※この作品はR-18です。

ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~   作:イジー・ムラシロ

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82 ボス登場、再び

 テントで一休みした後、みんなは集まってもう一度明日の話をする。

 オオカミたちはアイたちが去った後もずっと遠吠(とおぼ)えを繰り返していた。

 

ソラ「じゃあ、私とアイとアカリとルカでオオカミの様子を確かめる、ってことね…」

アイ「そう…」

ナオ「私たちはその間に『バリラ』を張ってたらいいのね?…」

ツグミ「『バリラ』のとこまで連れてくるってこと?」

アカリ「まあ、上手くいったらね…」

 

 アカリは今日のことを思い出して、難しい顔をする。

 

ルカ「アカリちゃんがあそこまでしても、攻撃されると分かったらまた元に戻っちゃったもんね…」

モア「あそこにいたら私たちが攻めてこないって、分かってんじゃないの…」

アイ「そこは分かってるみたいね…」

 

 ルカやモアが言うように、ある程度こちらも出ていって攻撃をしないとダメなところまできているかもしれない。

 だが、そうすれば仲間が怪我をする可能性が高くなる。

 ましてや『バリラ』にここまでどれだけ守られてきたのか。

 

 そのことを思うと、アイには簡単に『バリラ』無しで攻撃をするということは言い出せなかった。

 アイは迷いを振り払うように2,3度首を振る。

 

アイ「とにかく私たちはある程度足が速いから、上手く動いてオオカミたちを誘い出すようにしよう。

 それでも上手くいかなかったから、その先のことを考えよう。」

ソラ「ヨシッ!」

ナオ「わかった…」

 

 アイが話をまとめると、アユミがまたパンと飲み物を(くば)って昼食にする。

 昼食が終わるとアユミがまた一人で片付けようとするのを、ルカとツグミが傍に行って手伝い始める。

 

アユミ「え~、いいよ…みんなは明日もあるし…」

ルカ「ううん…今日は何もしなかったから大丈夫…」

ツグミ「アユミちゃんばっかり…悪いよ…」

アユミ「ゴメンね…ありがとう…」

 

 みんなは順番にテントで休んだり、互いに回復魔法をかけ合ったり、アユミを手伝って片付けや夕食の準備をしたりしたが、向こう岸からはまるでアイたちに聞かせるかのようにオオカミの遠吠えがずっと続いていた。

 

 夜はまたトマトのスープだったが、今晩はレンズ豆のスープではなくジャガイモや玉ねぎ、それに半分に切ったソーセージが沢山入っているものだった。

 

アユミ「なかなかバリエーションがつけれないんだけど…とにかくソーセージをいっぱい入れてみたから…」

タクミ「今日のも美味(おい)しそうだよ…」

ソラ「あ~、お腹減った…」

アカリ「(笑)…」

アイ「ゴメンね…いろいろありがとう…」

アユミ「ぜんぜん…さあ、召し上がれ…」

モア「いただき~!」

 

 アユミの料理のおかげでみんなどれほど元気づけられているのか。

 アイやナオは一人で様々に工夫を凝らしてくれるアユミに心の中で頭を下げていた。

 

 そんな食事の間でさえ、思い出したようにオオカミの遠吠えが辺りに響いた。

 一体どういう状態になればこのクエストを終えたと言えるのか。

 一頭でも残っていれば終わりではないのか。

 この遠吠えが完全に聞こえなくなるまで自分たちにはできるのか。

 

 誰もがそんな疑問を誰かにぶつけたい思いに()られていたが、今は誰もその難しい問いに答えられないこともよく分かっていて、誰ひとり口を開く者はいなかった。

 

 夕食を終えてホッと一息つくと、ナオがみんなに言う。

 

ナオ「今晩も私とモアが『ヒール』と『ケア』をするから、それを受けてからテントにいってね…」

ソラ「明日は何とかしたいけど…」

アカリ「まあまあ、(あせ)らずにいこうよ…」

 

 それぞれが不安を感じながらも、回復魔法を受けてテントに入って眠りについた。

 

 そしてオオカミとの戦いも4日目。

 

 今朝もオオカミの遠吠えを聞きながら食事や戦闘の準備をする。

 初日は苦労していた鎧兜(よろいかぶと)装着(そうちゃく)もさすがにみんな慣れてきた。

 アイがいつものように確認する。

 

アイ「じゃあ、私とアカリとソラとルカでオオカミたちを誘い出すから、ツグミたちは向こう岸に着いたらすぐに『バリラ』を張って…」

ナオ「『バリラ』は昨日と同じでいいかな…」

アイ「それでお願い…それとアカリとソラとルカは絶対にそれぞれから離れないで、固まって行動しよう…」

ソラ「オーケー…」

アイ「じゃあ、今日も出発しよう!」

 

 アイの合図でアユミは橋を(ふさ)ぐ板をどける。

 今日はどうなるのか。みんな緊張した面持ちで橋を渡っていった。

 橋を渡るとすぐにオオカミたちをおびき寄せるアイたちと、魔法の壁を作るツグミたちに分かれる。

 

ツグミ「『バリラ』はちゃんと準備しておくから…」

アイ「お願いね…」

モア「(まか)せておけ~…」

ナオ「無理は絶対にしないでね…」

アカリ「大丈夫(笑)…」

 

 アイやアカリはツグミたちに軽く手を振ってオオカミたちが集まっている方へ向かう。魔法使いのみんなは大急ぎで『バリラ』の準備をした。

 

 アイたちはツグミたちが準備をするための時間を(かせ)ぐため、オオカミたちを刺激しないようにゆっくりと進んでいく。

 

アイ「私たちには気づいてなさそう?…」

ルカ「うん…こっちはあまり見てない…」

アカリ「あいつら、目も耳も鼻もいいから油断は禁物だよ…」

 

 だが、アイが昨日と(ちが)う様子に気付いて足を止めた。他の子も足を止めてオオカミの群れをよく観察する。

 

アイ「アカリ、オオカミの群れって昨日あんなに少なかった?」

 

 アイに聞かれてアカリはジッと群れを見る。

 

アカリ「昨日はこっちへ向かってきたのが10頭ぐらいで…あの場所に残ってたのも10頭ぐらいだったはず…」

 

 ソラもルカもアカリの言葉を聞いてオオカミの数を数えるが、どう見ても10頭ぐらいしかいない。

 

ルカ「そんな20頭もいないみたい…」

ソラ「なに?もう逃げてってる?」

 

 4人が立木(たちき)(かげ)でオオカミの様子をうかがっていると、その群れの中にぼんやりと大きな影が浮かび上がった。

 

ソラ「あれってなに?」

アカリ「いや、わかんない…昨日も一昨日(おととい)もあんなの見えなかった…」

アイ「ちょっと待って!こっちへやって来てない?」

 

 アイの言う通り、その大きな影はだんだんとアイたちに近づいてきて、濃くなって形もはっきりしてくる。

 

ルカ「待って!あれって、デカいオオカミじゃない?」

アカリ「確かに…他のオオカミよりずっと大きい…」

アイ「ヤバい!みんな、ツグミたちのところへ急いで戻ろう!」

 

 その時にはその大きな影は、これまでみんなが戦ってきた魔獣のオオカミより更に二回りは大きい一頭のオオカミの姿となって、こちらへ向かってきていた。

 アイの言葉で4人は一斉にツグミたちの待つ橋の入り口のところへと走り出す。

 

 ツグミたちもその異常を『索敵(さくてき)』の能力で察知(さっち)していた。

 

ツグミ「なに?何かこれまでよりずっと大きな生き物がアイたちに近づいてるよ!」

タクミ「マジ⁈」

ナオ「これって、オオカミ、それもこれまでよりずっと大きなオオカミだよ!」

モア「え~、みんな大丈夫?」

 

 突如(とつじょ)(あらわ)れた巨大な魔獣のオオカミは全身が金属の光沢(こうたく)に近い銀色の毛に(おお)われていて、四本の脚と顔の眉間(みけん)から鼻筋にかけてだけが真っ黒になっている。

 

 眼は紫色にギラギラ光り、白く輝く(きば)の間から赤紫色の舌がビラビラと()れている。

 オオカミはアイたちに向かって大声で()えた。

 

ウォー、ウォー、ウォーン‼

 

 これまでのオオカミたちの遠吠えも静かな草原全体に響き渡るほどの大きさでアイたちにとっても染み渡るように感じられるぐらいだったが、この巨大オオカミの吠え声はその数倍大きく、(けもの)というよりも本当に()(もの)(さけ)んでいるようで、ツグミやモアはその声に足がすくんでしまう。

 

 巨大なオオカミが追ってくる中、アイとアカリは自分たちより走るスピードが少し遅いソラとルカより後ろを走って、2人が置いてけぼりにならないようにする。

 ソラは後ろが気になるのか、チラチラと振り返った。

 

ソラ「ヤベエ!スゲーデカいよ!」

アイ「ソラ!後ろ見ちゃダメ!」

アカリ「走って!スピード(ゆる)めないで!」

 

 全員がスピードを上げても、巨大オオカミは次第(しだい)に4人に近づいてくる。

 ツグミたちは『バリア』の向こうから大声でアイたちを呼んだ。

 

ナオ「急いで!追いつかれる!」

モア「ダメー、もっと早く!」

タクミ「急いで、急いで!」

 

 アイたちがすぐそばまで来るころにはオオカミもかなり近づいていて、ツグミやモアが仲間を助けるために『ファイア』の火の玉を(はな)つ。

 

ツグミ「エイッ!」

モア「喰らえー!」

 

 2人が出した火の玉は巨大オオカミに命中するが、まるでオオカミが(まと)う銀色の毛皮が(よろい)のように防いで火すらつかない。

 それでもオオカミが(ひる)んだおかげで4人は何とか無事に『バリラ』に走り込んだ。

 

ナオ「みんな大丈夫?」

ソラ「ハアハア、マジヤバかった…」

アイ「ハアハア、まだこれからだよ…みんな準備して!」

タクミ「ダメだ…火の玉が()かない…」

 

 巨大オオカミは『バリラ』の少し手前で足を止め、(うな)りながらアイたちのことをジッと(にら)みつけた。

 アイたちはすぐに(やり)(ほこ)を、ツグミたちも(つえ)を取り出し、彼女たちもオオカミの顔をジッと見ながら武器を(かま)えた。

 

ソラ「マジか…ここでもボス登場って…」

モア「もう一度、火の玉投げてみる?」

ナオ「いや、それより『サンダラ』を出そう…」

アイ「大丈夫?…」

ツグミ「もう少しだけ、距離を取ろうよ…近いと私たちも感電しちゃう…」

アカリ「来た‼」

 

 だがそういう話をするためにアイたちが視線を()らしたのを見て、オオカミは『バリラ』に向かって一気に突っ込んできた。

 

ワォ~ン‼

 

ドカン!

 

 これまでのオオカミたちは『バリラ』にぶつかると簡単に()(かえ)されていたが、巨大オオカミは『バリラ』に突っ込んでも跳ね返されず、逆にその巨体をぶつけたまま魔法でできた壁を押し(たお)そうと進んでくる。

 『バリラ』の(たて)がじりじりと音を立て出した。

 

アイ「マズい!みんな、散開(さんかい)して!」

ナオ「分かれて、両側の『バリラ』の外へ行こう!」

 

 アイとアカリとソラが他の子が両側の『バリラ』の方へ逃がそうとオオカミに槍や矛を向けると、突然「バリバリ」という大きな音が響き、オオカミが『バリラ』を突き破った。

 

ワォーン!

 

アカリ「逃げて!」

アイ「下がって、投げ槍!」

 

 アイの指示でアカリとソラは転がるように後ろに下がり、離れていたルカはすぐにオオカミに向けて投げ槍を投げる。

 

ツグミ「みんな、離れて!『サンダラ』!」

 

 ツグミが声をかけてツグミとモアとナオが杖を合わせて『サンダラ』を放つ。

 杖から飛び出した雷電(らいでん)が巨大なオオカミの胴体(どうたい)命中(めいちゅう)した。

 

バ~ン!

 

ギャ~!

 

アイ「わっ!」

アカリ「アイ!」

 

 3人が出した『サンダラ』を受けてオオカミは大きくのけ反る。

 まだオオカミに近かったアイは、雷電がオオカミに当たった勢いで軽く飛ばされたが、くるりと後ろに転がってから態勢(たいせい)を立て直した。

 

タクミ「見てちゃダメだ!魔法や石を投げよう。」

ナオ「こっち側にもう一つ『バリラ』を作って!」

ソラ「喰らえ!」

ルカ「それっ!」

 

 ソラやルカやアカリはタクミの声に我に返って石や投げ槍を投げつけた。ナオやツグミやモアはその間に新しい『バリラ』を張る。

 

 『サンダラ』を受けて動きが少し(にぶ)くなったオオカミの首筋や顔にタクミやルカの投げた槍や石が当たるが、オオカミは投げ槍が刺さって血を流しながらもまたアイたちへ突っ込もうと身構(みがま)えた。

 

タクミ「ヤバい!『バリラ』の(かげ)に入って!」

 

 新しい『バリラ』の陰にタクミとツグミとモアとナオが逃げ込むが、オオカミは少し後退(あとずさ)りするとタクミたちの方へまた突っ込んできた。

 

ドシンッ‼

 

ウォ~ン、ワォン、ワォン、ワォーン!

 

タクミ「来た!」

モア「キャーッ!」

ナオ「危ない!」

ツグミ「みんな、下がって!」

 

 オオカミは力で『バリラ』を破ろうとグイグイ『バリラ』の盾を押し込む。その顔がツグミたちのすぐ目の前まで(せま)ってきた。

 

アカリ「みんな、逃げて!」

ツグミ「今度は『ファイラ』で顔を(ねら)うよ!」

 

 ツグミたちは数歩下がると、半ば『バリラ』の盾に挟まりながらも彼女たちへ向かっていこうとするオオカミの顔目がけ『ファイラ』を放った。

 

モア「いけー!」

ナオ「エイッ!」

ツグミ「やあっー!」

 

ゴォー!

 

グゥェー‼

 

 巨大オオカミは真正面(まっしょうめん)からツグミたちが出した(ほのお)の帯を浴びて顔全体を焼かれる。

 巨大なオオカミは『バリラ』に無理に突っ込んだせいで身動きもできずに炎から逃れられない。

 オオカミは炎の熱さに()え切れずに暴れ回った。

 

ウギャー、ウギャー!

 

アイ「今だ!できるだけ(のど)を狙って槍を投げよう!」

 

 アイたちは暴れるオオカミに()き込まれないようにしながら、次々と槍を投げる。

 だがどれも致命傷(ちめいしょう)にはならず、逆にオオカミは余計に暴れ回る。

 

バリバリバリバリ…

 

ウギャー、ウギャー、ギャーッ‼

 

ルカ「危ない!」

ソラ「ダメだ、離れて!」

ツグミ「みんな、こっち来て!」

 

 巨大オオカミは暴れながらツグミたちが盾にしていた『バリラ』も()(つぶ)した。

 

 オオカミは顔を焼かれて目が見えなくなり、めくらめっぽうに暴れる。

 アイたちがそれに巻き込まれないように逃げる間、ツグミやナオは離れたところに更にもう一つ『バリラ』を張った。

 

 アイたちが新しく張った『バリラ』のところに集まったころには、オオカミは疲れたのか、暴れるのを止めジッと辺りをうかがっていた。

 『サンダラ』を浴び、『ファイラ』で顔を焼かれ、何本もの投げ槍を受けていてもオオカミはまだ荒い息をしながら立っている。

 それでも喉に刺さった槍のところからは血がどんどん流れ出ていた。

 

ソラ「前に戦ったクマもそうだったけど…やっぱタフだね…」

アカリ「クソッー、(とど)めを刺さないと…」

ツグミ「でも、また暴れ出すと危ないよ…」

モア「ダメ…もう力が出ないよ…」

 

 オオカミにダメージを与えたアイたちも、もうギリギリの体力しか残っていない。

 アイが槍をしまって剣を出しながらツグミに聞いた。

 

アイ「ねえ、オオカミのあの(のど)の辺りに「ウィンド・フラッシュ」を出せないかな?」

ナオ「「ウィンド・フラッシュ」?」

アイ「そう…あの喉の傷がもっと開くと耐え切れないんじゃないかな…」

ツグミ「わかった…やってみる…」

ソラ「私もやる…ここまで大きな魔法は使ってないから…」

 

 ツグミとソラは手を(にぎ)り合ってそろそろと『バリラ』の外へ出た。アイとアカリとルカが剣を持って一緒に行く。

 全員が息をひそめ、オオカミに気づかれないようにゆっくりと進んだ。

 

 だが、オオカミもその気配(けはい)(さっ)したのか、頭を左右に大きく振って威嚇(いかく)するような動きをする。

 そして、何とか相手がどこにいるのかを知ろうと耳をそばだてる。

 

フー、フー、ウー、ウー…

 

 ソラとツグミは気づかれまいと時々足を止めながら、喉を狙えるところまで近づくと握り合った手を大きく振り上げ、口の中で小さく(つぶや)いた。

 

ソラ、ツグミ「「ウィンド・フラッシュ」‼」

 

グゥェー!

 

 2人が手を振り下ろすと、オオカミの喉元に大きな傷が口を開け、オオカミは大声を上げてのたうち回った。

 

ルカ「ダメ、2人は逃げて!」

アカリ「こっちへ!」

 

 ソラとアカリがツグミを守るようにしながらオオカミから離れるようにする。

 それに対してアイとルカはのたうち回るオオカミを避けながら、チャンスをうかがった。

 

アイ「今だ‼」

 

 のたうち回っていたオオカミがゆっくりともう一度立ち上がり、自分たちの群れを探すかのように遠くを見た瞬間、アイはその喉元に剣を振り下ろした。

 

ギャー‼

 

 アイがビシャと返り血を()びるのと同時に、巨大オオカミはバタンとその場に横倒しになり動かなくなった。

 ()ったアイも、それを見ていた他のみんなもしばらく誰ひとり動かない。

 

 やがてアイがペタンと(ひざ)をつくと、他の子が一斉にアイのそばに()け寄った。

 

アカリ「アイ!」

ルカ「アイちゃん!」

ナオ「アイ!」

 

 アイは血塗(ちまみ)れのまま剣を握ってしばらく自分が倒したオオカミをジッと見ていた。

 だが、アカリやルカやナオに名前を呼ばれて、やっと声の方を向く。

 

ソラ「やったよ!」

ツグミ「大丈夫?怪我してない?」

アイ「…ハア~…やったよ…」

 

 アイがそう言って剣を地面に落としたので、みんなホッとしてアイに近づいた。

 

ナオ「アイ、血、(かぶ)りすぎだよ…」

ツグミ「ハイ、顔()くね…」

アカリ「タクミはオオカミから槍を抜いて…」

ルカ「私も…」

 

 ナオがアイに革鎧(かわよろい)隙間(すきま)から『ヒール』をしている間に、他のみんなは巨大オオカミから投げ槍を抜いたりオオカミが残していった魔石を(ひろ)ったりした。

 

ツグミ「おっきい…」

 

 真っ黄色な魔石はツグミの両方のこぶしを合わせたよりもまだ一回りは大きい。ツグミはそれに慎重に『シールド』をかけた。

 だが、みんなもオオカミから槍を抜くともう体力が尽きてその場に座り込んでしまう。

 

アカリ「あ~、もう動けない…」

ソラ「マズい…残りのオオカミが襲ってきたら…」

ナオ「もう戦えないよ…」

 

 誰もがまだいるはずのオオカミがやってこないか、辺りを見渡しているとそこに呼び声が聞こえてきた。

 

「みんな、大丈夫⁉」

 

 全員が声の方を見ると、そこには心配そうにするアユミがいた。

 アユミはみんなが座り込んでいるのを見て、走ってそばにやって来る。

 

アユミ「みんな!」

アイ「アユミ、危ないよ!」

ナオ「そうだよ…まだオオカミがいるかもしれない…」

 

 だがアユミはみんなのところまで走ってきて言う。

 

アユミ「川の向こうからも化け物か何かの鳴き声とみんなが(さけ)ぶ声がずっと聞こえていて、それで化け物のもののような絶叫(ぜっきょう)がしたら静かになって遠吠(とおぼ)えも()え声も聞こえなくなったから、急いでみんながどうしてるのか、橋を渡って見に来たの…」

タクミ「じゃあ…他のオオカミの声もしない…」

アユミ「遠吠えも何も…」

 

 アユミの話を聞いて、アイたちは座ったままお互いに顔を見合わせた。

 アユミはそのまま一人ひとりの革鎧の隙間から手を入れて『ヒーラー』をかけていく。

 

アユミ「ゴメンね…これぐらいしかできなくて…」

アイ「ううん…ありがたいよ…」

ソラ「ホントに…元気出るよ…」

アユミ「ホント?」

ツグミ「本当だよ…」

ナオ「ありがとう…」

 

 アユミの『ヒーラー』を受けて、みんなやっと動けるようになった。

 

アイ「ありがとう…さあ、テントに戻ろう…」

ツグミ「まだ他のオオカミの死骸とかがあるけど…」

ナオ「それは明日以降でいいよ…」

アカリ「タクミ、あの巨大オオカミの死骸はストレージに入れてきてね…」

タクミ「ああ?分かったよ…」

ソラ「文句言わない!ずっとそうでしょ…」

タクミ「ハア~イ…」

全員「(笑)」

 

 タクミの最後の気の無い返事に全員が笑ってしまう。アイは笑顔で改めて合図する。

 

アイ「さあ、急いでテントに戻ろう…」

ルカ「私が周りに気をつけるから…」

モア「でも、何も聞こえないよ…」

ナオ「まあ、とりあえず急ごう…」

 

 アイたちはお互いに肩を()し、辺りに注意しながら橋を渡ってテントへと戻っていった。

 




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