【百合に挟まれるハーレム王】美少女百合カップルから疑似彼氏を頼まれたけど、どう考えても俺に欲情してる件 作:かくろう
一目惚れ、という言葉がある。私はそれを経験した。
私、【
上げ始めるとキリがないけど、その中の1つに実家があり得ないほどのお金持ちというのがある。
物心着く前からそこにいた私は、そこにあるものが『当たり前ではない』ことを、学生になるまで知らなかった。
中学校の時にできた友達から言われたことが、今でも私の心に強く残っている。
『みーちゃんって普通の子と違うよねえ~』
それはきっと、その子にとってはなんでもない言葉だったのだろう。
私はその時まで、自分が普通の人とは違うのだということを知らなかったのだ。
とは言っても、別にそのことを悲観はしていないし、悪く言われることもなかった。
だけど私には、『普通とはなんだろう?』という疑問が生まれるきっかけとなった。
◇◇◇◇◇
実は私にはもう一つ、普通の人とは違うことがある。
それは、『実家の敷地を出ると名字が変わる』というものだった。
とは言っても、屋敷の敷地内で名字を問われることはほぼ無いと言って良いから、これは実質あまり意味は無い。
どうしてそんなことが起こるのかを説明するのはちょっと難しい。
別に両親が不仲とかそんなことはない。さっきも見た通り、お父様とお母様は今でもラブラブだし、(見てて恥ずかしくなるくらい)とても仲が良い。
だけどお母様には普通ではない事情によって2つの名字があって、その影響で私も屋敷内と外では名字が違うのだ。
簡単に言うと、私の戸籍は日本国内にあって日本という国に属していない。でも外国人というわけでもない。
そういう、普通の感覚では説明し辛い事情がある。
その細かい事情を説明するのはいずれの機会に譲るとして、ともかく私は浮世離れした感覚を修正したくて家を出ることにした。
それが1年と少し前の話だ。
私の名字は『
これは外での名字だ。屋敷の中では違う名字が存在する。
だから私の名前は『
そんな私の話を、今は聞いて欲しい。
◇◇◇◇◇
それは今から数日前のこと……。
ピピピピピピピピピピピピピピピピ――
「んっ……んぅう~~、もう朝かぁ」
スマホが目覚ましのアラームを鳴らしている音で、私の朝は始まる。
ほんの少しだけ開いたホテルのカーテンの隙間から差し込む朝日が、私のまぶたに目覚めをもたらしてくれた。
スマホをタップして音を消し、ベッドから起き上がって背伸びをする。
飛び起きた私はすぐに洗顔を兼ねた朝のシャワーを浴びにいく。パジャマを脱いでベッドに放り投げ、全裸になって飛び込んだ浴室で蛇口のコックをひねった。
熱いシャワーがまどろみに浮き沈みしている意識を完全に覚醒まで導いてくれる。
家から持ってきたお気に入りのブランドで揃えたシャンプーやボディソープを使って髪の毛から身体の隅々まで洗っていく。
気合いを入れるためだ。今日と明日、私は仕事における佳境を迎えることになる。
ちなみに私は現在一人暮らしだ。家にある一切の購入物は全て自分の給料で買いそろえたものであり、独り立ちするに当たって、親の援助は一切受けていない。
アルバイト時代から独り立ちして実家を出ることを決意していた私は、友達と遊びに行くのも最低限に抑えてお金を貯めた。
そして高校を卒業すると同時に就職し、アルバイトからの社員登用制度を使い晴れて社会人となった。
そんな生活が始まったのが去年の丁度今ぐらいの時期のこと。あれから1年ほどが経つが、私は少しは成長しているだろうか。
「ふう……さてっ、今日も頑張ろッ」
シャワーを浴び終わり、朝食のバイキングのために食堂に向かう。
私は世間が春休みのあいだ、普段とは違う特別な店舗で勤務している期間の真っ最中で、今日はその最終日の前日だったのだ。
その期間中は出張先のホテルに寝泊まりしているので、いつもは自分で作っている朝食もホテルのバイキングで楽しむことができる。
しかし、それも1週間も続けば慣れるし飽きてくる。
毎日違うメニューが出されて飽きさせない工夫が為されているとはいえ、仕事で来ている以上そこを楽しんでいる余裕もあまり残っていなかった。
出張店舗で責任者を任されている私は社内での信用を得るためになんとしても売り上げでトップになる必要があった。
だから気合いを入れて臨んだものの、全国1位までにあと一歩届かないことにヤキモキしていた。
そのせいで焦りから凡ミスを連発してしまい、この日の目覚めは最悪に近かった。
それでも日々メンタルを培ってきた私にとって落ち込むことはない。
私が滅入っていたら、一生懸命頑張っているスタッフ達に申し訳が立たないからだ。
そして部屋のドアを開けた瞬間……、私は
そう、私の仕事は全国ナンバーワンのシェアを誇るメイドカフェ『キングキャッスル』の特別出張店舗でリーダーを任されている店長なのだ。
「おはよう”レオナ”ちゃん」
「おはようッ♪」
「おはようみんなっ!」
ドアを開けたところで丁度仲間のメンバーと鉢合わせする。のんびりしていられない朝の時間にいそいそと部屋から出てくる仲間達の反応は様々だ。
まだ眠そうなもの、既に元気なもの、慣れない土地での生活に疲れたもの。
「おはようございますっ、リーダーっ!」
「リーダーおはようっ! 今日も頼りにしてるよっ」
「おはようっ! 私こそ、今日もよろしくお願いします!」
朝食の席に着き、先に来ていたスタッフ達に挨拶する。
今日と明日の売り上げで全国のトップになれるかどうかが決まる。
この日の私は気合いが入ってはいたものの、焦りとプレッシャーで胃がキリキリしていた。
このプールリゾート特別出張店舗は、全国から選りすぐりのキャストを集めて1週間限定で運営される。
リゾート側もかなり気合いを入れてお金を出しており、ステージを作ったり専用のスペースを設けたりとほとんど新店扱いだった。
期間が終了した後は通常のカフェとして運用されるらしいが、今後は新しい店舗運営のスタイルとして屋内プール店舗も検討の候補に入っていくだろう。
つまりオープン記念の1週間は特別仕様に変わるというわけだ。
実はこのホテルリゾートとキングキャッスルは運営元が同じで、同じ会社を母体とするグループ会社同士の提携企業だった。
その会社の威信を賭けたビッグプロジェクト店舗のリーダーを任せられてから、私の胃はキリキリしっぱなしだった。
そしてこの日、あと2日で終わりを告げる特別店舗の売り上げを全国1位にするのが、私の掲げた目標だった。
この成功如何によって私の出世の査定が決まるといって過言ではない。
美味しい筈の朝食バイキングもほとんど味が分からず、それでもスタッフ達に心配を掛けまいと気丈に振る舞う。
だが……。
「なんでお客さんが来ないのよ……」
その日の売り上げは最悪だった。何やらプールの方で騒ぎがあり、その影響で店に入る客が激減しているのだ。
「いったいどうして……?」
「なんか、キラキラアリスとホワイトミルクがプライベートで来てるっぽいですよ」
「えっ!? キラアリが来てるのっ!?」
なんてことだろう。アイチューブやエンストグラムといったSNSで人気絶頂のキラキラアリスが来ているなんて。
私も動画は見ているし、SNSをフォローしているのでアリスちゃんとキララちゃんの大ファンだった。
年下らしいけどメイク技術やファッションのコーディネートセンスは一流の部類であり、憧れの対象でもある。
しかもホワイトミルクの二人まで。最近コラボしている事は知っていたけど、こんなところで会うなんて思わなかった。
「ホワミルまで来てるなんて……何の因果かしらまったく」
キラアリが来ているのは嬉しいけど、その影響で売り上げが激減しているのは頂けない。
なんとかしたいが彼女達も悪意があってのことではないだろうから文句を言うわけにはいかない。
この時の私はそう思っていた。だけど、捨てる神あれば拾う神あり。
なんとこの日の夜、そのキラキラアリスから動画でコラボしないかという提案があったのだ。
まさしく渡りに船。
私は二つ返事で了承した。
そして憧れの二人と初めて直接顔を合わせ、はしゃいでサインを求めたくなるのを必死で我慢しながら握手を交わした。
「初めまして。出張店舗のリーダーを任されております、レオナです」
「初めましてレオナさんっ! キラキラアリスのキララです」
「アリスでーすっ♪」
明るい笑顔で挨拶してくれる二人の手を握り、その温かさに心打たれる。
とても心地良いエネルギーが身体に流れ込み、私は思わず顔がほころんでしまった。
そして、もう一組のコラボコンビに目を向ける。
「ホワイトミルクの、若菜です……」
「紗理奈、デス……」
「よろしくお願いします!」
ホワイトミルクの二人。実はこの二人とは以前から知り合い……というか、結構深い関係だった。
私達はお互いに言いたいことを言うわけにはいかず、また事情も認識しているので、敢えて他人を装う。
「突然のコラボ提案を受け入れていただきありがとうございます♪」
「それから、意図してのことではないとはいえ、そちらの客足を遠のかせてしまったことをお詫びいたします」
「いえいえっ。皆さんのせいではありませんし、一時的なものですからどうか気にしないでください」
騒ぎが収まった後もキラアリはどこだっ、ホワミルはどこだとプール内は大騒ぎだった。
そのおかげで通常のプールリゾートとは違う客の流れによって店舗に足を運ぶ人が激減したのは事実だった。
だけどそれは彼女達のせいではない。
私は謝罪する彼女達に手を振り、改めて打ち合わせを行っていった。
そして次の日、私は運命の男性と出会うことになる……。
一目惚れ、という言葉がある。
私は今、まさにそれを体験しているところだった。
「初めまして、この店舗の責任者をしております、”2代目レオナ”です」
「2代目?」
レオナというのはメイドカフェ店舗での名前だ。
いわゆる源氏名。
そしてレオナというのは、キングキャッスルの歴史において伝説のメイドとして名を残している歴代一番人気のメイド。
私の母だ。
「あ、そういえば、キングキャッスルには伝説的なメイドさんがいたって聞いたことがあります」
「はいそうなんですっ! 初代レオナはキングキャッスルグループを更に発展させた立役者で、現在のグループ総帥を担っている偉大な御方です」
「へえ、凄いなぁ。そんな人の名前を継いだレオナさんも、凄い人なんですね」
目の前にいる樋口順平さん……。格好いいッ♡
見た目の話で言えば、筋骨隆々で高身長、そしてイケメン。
普通の女の子なら間違いなく放っておかないであろう外見の良さ。
実際にキャストの女の子からもかなり黄色い声が上がっている。勤務中なので大っぴらに騒いだりはしないが、SNSにアップする写真を撮るふりをして彼を写真に収めるキャスト何人か注意した。
モラルに欠ける行動をとって彼に悪印象を持たれるのはよくないと思い、自分も欲しいという思いを押し殺して止める。
だけど、それに気が付いた彼はSNSにアップしなければ撮っても気にしないと許可を与えてくれた。
彼の醸し出す内面の良さが私の心を打った。
私は嬉しさが顔に出すぎないように、できる限りいつも通りの笑顔で対応して見せた。
「いえいえ、私はまだまだ修行中の身です。凄すぎる母を持つと娘は苦労しますよ」
「え、初代のレオナさんの娘さんッ!?」
「じゃあ伝説のサラブレッド……ってことか」
幸いなことに、私には才能があった。
しかし、才能はあくまでも原石にすぎない。
幼い頃から母の仕事ぶりに憧れ、あらゆることをコピーし、あらゆるものを吸収し、晴れてアルバイトができるようになってから現場で経験を積んだ。
自然と英才教育が為されていた環境という意味では、まさしくサラブレッドという言い方は正しいと言える。
そんなことより、私は一目見て彼に心惹かれた。
私を見つめるその瞳が何を考えているのか手に取るように分かる。やはり思った通りだ。
きっと私達は縁がある。
「ちなみに母は女子大生の頃には私と同じくらいの体型だったそうです。今でも変わっていませんね」
彼が考えているだろうことを言い当ててみる。
きっとこう考えていることだろう。
(この人なんで俺の考えていることが分かったんだろうか)
それには私にしか分からない理由があるのだけれど、それを説明しても詮無きことなので無難に答えてみる。
「顔に書いてありますよ♪」
「それは、なんとも……」
顔を赤くして頬をポリポリする姿がなんとも可愛らしかった。凜々しい顔立ちで愛嬌のある仕草をされて思わず『ありがとう』と呟いていた。
彼の考え、感じていること、思っていること。それらが伝わって来て、私の心は幸せに満たされた。
そんな彼に見とれているところで、キラキラアリスとホワイトミルクの四人が特別なメイド服に着替えて戻ってきた。
彼女達のおかげでお店は朝から大盛況。キャスト達もその能力を遺憾なく発揮し、お店は満員御礼・長蛇の列。
まさしく嬉しい悲鳴を上げっぱなしだった。
◇◇◇◇◇
「みなさ~~~んっ! 売り上げの合計が出ましたッ! 全国、1位でーーーーーーーすっ!!」
ワァアアアアアアアアアッ!!!!!
キャスト達の歓喜に沸いた声が閉店後の店舗に響き渡った。
人気のインフルエンサーの2グループによる客引き効果に甘えることなく、全国から集まった猛者たるメイド達は各々のアイドル性を駆使してキャストとしての役割を全うしてくれた。
そのおかげでお客様に不満の声が出ることはほとんどなく、注文の料理が追いつかないほどであったが、歴戦のベテラン達による場つなぎもよかった。
加えて……。
「
「いえ、そんな。恐縮です」
「本当に凄かったよねぇ。おかげで助かっちゃったよ」
「本当だね。あんまり可愛いから思わず体験入店誘っちゃったけど、二人がいなかったら1位は無理だったかも」
私達はお店の中を手伝ってくれた
矢継ぎ早に入ってくる料理の注文を、ほんの数分見ただけのレシピで見事に作り上げ、しかも切れそうな材料を逐一把握して指示を出し、ホテル側に食材を取りに行かせる手際の良さは圧巻の一言だった。
人を使うことに慣れている感じがする大物感は、ベテランの厨房スタッフがその日のうちに完全に支配下に置かれているほどだった。
「特に凄かったのは
そう、
聞くところによるとアルバイトの経験は全くないという。にも関わらず、細かいところによく気が付く視野の広さと対応力。
更には自分にできる事とできないことをしっかりと理解し、手が空いている人に仕事をお願いしてお店全体の潤滑を大いに活性化させてくれた。
加えて彼女は
そのおかげで作業に全く無駄が生まれず、掃除の手際も良くて空いたお皿を下げるタイミングも完璧。
会計レジが込まないようにさり気なく席を立たせるタイミングを誘導して会計スタッフが混乱しないように計らってくれた。
その結果お客様の流れがほとんど停滞することなく、出る入るを繰り返すことで好循環が生まれ、行列の流れがスムーズでほとんどストレスを掛けることなく回転し、大きな売り上げに繋がった。
臨時なので写メサービスは受けられないから、緩やかに断って他のキャストに仕事を回す気遣いも見せてくれた。
二人がいてくれたおかげであり得ないほどお店は順調に回すことができた。
私が指示を出さなくても良かったくらいだ。
ベテランのキャストの子達ですら、
あれで人見知りというから驚きだ。
おかげで私がホールに釘付けになる必要もなく、お店全体のオペレーションとライブパフォーマンスに専念することができた。
しかもキラキラアリスの二人がホールに入ることで更にお客様は大盛況。時間制のテーブルに入り直して再び入店するお客様が続出した。
ホワイトミルクの2人も負けず劣らずの対応ぶりを見せてくれ、その結果全国1位どころか……。
「リーダーっ! 今本部から連絡があって、本日の売り上げ、キングキャッスル史上最高金額だそうですっ!!」
「えっ!! ほ、ホントにッ!!?」
店内のキャスト達が歓喜に沸いた。
「特別ボーナス支給、更には社長から表彰があるそうですっ!!」
感涙を流すキャスト達に感化されて私も涙腺が緩んできた。
「お願いします! たまにで良いんで本店の方でもコラボしてもらえないでしょうかっ!」
私の願いにキラキラアリスもホワイトミルクも快諾してくれた。
加えて私は
お客様アンケートをざっと見た限り、彼女達に関する事柄が一番多かったのだ。
ベテランのキャスト達の活躍を抑えて、新人ながら見事に顧客満足度ナンバーワンを勝ち取った
料理の腕前と手際の良さ。更にはケチャップによるお絵かきの上手さが一級品の
どちらも我が社に喉から手が出るほど欲しい人材だった。
私は2人に名刺を渡し、なんとか快い返事をもらえるようにお願いし倒した。
快諾はなかったものの、かなりの好感触を得ることができた。
だけど念には念を入れて、私は彼女達が抱くであろう不安材料を第三者の視点で解消してもらえるように手を回すことにした。
キラキラアリスの2人と
「どうか、しましたか?」
ぎこちない他人のフリで言葉が辿々しい2人の手を取って頼み込む。
声を抑え、興奮しすぎないように、なるべく小声で伝える。
「お願い、あの2人がキングキャッスルでバイトできるように、不安材料を取り除いてあげて」
「
若菜ちゃんは少しだけ逡巡したものの、隣にいる紗理奈ちゃんが肩を叩いたおかげで最後には了承してくれた。
「それから、その……。樋口さんのことだけど……」
「「えっ!?」」
2人は意外な反応を見せた。その反応は、私にある想いを抱かせる。
「もしかして……そうなの?」
「な、なんのこと?」
あ、そうか。2人はロシアにいる時間が長いから『あのこと』は知らないんだった。
「2人とも、樋口さんと付き合ってるの?」
「べ、べべべっ、別に付き合ってるとか、そんなんじゃないからっ!」
「紗理奈ちゃんは?」
「……(テレテレ)」
紗理奈ちゃんは無言でその意味を伝えてくる。
日本語が得意ではない彼女は言わんとしていることを言語化するのは苦手だけど、私にはなんとなく意味を掴むことができた。
若菜ちゃんは紗理奈ちゃんと少し事情が違うような予感がするけど、樋口さんに対して悪感情はもっていなさそうだ。
素直じゃないけど。
「パパにそっくりだもんね♡」
「は、はぁああっ!? に、似てないからっ! ぜんっぜんっ! 比べちゃパパに失礼だからっ!」
真っ赤になって否定するのが、もう肯定していることに気が付いていないみたいだ。
私は敢えてそれ以上なにも言わず、アルバイトのことだけお願いして2人に別れを告げる。
「また遊びにきてね」
「う、うん……ありがとう……『みー姉ちゃん』」
久しぶりに聞く姉と呼んでくれる若菜ちゃんの声に嬉しくなり、笑顔で手を振る。
そして樋口順平さんの元へ向かった私は、彼に名刺を渡す。
でも、彼に渡した名刺には少しだけ細工がしてある。樋口さんはそのことに何となく気が付いたのか、名刺を裏返したりして眺めていた。
今はまだ、その仕掛けは発動しないけど、いつか……。
近いうちに再会できる予感がして、私は彼らに別れを告げた。
彼らの住んでいる町に春からオープンする新店への異動辞令がキングキャッスル本社から届いたのは、その数日後のことだった。