※この作品はR-18です。

許嫁になったダウナーギャルが毎週ヤられにくる話   作:月見ハク

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第17話 【美玖視点】あの人の許嫁になった話

 テーブルの反対側で落ち着かない様子の真一さんが、確かめるように聞いてきた。

 

「あの、ほんとに君が佐原美玖さん?」

 

「……そうって、言いましたよね?」

 

「いや、まさか学生さんだとは思ってなくて」

 

「私のこと、知らなかったんすか」

 

「う、うん……話を聞いたのも昨日のことだし、情報も名前しか教えてもらってなくて」

 

「そうっすか」

 

 真一さんは、私のことを覚えていない。でもそれはそうだろうと思う。別にがっかりはしない。数年前に、一度助けてもらっただけだし。

 

 私の名前を知らなかったのなら、覚えていないのも当然。

 

 それにあのときは男の子みたいな格好だったし背だって小さかった。今は多分、ぜんぜん違う。私も少しは大人になったはずだから。

 

「あのさ、佐原さんはどういうふうに聞いてるの? その……俺とのこと」

 

「下の名前でいいっすよ」

 

「えっとじゃあ、美玖さん」

 

 下の名前を呼ばれ、また体の芯が熱くなる。

 

 私も、真一さんて呼んだほうがいい? でも馴れ馴れしいと思われたくはない。なんでか最初の「し」が出てこないし。お兄さんて感じでもないし。年もけっこう離れてるから——。

 

「……おじさん(・・・・)の、許嫁っすよね」

 

「あ、うん……君もそう聞いてたんだ」

 

「はい、母から聞いてます」

 

 真一さんは遠慮がちな口調なのに、しっかり目を合わせてくる人だった。目が合うと、体温が上がる。真一さんがちょっと体を動かすたび、ふんわりといい匂いがする。その発生源に誘われるみたいに、つい真一さんの胸元を見てしまう。

 

「それで、具体的にはなんて聞いてるの?」

 

 真一さんがおっかなびっくりといった感じで聞いてきた。

 

 すごく、戸惑っているように見える。そういえばさっき、真一さんは許嫁の話を聞いたのも昨日が初めてと言っていた。真一さんにとっては寝耳に水なんだ。

 

 清江さんからは、軽く話してみて私がもし嫌じゃなかったら、その後も定期的に食事でもしてあげてほしいと言われた。

 

 私は、嫌じゃない。

 

 でももし真一さんが嫌だったら。

 

 真一さんも、お母さんみたいに本家の風習に嫌気がさしていたら。

 

 もう、会えないかもしれない。ここで会えなくなったらきっともう二度と会えない。

 

 もういなくなってほしくない。大事な人と会えなくなるのは、もう——。

 

 どうしたら、引き止められる?

 

 足りない頭で考える。すぐに、答えが出た。

 

 そっか。二度と離れられないくらい、深い関係になればいい。

 

「子作りするって感じですかね」

 

「こっ……えぇ!?」

 

 真一さんが面白い声をあげて、目をパチクリとさせた。ちょっと驚いた猫っぽい。

 

「子作りって、言った?」

 

 聞き間違いかとでも言いたそうに、声をひそめて聞いてくる。

 

 思わず発した言葉だった。でも自分では、それをすんなりと受け入れていた。きっと許嫁の話を聞いたときから、真一さんのプロフィールを見た瞬間から——もしかしたらもっと前から、心にあった気がする。

 

 だけど真一さんには、納得できるような理由が必要だと思った。多分すごく真面目な人だから。

 

「うち、家計厳しんすけど」

 

「え」

 

「本家の跡取り……おじさんとの間に後継ぎができれば、家計のほうは解決するらしいんで」

 

 これは本当に清江さんから言われたことだから、嘘じゃない。

 

「えぇ……」

 

 真一さんが困り果てたような返事をする。でも、どこか腑に落ちたような表情を浮かべていた。

 

 優しい人だから、私の境遇に同情してくれたのかもしれない。胸がチクリと痛む。でもそれ以上に、この人と離れない口実になるならいいと思った。

 

「美玖さんは、それでいいの?」

 

 私は、それでいい。

 

「別に……家と家の問題ですし」

 

「あのさ、子作りって」

 

「おじさんとセックスして、私が孕むって感じっす」

 

「セッ、はらっ……!?」

 

 真一さんがまた変な声を出した。でも嫌がっている感じはしなくて、私は少し安心した。

 

 

 

 

「——うちっ、うちに来ない?」

 

 ここで話すようなことではないからと、私は真一さんの住んでいる家に行くことになった。

 

 ケフィディシャを出て、隣を並んで歩く。

 

 横目で見ると、真一さんは私よりまだ身長が高かった。でも昔みたいに見上げるほどじゃない。10センチ差くらいだと思う。

 

 ——都会っぽい大人の子が案外好みなのかもしれないわねぇ~。

 

 いつかの清江さんの言葉がよみがえる。

 

 真一さんから、今の私はどう見えてる?

 

 表情をうかがっていると、真一さんもチラチラとこっちを見ているのに気づいた。また心拍数が上がる。

 

「……なんか、見てます?」

 

 気になって、聞いてみる。

 

「い、いやっ、美玖さんて姿勢がすごくいいなと思って」

 

「あー、中学のときにバスケちょっとやってたんす」

 

 姿勢を、ほめてくれた。

 

 真一さんの背に追いつきたくて、伸ばすには背すじをピンとしていたほうがいいって聞いて、ずっとそうしてきた。だからそれを真一さんにほめられて、よかった。

 

 外は涼しいのに、やけに暑く感じる。

 

 カフェ近くの見慣れた道なのに、真一さんと歩いてるだけで知らない場所に来たような感じがする。

 

「……あのさ、家同士が決めたこととはいえ、ほんとにそれでいいの? その俺と……するって。ほら、お互いのこと全然知らない間柄なのに」

 

 真一さんが心配そうな声で、念押しするように聞いてきた。

 

「それさっきも聞いてましたよね。おじさんのことは……まあ知ってるし。私の履歴書は、届いてないっすか?」

 

「え、もらってない」

 

「まあ、もう家同士が決めちゃったことなんで」

 

「それさっきも言ってたけどさ、美玖さんの意思はどうなのかなっていうか、その……彼氏さんとか、いいのかなって」

 

 心臓が小さく跳ねる。私の気持ちを気遣ってくれている。やっぱり真一さんは優しい人だと思った。

 

 それに私に彼氏がいるか、とか——そういうの。

 

「そういうの気になるっすか?」

 

「いや普通に気になるでしょ」

 

「……そっすか」

 

 気に、なるんだ。

 

 生まれて初めて、表情が乏しくてよかったと思った。もしコハルみたいに感情がすぐ表に出る子だったら、きっと今、私はすごくまぬけな顔をしていたと思うから。

 

 

 少しすると、真一さんが手を上げてタクシーを止めた。

 

「ごめん暑かったよね」

 

「……どうもっす」

 

 当たり前のように先に乗るよう促され、ぎこちなくタクシーに乗り込む。

 

 ——美玖にはもっとこう、包容力というか余裕があって……そんな大人の男の人が合ってるとあたしは思うわけ!

 

 静かな車内で、コハルの言葉が脳内でこだまする。

 

 誰かとこんなふうにタクシーに乗るのも、乗せてもらったのも初めてだった。

 

 心臓の鼓動が響いて、真一さんにまで届いてしまう気がした。無性に恥ずかしくて、ついスマホを取り出し、習慣になっていた『迷子猫掲示板』を見つめる。

 

 狭い車内に、真一さんの匂いが充満してる。それがどんどん濃くなっていく。あの頃よりもドキドキするのに、あのときより何倍も落ち着く。眠くなるのに目が覚めるみたいな、お腹の奥がきゅっと疼くような……こんな感覚も生まれて初めてだった。

 

 見慣れた街の景色が、知らない速度で通り過ぎていく。

 

 まるで、あの日抱っこされたときみたいに。

 

 

 

 

 真一さんの家は、綺麗なマンションだった。

 

 タクシーを降りて、見上げる。

 

「……おじさんの部屋って、どこすか?」

 

「ああ、ほらあの五階の端っこだよ」

 

 あそこが、真一さんの住んでいる部屋。

 

 本家のお屋敷で、階段の上を見つめていたときのことを思い出す。あの頃は勇気が足りなくて、行きたくても行けなかった。

 

 私は、しばらくマンションを見上げていた。

 

 

「ど、どうぞ、上がって」

 

「……じゃあ、お邪魔します」

 

 緊張しながら玄関の中へ入ると、真一さんの匂いに包まれた。靴を脱いでリビングへ向かうと、匂いがもっと強くなる。

 

「おじさんの部屋、あっつ……」

 

 体が火照って、汗がどんどん噴き出てくる。自分の体が自分のものじゃないみたいに。

 

 ドキドキしながら部屋を見渡す。

 

 真一さんの家はさっぱりとしていた。家具もそんなに多くない。テーブルや棚の色合いもシックで居心地がよさそうに思えた。すごく、真一さんの部屋っぽい。

 

 ふと、真一さんが私の胸元を見つめているのに気づく。汗で、ブラがほんのり透けていた。

 

「おじさん、ちょっと視線きもいかも」

 

 男の人によくこういう視線を向けられる。でもこんなにじいっと見られたのは初めてだった。

 

(真一さん、私の胸、気になるんだ)

 

 今の私は子どもの頃とは違って、体も成長してて、真一さんは男の人だから。

 

 恥ずかしくて、くすぐったくて、見られているところがジンと痺れてくる。変な感覚。

 

「あ、いやごめんっ、つい」

 

「別にいいっすけど」

 

 ぜんぜん、嫌じゃない。真一さんにそういう目で見られることも、その先も。多分なにをされても。

 

 そんな予感が、体の奥からこみ上げてくる。

 

「えっと、じゃあ……ヤらせてくれるってことでいいのかな」

 

「……するつもりで連れてきたんすよね?」

 

 不安になって聞き返すと、真一さんが目を泳がせた。よかった。真一さんもそういうつもりなのだと、なんとなく伝わってくる。

 

「あ、と、とりあえずそこのソファーにどうぞ」

 

「どうも」

 

 ゆっくりとソファーに腰を下ろしてみる。ふかふかで、弾力があってすごく座り心地がいい。

 

 そう告げると真一さんが嬉しそうにソファーの説明を始める。それがなんだかおかしくて、私もちょっと嬉しくて、ソファーをぽんぽんと叩いた。

 

 ゴクリ、と真一さんが喉を鳴らすのが分かった。

 

 私の胸を凝視しながら近づいてくる。

 

 これから真一さんと、エッチする。

 

 血走った目で見つめられ、体の奥がジンとする。心臓がドキドキして、まるで金縛りにあったときみたいに動けない。

 

「ほ、ほんとにいいの……?」

 

 心配そうに聞かれて、ふっと笑いそうになった。緊張がほぐれる。真一さんはこんなときでも私を気遣ってくれる。急に見つめられるのが恥ずかしくなった。

 

「まあ、そーいうしきたりなんで」

 

 ごまかすように言ってからスマホに手を伸ばす。真一さんの視線が熱くて、目を合わせられない。

 

「あ、コンドームがない……」

 

 ポツリとつぶやいた声に今度こそ吹き出しそうになる。でも実際には私の表情に変化はない。そんな自分にほっとしながら、顔だけ真一さんのほうに向ける。

 

「……ゴム、いらなくないっすか」

 

 真一さんがまた、喉を鳴らした。

 

「する前に、む、麦茶でも飲む?」

 

「水、自分のあるんでいいっす」

 

「そ、そうなんだ」

 

 二言三言、言葉を交わす。

 

 少しだけじれったくなり、私は真一さんをじっと見上げた。

 

「……で、しないんすか?」

 

「す、するっ」

 

「ん、なら……ここで脱いでいい?」

 

「あ、どうぞっ」

 

 真一さんがちらりとソファーの後ろを見た。多分、そっちに寝室がある。

 

 でも寝室でエッチするほど、心の準備はできてない。それはもうちょっと後がいい。真一さんの匂いが染み込んだベッドに寝たら、そこで真一さんと体を重ねたら、どうにかなりそうだったから。

 

 もし真一さんがいいなら、ここで。

 

 腰を浮かせて、スカートの中に手を入れる。汗でぴたっと張り付いていたストッキングを下げると、肌に冷たい空気を感じた。

 

 真一さんの視線が太ももに移動したのが分かる。脱いでいるところをまじまじと見られるのは初めてで、少し恥ずかしい。なのに相手が真一さんだと、やっぱりぜんぜん嫌じゃない。恥ずかしいのに見てほしい。私はもう10歳じゃない。

 

 もう一度スカートの中に手を入れ、今度はパンツを下ろしていく。

 

「脱いだんで、どーぞ」

 

「う、うん、じゃあ俺も脱ぐね」

 

 真一さんが焦ったようにベルトを外して、下を脱いだ。真一さんのはすごく勃っていて、なんだか苦しそうに見えた。

 

 私で、こんなに興奮してる。

 

 そう思うとスカートの中でアソコがきゅっとなる。体がこんなふうになるのは初めてで戸惑う。

 

「えっと、美玖さんは脱がないの、上とか」

 

「いちいち脱いだり着たりするのメンドーなんで……このままでいいっすか?」

 

「あーうん、もちろん」

 

 今、真一さんと肌が触れ合ったら。いろんなところを(さわ)られたら。きっと私はおかしくなる。

 

 私の膝にトンと、真一さんの足が触れた。それだけで体の芯がぶるりと震える。

 

「スカートは、めくってもいい?」

 

「……どうぞ」

 

 真一さんが私のスカートを遠慮がちにめくる。

 

「足、開いてくれる?」

 

「ん……はい」

 

 言われて初めて、内股をぴったり閉じていたことに気づく。

 

 ゆっくり太ももを開く。真一さんの視線がそこに注がれたのが分かった。

 

「あのさっ、前戯とかしなくて平気? ほら、濡らさないと痛いっていうし」

 

「ん、多分平気っす。そのまま挿れてもらって」

 

「そ、そっか」

 

 一つ一つ確認してくれる言葉に、体が反応してしまう。催眠術を掛けられたみたいにふわふわする。初めて来る部屋で、初めて座るソファーでこれからセックスをする。なのにすごく安心してしまう。

 

 もう、信じられないくらい濡れていた。

 

 一緒にタクシーに乗ったときから、ずっと。

 

「じゃあ、挿れるよ、生で」

 

「どうぞ」

 

「腰、もうちょい前に出してもらっていい?」

 

「こうっすか?」

 

「うん、ちょうどいい」

 

 ソファーに背中を沈めて、腰を真一さんのほうへ差し出す。

 

 真一さんが、広げた太ももの間に立った。もう足を閉じられない。真一さんは腰を落とすと、大事なものに(さわ)るみたいに私の腰をつかんだ。

 

「んっ……」

 

 それだけなのに、声が漏れた。

 

 真一さんの鼻息が荒い。だから私の声には気づいていない。腰をぎゅっとつかまれ、硬いものがアソコに触れた。

 

「んッ……ぅっ」

 

 敏感なところに真一さんのものが密着する。アソコがきゅうっと吸い付くみたいな感覚が、こわい。うまく息が吸えない。吐く息に熱がこもって、体の中まで火照っているのを感じる。

 

「美玖さんの、濡れてる……?」

 

「……まあ、そうかも」

 

 どんどん、あふれてくる。体が真一さんのを入れてほしくて、何度もアソコがきゅっと締まる。

 

「もしかして、感じやすいの?」

 

「さあ、自分じゃ……あんまり」

 

 わからない。こんなふうになったことがないから。感じるっていうのがピンとこなかった。今、この瞬間まで。

 

「中まで、挿れるね」

 

「ん……どうぞ」

 

 ぐぐっと真一さんの熱いのが入ってくる。

 

「……ッ、ぁッ……」

 

 押し出されるように口から変な声が出る。出したことのない声。全身が痺れて、電気のビリビリが何往復もするみたいな感じ。ソファーに沈んでいる背中が勝手に反れる。

 

 初めて知る、本当の気持ちいいがこわい。でも、もっとほしい。

 

「お、奥まで挿れるよ」

 

「んっ……」

 

 いいよがもう言えない。さっきから出したことのない声しか出ない。まだ全部入ってなかった。繋がったところから真一さんの熱と震えが伝わってくる。真一さんのがお腹の奥を埋め尽くしていく。気持ちいいところが増える。

 

 繋がっているところでパンて音がして、真一さんの肌と股間がくっついた。体がゆさっと揺れて思わず目をつぶる。奥歯を少し噛みしめる。

 

 その瞬間、真一さんがぶるりと震えた。

 

「ぐぅっ、うぅぅ……うはぁッ」

 

 薄目を開けると、真一さんが汗だくになって苦しそうな顔をしてる。気持ちよさそうなのが伝わってくる。嬉しくて、中がきゅっと締まってしまう。

 

「んッ——」

 

 熱がじわっと広がるみたいに体の中が火照る。真一さんは動いていないのに、腹奥に埋まった真一さんのがジンジンと痺れを送ってくる。視界がぼんやりとして、背すじにそって快感が行ったり来たりする。

 

「……っ、私、スマホ見てて、いいっすか?」

 

「あ、ああ、どうぞ」

 

 熱に浮かされていく自分がこわくて、スマホを拾う。これで少しは平静に戻れる。そう思ったけど無理だった。ゾク、ゾクと体が震えて止まらない。初めての快感が終わらない。

 

「美玖さんの中、締まりやばいっ……」

 

「……そ、すか」

 

 どうしてだか、真一さんがそう言ってくれるのが嬉しい。たまらなく気持ちいいって言ってくれている気がして。

 

「動いて、いいよね」

 

「好きにどうぞ」

 

 そう言うのがやっと。動かれたらきっともう言葉を発せない。

 

 真一さんのが中で動いて、また動いた。パンて小さい音がして体が揺れる。

 

「んぁッ——」

 

 雷に打たれたみたいな悲鳴が出た。頭が痺れてぼうっとする。熱い。手からスマホが滑り落ちそうになる。ズンズンと出し入れが始まって、気持ちよくて何も考えられない。

 

 私の体が揺れるたび、真一さんが呻き声を上げていた。

 

「うぁっ、ぐっ、ふうッ……!」

 

「んッ……おじさん、声すご……」

 

「だって、気持ちよすぎて」

 

「……」

 

 ドクンと心臓が飛び跳ねる。言葉にしてくれたのが嬉しくて。真一さんが感じてくれているのが実感できて、心が側にある気がして安心する。

 

 顔が熱い。呼吸がしづらい。漏れる吐息に甘ったるい声が混じってしまう。

 

「あぁ、出るっ……出る!」

 

 真一さんが切羽詰まったような声を上げ、ズンと腰を押し出してきた。

 

「んッ……っ」

 

「ぐっ、うあ゛あぁぁっ……!」

 

 真一さんの大きな声に、私の切羽詰まった声がかき消される。お腹の奥で真一さんのがビクビクと跳ねた。ちょっとだけジンと痺れる感じで、中に出されてるのが分かった。

 

「ん、ぅッ——」

 

 顎が上向いて頭の後ろがソファーに沈む。きっと今すごく恥ずかしい顔してる。真一さんは、どんな顔してる?

 

 なんとか薄目を開けてみる。だけど真一さんはキツそうに目を閉じていた。その顔が、あのときの必死な顔と同じで、それ以上で、すごくドキドキする。

 

「やばっ、止まんない、くぅっ……!」

 

 真一さんがもっと腰を押し付けてきて、熱いものに奥を貫かれる。快感がじんわり広がる。欠けていたものが満たされていく感じ。ずっとほしかったものをくれたのが真一さんでよかったと思った。

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 真一さんの体から力が抜けると、どさりと倒れ込んできた。

 

「ぁっ、ちょ……おじさん」

 

 ぎゅっと抱き締められて呼吸が止まる。心臓も止まりそう。多分すごく嬉しい。でもそれ以上に知らない自分が出てきそうでこわい。

 

「おじさん、制服……シワになっちゃうんですけど」

 

「うおっ、ごめん!」

 

 体を浮かせたおじさんの顎と、私のほっぺたがこすれ合う。チクチクしてくすぐったい。でも気持ちいい。剃っていると思ったけど、よく見れば剃り残しがある。なんでだかじっと見てしまう。

 

 真一さんはすんすんと私のうなじを嗅いでいるみたいだった。私がさっきからそうしているみたいに。でもされるのは、少し恥ずかしい。

 

「……鼻息、くすぐったいっす」

 

「ご、ごめんっ」

 

 起き上がった真一さんと、近い距離で見つめ合いそうになる。

 

 私は咄嗟に目線を下げた。荒い呼吸で揺れている真一さんの胸元。そこから真一さんの匂いが漂ってくる。懐かしくてドキドキして、落ち着く匂い。

 

 突然真一さんが顔を近づけてきた。キスをする流れ。キス——。

 

 咄嗟に真一さんの顎を持ち上げると、すごく申し訳なさそうな顔をされた。

 

「ごめん、勝手にしようとして」

 

今キスしたら、きっと止められなくなる。私も知らない私を見られて、真一さんに嫌われたくない。

 

「……ひげ」

 

「え、髭?」

 

「剃り残し……チクチクするんで、キスはちょっと」

 

「う……」

 

「……そろそろ、いいっすか?」

 

「ああごめん、抜くねっ。気持ちよすぎて抜きどころ見失っちゃってさ」

 

 また真一さんはそういうことを言ってくれる。本心なのが私でも分かる。それが嬉しい。私もちゃんと、伝えられたら。

 

「別に、私もちょっとやばかったし……」

 

「え、なに?」

 

「……なんでもないっす」

 

「そっか、うぅっ……!」

 

 真一さんのが引き抜かれる感覚で、私はまた目をつぶってしまった。

 

 

 

 

 下半身を拭いて、パンツとストッキングを穿く。心臓の鼓動がおさまらない。

 

 ずっと来たかった真一さんの部屋。もっと居たいのに、早く離れたかった。今は外の空気を吸って、冷たいお茶を飲みたい。ケフィディシャのアイスティーとか。

 

「……じゃ、しきたりこなしたんで」

 

「あ、もう帰るんだ」

 

「はい、このあと用事あるんで」

 

「え、彼氏?」

 

「いえ、友だちっす」

 

「そうなんだ……あ、その前に麦茶飲んでく? 水筒の中身、ぬるくなっちゃってるでしょ」

 

「……わかるの?」

 

「あーなんとなく、そんな気がして」

 

 そんな気がするんだ。

 

「……じゃあ、まあ……もらいます」

 

 そう言うと真一さんがそそくさとキッチンに向かい、冷えた麦茶を持ってきてくれた。

 

 一口飲むと喉がすっとして、心まで落ち着いていくような気がした。

 

「喉、かわいてました」

 

「うん、そんな顔してたよ」

 

「わかるんですか?」

 

「なんとなくね」

 

 喉が渇いて冷たいものが飲みたいって、真一さんはわかるんだ。私が何を考えてるのかなんて、誰にも伝わらないと思ってた。そんなこと誰も、本当は興味ないって。

 

「もしかして、表情乏しいってよく言われたりする?」

 

「……反応薄いって、言われることはあるっす」

 

 すると真一さんは意外そうな顔をした。私は真一さんに、どう見えているんだろう。

 

 真一さんならなんでも……私の知らない私も、受け入れてくれる気がする。多分、初めて会ったときからそんな気がしてた。

 

「麦茶、どうも」

 

「ああうん、あっ、タクシー呼ぼうか? それくらい俺出すよ」

 

「いや、いいっす。歩いて行ける距離なんで」

 

「そ、そっか」

 

 私は、真一さんにとっては初めて会う相手。なのにエッチして、これ以上居座って甘えたりしたら、困らせてしまうかもしれない。

 

 私は人との距離感に(うと)いから。

 

 うっとうしいって思われて、また会えないことになったら。

 

 スタスタと玄関に向かい、ローファーを履く。

 

 ドアノブに手をかけてから、おそるおそる振り向いてみる。

 

 さよならしたくない。離れるときは、やっぱりすごく寂しい。

 

「じゃあ、来週の金曜日」

 

 勇気を出して言ってみる。次もまた会える? 真一さんはシステム関係の仕事をしていて忙しい。そう履歴書に書いてあった。毎週会うなんて図々しいかも。

 

でも——。

 

「え、金曜にまた来てくれるの?」

 

 真一さんは嬉しそうな顔をしてくれた。

 

「はい……またこの家でいいっすか」

 

 よかった。私またここに来ていいんだ。

 

「も、もちろんっ、ていうか毎週来てくれる感じ?」

 

「毎週会うってことになってるんで」

 

「そうなんだ……」

 

 真一さんが安心したように胸を撫で下ろす。それがすごく嬉しい。

 

「じゃ」

 

 ぎこちない別れの挨拶をして、私は真一さんの部屋を出た。

 

 

 エントランスから外に出て、マンションの壁に寄りかかる。

 

 ため息が出る。つい、お腹の下あたりを押さえてしまう。さっきまで真一さんの熱が、あったあたり。

 

 気を紛らわせたくてスマホを取り出し、コハルにメッセを送る。

 

『コハル、元気?』

 

『どしたん、話きこか?』

 

 すぐに返信が来てほっとする。

 

『べつにたいした話はないよ』

 

『てか美玖今日大事な用事があるんじゃなかった?』

 

『もう終わっちゃった』

 

『おーなら茶しばこか? ヒマヒマやねん』

 

『うん、じゃーケフィディシャで——』

 

 そこまで打って、削除する。

 

 今はまともにコハルと話せそうにない。

 

 急いでメッセを打ち直す。

 

『ごめん、家帰らないと』

 

『おや残念。またこんど話聞かせろい』

 

『うん、ありがと』

 

 コハルのおかげで動悸も落ち着いてきた。

 

 スマホの地図アプリを起動させて、家までの帰り道を表示する。もう何十回と確認したルート。多分地図を見なくても帰れる。

 

 

「あら、早いのね」

 

 アパートに帰ると、起き抜けのお母さんがいた。

 

「ただいま。これから夜勤だよね」

 

「うん、あ、あとで荷物届くからよろしくね。それとどうだった、真一さんは?」

 

「……優しい人だったよ」

 

「そう、よかったわね」

 

 お母さんはニコリとしてから、夜勤に行く準備をし始めた。

 

「ミャー」

 

 足下にいた子猫がすりすりと寄ってくる。私が帰るといつもこうして出迎えてくれる。

 

「ちょっと待っててね」

 

 ありがと、と心でつぶやきながら子猫を撫で回し、浴室へ向かう。

 

 火照った体にシャワーをあて、汗を流していく。でもぜんぜん熱が冷めない。はぁ、と真一さんとしているときみたいな息が漏れる。

 

 結局お風呂から出たのは、お母さんが夜勤に行ってだいぶ経ってからだった。

 

 

 

 

 二回目に真一さんと会ったときは、雨の匂いがやばかった。

 

 あの初めて会ったときのことを思い出して、一回目に来たときよりも体が疼いて、おかしくなりそうだった。

 

 エントランスのインターホン前で、なかなか部屋番号を押せなくて、通りかかった管理人さんぽい人に変な目で見られた。

 

 部屋の前でもドキドキして、チャイムを押すのに時間が掛かった。

 

「や、やあ、いらっしゃい!」

 

「……ども」

 

 だけど真一さんはすぐにドアを開けて、温かく迎えてくれた。いつもより表情が固まっている私を見ても、真一さんはすごくウキウキした感じだった。

 

 真一さんが服を脱がしたいと言ってきて、私がうなずくとすごく喜んだ。体のいろんなところを褒めてくれて、エッチのあとは気持ちよかったと言ってくれた。

 

 私も、最初にしたときよりも信じられないくらい気持ちよくて。

 

 三回目に会ったときは、もっと気持ちよくて、前よりたくさんイった……と思う。

 

 この日はシャワーも一緒に浴びることになって、体が濡れて、気持ちいいところを何度も気持ちよくされて、お風呂の中でも、何度もセックスをした。

 

 私のありのままも、私の知らない恥ずかしいところも、真一さんなら受け入れてくれる気がして。

 

「今日おじさんち、泊まってくから」

 

「ほんと!?」

 

「……喜びすぎでしょ」

 

 真一さんが心から喜んでいるのがわかって、嬉しくて——。

 

「ていうかさ、美玖さんってほんと猫好きなんだね」

 

「……おじさんもでしょ?」

 

「あ、ああうん、もちろんっ」

 

「……だよね」

 

 嬉しくて、もうだめだった。

 

 お風呂から上がって、私から真一さんにキスをした。

 

 真一さんといると、どんどん気持ちいいが更新されていく。真一さんは体力があって、私のことをすごく求めてくれて、恥ずかしいことも素直に言葉にしてくれて、嬉しいことを言ってくれるから。

 

 私も、もっと真一さんとしたくて、我慢ができなくなる。

 

 

「——猫、拾った?」

 

 その夜、真一さんに子猫のことを知られた。

 

 すぐにいろんな飼い主の探し方を教えてくれて、実際に探してくれた。すごく、頼りになる人だと思った。それも昔会ったときから知ってた。なんとなく真一さんなら、助けてくれるような気がしていた。

 

 

 そしてすぐに、真一さんは飼い主を見つけてくれた。あっさりと。

 

「——うちからそんなに遠くない。私……届けてくる」

 

「ならタクシーで行こうか。一応、ペット可のタクシー会社は探してあるし」

 

「うん、そうする」

 

「ならさっそく美玖さんの家に行こう」

 

「いえ、おじさんは帰ってもらっていいっす」

 

「え、いやいや俺も行くよ。一人だと大変でしょいろいろ」

 

「おじさん、多分だけど仕事あるっすよね?」

 

「うっ……」

 

「……じゃあせめて、タクシー代は出すよ。行ったり来たりでけっこうお金掛かるだろうし」

 

「それも、いいです。私もバイトで少しは稼いでるんで」

 

「いやでも」

 

「大丈夫です。……これは、私の仕事なんで」

 

 せっかくここまで手伝ってくれたのに、勝手な話だと思う。でも、頼りきりにはなりたくない。大人の子として、隣にいられるようになりたい。

 

 私は、真一さんの許嫁だから。

 

「分かった。でもなんかあったらすぐに連絡して、すぐにすっ飛んで行くから!」

 

「……うん……了解っす」

 

 すぐに真一さんは、私のわがままを微笑んで受け入れてくれた。困ったらすぐに来ると言ってくれた。それが嬉しくて、気持ちがあふれそうになる。

 

 真一さんの胸元に顔を寄せてすんすんと匂いを嗅ぐ。私の好きな、匂い。

 

「じゃあ、私の家、あっちなんで」

 

「う、うん、じゃあ」

 

「また……金曜日」

 

「ああ、金曜日に」

 

 別れ際、手を二回グーパーしてみる。ちゃんと心で念じながら。

 

 好き。バイバイ。

 

 

 

 

 ——ふわふわした心地で目を閉じていると、真一さんが近づいてくるのがわかった。

 

「ほんとに、不思議な子だな」

 

「……私、不思議なんすか……?」

 

 そんなふうに、見られてたんだ。不思議ってどういう意味なんだろう。

 

「起きてたんだ」

 

「今、起きたっす……おじさんの匂い、近づいてきたんで」

 

「そ、そっか」

 

 嬉しそうにはにかむ顔を見ていると、なんだか甘えたくなる。

 

「……お腹すいた」

 

 口から本音がこぼれてしまう。でも、甘えても真一さんは離れていかない。

 

 いつか恩返しができたらと思う。真一さんの望むこと、もっとしてあげたい。

 

「そうだ、パスタ食べる? 今温めるよ!」

 

「シャワー浴びてからでいいっす」

 

「う、うん、じゃあ、いってらっしゃい」

 

 できれば、一緒に入りたい。もっと一緒にいてほしい。でも真一さんはパスタの準備をすると言っていた。

 

 タオルケットを巻いてベッドから降りる。

 

「あ、ローション滑って危ないよ」

 

 滑る前に、真一さんが手を握ってくれた。だから私も握り返す。

 

 気持ちの全部を知られるのは、伝えるのはやっぱりこわい。伝えるのも下手だから。でも真一さんには知られてほしいし伝わってほしい。

 

 ドアのところで、勇気を出して振り返ってみる。

 

「おじさんも浴びれば? ……ローションまみれなんだし」

 

「え、一緒!? いいの?」

 

 真一さんが飛び上がりそうなくらい喜んだ。オーバーなリアクションで、つい笑ってしまいそうになる。真一さんはいつも楽しい。

 

「まあ、別に……いいっすけど」

 

 こみ上げてくる感情をごまかすみたいに、目を逸らしてしまった。

 




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