そっと触れるだけの口づけ。離れていくその群青色の瞳を恨ましげに追うとくるり、とその表情が変化する。
「期待した?」
「……」
期待、だろうか。期待かもしれない。いつものように深く、蹂躙されているかのような錯覚に陥るあのキスを、私は。
手を伸ばす。思考を逡巡させる暇すら己に与えず、彼を押し倒していた。
「ジャプカ?……んっ」
片手で細い腕を押さえつけ、覆いかぶさるように深く口づける。歯列をなぞって舌を絡めると彼の身体がぴくりと跳ねた。角度を変えて何度も貪っているうちに苦しくなったのか胸元を叩かれる。仕方なく口を離すと互いの間に銀の糸が伝った。
「は……っ、貴方が悪いんですよ。貴方が」
うなだれる様に吐き捨て、彼の衣服にいささか乱暴に手をかける。抵抗は……ない。
ぴしりと着こまれた襟をまさぐりながら露わになった首筋に噛みつくと小さく声が上がった。そのまま強く吸い上げて跡を残す。白い肌に浮かぶ紅はひどく扇情的で、私の理性を奪うには十分だった。
「あ、ぁ……ッ!」
軽く指先を走らせただけで面白いように反応する体。鎖骨から腹までをなぞると彼は身をよじらせた。
「もしかして感じているんですか?」
意地悪く問うと彼は視線を逸らして唇を引き結んだ。その仕草ですら私を煽る材料にしかならないというのに。
「答えてください。そうでないなら、やめますよ」
少しばかり手を緩める。すると彼はちらとこちらを見上げてきた。物欲しげな眼差しにぞくりとする。
「……やめないで」
そう言って彼は自ら服を脱ぎ始めた。羞恥に染まる顔を隠すことなく晒す姿はまるで娼婦のようだ。それなのに、どうしてこんなにも愛おしいと思うのだろう。
彼が全て脱ぎ終わったところで、再び口づけを落とす。今度は優しく、慈しむような口付けだ。ゆっくりと時間をかけながら唇を重ねる。やがて呼吸が乱れてきた頃合いを見て下腹部へと手を伸ばした。すでにそこは熱を持ち始めている。
「ふぅ……ん、ぁ……」
ゆるく握りこんで上下に動かすと艶やかな声が上がる。徐々に動きを大きくしていくにつれて息遣いも荒くなり、快楽に身をゆだね始める。だが、あと一歩足りないといった様子だ。
「ジャップカ、もっと」
切なげに見つめられて思わず生唾を飲み込む。
「どうして欲しいですか?」
そう聞くと彼は一瞬目を丸くしたがすぐに寂しそうな微笑みを浮かべた。そして両手を広げる。
「抱きしめていて」
「……もちろん」
言われるままに抱きしめると彼は満足げに笑んだ。そんな彼の耳元に口を寄せて囁く。
「力を抜いてください」返事を待たずに潤滑油を用いて後孔へ指を刺し入れる。痛みを与えないように性急に動かすと腕の中の彼は切なげに息を漏らした。
「は……っ、ジャプカ……」
「痛くないですか」
こくりと首を縦に振る。それを確認してからさらに奥の方へと指を進めた。内壁を擦るたびにびくりと体を震わせる様は酷く淫猥に見える。二本目の指を入れようとした時だった。
「あ、ぁっ!そこ、だめ……!」ある一点を掠めた瞬間、今までで一番大きな反応を示す。すかさずそこを攻め立てると彼の口からはもはや意味のない言葉しか発せられなくなった。
「あ、あぁっ、もう……ッ!」
「イキたい?」
問いかけると彼は素直にこくりと首肯した。
「いいですよ。ほら、イッてください」
ぐっと押し込んだ瞬間、背中が大きく仰け反った。同時に白濁液が吐き出される。肩で大きく息をしながら放心している彼の顔を覗き込み。
「………貴方が悪いんだ、煽るような真似をするから」
言い訳のような言葉を吐き捨て、私は猛った自身を取り出した。ひたりと入り口に押し当てると彼は不安そうに眉を下げる。大丈夫だと伝える代わりに頭を撫でた。
「力を抜かないと辛いのは貴方ですからね」
そう言うと彼もまた私の頬に触れてくる。そして、一言だけ告げた。
「きて」
その言葉で何かが切れる音がする。一気に突き入れたせいか、彼は苦し気に喘いだ。それでもなお私は欲望のままに腰を動かす。
「あっ、あぁ……んぅ、は……ッ」
「はぁ……っ、くそ……」
激しく揺さぶられるたびに甘い声を上げる彼を見て苛立ちを覚える。何故こうも私の心を乱すのか。
「んぁ……ッ!?あ、あぁッ!」
衝動的に首筋に噛みつくと中がきゅっと締まった。歯形が残るほど強く噛みついたはずなのに、どこか甘く感じるのは気のせいではないだろう。
「や、ぁ……噛まないで……ッ」
懇願するような眼差しを向ける彼に加虐心がくすぐられ、もう一度強く噛む。するとまた締め付けられた。
「あぁッ!あ……あぁ……!」
「く……っ、締めすぎ……ッ」
限界を訴えるように一層律動を速めると彼はいやいやと首を振る。その姿はまるで幼子のようで、ひどく可愛らしいと思った。
「ジャプカ、も……う……!」
「えぇ、一緒に……」
最奥を突いた瞬間、彼は二度目の絶頂を迎えた。ほぼ同時、私自身も欲を放つ。
「は……、ふぅ……」
ずるりと引き抜くと彼は小さく身じろぎをした。労わるようにその金に輝く髪を撫でる。
「……ごめんなさい」
困り果ててため息をつくと彼がくすりと笑う。つられて笑みを浮かべると不意打ちのように口づけられた。触れるだけの優しいキスだ。
「ねえ、ジャプカから俺を抱いたのって、これが初めてじゃない?」
「へ……?そう、なりますかね」
言われてみると確かにそうだ。私が誘えば大概彼は応えてくれたが、自分からというのは今回が初めてかもしれない。
「嬉しいな。オレのこと、それだけ求めてくれてるんだよね?」
「な……っ、そういうわけでは……」
否定しようとしたが、思い当たる節がないわけではない。現にこうして彼の身体を求めている。
「違う?」
「違わない、けど……」
恥ずかしくて視線を逸らすと彼が耳元に口を寄せてきた。
「恥ずかしがるような仲でもないでしょ?」
「っ、知っていますよ」
「うん、でもね」
そう言って彼は私の手を取ると自らの胸へと導いた。どくんと心臓が高鳴る。
「ジャプカが欲しいよ」
「……ッ!」
情事の最中を彷彿とさせるような声音で囁かれ、再び熱を帯び始める下半身。そんな私を見て彼は妖艶に笑んだ。