許嫁になったダウナーギャルが毎週ヤられにくる話 作:月見ハク
お会計をしようとすると、美玖が当然のように財布を出してきたので手で制す。
さすがにおごると言うと、彼女は少し申し訳なさそうに「どうもっす」と目を伏せた。
たかだか数百円をおごるだけでギャルに感謝される日が来るなんて、つい数十分前の俺は想像もしていなかった。
家に向かいながら、横を歩く美玖をちらりと見る。
(おっぱい……でか)
カフェで会ったときからうっすら気づいて見ないようにしていたが、隣を歩くとはっきり分かってしまう。胸元の大きな膨らみが紺色ブレザーを押し出していて、ずいぶんと窮屈そうだ。
(これ多分、FとかGとかそういうレベルだよな)
おまけに手足も長くて腰の位置なんて俺より高い。小顔なのも相まってモデル顔負けのプロポーションだ。
(ああそっか、姿勢がすごくいいんだ)
ダウナーな雰囲気に反して、というと失礼かもしれないが、美玖はカフェで座っているときから背すじがピンと伸びている。それが彼女スタイルの良さを強調していた。
(露出の少ない制服を着てこれなんだもんな……)
ついその下の体を想像してしまいそうになり、ふっと息を吐いて思考を止める。
だがその不審な動作で美玖がこっちを向いてしまった。
「……なんか、見てます?」
「い、いやっ、美玖さんて姿勢がすごくいいなと思って」
「あー、中学のときにバスケちょっとやってたんす」
バスケをやると姿勢が良くなるのかは知らないが、なんとなく納得できる。思わずユニフォームを着てフリースローをする美玖を想像してしまった。
「今はもうやってないの?」
「バイト忙しいんで」
そういえば彼女はさっきバイトをしていると言っていた。おそらく高校に入って始めたのだろう。苦しい家計を支えるために、部活を辞めてまで。
「……あのさ、家同士が決めたこととはいえ、ほんとにそれでいいの? その俺と……するって。ほら、お互いのこと全然知らない間柄なのに」
「それさっきも聞いてましたよね。おじさんのことは……まあ知ってるし。私の履歴書は、届いてないっすか?」
「え、もらってない」
十中八九、実家の叔母が送るのを忘れているのだろう。
だが美玖の話しぶりからするに、彼女のほうには俺のプロフィール情報なんかが送られているようだ。カフェでも美玖のほうから声を掛けてきたわけだし。
「まあ、もう家同士が決めちゃったことなんで」
「それさっきも言ってたけどさ、美玖さんの意思はどうなのかなっていうか、その……彼氏さんとか、いいのかなって」
「そういうの気になるっすか?」
「いや普通に気になるでしょ」
「……そっすか」
彼氏の有無を聞けるものだと思っていたが、美玖は適当な相槌を打ったきり前を向いてしまった。彼女の中で普通にこの話は終わりらしい。
諦めて歩みを進めていると、隣から美玖の吐息が聞こえてきた。早歩きをしているときのような息づかいだ。
それもそのはず。
4月も半ばの今日は最高気温が23度。普通にぽかぽか陽気なのに、彼女は長袖ブレザーにストッキングという暑そうな格好だ。
白くて細い首筋に汗がにじんでいるのが見え、ドキリとする。
またも見惚れてしまいそうになった俺は、ごまかすように車道のほうへ近づいた。運よく通りかかったタクシーを止める。
「ごめん暑かったよね」
開いた後部ドアへ促すと、美玖は少し眉を下げて「どうもっす」と乗り込んだ。
タクシー内でも彼女は無言だった。
窓の外を見るでもなくスマホに視線を落としている。
指でスライドするだけで文字を打ち込んでいる様子はない。友だちとやり取りをしているのではなく何かのサイトか掲示板的なものを見ているのだろう。
そのことにちょっと安堵する。
(指もほっそいなー)
ギャルっぽい見た目に反して爪もすごく綺麗だ。
バスケをしていた名残りなのか短く切り揃えられていて、色も塗られていない。健康的なピンク色だ。
すごく艶めいているから、そういうふうには塗っているのかもしれない。だけどギャルはもっと爪をカラフルに塗るものだと思っていた。
(……ていうかやばい、すごくいい匂いする)
タクシーに乗り込んだ瞬間から、美玖の体臭なのか汗なのか甘い香りがする。
香水も混じっているのかもしれないが、鼻腔をつきぬけて脳がとろけてしまうようないい匂いが、狭い車内に充満しているのだ。
(可愛い子って、匂いまで特別なのかよ……)
ドキドキするような、それでいて懐かしいような、とにかくずっと嗅いでいたいと思ってしまう。
許嫁という間柄を意識しているせいか、否応なく股間に熱が集まってくる。
さっきから変な汗が止まらない。
いやまて……確か相手の匂いが気になるときって、自分が強い匂いを発しているときだってネットに書いてあった気がする。
「冷房、強くしてもらう? タクシーの中も暑いでしょ」
「……大丈夫っす」
「でもほら、美玖さんも汗かいてるみたいだし」
「平気っす。……私、汗そんなにかかない体質なんで」
確かにこの気温でこの格好をしているわりに汗は控えめかもしれない。顔も赤くないし、一見すると涼しそうな横顔だ。
だが頬や首筋には汗がにじんでいる。
「ていうかごめん、俺もけっこう汗かいちゃって、くさいよね」
ははは、と自虐をこめて笑ってみる。
若い女の子にとって三十過ぎの男の汗臭なんて拷問に違いない。裏で臭いなこいつと思われるくらいだったら、自己申告しておいたほうが気も楽だ。
「別に、気にならないっす」
「あ、そう……」
気を利かせたわけではなく素直にそう思っている感じだった。それが無性に嬉しい。
(やばい……硬くなってきた)
美玖の匂いを嗅いでいるとなぜか、下半身がどんどん膨らんでしまう。
(なんだこれ、なんでこんなに興奮してるんだよ俺)
一回り以上も年下の子に欲情しまくっているおっさん。
我ながら気持ち悪い絵面と思いつつ、体が勝手に昂ってしまう。こんなことは初めてだ。
(俺……本当にこの子とセックスできるのか? もしかしたら、このあと家でそういう展開になっちゃったりして……)
ごくりと生唾を飲み込んでいると、あっという間にタクシーがマンションの前に着いた。
※次話は明日掲載予定。現在ノクターンノベルズにて先行公開中です。