最強スーパーヒロインの正体が、クラスのクールで真面目な委員長で、夜な夜なチン媚び腰振りダンスをしている爆乳淫乱牝ペットなのを知っているのは俺だけ。 作:ユリイカ
「おはよう、いいんちょー」
「おはようございます。田中さん」
彼とリード契約を交わす
一応部屋こそ別とはいえ、同じマンションから通っていることを隠すため、時間をずらして登校してきた凛は、先ほどまでの醜態を微塵も感じさせない楚々とした笑顔でクラスメイトに挨拶している。繋はそんな彼女を一瞥した後、無関係であることを強調するように手元の文庫本に視線を戻した。
「おはようございます、把輪くん」
「んおっ、お、おおう」
だというのに、向こうから来るのだから始末に負えない。眼鏡の奥でニコニコと目を細める委員長は、完全無欠の優等生だ。とても、さっきまでトイレに駆け込み大急ぎで股間をウェットシートで拭い、消臭剤を振り撒いていたとは思えない。
飼い主としての業務に契約者の監視も含まれているため不本意ながら高校に潜入している繋だが、表立って凛と親しくしているわけではない。むしろ、教室内では寡黙な一般男子生徒に徹しているのだ。
だというのに……。
「んふっ♡」
物言いたげに瞳の奥でハートをチラつかせる凛。周囲に関係を疑われない程度の一瞬で、さらりと机から離れていく。クラスメイトの輪に入っていく彼女を、繋は呆れた目で見送った。
清廉潔白で才色兼備の優等生であるというイメージを崩してはいけないし、ましてや獣血保有者であるという事実、謎のヒーロー“ミラクルキャット”の正体であるという秘密を露見させてもいけない。
そのあたり、危機感を持っているのだろうかと疑いたくなる。
「げっ」
クラスメイトと談笑しながら、そっとスカートの裾を捲る凛。パールのような尻肉が覗き、繋は目を剥く。ムチムチとした太ももは、今朝の情事の残滓を少し残していた。
思わず腰を浮かせた彼に、凛は艶然とした笑みを送る。からかわれたことに気付いた青年は、モヤモヤとした気持ちのまま再び座り直した。
「よっ、繋。今日も相変わらず陰鬱だな」
「好きでそんな顔してるわけじゃない」
目立たないことに努めている繋だが、人並み程度の付き合いもある。完全に孤立するよりはそちらの方が注目を引きにくいという打算もあるが、大柄な体格が案外男子受けがよく、向こうから声をかけてくるという理由もあった。
前の席の野球部の青年は通学鞄を置き、後ろ向きに椅子に座って繋に話しかけてくる。
「委員長と何か話してたよな? 愛の告白か?」
「そんなんじゃない。挨拶されただけだ」
「そうかそうか。ま、そうだろうな!」
言わずもがな、委員長としての九瀬凛はクラスの人気者である。女子からは多少羨む視線も向けられるが、男子からはもっぱら高嶺の花として敬愛されている。成績優秀、眉目秀麗、そのうえ誰にでも分け隔てなく優しく笑顔を振り撒く女神のような存在として、崇敬されていると言ってもいい。
サッカー部のエースが告白したとか、どこぞの御曹司が縁談を持ちかけたとか、そんな噂もあるが、彼女はそれらをことごとく跳ね除けている。そういった鉄壁の姿勢からも、今では不可侵の紳士協定が男子たちの間で結ばれる雰囲気が醸成されていた。
「それよりも、昨日もまたミラクルキャットが出てたよな! ニュースでも結構近めで映っててラッキーだったぜ」
「んんっ。そうだな」
話が変わったようであまり変わっていない。繋は咳き込みながらも頷き返す。
九瀬凛が身近に見られる高嶺の花ならば、ミラクルキャットは見ることも難しい幻の花だ。ここ、星船市を中心に活動している謎のヒーローで、素顔は隠されているものの、そのセクシーな衣装や華麗な戦いぶりから、ファンを自称する者は多い。
ヒーローが出動するのは避難が完了してからが基本ということもあり、怪人の襲撃に遭遇しない限り一般人が実際に見ることはない。唯一の供給源がニュースというのが普通である。
「あんなデカ乳だったら、すぐに正体も割れそうなもんだけどな。噂じゃあAV女優がやってるって話もあるし」
「変身したら胸もデカくなるんだろ」
鼻の下を伸ばし、女子には聞かせられないようなことを恥じることなく口にする級友に、繋は辟易としながら答える。
ビーストブラッドがその能力を発動するには、変身という過程を挟まなければならない。――というのが一般の見解だ。
実際のところはそうでもないのだが、そういう建前にしておくことで市民の安心を確保し、ヒーローの素顔が露呈することを防いでいる。
ミラクルキャットも人気ヒーローのひとりである以上、その“中の人”の噂はさまざまなものがまことしやかに囁かれているが、今のところ繋が危機感を覚えるような事態にはなっていない。そもそも、“変身”によって彼女は薄い認識阻害の効果を纏うため、人は無意識的にミラクルキャットと九瀬凛の繋がりを排除してしまうのだ。
「正体といえば、ファントムバットは本人の姿も分からないんだよな。可愛い子だったら嬉しいんだけどなぁ」
ミラクルキャットの因縁の敵であり、星船市で場当たり的な破壊活動を行うヴィランがファントムバットである。その名前とおびただしい被害だけは知られているが、その素顔を見たものはいない。幻影の名の通り、本人は姿を現すことがなく、配下である傀儡の怪人が出てくるからだ。
ビーストブラッド保有者が女性しか存在しないこともあり、彼女の正体というのもたびたび話題の俎上にあがる。いったいどんな美女が怪人たちを従えているのか。繋も知りたくないかと言えば嘘になる。目の前の男子生徒のような性欲由来ではなく、公務員としての職業意識からだが。
「二人とも、何の話をしてるんですか?」
「げぇっ!? い、委員長。いや、なんでもないよ!」
健全な一般男子高校生らしい会話に花を咲かせていたその時、二人のテーブルにぬっとブラウスに包まれた巨乳が迫り出す。無邪気な笑みを携えて現れたのは、ある意味で話題の渦中にある人物である。
「ファントムバットの正体は何だろうなって話だよ」
「ふーん。へー。そうですか。――ま、きっと日がな一日怯えて暮らしてる臆病者ですよ」
「おい」
「うふふっ♡ なんでもありません♪」
繋にだけ聞こえるような音量で冷たい言葉を吐き出す凛。怪人に手を煩わせられながらも本人を捕まえることができないだけに、彼女も鬱憤が溜まっているようだった。
「おい、なあ、なんか仲良くないか? 二人ってそういう関係?」
だが、そこへ疑念の声が突き刺さる。朝の一件もあり二人とも気が緩んでいた。親密に見えるような行動を許してしまったことで繋はさっと血の気が引く。
「うふふっ♡ そう見えますか?」
「えっ、いやー全然! デカいだけでクソ雑魚陰キャの繋と委員長じゃ釣り合わないって!」
「おい」
たじろぐ繋に対して、むしろ堂々とする凛により、男子生徒も笑い飛ばす。なかなかの評価を頂いたわけだが、これも日頃の行いかと繋は無理やり納得する。
「把輪くーん、ちょっといいですかぁ〜?」
その時、教室のドアから間延びした声がする。廊下から顔を覗かせているのは巻きぐせの強い髪とほんわりとした雰囲気が特徴的な睡眠導入ASMR系英語教師こと夢島唯だ。
彼女の呼び声に、これ幸いと繋は席を立つ。
「ちっ」
「委員長……?」
彼の去り際、乾いた音が聞こえたような気がして、男子生徒が怪訝な顔をする。まるで舌打ちのようだったが、まさか委員長が――。
「なんですか? 田崎くん」
「あ、いや、なんでもないよ。あはは」
まさかまさか、そんなわけがないだろう。虫も殺せないような清らかさに定評のある彼女が舌打ちなど。そんなことよりも名前を覚えられていたことに喜びを覚えつつ、田崎は更なる会話を続けようとする。だが、彼が口を開くよりも早く、凛はスタスタと去っていってしまうのだった。