※この作品はR-18です。

ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~   作:イジー・ムラシロ

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94 大斧のダン

 アイたちは村長の家と(うまや)のちょうど真ん中ぐらいのところまではみな黙っていた。

 

 しかし、村長たちに声が聞こえないぐらいの場所に来たと思うとみんなお互いに顔を見合わせ、大声を上げた。

 

アイ「やったー!」

モア「イェーイ!」

アカリ「どうだ、見たか!」

ソラ「よしッ、よしッ、よぉーしッ!」

アユミ「やったー、やったー!」

タクミ「イェイッ、イェイッ、イェイッ!」

 

 アイとアカリは互いにハイタッチをし、ツグミとアユミとナオは()き合って喜ぶ。

 ルカもソラもモアも飛び上がってバンザイして作戦が上手くいったのを喜んだ。

 タクミも(うれ)しくて意味なく(やり)を振り回した。

 

アイ「さあ、これで(たの)まれた仕事もクエストも全部終わりだよ…」

ソラ「で、この後は?」

ナオ「とりあえず厩まで行って、帰りの馬車がいつ出るのかを聞こう…」

アユミ「そうだね…」

 

 みんなが丸く集まっていたのを()いてまた厩まで行こうとすると、すぐ傍の家の(かげ)にツバスとカレルが(かく)れるようにしてこちらを見ていた。

 

 ナオとアユミがアイの方を見ると、アイもその意図が分かってうなずく。

 2人はみんなから離れてツバスとカレルに近づいた。

 

 ツバスもカレルもアイたちが喜んでいる様子を見ていて、ほっとした表情をしていた。

 

ナオ「ツバスさん、カレルさん…」

ツバス「どうやら上手くいったようですね…本当によかった…」

カレル「よかった…」

アユミ「みんなお二人のおかげです…」

 

 ツバスは静かに首を振る。

 

ツバス「私たちは何も…それでもよくあの強欲(ごうよく)な村長がお金を出しましたね…」

 

 ツバスが少し驚いたようにするのに、ナオとアユミはお互いに顔を見て(ふく)み笑いをしながら答える。

 

ナオ「まあ、少しオオカミの死骸とかを出して(おど)かしたりもしたんですが…」

アユミ「上手く(こわ)がってくれたみたいで…」

カレル「そうですか…いい気味です…」

 

 カレルも少し嬉しそうな顔をする。だが、ツバスだけは真剣な表情のままだ。

 

ツバス「油断はしないでください。村長は強欲なだけに何をしてくるか分かりません。

 何やら悪党どもを屋敷に呼んだりもしているようです…

 くれぐれも町に到着するまでは気をつけてください。」

 

 ツバスの真剣な顔にアユミもナオも真面目な表情に戻ってうなずいた。

 

ナオ「ありがとうございます。ツバスさんのお言葉を聞いて私たちも十分に注意します。」

 

 アユミが振り返ると、アイたちが離れたところで彼女たちを待っている。

 

アユミ「もう行かないと…」

ツバス「本当は村中でお礼をせねばならないのですが…本当にすいません…」

ナオ「どうか気にしないでください。」

アユミ「お礼は村長からたくさんいただきましたから(笑)…」

カレル「ありがとうございました。」

 

 ツバスとカレルが(ひざまづ)いて頭を下げるのに、2人も深々と頭を下げるとアイたちの方へ走っていく。

 アイたちもツバスたちが顔を上げたのに合わせて、もう一度全員で頭を下げた。

 

アカリ「さあ、行こう…」

 

 みんなはツバスとカレルに小さく手を振って、(うまや)の方へ向かった。

 厩へ行くとちょうど明日の朝、ドムニへ行く馬車が出ると言う。

 

ルカ「ちょうどだね…」

アカリ「ナイスタイミング!」

ツグミ「じゃあ、まだ明るいけど宿屋さんに行く?」

ナオ「ねえ…」

 

 ナオはみんなを厩の建物の(かげ)へ連れていく。

 

ナオ「さっきツバスさんから、村長が何かしてくるかもしれないから注意して、って言われたの…」

ソラ「何かって、なに?」

アユミ「それは分からないけど…なんか、悪党たちとも(つな)がってるみたいって…」

ルカ「悪党って…」

 

 ナオとアユミの話を聞いて、誰もが難しい顔をした。

 

アイ「で、どうするの?」

ナオ「宿屋に泊まって(おそ)われたら村から逃げ出すのは難しいから、ここから川へ行く途中も草原だったからそこにテントを出して今晩は()まらない?

 草原なら襲ってきても『索敵(さくてき)』で分かるし、待ち伏せのようなことも(ふせ)げるから…」

 

ツグミ「そんなに気をつけないとダメなんだ…」

ルカ「でも、あの村長ならしかねないよ…」

アカリ「だよね…」

 

 アイはみんなの話を聞いてうなずく。

 

アイ「じゃあナオの言う通り、村を出て草原にテントを張って今晩はすごそう。」

モア「り(了解)!」

アカリ「じゃあ、早く行こう…もうすぐ正午(ひる)になるよ…」

 

 アイたち厩の陰で武器もしまって、軽い足どりで村の外へと向かった。

 

 

 一方、村長とマヒナはしばらくの間オオカミの死骸とアイたちの脅しのせいで二人とも身体を固くして座っていたが、彼女たちの姿がすっかり見えなくなるとどちらともなく立ち上がった。

 

 すると村長はマヒナに向かって怒鳴(どな)る。

 

村長「マ、マヒナ!すぐにあいつらを追いかけて、か、金を取り返してこい!」

マヒナ「村長様…」

村長「お前一人でダメなら、村の者どもを呼び出して追いかけろ!」

 

マヒナ「ダメです…最近は村の者どももあまり我々の言うことを聞かぬようになっております…

 それに、あいつらはあれだけのオオカミを退治しています…

 村の者が(たば)になって()かっても、(かえ)()ちに()うやもしれません…」

村長「ム、ム、ム、ム…」

 

 村長は今になって大事なお金を(うば)われた(いか)りがこみ上げてきたのか、顔が真っ赤になってきた。

 だが、マヒナはすっかりアイたちを怖がってどうしても取り返しに行こうとはしない。

 

 村長は唇を(ゆが)めて腕を組み、しばらく思案(しあん)していたが、急に(ほほ)(ゆる)めた。

 

マヒナ「村長様…いかがいたしましたか?…」

村長「フフフ(笑)…ワシに良い考えがある…

 マヒナ、お前はこれからダンのところへ行ってこい…ヤツに金を取り返してくるよう(たの)むのだ。」

マヒナ「ダンというと、あの盗賊(とうぞく)の…」

 

 マヒナは少し驚いた顔で村長をジッと見つめる。

 

村長「そうだ…あの大斧(おおおの)のダンよ…

 あ奴なら昔は騎士もしておったからあの小娘どもによもや破れたりはせぬだろう…それに手下も沢山おるからな…」

マヒナ「ですが、ダンに頼むならタダでは無理ですが…」

 

村長「仕方あるまい…200ゴールドは渡すと言えばいい…」

マヒナ「取り返した金から、ですか…」

村長「このままだと、びた一文(いちもん)戻ってこぬ…さあ、さっさとダンのところへ行ってこい!」

マヒナ「ははー…」

 

 マヒナは村長に頭を下げると、走り去っていった。

 

村長「あの小娘ども~…目にもの見せてやるからな…」

 

 村長は怒りで歯ぎしりをしながらアイたちが立ち去った方をジッと見ていた。

 

 

 アイたちは村を出てもう一度川の方へと戻っていった。

 

 林を迂回(うかい)する道を進んで20分ほど行くと草原に出て、すぐに平らな場所にテントを張ってかまどを(しつら)える。

 この世界にやって来た当初(とうしょ)はもたもたと半時間ほどかかっていたのが、今やテントの設営(せつえい)から火起こしまで手分けして15分ほどでできるほどになっていた。

 

ソラ「すっかりアウトドアにも慣れてきちゃった…」

アユミ「アウトドアって言うより、もう日常生活だけど(笑)…」

ルカ「わかる…元の世界だと虫が一匹出ただけでキャーキャー言ってたけど…」

アカリ「あのオオカミと比べたらぜんぜん…」

 

アイ「比べ方が間違ってない?」

ナオ「そう?アカリの言う通りの気がするけど…」

ツグミ「(笑)」

モア「あー、ちょっときゅーけー…」

 

 テントも()き火も設営し終わって、モアは草の上に座って両脚を投げ出す。

 ツグミとアユミがリンゴジュースを出して、みんなに回していく。

 

ツグミ「飲み物、どうぞ…」

アイ「ありがとう…」

ソラ「サンキュー!」

ナオ「(笑)…ありがと…」

アユミ「タクミ君もどうぞ…」

タクミ「あっ、ありがと…」

 

 魔獣のオオカミとの戦いだけでなく、村長たちとの()()きも上手くいってアイたちは心の底からホッと安心していた。

 

ナオ「で、ドムニの町に戻ったら今度は大きな街へ行くの?」

 

 全員が一息ついたところでナオがアイにこれからのことを尋ねる。

 

アイ「そうだね…お金も当分の間大丈夫なぐらい手に入れたし、もっと大きな街に行ってもう少しいろんな情報を聞き出したいね…」

アカリ「魔法のこととか、彷徨(さまよ)い人のこととか…」

 

ソラ「なんかこれじゃあ、どうして私たち連れてこられたのか、意味わかんないよ…」

ルカ「確かに…クエストをするだけなら、わざわざ連れてくる必要はないよね…」

ツグミ「…」

 

 久しぶりに余裕(よゆう)ができ、改めて自分たち自身のことを考えるとまだ分からないことだらけのままだ。

 珍しくタクミも口を開いた。

 

タクミ「もしかしたらこうやってオレたちがクエストを沢山(たくさん)して魔法や武術のスキルレベルが高くなってから、目の前に出てきてあれしろこれしろって言い出すんじゃないかなー…」

 

アイ「まあ、何もできない時よりもそれの方が向こうにしては好都合(こうつごう)かも…」

ソラ「誰が言いなりになるかって…なめんなよ…」

モア「そうだぁ、そうだぁ…」

全員「(笑)…」

 

 モアの気のない相づちに全員が()き出した。

 

ナオ「まあ、今は何も考える材料がないから、とにかく大きな街に行ってほんの少しでもヒントになるようなことがないか聞いてみよう…」

ツグミ「でも、私たちが彷徨い人だっていうのは気づかれないようにしなきゃいけないんでしょ?」

アカリ「そこが難しいよね…」

 

ルカ「でもあの村長見てると、ナニさんやお店のおじさんが言ってたみたいに気をつけないといけないってのがわかる…」

アイ「そうだね…あいつホントに自分の都合いいようにしか考えてなかったから…」

タクミ「上手く利用されないように注意しないと…」

 

 みんなが黙り込むと遠くの森からキィーキィーと鳥の鳴く甲高(かんだか)い声が(ひび)いてきた。

 風が何度も樹々(きぎ)をガサガサと()らし、サルか何かの()え声も(かす)かに聞こえてくる。

 

 それでもオオカミの遠吠(とおぼ)えがずっと響いていた数日前と比べると、今は辺り一帯が静まり返っているように思えた。

 

アカリ「ちょっと早いけど昼食にしよ…」

モア「しよ、しよー…」

アユミ「(笑)…じゃあ、パンと飲み物を出すね…」

 

アイ「あのクソ村長の相手したから、お腹空いてきたよ…」

ツグミ「いっぱい(しゃべ)ってくれたもんね…」

モア「クソ村長にカンパ~い!」

アカリ「あんた、なに言ってんの(笑)…」

 

 それでもモアの大声を合図に、みんなは立ち上がって昼食の用意を始めた。

 

 

 それから何時間か後のこと。

 アイたちがキャンプを張った場所で洗濯や夕食の用意をしていた頃、マヒナは一人ロバに乗って山中の森の中にいた。

 

 彼は何年か前にそこを訪れたという薄っすらとした記憶を(たよ)りに山賊(さんぞく)のアジトを(さが)す。

 不安げにロバを進めていくと、樹々の間に男が2人いるのが彼の目に入った。

 マヒナは急いで2人に近づいていく。

 

 2人の男はまだ二十歳(はたち)になるかならないかぐらいの若さで、痩身(そうしん)だががっしりした体格をしていて腰には大きな剣を差している。

 一人は更に大きな弓を手にしていた。2人の方でもマヒナの姿を見つけたのだろう、向こうからも彼に近づいてきた。

 

若い男1「おい、止まれ!動くな!」

若い男2「止まらないと()つぞ!」

 

 一人は剣を抜き、もう一人はマヒナに向かって矢を向ける。

 マヒナはロバから飛び降りると、その場に(ひざまづ)いた。

 

マヒナ「ま、待ってくれ!オレは(あや)しい者じゃない…

 ここは「大斧(おおおの)のダン」の頭領(とうりょう)がおられるところと聞いたんだが…」

若い男1「それを誰に聞いた?お前は一体誰だ?」

マヒナ「オ、オレはローフの村長様の使いだ。ダンの頭領に是非ともお願いしたいことがあって来たんだ…」

 

 マヒナが頭を下げて言うのを聞いて、若い男たちは顔を見合わせる。

 すると一人が弓矢を(かま)えるもう一人に耳打ちをして、森の奥へと走っていった。

 残った男が矢をマヒナに向けたまま言う。

 

若い男2「ちょっと待ってろ…今、頭領に確かめる。」

マヒナ「た、(たの)む…」

 

 マヒナは矢を向けられて小刻みに(ふる)えているが、そのままの格好(かっこう)で何かを言われるのを待っていた。

 

 そこに奥へ走っていった男が戻ってきて、その場に残っていた男にまた耳打ちする。

 矢を向けていた男はその言葉を聞いてうなずくと、矢を下してマヒナに言った。

 

若い男2「頭領が奥へ来いとおっしゃってる。こいつについていけ!」

マヒナ「ありがたい…」

 

 マヒナは立ち上がるとロバの(くつわ)を取って男についていった。

 

 森の奥へ進んでいくと、辺りの樹々はかなり切られて多少広くなるようにしてある。

 そこに10人ほどの男たちが座り込んで手慰(てなぐさ)みをしたり、木剣で訓練をしたり、酒を飲んだりしている。

 その奥には簡素だが小屋が2,3(むね)建てられていた。

 

 案内をする若い男は黙ったまま男たちの間を進んでいき、マヒナは男たちからジロジロ(にら)まれて身体を硬くする。

 だが、特に怒鳴られたりしたりはしなかった。

 

 やがて一番奥の小屋にまで行くと、小屋の前に一際(ひときわ)大きな男が椅子を出して座っていた。

 上半身裸で、後ろに立っている男に髪を切らせているようだ。

 

 男は30代半ばぐらいで身長は180㎝以上ある感じ。

 体格は胸も肩も腕も筋肉が盛り上がっていて、両脚も太い。それでいて手足は長いので意外に均整(きんせい)が取れている。

 

 顔つきは目が()り上がり鼻筋も通っていかつい感じだが、よく見るとかつてはなかなかの美男子だった面影(おもかげ)がある。

 しかし、右の(ほほ)には大きな刀傷(かたなきず)がついていた。

 

 大きな男は特に後ろの男に止めるように言うこともなく、案内の男もそのままマヒナをその椅子に座る男の前に(ひざまづ)かせる。

 マヒナは仕方なく、髪を切られている男に向かって頭を下げて話し出した。

 

マヒナ「ダンの頭領、お久しぶりです。私は以前ローフの村長からの使いで参ったマヒナという者です。」

 

 ダンと呼ばれた大きな男は椅子に座ったまま、頭を下げているマヒナをジロジロ見るが、さあ誰かなあ、という表情をして遠くを見る。

 

 そのまましばらく誰も話さないが、やがて大きな男はニヤリとした。

 

ダン「そういや、2,3年前にローフの村長から気に入らない商人の馬車を襲うように言ってきたが…そん時のヤツか、お前?」

 

 マヒナは頭を下げたまま、うなずく。

 

マヒナ「そ、そうです…その時に使いで来た者です。」

ダン「そうかい、そりゃあとんだ失礼をしたな…おい、この人にも椅子を出して差し上げろ…」

 

 マヒナを案内してきた若い男はダンの言葉に頭を下げ、すぐに小屋の横にあった小さい椅子を持ってくる。

 

 ダンはその間に後ろで髪を切っていた男にしぐさでもういいと指示すると、自分は傍の木にかけてあったシャツを着た。

 マヒナはそんなダンの様子を横目で見ながら、男が持ってきた椅子に座った。

 ダンはシャツを着てまた椅子に座ると、改めてマヒナの顔をジッと見る。

 

ダン「で、今日はなんだい?まさか、ただの(うたげ)の誘いとかじゃあるまい…」

 

 ダンに言われ、マヒナは要件(ようけん)を切り出した。

 

マヒナ「実は最近、うちの村の近くにラウンドウルフが出没(しゅつぼつ)していてそのためのクエストを出していたんですが…」

ダン「まさかオレにラウンドウルフ退治をしろってか?」

 

 マヒナは(あわ)てて手を振る。

 

マヒナ「まさか…その件でドムニのギルドからの使者とかいって勇者パーティーの奴らが来たんですが、こいつら若い小娘ばかりのパーティーで…」

ダン「若い小娘…」

 

 ダンは「若い小娘」という言葉を聞くと、(まゆ)をピクッと動かした。

 マヒナはそんな様子に気づかずに話を続ける。

 

マヒナ「その小娘どもが生意気(なまいき)にもラウンドウルフ退治をするとぬかして、村長様にできればどれぐらいの褒美(ほうび)(いただ)けますかとか聞いたんです…

 で、村長様も無理と分かって500ゴールドでも(いく)らでも出すとおっしゃって…」

ダン「ふ~ん、それで…」

 

マヒナ「それが数日()って、その小娘どもがラウンドウルフを退治してきたと言って戻って来たんです。

 村長様は元々クエストの褒美であった150ゴールドをお渡しになろうとしたのですが、強欲(ごうよく)な小娘どもはそれでは足りぬと言って村長様をさんざん武器で(おど)して遂に500ゴールドもの大金を(うば)っていったのです…」

 

 ダンは(あご)無精(ぶしょう)ひげをずっと触りながら話を聞いていたが、マヒナの話を聞き、口を開く。

 

ダン「ってことは、その小娘ばかりの勇者パーティーから金を取り返してくれってことだな?」

マヒナ「そうです…ドムニへ行く駅馬車は明日の早朝に出発するんで、ドムニに到着する前にあいつらを(つか)まえて金と取り戻して欲しいんです…」

ダン「ふ~ん…」

 

 ダンはマヒナの顔をジロジロと(なが)める。

 

ダン「もちろん取り分はあるんだろう?オレたちの取り分は(いく)らだ?」

マヒナ「村長様は金貨500枚のうち、200枚を頭領へ、と…」

ダン「200だー?」

 

 ダンはマヒナの答えに眉をひそめた。

 

ダン「200じゃあダメだな…300だ…」

マヒナ「300なんて、そんな…それじゃあ半分以上です…」

ダン「300じゃなきゃお断りだ…おい、お引き取りいただけ…」

 

 ダンは冷たい声色(こわいろ)で傍の男に命令する。

 男はマヒナの椅子に手をかけ、ダンも椅子から立ち上がろうとした。

 

マヒナ「頭領!待ってください…わ、わかりました、取り分は300で…」

 

 マヒナが苦しそうな顔で(しぼ)り出すように答えると、ダンはニヤッとしてまた椅子に深く腰掛けた。

 

ダン「で、その小娘どもはこっちが好きなようにしていいんだな?」

マヒナ「もちろんです…皆さんのお好きなようにしてもらって(かま)いません…我々としてはお金さえ取り戻せればいいので…」

 

ダン「わかった…明日の朝、ドムニに向かって出発ってことなら何とか明々後日(しあさって)にハルガの森のところで捕まえられるだろう…

 おい、ええ~とお前は…」

マヒナ「マヒナ、マヒナでございます…」

 

 マヒナが慌てて自分の名前を言うと、ダンは黙ってうなずく。

 

ダン「マヒナ、もうすぐ日が暮れる…今日はアジトに泊まってきな…

 なに心配すんな、これからもローフの村長とは仲良くしていかないとダメだからな…

 おい、この人は今晩の客だ、丁重(ていちょう)にして夕食も差し上げて、寝られるところを()けてやれ…」

 

 マヒナをここまで案内してきた若い男は、ダンに言われて頭を下げるとマヒナの肩を(たた)く。

 マヒナは椅子から立ち上がるとダンに向かって何度も頭を下げ、そのまま男に連れられて別の小屋の方へ行った。

 

 マヒナが向こうへ行くと、さっきまでダンの髪を切っていた男がダンの耳元までやってきて小声で言う。

 

ダンの子分「頭領(とうりょう)、いいんですか?あんな奴の仕事なんて引き受けて…」

ダン「いいんだ…あいつの言うローフの村長ってのはドケチで有名で、村の者から(しぼ)り上げてしこたま金を()()んでるらしい…

 

 ただ、時々実入(みい)りのいい話を持ってくるから、利用するだけしてタイミングを見て屋敷を襲って貯め込んでる金を根こそぎいただきゃいい…」

 

ダンの子分「ですが、ラウンドウルフを退治するぐらいの勇者パーティーを襲って、ホントに金を取り返せますか?」

 

 ダンは子分の言葉に鼻をフンと鳴らす。

 

ダン「アイツも言ってたろう…相手は小娘どもだ…

 恐らくまだ盗賊ってのがどんなのか見たこともないだろうよ…

 オレたちが脅しつければ、泣いて助けてと言うだろう…大丈夫だ…」

 

 ダンは立ち上がるとその子分に言う。

 

ダン「他のヤツらにも明日の早朝に出発だと伝えろ…明日は馬だからな、いいな!」

 

 子分はダン言われて頭を下げると、急いで向こうにいた男たちの方へと走っていった。

 

 ダンは頭の後ろを()でて髪の様子を確かめるが、まだあちこちが長いままなのが分かり、(しぶ)い表情をして小屋の中へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 




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