最強スーパーヒロインの正体が、クラスのクールで真面目な委員長で、夜な夜なチン媚び腰振りダンスをしている爆乳淫乱牝ペットなのを知っているのは俺だけ。 作:ユリイカ
ヴィランによる事件が起きなければ、繋も凛も平穏な日々を送ることができる。星船高校二年A組の一員として、眠気に抗いながら午後の授業を受けるのも、そんな日常の一場面だ。
「で、あるからして――」
数年前にも聞いた歴史の授業を聞き流しつつ、繋は欠伸を噛み殺す。今日は一日平穏無事に終わりそうだ。報告書に書くこともさほど多くはないだろう。ちらりと凛の方を見てみれば、すっきりと背筋を伸ばし、真面目に傾聴しながらノートを取る姿が見える。
久瀬凛という少女の本来が、あんなふうな真面目な優等生であることは間違いがない。
「先生、年号を間違えていませんか?」
「む? おお、本当だ。うっかりしていたな。久瀬はよく気付くから助かるよ」
授業を聞くだけでは止まらず、時には教師の間違いさえも指摘する。それを偉そうに誇ることもなく肩を小さくする彼女に、教室内からは尊敬の視線が集まった。もちろん、教師からの信頼も厚い。間違いを指摘された高齢の教師も、孫を可愛がるような細い目をして笑っていた。
午後の陽気もあいまって、和やかな空気に包まれる教室。それを、繋は一歩引いたところから眺めていた。
「こうしてみると、みんな若いなぁ」
到底学生が溢すようなことではない。しかし、一度高校を卒業している繋にとっては、それが率直な感想だった。うつらうつらと船を漕いでいる男子生徒や、隣の友達と視線を交わして笑っている女子生徒など、誰も彼もが顔立ちにあどけなさを残している。
よくもまあ自分が紛れて違和感を持たれていないものだ、と改めて感嘆する。自分が童顔なのかと少し疑ってしまう気持ちもあった。
「――わ。おい、把輪。聞いてるのか?」
「へあっ!?」
ちょうど油断してぼんやりと意識を飛ばしていたさなか、名前を呼ばれた繋ははっと我に返る。気が付けば、老教師が訝しむような目をこちらに向けていた。立ち上がり、高速で思考を回す。どうやら、自分が当てられたらしいことは周囲の状況で理解した。
「えっと……」
「生類憐みの令を発布したのは誰だ?」
おそらく二度目の問いが投げかけられる。授業に全く集中していなかった繋はポカンと口を開いたまま硬直する。確かに習った記憶はあるが、誰だったか。徳川家の誰かであることは確かなのだが。
無意識に視線を巡らせていると、ふいに黒曜石のような瞳と重なった。凛だ。彼女は繋の方を見て、口を動かしている。
「と、徳川……綱吉?」
「――正解だ。ちゃんと聞いとれ」
「はい……」
読唇術は、シェルター職員研修で一通り習った。それがまさか学校生活で役立つとは思わなかったが。繋はほうと息を吐きながら着席する。そして、救いの手を差し伸べてくれた凛に軽く礼をする。彼女は繋よりも前の席に座っているため表情もほとんど見えないが、横顔が嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「繋、さっきちょっとヤバかったよな?」
「ド忘れしただけだ。ちゃんと正解しただろ」
授業後、繋の前の席に座っていた坊主頭の野球部員、田崎がニヤニヤと笑いながら振り返った。繋が一蹴するも、彼はうんうんと頷きながら笑みを崩さない。
「委員長に助けてもらわなかったら終わってただろ」
「そんなわけはない」
「お前も強情だなぁ」
実際は凛のおかげであることに間違いはないのだが、繋はなぜかそれを認めたくなかった。
田崎は頑なな繋に呆れつつ、凛の素晴らしさを説き始める。
「この前もグラウンドを通りがかった時にわざわざ手を振ってくれたんだよなぁ」
「それくらい誰でもするんじゃないか?」
「お前は分かってない!」
突然鼻息を荒くする友人に繋も思わず顎を引く。
「野球部なんて丸坊主で日焼けして汗だくで、女子が近づく要素は皆無なんだよ。マネージャーですら酷いんだぞ」
「そういうもんか」
「まだサッカー部の方が爽やかな印象があるしなぁ。……そういえば、さっきサッカー部の杉池が委員長に話しかけてたらしいぞ」
話題はころころと変わり、田崎は声をひそめる。特ダネでも掴んだかのような調子に、繋は首を傾げる。優等生で知られる凛は、男女問わず人気が高い。誰に話しかけられようとも不思議ではないはずだ。
あまり要領を得ない繋の様子に、田崎は心底呆れた顔で言う。
「サッカー部の杉池と言ったら、先週彼女と別れたばかりだろ」
「そうなのか?」
「お前は色恋に疎いよなぁ」
高校生くらいの年齢では、何組の誰と誰が付き合っただとか別れただとか、そんな話は日常茶飯事だ。繋も意識して収集せずとも、噂好きな田崎がこうしてわざわざ披露してくれる。
繋本人からしてみれば、若者たちの微笑ましい青春を見ているようなものなのだが。
「杉池が委員長に告るんじゃないかって噂なんだよ」
「なるほどね」
結論まで聞いて、ようやく繋も理解する。サッカー部の杉池は、一年の頃からレギュラー入りして活躍し、本人の爽やかでスポーティな印象も相まって女子生徒からの人気も高い。今までは彼女がいたらしいが、最近破局。しかもその直後に我らが委員長こと凛に声をかけたということで、クラス中がその話題で持ちきりなのだ。
「やっぱ杉池もおっぱいでかい子が好きなんだよなぁ」
「お前みたいに短絡的な考えじゃないかもしれないぞ?」
「いや、委員長見て最初に思うのは誰だってそこだろ」
あの爆乳だぞ! と田崎は熱弁する。少し離れた席に座り友人と談笑する凛は、たしかに周囲とは一線を画する果実を胸に隠しきれていない。
「というか、り――委員長が告白を受けるのって、これが初めてってわけでもないだろ?」
容姿端麗、才色兼備。そんな言葉が服を着ているような少女が久瀬凛である。当然のことながら、一世一代の告白を受けた経験は枚挙にいとまがない。それこそ、田崎自身がそういった噂を拾ってきては、繋に教えていた。
だが、田崎は「今回こそ事情が違う」と力説する。
「杉池はこれまでの凡百とは違うだろ。もしかしたら今度こそ委員長も受けるんじゃないかって話だ」
「はぁ……」
繋の気の抜けた相槌に、田崎は憤慨する。
杉池はたしかに容姿の優れた青年だ。スポーツマンシップもあり、友人も多い。そんな、まごうことなきイケメンに迫られたら、これまで鉄壁を崩さなかった凛ももしや、という話である。とはいえ、と繋は思考を巡らせる。
今はしとやかに口元を隠して笑っている彼女も、今朝は繋の男根をしゃぶっていた。皆の視線を集める爆乳の柔らかな感触は、繋の手のひらにしっかりと残っている。
「……まあ、委員長と付き合う奴は苦労するんじゃないか?」
「そりゃあそうだろ。周囲からの視線も凄まじいだろうし、自分が釣り合ってるかどうか不安になるんじゃないか」
性欲的な意味で危惧する繋に、田崎はずれた回答を返す。
「そういう田崎は、委員長に告白するつもりはなさそうだな」
「当然だろ。それこそ釣り合わねぇよ」
けろりとした顔の田崎である。彼は自分が委員長とお近づきになれるなど、毛頭考えていないようだった。そもそも、自分はこの距離感で色々言っている今がいいのだ、などと続けている。
「もし告るなら、そうだなぁ」
田崎は教室内に視線を巡らせ、うんうんと熟考する。そんなに悩むことかと繋が呆れるほどの時間が経ち、彼はようやく結論を出した。
「吠崎とか?」
「吠崎って、吠崎咲か」
廊下側の最後列。そこに座り、退屈そうな顔をしている女子生徒がいる。校則にギリギリ抵触するような明るい髪に、日焼けした褐色の肌。着崩した制服。丈を短くしたスカートからは、太ももが見え隠れしている。
良くも悪くも、凛とは対照的な少女だ。
「不良が好きなのか?」
「ギャルが好きなんだよ」
同性間の会話故の遠慮のなさで、即答する田崎。
吠崎咲という少女は、たしかにギャルだった。ただし、それは見た目の印象だけであり、実際には繋もほとんど話したことはない。いつも退屈そうにしている、孤高の存在といった印象だった。
「吠崎もすげえ可愛いんだよなぁ。胸もでけぇし」
「お前が巨乳好きなだけじゃないか」
「うるせぇ! 男はみんなおっぱい星人だろうが!」
ガルルル、と手負の獣のように唸る友人に呆れつつ、繋はふと思い出す。今も机に頬杖を突いてスマホをいじっているあの少女、どこか別のところで見たような。
「――久瀬さん、ちょっといいかな」
繋の思考がまとまる直前、ガラリと教室のドアが開き、爽やかな声がする。雑然としていた教室内が一瞬静まり、そして黄色い声が沸き上がる。
現れたのは、白い歯を光らせて自信に満ちた笑みを浮かべるスポーティな青年――杉池だった。
「何かご用ですか?」
凛も立ち上がり、杉池の元へ。話題を席巻していた二人の邂逅に、周囲も騒がしくなる。繋がふと廊下に目を向けると、他のクラスからも野次馬が詰め寄せていた。
「ちょっと、二人で話したいんだけど」
「ここではできないお話ですか?」
「えっと……」
流石に緊張した面持ちの杉池に、凛は柔和な笑みを湛えつつも堂々と対面する。周囲はヒューヒューと囃し立て、一瞬狼狽えていた青年も勇気を振り絞る。
「久瀬さん、よかったら、俺と付き合わない?」