瞼を開くと碧が広がっていた。
コンクリートに囲まれて息苦しく生息している己にとってみれば現実離れしたその空間は、それでも優しく、清らかに迎え入れてくれている。
そんな訳がない。
布をまとっていない足先にまとわりつく不快な土気色の水気をまとった砂は歩みを妨げ、なにも混じっていない空気は肺に刺さるかのようなヒリつきをもたらす。
眼前に広がるLEDをぶちまけたかのような星空は、ここが異質な空間であるということを示していた。
「これを綺麗だと表現する人もいるんだろう。きっと」
そうひとりごち、そのまま水が張った地面に座り込む。
ケツが濡れるが致し方ないだろう。ひやりとした冷水が体温を奪う。
きもちがわるい。もうごめんだ。
思えばついてない人生だった。
人生だった?人生だ。
こんな自分が生きるにはあまりにも過酷で。残酷で。無邪気で。清潔すぎる。
子どもや老人に生ききやすい世の中ですか。ほんとうにありがとうございます。
だけどどうだろう、そう思っているのは自分だけで。
他者から見れば幸せ極まりないと刻印を押される、そのような話のような気もしてくる。
馬鹿馬鹿しい。幸せか不幸かなどと、他者に決められることではないというのに。
わたしは不幸です。などと。脳内で結論付け、くだらないことだなと笑う。
そろそろ目が覚めないだろうか?目覚めれば、このような不快な夢なんて記憶には残らないだろう。きっと。きっと。
記憶など、不確かなものだ。
記憶も感情も、結局のところ脳波が脳に刺激を与えてランダムに発生した機構に過ぎない。
「結局のところ 水槽の脳みたいに、世界なんて俺が認識しているものにすぎないと。そう断言するのは、もはや狂人か」
顔をもち上げる。ミルクウェイが流れる。星々がきらめいている。
こんなにも世界はまぶしく、清らかで、……生きるのには不向きだ。
みみをつく静寂が、気持ち悪い。
こんなにも生きづらい世界で、それでも生きるのは。
何故だろうか。少し不思議な心持がする。
死んでいないのは。
死ぬのは馬鹿らしいから。意外の何物でもなかった。
産まれてきたのなら、生きる意味は自分で決める。
生きづらい世界なら、抗う。
大人しく黙って聖人のように死んでやるのは、ごめんだ。
かぶりをふり、抱えていた膝を解放してやる。
生きて見せよう。誰にも望まれていなくとも。
俺が望んでいる。それ以上にこの人生に意味を持たせてやる必要なんて、ないだろ。
そんならこんな世界も、悪くないだろうな。