※この作品はR-18です。

ワンダラーズ・イン・アナザー・ワールド ~男子は僕ひとりだけがクラスの女子といっしょに異世界へ送られたけど、僕が抱くことで彼女たちは強くなります。~   作:イジー・ムラシロ

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95 襲撃!

 その晩、アイたちは久しぶりにハムを焼いて野菜と一緒にサンドウィッチにして食べた。

 

 クエストの緊張感もなく、互いにパンやハムや野菜を回してワイワイ騒ぎながらサンドウィッチを作り、ちょっとした校外学習のような気分だ。

 

ソラ「ハア~、スープも美味(おい)しいけど焼きたてのハムのサンドウィッチもいいねぇ~…」

モア「いいねぇ~」

アカリ「あんたたち、何でも美味しいって言ってんじゃん(笑)…」

ルカ「そうそう(笑)…」

 

ナオ「でも、なんかサンドウィッチも食べ慣れてくると、アボカドとかも食べたくなる…」

アイ「わかる…」

アユミ「アボカドって(笑)…」

アカリ「アボカドはさすがに無理しょ(笑)…」

 

 タクミはサンドウィッチを口いっぱいに頬張(ほおば)ってから、ミルクティーを飲む。

 

タクミ「…こういう食べ物って、何が出てくるか、誰が決めてんだろう…」

ソラ「でもさ、出てくるものって結構私たちの世界のヤツも多いから、もしかしたら私たちの近くにいたんじゃない?」

ツグミ「魔法使いが傍にいたってこと?」

 

ソラ「じゃないと、マヨネーズとかドレッシングとかおかしくない?」

ナオ「あと計量カップもダッチオーブンも(笑)…」

アイ「それじゃあ、何でもかんでもだよ(笑)…」

 

 ソラが言うように元いた世界で使っていたり、食べていたりしたものが魔法などで手に入ってはいるが、それでもさすがに元の世界に魔法使いがいたとは誰にも思えない。

 

 みな夕食を口にしながらいろいろと考えてみるが、やはり(なぞ)なことばかりだった。

 

ナオ「まあ、とにかく次の街に行って少しでいいから何か手がかりがないか探してみよう…」

ルカ「まだわかんないことだらけだもんね…」

アカリ「先は長そうだよ…」

モア「ヤダよー…」

 

 風が起こって辺りの草がざわざわと鳴り、()き火の中の木がパチパチと音を立てた。

 

 大変だったクエストを終えたとは言え、当てのない旅はまだまだ終わりが見えない。

 最初の明るさもどこかへ行って、誰もが黙ってしまった。

 アイも一度大きくため息をつくと、口を開く。

 

アイ「とりあえずドムニの町に戻って、ギルドに今度のことを知らせよう…」

ツグミ「またお店のおじさんやおばさんのところへも寄るの?」

アユミ「レンズ豆が好評(こうひょう)でもうほとんどなくなっちゃったから、また買っておきたいかな…」

ナオ「次に行く街のことも聞かないと…何て言ったっけ?…」

 

タクミ「リとかレとかで始まらなかったかな…」

モア「レア!」

アカリ「それは最初に行った村だよ…」

モア「違うの?」

アイ「だから違うって(笑)…」

ルカ「(笑)…」

 

 みんながモアの答えにクスクス笑いだすと、アユミが立ち上がって片付けを始める。

 アイも立ってもう一度言った。

 

アイ「じゃあ、ドムニに戻ったらまたギルドとおじさんのお店に行こう…ってことで、明日は早起きして村へ行くからね…」

全員「ハーイ!(笑)」

 

 みんなは一斉に返事をして笑い出すと、それぞれに夕食の片付けと寝るための準備をしてテントへ入っていった。

 

 次の日はいつも通り早朝に起きて食事や馬車()いのための魔法の掛け合いを()ませる。

 この日も空はどんよりとした(くも)り空で、今にも雨になりそうな感じだ。

 アイたちがテントも(たた)んで村へ戻ると、人々は変わらず黙って畑仕事へ向かっていた。

 

 村の中へ入って(うまや)へ向かう間、アイやナオやアカリはもしかしたら村長やマヒナがどこかにいるかもしれないと思い、あちこちを見回していた。

 だが、厩に来ても2人の姿はどこにもなかった。3人は内心ホッと息をつく。

 

 厩では何人かが馬車に荷物を積み込んだりしていた。

 1人か2人、どうやら事情を知っていそうな者がアイやアカリに目礼(もくれい)してくるが、他の者は何もなかったかのように黙って駅馬車の準備をしていた。

 

 アイたちもただ御者の男と話をして馬車に乗り込む。みんなが乗り込むと、しばらくして馬車は動き出した。

 馬車が出発してしばらくすると外は雨に変わった。ただこれまでのようなザーザー降りではなく、しゃばしゃばとした雨が降ったり止んだりする。

 

 彼女たちは行きしなと同じように毛布を出してお互いに身を寄せ合う。

 だが(さいわ)い雨は強くはならず、泥濘(ぬかるみ)をガタガタと()れるようなことはあっても遅れることなくその日の目的地の村に到着した。

 

 次の日は空も晴れ上がり、すっかり天気も良くなった。

 今まで駅馬車にはアイたちしか乗ってなかったが、この村で初めて相乗りの客が乗ってくる。

 

 客はこの村の農婦2人で、40ぐらいで小柄だが身体はがっしりとしている。2人とも作ったイモをドムニの市に売りにいくという。

 それぞれが一抱(ひとかか)えもある麻袋(あさぶくろ)にいっぱいのイモを何袋か馬車に持ち込んできた。

 

アイ「お手伝いしましょうか?」

農婦1「いいの。これぐらい運ぶのなんて普通なんだから…」

 

 彼女が言うように、2人とも軽々(かるがる)とその袋いっぱいのイモを持ち上げて馬車に運んだ。

 

農婦2「まあいっぱいいるんだね…ちょっと(すみ)にでもいれとくれよ…」

アユミ「こっちの奥へ来てください…」

農婦1「じゃあ遠慮なく…」

 

 2人はアイたちがフードを(かぶ)っていても、勇者パーティーと名乗っても全く気にせずべらべらといろんなことを話しかけてきた。

 

 この辺りは貧しい農村ばかりだということ。

 最近魔獣(まじゅう)がよく出ると聞くが、自分たちはそんなもの見たこともないということ。

 勇者パーティーなんて大体が盗賊と同類みたいなものだということ。

 彼女たちはそんな他愛(たわい)もないようなことをずっと話し続ける。

 

 アイやナオやアユミはそれでも何か手がかりになるような話がないか、多少我慢しながら2人の農婦の話に付き合っていたが、残念ながらほとんどが貧しい村の生活の愚痴(ぐち)でしかなかった。

 

 馬車はこの日も遅れることもなく、次の村に着いた。

 御者の男が言うにはこのままの天気でいけば、明日の夕方にはドムニの町に到着できるという。アイたちは礼を言って宿屋に向かう。

 宿の部屋に入るとすぐ、一日中女性たちの話に付き合ったアイが寝転がって伸びをした。

 

アイ「あー、大変だったぁー…」

ツグミ「(笑)…」

アユミ「お疲れ様(笑)…」

ナオ「ホントに(笑)…でも、仕方なかったよね…」

アイ「いい人たちだったけど…大事そうなことはやっぱ何にも知らなかった…」

 

アカリ「(笑)…まあ、当然っていや当然なんだけど…」

タクミ「世間話をずっとしてたけど、オレたちの知らない村の人の愚痴ばっかだった…」

ルカ「何かを聞き出すって、意外と大変だね…」

アイ「そうだよー…」

アユミ「わかったから、すぐ食事にしよう(笑)…」

 

 ずっと話を聞いていたアイはもちろんのこと、他のみんなもやはり馬車に一日揺られていたこともあって疲れていたのか夕食を終えるとすぐに床に入った。

 

 そして旅程(りょてい)も三日目。

 アイたちも農婦の女性たちも乗り込むと、馬車はまたすぐに出発した。

 

 疲れ気味のみんなに対して農婦の2人は何事もなかったかのようにこの日もずっと話し続けている。

 さすがにアイもこの日はあまり話に加わらず、毛布に(くる)まって眠っていた。

 

 そうして次第に太陽も高くなってきて、馬車もいくつかの草原を抜けて森に差し掛かってきた。

 するとそれまで静かにしていたツグミが突然顔を上げて(ほろ)の後ろから後方をうかがう。

 ルカが驚いてツグミに聞いた。

 

ルカ「ツグミちゃん、どうしたの?」

ツグミ「ねえ、何かが後ろから追いかけてきてる!」

アイ「なに?」

 

 アイやアカリが馬車の後方に行き、外を(なが)めるがまだ何も見えない。

 しかし、ソラやナオやモアにもその何かが(とら)えられているようだ。

 

モア「馬で追いかけてきてない?」

ツグミ「だと思う…5、6人、もしかしたらもっと多いかも…」

 

 ナオは前にいって御者の男に状況を告げる。

 

ナオ「誰かがこの馬車を馬に乗って追いかけてきてます!」

御者の男「なんだって?こんなただの駅馬車を追ってきてる?」

ソラ「私たち、魔法でそれが見えてるんです…」

御者の男「そんなこと言っても、これでスピードは精一杯だ!」

 

 御者の男はそれでも馬たちを(いそ)がせようとするが、馬車は二頭立てとはいえ人も荷物も()せているとそれほどのスピードは出ない。

 

ツグミ「ダメ!だんだん近づいてる!」

アカリ「分かってる…もう見えてきた!」

モア「ねえ、前にも何かがいるよ!」

アイ「しまった!」

 

 モアがそう言うやいなや、馬車はスピードを落としだす。どうやら先の方で待ち伏せをしていたようだ。

 アイが大声で指示をした。

 

アイ「アユミはここにいて。他のみんなはすぐに外に出て、武器を出すよ!」

アユミ「おばさんたちは奥に(かく)れててください…」

 

 馬車が広くなったところで止まると、アイたちはみな大急ぎでマントを脱いだ。

 

 彼女たちがパラパラと馬車から降りて武器を取り出した頃には、後ろから追ってきた男たちも姿を現し、前で待ち伏せしていたヤツらも馬に乗ったまま、馬車を(かこ)むように後ろへやって来た。

 

 みな薄汚れた麻のシャツとズボンに格好(かっこう)もバラバラの革鎧(かわよろい)を身につけ、手には剣や(やり)、弓矢を手にしている。

 ほとんどが(ひげ)を生やし、髪もぼさぼさを長いまま(むす)んでいて顔も真っ黒に焼けており、ギラギラした眼にニヤケた表情が彼らが真っ当な者でないのを表していた。

 

 アイたちが武器を(かま)えて馬に乗った男たちを(にら)んでいると、一番後ろから一際(ひときわ)大きな男が乗った馬が前に出てきた。

 

盗賊「ほー、なかなか(いさ)ましいヤツらだな…オレは「大斧(おおおの)のダン」っていう盗賊だ。

 この馬車にローフの村長から大金を(うば)ってきた奴が乗ってると聞いてやって来たが…

 それが誰かとかは、聞かなくてもいいようだな…」

 

 ダンと名乗った男は30代ぐらいで眼が()り上がり(ほほ)に大きな刀傷(かたなきず)があって、その二つ名の通りドデカい大斧を肩に背負っていた。

 

 ダンが背負う斧の頭の部分は彼自身の頭がすっかり隠れるぐらいの大きさをしていて、その分厚さも普通ではとても片手で(あつか)えないように見える。

 (おそ)らくその斧が当たると人の胴体でも一撃で真っ二つになってしまう、そう思わせるほど大きさがあった。

 

 だがダンは平気でそれを(かつ)いだまま、革鎧すら身に着けない軽装(けいそう)でニヤニヤしながらアイたちを馬上から見下ろしている。

 

ダン「おい、悪いことは言わねえからすぐに村長から奪った金を出せ!

 そうすりゃ、もしかしたらこのまま大人しく帰るかもしれねえぜ…」

 

 アイは剣を(にぎ)りしめたまま、ダンを睨みつける。

 アイが何かを言おうとした瞬間、ナオが(つえ)を握ったまま先に口を開いた。

 

ナオ「金なんかない!こんなただの駅馬車にそんな大金を持ってる人間なんていない。」

ダン「ほー、じゃあオレたちの間違いかな…どうやら力づくでそれを調べないといけないようだな。

 野郎ども!(かま)わねえ、こいつらを(たた)きのめして金のありかを()かせろ!」

 

 アイたちはみな、自分たちの武器をもう一度握りしめた。

 だが今まで魔獣とは戦ってきたが、人間を相手にするのはこれが初めてだ。誰もが今までとは(ちが)う感触に鼓動(こどう)が何倍にもなるのを感じる。

 

 アイがそんなみんなの気持ちを(さっ)して叫んだ。

 

アイ「みんな、腕や(あし)(ねら)って!火や風で追い払うの!」

アカリ「わかった!」

ソラ「り(了解)!」

ナオ「わかった!」

アイ「いけー!」

 

 盗賊たちは馬に乗ったままアイたちに突っ込んでくる。

 それに向かってツグミやモアやナオが火の玉を次々に飛ばした。

 

 盗賊たちは魔法使いがいるとは思ってなかったのか、火の玉で衣服や髪の毛に火がついたり、その火の玉を()けようとしたりして次から次へと落馬した。

 アイやアカリやルカがそれに飛びかかって手や脚を狙って剣を振るう。

 

 落馬した盗賊も武器を(かま)えて襲ってくるが、アイたちの武器はオリハルコンでできている特別なものなので、一合(いちごう)剣を(まじ)えるだけで盗賊たちの剣や槍が折れたり、真っ二つに切られたりしてすぐに使えなくなった。

 

 アイたちは魔法と武器の優位(ゆうい)()かして、次々に盗賊たちを(たお)していく。

 

子分「ダ、ダメだ…逃げろ!」

 

 武器が使い物にならなくなり、魔法にもやられた盗賊たちは、手足を切られて倒れている仲間を(ほお)って逃げようとし始めた。

 その様子をずっと見ていたダンが叫ぶ。

 

ダン「バカヤロー!こんな小娘どもになんてざまだ…仕方ねえ、オレ様が相手だ!」

 

 ダンは大斧を背負ったまま馬から降り、アイたちの方へ歩み寄ってくる。

 アイたちは息を整えようと大きな息をしながら、武器を構えてその様子をうかがう。

 

 やがてダンはアイの正面へやって来た。

 

ダン「どうやらてめえがリーダーのようだな。そこそこの腕前だが、オレ様にそれが通用するかな…」

 

 ダンは身長だけでもアイよりも10㎝以上大きい上に、腕も肩も胸も筋肉が山のようになっていて手足も(おどろ)くほど長く、まるで小山のように見える。

 

 子分たちは威勢(いせい)のいい声は出すが実際には戦闘にそれほど()れていないのか、アイたちがしっかりと武器を使うとすぐにあたふたして腰が引けていた。

 だがダンにはそういう様子が全くなく、彼がこうした闘いの場に慣れているのが感じられた。

 

 アイはダンの威圧感(いあつかん)に身体が硬くなるのを感じて、剣を(にぎ)り直して彼をジッと(にら)む。

 ダンはその様子を見て、フッと笑う。

 

子分「頭領(とうりょう)…」

 

 子分の誰かが声を出すとダンはアイから目を離さずに怒鳴(どな)った。

 

ダン「バカが!お前らはそこにいて黙って見てろ!」

 

 アイはダンに剣を向け、ダンは肩に大斧を背負ったまま互いにジッと睨み合う。

 アイはじりじりと間合いを()めるが、ダンはそのアイのしぐさに動じる様子もない。ただニヤリと笑ったまま、アイの動きを見ている。

 

アイ「やあっー!」

 

 アイは一気に間合いを詰めて、ダンに剣を振り下ろした。

 だが、身体も大きく大斧も背負っているダンはいとも簡単に(たい)(さば)いてその剣を()ける。

 アイは相手に反撃する間を(あた)えぬように何度も()りかかる。

 

アイ「えい、えい、えいっ!」

 

 アイは剣を振り下ろしたり、(どう)を狙って斬り払ったりと、次々とダンの急所へ剣を振るっていく。

 しかし、彼は小山のような大きな身体に加えてドデカい大斧まで背負っていながら、まるで体操の選手ように軽々と彼女の剣捌(けんさば)きをかわす。

 アイはスピードや一瞬の速さなら()があると思っていたが、そんなアイの剣は全くダンに届かなかった。

 

アイ「ハアハア、ハアハア…」

ダン「フフフ(笑)…どうした、もうスタミナ切れか?

 そんな剣じゃあ、オレ様には当たらねえな(笑)…」

 

 アイは全力の攻撃を全て避けられ体力を奪われているのに対して、ダンは(すず)しい顔でその様子を見ている。

 

アカリ「アイ!」

ダン「さあ、今度は本当の技ってやつをオレ様が見せてやるぜ!」

 

 アイの動きが(にぶ)ったのを見て、ダンはそれまでずっと肩に(のせ)せていただけの大斧(おおおの)(かま)えると、一気にアイを襲った。

 

ダン「ほら、ほらほら、ほらよっ…」

アイ「ふん、ふん、えい、えい…」

 

 ダンはドデカい大斧を軽々と(あつ)うと、まるでわざとかのようにアイの鼻先をかすめるように振り回す。

 アイは何とかその攻撃を避けるが、ダンの大斧は思っている数倍の速さでアイを襲い、その攻撃から逃げるだけで精一杯だ。

 

ダン「どうした小娘!さっきの威勢のいいのはどこへ行った?ほらっ!」

アイ「うわあっ!」

ナオ「アイ!」

 

 突然、アイは大斧を避けるのに気を取られ、地道(じみち)(くぼ)みに足をとられて仰向(あおむ)けに(たお)れた。

 受身で頭こそ打たなかったが、剣を落としてしまう。

 

ダン「フン!」

 

 ダンはアイの顔のすぐ横に斧を振り下ろすと、アイの脚を()みつける。

 アイはダンを睨みつけるが、もはや(こう)する(すべ)は無かった。

 

アイ「グッ…」

アカリ「アイ!」

ダン「おめえら、動くな!もし動けば、こいつの首をぶち切るぞ!」

 

 ダンはアイを見下ろしたまま、アカリたちにそう怒鳴る。

 ダンの子分たちは自分たちの頭領がアイを踏みつけるのを見て、再びニヤニヤしながら武器を構えた。

 

ダン「どうした?…これで勝負あったな…」

アイ「うううう…」

 

 ダンはアイを踏みつける足に力を()める。

 

ダン「悪いようにはしねえって、このままオレたちのアジトに来りゃあいいだけよ。

 そうすればこれからずっと可愛(かわい)がってやるから…おめえ、こうして見るとなかなかいい女じゃねえか…」

アイ「ちくしょう…」

 

 ダンは()(ほこ)った顔でアイをニヤニヤと見下ろした。

 

ゴンッ‼

 

ダン「痛てえ!誰だ⁉」

 

 突然ダンの、ちょうど右側のこめかみ辺りに石のようなものが飛んできて当たった。

 ダンが右側に振り向くと、馬車に乗った農婦が両手にイモを持っている。

 

ダン「てめえ‼」

 

 ダンが馬車に向かって怒鳴った、その瞬間だった。

 

 アイはストレージから手裏剣(しゅりけん)を出してダンの顔めがけて投げつけた。それが振り返った彼の左眼に突き刺さる。

 ダンは2,3歩(あと)ずさって顔を押さえた。

 

ダン「ぐっ…」

アイ「えーいっ‼」

ダン「グワーッ!」

 

 アイはその(すき)に剣を(ひろ)って身体を起こし、立ち上がりながら一気に袈裟懸(けさが)けに下から斬り上げた。

 ダンの胴体(どうたい)()れて血が()き出し、ダンは仰向けになって倒れた。

 

 アイは頭から返り血を()びたまま、膝立(ひざだ)ちで(かた)まっている。

 

アカリ「アイ!」

ツグミ「アイちゃん!」

アユミ「アイ!」

 

 みんなは一斉にアイのところへ走り出した。

 それに対してダンの子分たちはあまりのことに()()くしている。

 

子分1「ダ、ダメだ!頭領が…」

子分2「逃げろ!」

 

 盗賊の子分たちは今度こそ自分たちが乗ってきた馬のところへ走っていくと、まだ倒れている仲間たちのことも見捨(みす)ててあっという間に走り去った。

 

アユミ「アイ、大丈夫?」

アカリ「大丈夫?」

 

 馬車から文字通り飛び降りたアユミに続いて、アカリやナオがアイの傍へ行く。

 アイは膝立ちのまま、放心したように倒れているダンのことを見ていた。

 

 アユミはすぐにアイの背中を(こす)るようにしながら『ヒール』をかけ、アカリはタオルで彼女の血に()れた髪や顔を()く。

 

アカリ「アイ、しっかりして…」

ナオ「大丈夫?」

ルカ「アイちゃん?」

 

 顔を拭くアカリやナオが肩を揺さぶって、アイはやっと正気(しょうき)(もど)ったように彼女たちの顔を見た。

 

アイ「アカリ…」

アカリ「アイ?」

アイ「私…人を斬っちゃった…この手で…」

ナオ「アイ…」

 

 アイが剣を持ったままの手を持ち上げると、その手は血塗(ちまみ)れでまだ(ふる)えている。

 アイは何かに気づいたように剣をその場に落とした。

 

 ナオはそんなアイを見て、アユミの方へうなずく。アユミもうなずき返して、今度はアイの背中に『ケア』をかける。

 みんながアイの周りに集まってきた。

 

御者の男「お、おい!こいつは大斧のダンじゃねえか⁉」

 

 アイたちが戦っていた間、馬車の(かげ)(かく)れていた御者の男はアイが斬った男を見て、驚いて大声を上げた。

 ソラとルカがその声に振り返る。

 

ソラ「そういや、この男もそう名乗ってたけど…」

ルカ「何でこの男の名前を知ってるんですか?」

御者の男「こいつはこの辺りじゃ有名な賞金首(しょうきんくび)だ…オレの記憶だと金貨100枚の賞金がかかってたはずだ…」

 

モア「賞金首…」

御者の男「そうだ…あちこちで商人の馬車が(おそ)われたり、貴族の奥さんや子どもが(さら)われて大金が(うば)われたりした。

 何度か討伐隊(とうばつたい)が追ったが(つか)まらなかったそうだ…」

タクミ「それであんなに強かったのか…」

 

 タクミやソラが御者の男の話を聞いて、顔を見合わせた。

 御者の男は倒れている男の顔を指差す。

 

御者の男「この顔の傷と大斧の星の模様(もよう)が何よりの証拠(しょうこ)だ。この死体と大斧は持っていった方がいい…」

 

 男が言うように、ダンが持っていた大斧の実の真ん中に大きな星の模様が浮かび上がっていた。

 ルカが大斧を引っ張るが、それはルカが引きずるのがやっとなぐらい重い。

 

ルカ「持っていってどうすればいいんですか?」

御者の男「守備隊の兵士に起こったことを説明して、死体と斧を見せれば褒美(ほうび)(もら)えるはずだ…

 ただ、ドムニの町はダメだ…」

タクミ「どうして?」

 

御者の男「みんな100ゴールドの褒美が欲しいから、ドムニの町の兵士に言うと横取りされちまう。

 ご領主様がおられるリラの街へ行って、そこの守備隊に言う方がいいだろう…」

ナオ「リラの街…」

 

 アイは血を拭いてもらい、回復魔法もしてもらってやっと立ち上がるが、まだ少しふらふらしていた。

 アイに代わってアカリがタクミに言う。

 

アカリ「じゃあ、タクミはそのダンの死体と大斧をストレージにしまって…」

タクミ「でも、こんな血塗れじゃ…」

ルカ「じゃあ、毛布を出してそれに(つつ)もう…」

 

 タクミとソラとルカは(おそ)(おそ)るダンの死体を毛布に(くる)み、タクミのストレージにしまう。

 大斧も同じように毛布に(つつ)んでタクミがしまった。

 

 アカリがアイの剣を(ひろ)うとタオルで剣についた血を(ぬぐ)う。

 アイはみんなに支えられながら馬車の方へ乗り込んだ。

 

農婦1「あんた、大丈夫だったかい?…」

 

 2人の農婦はアイが無事だったのを見て、やっと声をかけた。その手にはまだイモが握られている。

 アイは2人を見て、ふらふらしながらも頭を下げた。

 

アイ「ありがとうございました…お二人がそれを投げてくれなかったら、私たち、盗賊の言いなりになるしかなかったです…」

 

農婦2「こんなので間に合うかどうかわかんなかったけど…

 うまくアイツに当たってよかったよ…」

農婦1「ホント、こんなので何とかなるか、わかんなかったけど…

 あんたが無事でホントよかった…」

 

 2人が少し(なみだ)ぐむのを見て、アイたちは全員で彼女たちに頭を下げた。

 そこに御者の男が声を掛ける。

 

御者の男「さあ、すぐに出発しよう!このままじゃ、夕方に町にたどり着けないぜ…」

ツグミ「でも…あの人たちは…」

 

 ツグミはアカリたちにやられて向こうに倒れている盗賊たちを見る。

 

御者の男「オイオイ、アイツらはあんたらを殺すか犯すかするつもりだったんだぜ、それを、何を人のいいこと言ってんだ(笑)…

 

 アイツらはあそこに(ころ)がっときゃいいんだ。(うん)が良けりゃ仲間が戻ってくるだろうし、ダメならお陀仏(だぶつ)だ。

 

 盗賊なんてそんなもんだぜ…さあ、早く乗った乗った…」

ツグミ「はい…」

 

 ツグミはまだ(うめ)いている盗賊たちを気にしたが、ナオがその肩を(たた)いてみんなと一緒に馬車に乗り込んだ。

 すると馬車はすぐに出発した。

 

 馬たちがいなないて馬車が発車すると、すぐに倒れていた男たちの姿は見えなくなった。

 

 

 

 

 

 




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