最強スーパーヒロインの正体が、クラスのクールで真面目な委員長で、夜な夜なチン媚び腰振りダンスをしている爆乳淫乱牝ペットなのを知っているのは俺だけ。 作:ユリイカ
雑然としたアパートの一室に監禁されていた凛は、拘束を解かれた後も憔悴しきっていた。彼女はファントムバットの傀儡怪人を殲滅したあの日、直後に首元へ何かを刺され、そのまま昏倒してしまったという。気が付けば何処とも分からぬ室内で拘束されていた。
「ごめんなさい、繋君……っ! 私がしっかりしていなかったから……」
「過ぎたことは気にするな。それに、凛が無事ならそれでいい」
「繋君!」
項垂れて謝罪する凛に、繋は力強く答える。その姿に凛も目を潤ませて感激するのだが、繋はあっという間に夢島のバイクに跨ってしまった。
「それよりも、今はシェルターに戻るぞ。緊急事態だ」
「えっ? あ、はい……」
素っ気ない繋の態度が、凛を落胆させる。しかし、シェルターが襲撃されているのも事実であった。彼女はこれまで拘束されていた分を取り戻すため、張り切って変身しようとする。
「凛は咲と一緒に向かえ。たぶん、バイクより速いだろ」
「分かりました! ……え、咲?」
そこで初めて、凛は見慣れないヤンキー少女の存在に気がついた。不貞腐れたような顔で立っている、星船高校の制服姿。リボンの色から同じ二年生であることはすぐに分かり、そして――。
「えっ!? 吠崎さん!? あ、えっと、これは――って首輪が!?」
「今更気付いたのかよ。委員長」
咲の首元に嵌った首輪。それが示すのは、繋との契約である。驚愕する凛に咲はどこか得意げな顔をする。
「つなっ、にぎわ――ちょ、どういうことですか!?」
委員長としての凛とミラクルキャットとしての凛が混線するほど慌てながら、彼女は自身の飼い主へと詰め寄る。時間がない中、繋は簡潔に答えた。
「咲とも契約した。コードネームは"ワイルドウルフ"だ」
「はあ!? え、えええええっ!?」
詳しい説明を求める凛を置いて、繋は夢島と共に出発する。轟音と共に離れていくバイクを唖然として見送った後、凛は咲を睨みつけた。
「そんな顔するなよ。アンタを見つけたのはあたしなんだぞ」
「〜〜〜っ! その点は感謝します。でも、繋君は私のご主人様ですからね!」
「はいはい。ったく、まさか委員長がこんなキャラだったとはなぁ」
「今はミラクルキャットと呼んでください! ああもう、変身!」
なかば自棄になりながら、凛は変身する。身包みを剥がされ、下着姿で緊縛されていたあられもない姿から、露出の多いヒーローコスチュームへと。どちらにせよ淫度は高めだが、これにより認識阻害の効果が発揮される。
今の彼女を見た者で、正体が清楚英才の九瀬凛であると勘付く者はいない。
「本当にミラクルキャットじゃん……」
「だからそう言ってるでしょ! あなたは――コスチュームは持ってないのね。じゃあ、人目を避けて走るわよ!」
「はいよ。先輩」
不敵に口元を緩めるワイルドウルフ。その挑発的な目に眉間を寄せながら、ミラクルキャットは走り出した。常人を遥かに凌駕する脚力で地面を蹴り、弾丸のような勢いで。
ワイルドウルフもまた、制服姿でその後を追いかける。涼しい顔で追随してくる彼女を見て、ミラクルキャットは確信を深めた。いつも教室の隅で退屈そうにしていた不良少女。彼女もまた、自分と同じスーパーヒロインになったのだと。
「ミラクルキャット、ワイルドウルフ。道は我々警備部で押さえています。最短距離で向かってください!」
「了解!」
警備部の高羽たちの声を受け、ミラクルキャットはルートを決める。ここからシェルターまでの最短距離。つまるところ、直線上に突っ切っていく。
ハンドラー繋と契約を交わしたのだ。この程度で根を上げてもらっては困る。そう思って振り返れば、ワイルドウルフも涼しい顔で並走していた。この身体能力だけでも、彼女がミラクルキャットに匹敵する獣血の保有者であることは明確だった。
「〜〜〜っ! ふんっ、繋君は私の方が好きですからね!」
「何を張り合ってんだよ」
建物の屋上から屋上へ。時に大通りを飛び越え、空を跳ぶ。警備部員たちが出動し、交通規制や妨害電波の発信によって衆目を遠ざけたことで、白昼にも拘らず閑散とした街中を走り抜けてゆく。
繋と夢島のバイクも途中で追い抜いて、二人はシェルターへ一目散に急行する。
「あんなところにシェルターがあるのか?」
「ヴィランの襲撃を避けるために偽装されてるの。それが意味をなくしちゃったみたいだけど」
シェルターの所在地を知らないワイルドウルフも、すぐに目的の方角を察することができた。黒々とした煙が街中から立ち上っているのだ。その割に緊急車両のサイレンの音などは聞こえない。野次馬さえもいない。
異様な光景が広がっていた。
「ミラクルキャット現着!」
『ミローネと合流して、指示を仰げ。中にファントムバットがいる可能性が高い』
「ファントムバット!」
CCPとの情報交換もしている繋から指示が下る。宿敵の名を聞いたミラクルキャットは憤慨し、その拳をきつく握りしめた。
自分を昏倒させ、下着姿で緊縛して汚部屋に監禁した下衆なヴィランである。一発殴らなければ気が済まない。
黒煙の袂に駆けつけた彼女は、そこで待ち構える金髪の西洋美女を見つけて声をあげる。
「ミローネ!」
「ミラクルキャット、ようやく復帰したわね」
待っていたわよ、と両腕を広げるシェルター支部長。ミラクルキャットは感極まって、その中へ飛び込もうとする。だがその時だった。
「待て!」
「ぐえっ!? 何するのよ!」
背後からのびた手がミラクルキャットの首根を掴む。勢い余って妙な声を出した猫が憤るも、ワイルドウルフは警戒心を露わにしながらミローネを見る。
「……コイツ誰だ?」
「誰って、シェルター星船支部長のミローネよ。あなたは初対面なんでしょ?」
緊張を保つワイルドウルフに、ミラクルキャットは怪訝な顔をする。だが彼女の声にワイルドウルフはより目つきを鋭くした。
「確かにアタシは初対面だ。けどさ、プンプン匂うんだ。――オナりまくって風呂も入ってない喪女のキツい匂いがさ」
「……何を言ってるのかしら?」
堂々と断言するワイルドウルフ。ミローネは微笑みを絶やさず、首を傾げる。彼女の周囲を守る警備部員たちも困惑の表情だ。
先刻、ハンドラーと契約を果たしたばかりの新入りが、初対面の支部長に向かって何を馬鹿げたことを言っているのか。そんな苛立ちまじりの視線も集まる。
そんななか、ミラクルキャットは目を細め、神妙な顔つきでミローネを見る。
「ごめんなさい、ミローネ。――20.235」
「……?」
彼女の口走った数字に、ミローネは首を傾げる。その瞬間、ミラクルキャットを含め、シェルター構成員の全員が臨戦態勢となった。警備部員らの銃口が、支部長に向けられる。
「この数字に反応しないシェルターの人間はいないわ。観念しなさい、ファントムバット」
冷徹に告げる声。
ミローネは悲しげな顔をして、直後、その相貌が溶けた粘土のように崩れた。