最強スーパーヒロインの正体が、クラスのクールで真面目な委員長で、夜な夜なチン媚び腰振りダンスをしている爆乳淫乱牝ペットなのを知っているのは俺だけ。 作:ユリイカ
ヒーローの出動は、ヴィランの活動による。当然、ヴィランが現れなければ出番はない。ヒーローとしての活動がなければ、凛もビーストブラッドの副作用で発情することはなく、結果として繋も安穏の日々を送ることができるのだ。
「で、あるからして――」
高校の授業というのも、一度卒業した身としてはなかなか興味深い。自分が現役だった頃とは細部が違うこともあり、繋は割合真面目にノートも取っていた。ちらりと凛の方を見てみれば、彼女も背中に定規でも入れているのかと思うほどの良い姿勢で授業に集中している。
ヴィラン、ファントムバットの活動が活発化しているとはいえ、それでも一週間に三回以上出動することはごく稀だ。
「で、あるからして――」
とはいえ、繋はあくまで“シェルター”所属の国家公務員。学業こそ本業の高校生ではない。教科書を立てて、単調な教師の声を聞き流しながら、内職という名の本業に励むこともある。
うつらうつらと船を漕ぐ田崎の頭を視界の端に収めつつ、腕時計型の端末を操作する。そこに表示されているのは、“シェルター”本部から送られてきたヴィランの調査報告書だ。
ヴィランが被害を出す前に捕縛できるのが一番の理想である。そのため、“シェルター”には捜査に適したビーストブラッドを持つホルダーも多数所属しているのだ。しかし――、
「塩っぱいなぁ」
報告書に長々と希釈されて書かれていることを纏めれば、一言。進捗なしという内容である。ヴィランもまた“中の人”の素性が割れることには細心の注意を払っており、ファントムバットのようにそもそも表舞台に出てこないのは珍しいにせよ、認識阻害効果のあるコスチュームによって姿を隠すことがほとんどだ。結局のところ、最も有効なのはヒーローが直々にバトルして制圧し、そのまま取り押さえるという荒っぽい手段に帰結する。
そもそも、より実直な問題点として
戦力の増強は“シェルター”の悲願ではあるものの、なかなかそれも難しいのだ。
「はぁ……」
ため息をお供に、繋は腕時計の隣に巻かれている革のブレスレットを撫でる。凛の首にあるチョーカーとお揃いの、契約の証だ。これがある限り、繋はリード契約に基づいて凛の性的渇望を満たさなければならない。
国家公務員でありながら、有給休暇など夢のまた夢。思わぬブラック職場に入ってしまったものだと悔恨しても、もう遅いのである。
そんなふうに世を儚んでいるうちに授業は終わる。その後のホームルームもつつがなく進行し、部活所属者はそれぞれの部室へ、帰宅部は帰宅の途へ就く。繋は革のブレスレットを軽く摘み、鞄に教科書をしまいこんでいる凛の方を見る。
「んんっ」
「凛、どうかした?」
「いえ、なんでもないです。ちょっと喉が引っかかっちゃって」
離れた場所にいる凛が喉を抑えて咳き込む。不思議そうにする友人に笑って誤魔化しながら、彼女はそっと繋に目を配った。
リード契約の証であるチョーカーとブレスレットは、何やら不思議な力で繋がっている。この後の予定を忘れるなという意味で、繋が軽く彼女の首輪を引っ張ったのだ。
†
「もう、ひどいですよ。あんな突然」
「そろそろ慣れろよ……」
放課後。二人の関係を邪推されないように時間をずらして下校し、学校近くのコンビニエンスストアで落ち合った繋たち。後からやって来た繋に対し、凛は頬を膨らませて開口一番に文句を言い放った。
「でも、みんなの前でご主人様に理解らせられるかと思ったら、ちょっと濡れちゃいます♡」
「しょーもないこと言うな。関係ばれたらダメだろう」
「むぅ」
まだ外にいるというのにモジモジとする凛。委員長の仮面を脱ぎ捨てた彼女に微塵も興味を向けず、繋はスタスタと歩き出す。いつも通りの反応だけに、凛も不満げながらも長くは続けずついて行く。
側から見ればクラスメイトに隠れて付き合う甘酸っぱい恋人たちのようだが、二人が向かう先は到底それに似つかわしくない。平日のまだ明るいうちから雑然とした怪しげな雰囲気を醸し出す通り。パチンコ店の切れかけたネオンのの下に俯く老人。繋たちのような制服姿の男女が歩けば、一発で補導されるようなエリアである。
「こんなところ、クラスメイトに見つかったら大変ですね♡」
「その前にソイツは生活指導行きだよ」
だからこそ、進学校寄りで生徒の治安もよい星船高校の学生は滅多に近付かない。二人の姿を隠すにはちょうど良い立地とも言えた。凛はニコニコと、通行人が思わず目を剥くような笑顔を浮かべながら、足取り軽く繋の隣を歩く。
「ヤー、お兄サンたち! ベストカップルネー! 二人でチョト見てってヨー!」
そんな二人に場違いなほど明るい声がかけられる。その主は丸いサングラスを掛け赤いアロハシャツを羽織った小太りの中年男性だ。弛んだ顎に無精髭、ジャラジャラと金のチェーンが繋がった趣味の悪い扇子を振っている。
あまりにもあんまりな風貌で、ともすれば一発通報もあり得る怪しげな雰囲気を放つ男に対して、繋たちの反応は冷ややかなものだ。
「いつから土産物屋になったんだ」
「昨日からネ。もう生活アップアップヨ。人助けオモテ買ってってヨー」
「うるせぇ。いいからさっさとドア開けろ」
エセ商売人をしていた男は、繋が乗ってこないと悟ると露骨に肩を落として背後のドアに手を伸ばす。
「ったく、ちょっとは付き合えよな。門番も退屈なんだ」
「アンタも一応公務員だろうが」
「えへへ、繋くん♡ 私たち、ベストカップルらしいですよ」
「凛も都合のいいとこだけ切り取ってるんじゃない」
サビの浮いたボロボロのドアが軋みながら開く。すぐに地下へと続く階段があり、底は暗く見通せない。
「じゃ、お務めガンバてネー」
「うるせぇ」
ニヤニヤと笑う男に見送られ、二人は階段を降りていく。やがて新たな扉が現れ、繋が腕時計をかざすと内部のロックが開錠された。その向こうに広がっていたのは、いかにも秘密を抱えていそうな薄暗いバーである。
「あら、いらっしゃい」
「こんにちは、ミローネさん」
スマートにベストを着こなすバーメイドは、西洋の血を引くブロンドの髪の美しい女性だった。艶やかな唇が弧を描き、場違いな学生二人を歓迎する。
ここは“シェルター”の星船市支部が擁する拠点。そして彼女こそがその支部長、ミローネだった。
「何か飲む? お酒はダメだけど」
「ウォッカマティーニを。ステアではなくシェイクで」
「サイダーね」
ミローネがカウンター下の冷蔵庫からペットボトルを取り出している間に、繋はスツールに腰掛けて今日上がってきたばかりの報告書の所感を伝える。
「ファントムバットの居場所は結局わからないってか」
「そう責めてあげないで。調査班も頑張ってるの」
「尻尾の先でも掴んでくれれば頭撫でで可愛がってやるさ」
謎のヴィラン、ファントムバット。その姿を見たものはおらず、居場所は杳として知れない。“シェルター”の調査班も血眼になって探しているが、その成果は芳しくない。彼女が見つからなければ、また被害が発生する。そうなれば、負担は回り回って繋に降りかかる。
「繋クンが多頭飼いしてくれたら助かるんだけど」
「やめてくれ。凛だけで手一杯なんだ」
「ふぅーん? 残念ね」
支部長も疲れが見える繋にそれ以上は食い下がらない。そもそも、ホルダー一人を抱えるだけでも飼い主には心身ともに大きな負担が強いられる。それで繋が退職や休職でもすれば、星船市は窮地に立たされる。
ミローネは軽やかに話題を変え、カウンターに数枚の写真を並べる。
「調査班からもう一つ報告が上がってるわ。ホルダーの候補者よ」
「まだ出るのか……」
そこに収められているのは明らかに隠し撮りといった様子の、若い少女たちの姿だ。ビーストブラッドは若い少女を中心に、突然発現する。その確率は全人類の5%程度と言われ、星船市でも数人がその候補者として上がっていた。
ビーストブラッドホルダーとなった少女は、早急に保護しなければならない。“シェルター”の管理下に置かなければ、彼女たちは高い確率でヴィランとなってしまうからだ。
「飼い主候補も探してくれよ」
「獣血より希少な存在なんだから、そうそう居ないわよ。星船市だと貴方だけだし、国を見渡しても十人もいない。アダルトグッズを研究する方がよっぽど建設的だと思わない?」
「思わないよ、変態め」
ベストがはち切れんばかりの巨乳に整った美貌。誰もが羨むような美女と言って差し支えないミローネだが、その実態は趣味がディルドコレクションという痴女である。だからこそ、“シェルター”の支部長になれたという側面も否定できないが。
彼女の言葉もあながち的外れというわけではなく、ビーストブラッドの発情に付き合えるほどの飼い主はそういない。凛と繋が契約しているのは、彼女がヴィラン多発地域である星船市でエースを張っているからだ。
他のビーストブラッドたちは、基本的に“シェルター”から支給される抑制剤を服用するか、自慰行為などで衝動を抑えている。
国家安全のため、新たな性豪が現れないかと繋は強く願うのだった。