「好奇心が猫をも殺すと言うけれど、死んでしまった猫にはきっと後悔はないんじゃないだろうか」
面白いことを言うね、ときみは微笑む。
そんなきみの横顔を見つめながら滔々と、淡々と続ける。
「死んでしまったら終わりなのだから、人はそんなに死を怖がることもないように思うんだ」
「そう?それでも死は生命の起源であり、懼れるのが本能だから 正しいことだと思うよ」
それに、きみが死ぬのは悲しい。そう最後に付け加えて。
「死にたくはないよ。ヘンリーに会えなくなるのは悲しいことだから。だけどさ」
「だけど?」
「うん。終わってしまった後に何も残らないのであれば、それは救いなんじゃないかなって」
「もう悲しいともつらいとも寂しいとも思わない。いや、なくなるんだ。自分の存在が」
「……天国とかあるかもよ?」
「いやだなあ……」
ふにゃり、とほほえみきみの肩に体重をあずける。
ちゅ、と唇にキスが落とされる。きみのひとみは不安に揺れていた。
「……いなくならないで」
そう告げてきゅ、と抱きしめられる。
やわらかな髪がほほに触れ、こそばゆい。
その体は、すこしだけ震えている気がした。
「大丈夫。僕はここにいるよ。いなくなったりなんてしない」
「うん、……うん」
「世界が終わっても、きみのとなりに立つのはきっと僕だろうね」
「本当に?」
「うん、きみは僕のお星さまだから」
くすり、と微笑む。
いつだっただろうか 幼いころ。まだふたりとも幼児だったかな?
とにかく、ちびたくておさない時分に交し合ったおままごと。
古き日のまじない。きみが星でぼくがお月さまで。となりにくっついて漂ってるからずっとずっと傍にいるよっておはなしをしたんだよね。
ぼくはお月様みたいなすごい綺麗なものじゃないよ、って言ったんだけど。
くすくすと笑いあって、はるかかなたの光景。
なでるように背中に手を回し、慈しむようにとん、とんとリズムをとる。
「ヘンリー、だいじょうぶ だいじょうぶだよ」
「ごめんね……ヘンリーを心配にさせたいわけじゃなかったんだ」
「……うん」
「だいじょうぶ。ずっと傍にいるからね」
「星とお月様みたいに?」
「うん……何光年進んだって、ぼくの隣にはきみがいて」
「俺の隣にはジャプカがいる だろ?」
「そう。覚えてたんだ」
「忘れるわけない」
「ふふ、うれしいな」
夜空を見ようか。久しぶりに、ベランダで肩を並べてさ。
ちょっと暑いけれどご愛敬、冷蔵庫のラムネもあけちゃおう。
星空のしたで きみのとなりで。