぐと焚き火の周りに集まった。
ナオがアユミに耳打ちして、パンとミルクティーをそれぞれに配ってもらう。
ソラ「でも、これじゃあどうしようもなくない?」
ツグミ「ずっと睨み合うってこと?」
ソラはパンを食べながら少し口を
ナオ「今日はアカリが少し誘ったけど…それでも乗ってきたってほどじゃなかったし…」
アカリ「もっと攻めてくると思ったけどね…」
ルカ「まだ数って大分いるの?」
ルカの問いにアイは飲み物に口をつけながらうなずく。
アイ「アカリとも確かめたけど…まだ20頭ぐらいはいるね…」
ツグミ「20頭…」
タクミ「…それはまだかなりいる…」
ナオ「そうね…」
状況はすっかり手詰まりになっているが、オオカミたちの数を聞くとまだここで終わるわけにはいかない。
みんなが考え込んでいるところに向こう岸からまたオオカミたちの遠吠えが聞こえてくる。
ソラは少しイライラした様子でコップに入った飲み物を飲み干した。
ソラ「ねえ、やっぱり明日は私たちから攻めていこう!こんなことずっとやってても仕方ないよ!」
ソラは我慢できずに声を上げた。だが、他のみんなは下を向いたままだ。
ソラはもう一度大声を出す。
ソラ「ねえ、何か言ってよ!こんなんじゃどうしようもないじゃん…」
ルカ「ソラちゃん…」
ナオ「それは分かってるけど…」
誰もが困って顔を見合わせる中、アイが静かに言う。
アイ「わかった…じゃあ、明日は私とアカリとソラとルカの4人でオオカミたちに近づいて誘い出そう…」
ナオ「4人で、って…4人だけで戦うんじゃないよね…」
モア「そんな~…」
ソラは目を輝かせるが、アイは冷静に首を振る。
アイ「違うの…戦うのはやっぱり『バリラ』のところで、私たち4人でできるだけオオカミを近くまで誘おうと思う…」
アカリ「今はそれしかないね…」
ツグミ「大丈夫?…『バリラ』の無いところで戦いにならない?…」
何人かは不安そうな顔をするが、アカリも言うように確かに今は他に方法がなさそうだ。
アイはソラの方を向いて彼女の眼をしっかりと見た。
アイ「あのねソラ、約束してほしいの…私たち4人で誘い出しにいっても、絶対に無理に前に出てオオカミと戦おうとはしないって…」
アユミ「アイ…」
ソラ「…」
アイ「ソラに危ない目には絶対にあってほしくないし…戦う時には全員が一緒に戦わないとダメだと思う…
それに最初に言ったけど、みんなが無事で戻るのが一番大事だから…もちろんソラも無事にね…」
アイは真剣な眼差しでずっと目を反らさずソラに話す。さすがにソラもこの言葉にはうなずいた。
ソラ「ゴメン…ちょっと興奮し過ぎたよ…」
アイ「ううん…ソラが言ってくれてよかったよ…私も覚悟ができたから…」
アカリ「じゃあパン食べたらテントで休憩して、後で明日のことはちゃんと決めよう…」
タイミングよくアカリが話をまとめて、みんなはぞろぞろとテントに入っていった。
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