最強スーパーヒロインの正体が、クラスのクールで真面目な委員長で、夜な夜なチン媚び腰振りダンスをしている爆乳淫乱牝ペットなのを知っているのは俺だけ。 作:ユリイカ
ミローネの身体が流れ落ちる。蝋人形が溶けるかのように。警備部員たちが次々と銃の引き金を引き、凄まじい銃声が立て続けに響く。だが、撃ち込まれた弾丸は全て溶け落ちる泥に阻まれ、敵に有効打さえ与えない。
「うふっ、あはっ。あははっ! もう、こんなに早く見つかるなんて」
溶けた泥を拭い取りながら、ミローネだったものは甲高い声で笑う。変装の下から現れたのはブルーグレーのツインテールの少女だ。ミローネどころか、凛や咲よりも更に若い。スレンダーな体つきながら、毅然として胸を張っている。
「お前が、ファントムバットね」
拳を構えて腰を落とすミラクルキャット。これまで何度も辛酸を舐めさせられ、さらには拘束され監禁された。これまでの借りは必ず返すと瞳に炎を燃やしている。
「そうよ。初めまして、でいいのかな?」
そんな敵意を剥き出しにするミラクルキャットを前にして、ファントムバットは動じない。余裕の微笑さえ湛えて、煽るように前傾する。
「ねえ、ミラクルキャット。20.235って何の数字なの?」
「シェルターの人間なら誰でも知ってる数字よ。特にミローネなんて、絶対に反応するわ」
「へえ?」
思い当たるものがなく、ファントムバットは首を傾げる。その時、エンジン音を轟かせてマスタードイエローのバイクが飛び込んできた。その後部座席に跨るのは、ガタイの良い青年。
ミラクルキャットは彼をちらと一瞥し、一瞬だけ物欲しげな顔をした後、再び目付きを鋭くした。
「特別に教えてあげるわ。20.235っていうのはね――」
ミラクルキャットの拳が煌めく。鋭利な爪を伸ばした猫パンチがヴィランへ迫る。
「私のご主人様のアソコのサイズよ!」
「り、ミラクルキャット!? 何を言ってるんだ!」
容赦のない殴打がコンクリートを叩き割る。だが、ヴィランは軽やかにそれを避け、ミラクルキャットの背後で笑う。
「なーるほど! 確かにアレはそれくらいだったかな?」
「っ! お、お前ええ!」
ファントムバットは凛に成り変わって楽しんだハンドラーとの情事を思い返す。あの立派な逸物は確かにそれほどのサイズであった。もちろん、コンマ三桁までの精度で覚えているはずもなかったが。
納得するファントムバットとは逆に、ミラクルキャットは愕然とする。自分の飼い主が他の女のみならず、自分に成り代わっていた女とも身体を重ねていたという事実に激昂していた。
躊躇する気持ちも掻き消え、彼女は次々と猛攻を繰り出す。だが、ファントムバットはひらひらと軽やかにそれを避けていく。濃い獣血による身体能力強化により動体視力も飛躍的に補強され、エースの連撃さえ緩慢なものに映っていた。
「ふふふっ! 私ひとりだけ狙ってていいのかな?」
「ギギャギャャッ!」
「イヒャーーーッ!」
「くぅっ! この、卑怯者!」
ミラクルキャットの拳を紙一重で避けながら、ファントムバットの指先が触れた瓦礫が溶ける。それは急激に形を変え、大柄な怪人となって動き出した。これこそがファントムバットの獣血の真価である。
自我を持って生まれた傀儡怪人は濁った声をあげながらミラクルキャットへ迫る。その膂力はスーパーヒロインにとっても無視できるものではない。だが、距離を離していくファントムバットに歯噛みしたその時。
「せりゃあああっ!」
「ギギャーーーー!?」
突如、横から繰り出された足が傀儡怪人を粉砕する。勇ましい声と共に飛び込んできたのは金髪に犬の耳を生やした少女であった。
「ちょっ、あんたも逃げなさいよ!」
てっきり警備部員と共に退避したものだと思っていたミラクルキャットが仮面の下で目を剥く。だが、激しい動きでボロボロになった制服を意にも介さず、ワイルドウルフは指をポキポキと鳴らしながら怪人を睨む。
「数で推されてるんだろ? アタシも手伝ってやる」
「そんな、獣血に覚醒したばかりの奴が――」
ミラクルキャットが言い終わる前に、猛犬が走り出す。彼女の足がしなり、轟音と共に怪人を粉砕する。増強された筋肉が、驚くほどの破壊力を発揮していた。
「鼻だけが良くなってるわけじゃねぇんだ。さっさと蝙蝠野郎を追いかけろ!」
「〜〜っ! 分かったわよ!」
敵は走り去りながら次々と怪人を生み出している。ワイルドウルフはそれを派手な動きで引きつけながら叫んだ。ミラクルキャットの逡巡も一瞬である。
ブルーグレーのツインテールを追いかけて走り出したミラクルキャットの背中を見送り、ワイルドウルフは獰猛に笑う。彼女は今、全身に漲る力に喜んでいた。生まれてから今までずっと感じていた倦怠感が吹き飛び、爽快ですらあった。
「試運転の相手にはもってこいだなぁ!」
拳が容易く粉砕する。
脚が軽やかに圧壊させる。
溜め込まれた日頃の鬱憤の全てを、押さえ込んでいた欲望の限りを、今この瞬間に発散する。次々と迫り来る怪人を、鎧袖一触に吹き飛ばす。圧倒的なまでに、快進撃であった。
あの男によってこじ開けられ、解放された野生が暴れ回る。
「待ちなさい!」
「ちぇっ、足の速いことで」
ミラクルキャットもまた、手練である。いくら雑兵による妨害があったとはいえ、これまでずっと引きこもっていた敵に追いつけぬはずもない。
町中を駆け抜け、瞬く間にファントムバットを逃げ場のない袋小路へと誘導する。だが――。
「追い詰めたわよ、ファントムバット!」
「ま、待て!」
角を曲がり、袋小路へと飛び込みながら拳を振り上げたミラクルキャットに、焦る男の声が飛び込む。慌てて拳を止める彼女の前に現れたのは、
「俺だ。あっちを狙え!」
「いや、あっちがファントムバットだ!」
二人並ぶ偉丈夫。彼女の愛する主人。
驚いて見てみれば、バイクが転がり、すぐそばに夢島が倒れている。獣血の能力が偏っている彼女では、ファントムバットにさえ敵わないようだった。
ミラクルキャットは迷う。どちらが本物か。
ハンドラーは鍛えているとはいえ人間だ。獣血保有者の膂力で殴ればただでは済まない。だが逡巡しているこの時間が、命運を分ける。
思考は加速するが巡り続ける。突破口は見つからない。
二人の男は寸分違わず同じ顔で、互いに相手を指差している。どちらも同じだ。ミローネの時のように問答をしている余裕もない。
「――凛、俺ごと殴れ!」
苦悶する彼女の耳が、はっきりとした力強い言葉を捉えた。仮面の下、目が開かれる。決意の炎がそこに宿る。
「受けなさい。――ネイルパンチ!」
「な、ぁ――!?」
繰り出された鋭利な拳。打撃に留まらない強烈な攻撃。ミラクルキャットのメインウェポンとも言える強烈な一撃が、迫る。
男は驚愕する。口を大きく開き、身を屈めようとする。だが、遅すぎた。そして、批難する謂れもない。その男自身が、自分を殴れと言ったのだから。
「せりゃああああああっ!」
「ぐ、はぁあああっ!?」
躊躇いなく繰り出された拳が男の顔面にめり込む。完璧に決まったストレートで、大柄な体を吹き飛ばされる。驚愕と恐怖の入り混じる表情に亀裂が走り、砕け散った。
なぜ、と仮面の下から現れた少女が目で問う。
「繋君はそんな自己犠牲は取らないんですよ!」
「……それはまあ、そうなんだが」
放物線を描いて吹き飛ぶ少女を見送りながら、ミラクルキャットは荒々しく鼻を鳴らす。無事に彼女の拳に選ばれずに済んだ繋本人は、そんな彼女の言葉に微妙な表情をするのだった。