俺の名前は
ただのサラリーマンだった。オフィスでカタカタとキーボードを叩き、市場調査を行っては企画書を作り、却下される日々を送っていた。
そう、送って“いた”だ。過去形だ。今は劇的ビフォーアフター。
石造りの街並みが目に鮮やかで、耳の長い美男美女、背の低い美男美女、ケモ耳の生えた美男美女、俺と同じ人間の美男美女が闊歩している異国情緒溢れる街に居る。
……いや。異世界に転移してしまったのだから、異国情緒では無く、異世界情緒に溢れていると言うべきか。
なんでそれが分かるのか? 視覚的にも当然分かるが、それ以上に分かるんだよ。ここは異世界で、王国で、その王都なんだよって頭に教えてくれる人が居たのよ。
あとサービスで特殊能力……要は昨今馬鹿にされるチートスキルだな、それをくれたんだ。更にはそれがどんなもので、それをどう使えば良いのかを教えてくれた。
まあ? その後も一方的に喋って消えたんだけどね?
俺はどうやってこの世界で暮らしていけば良いのやら……。
繰り返される毎日に嫌気が差してはいたが、日常の大切さを骨身に沁みて分からされた気分だよ。……分からされた、か。
メスガキも、こんな風に黄昏るのかな……。ふっ……。
こうして、唐突に俺の異世界ライフが始まった。
ちなみに、チートスキルは戦闘系では無い。なので、俺は街で引き篭もる道を目指して、冒険者ギルドと看板に書いてある建物へと足を進めていくのだった。
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冒険者ギルド。
そこは荒くれ者や、明日を生きるに苦労する若い子や、一攫千金目指して野心と夢を叶えるべく希望を胸に抱いた若者達の巣窟。
真面目な話をするなら、住人の依頼を熟したり、街の外で魔物を狩って治安維持、街道の整備や、商人の護衛、特定の素材の採集、酷いものだとどぶさらいや、落とし物探し、行方不明の人の捜索などがある。
要は何でも屋だ。よろずや銀ち◯んだ。穏やかな生活が肌に合わない奴らの最終的な行き場。住所不定、名前を詐称してもなんの問題も無い、ある意味で掃き溜め。スーパー好都合な場所。
……って、頭の中で教えられたのよ。俺が調べたとかじゃ無い。まずここに行って登録しなよって。財布の中のお金とATMのお金をこちらの金銭に変換しといたよって言われたの。変に親切かよって。でもまだチュートリアルなんすよ。
俺はウエスタンな戸を押して冒険者ギルドに足を踏み入れる。
えげつねえ視線が飛んでくるとかは無く、ちょいと変な奴が来たな程度の視線が軽くと言ったところ。
冒険者の間ではお互い詮索しないと言う暗黙の了解があるらしく、基本的にはノータッチなのが助かる。
冒険者ギルドの建物は酒場と受付に分かれており、俺は迷う事なく受付へ。
受付を担当している受付嬢は大変な綺麗所が並んでおり、どこにならんでも緊張は必至。
失礼ではあるが、その中でも全く食指が動かない幼な気で新人っぽい茶髪のゆるふわガールを選んだ。
……しかし、今更ながら思う。言語通じるか? 聞き取れはするが果たして……と悩んでいると、目の前のクリクリお目目の少女がこてんと首を傾げた。
可愛いなこの子。守護りてぇ〜。
「あの、言葉、分かりますか?」
「はいっ、ちゃんと、分かりますよっ!」
俺が少し不安そうに喋ったからか、ゆるふわちゃんも間を空けて、でも精一杯の笑顔で肯定してくれた。
守護りてぇてぇ。
「冒険者登録、したいです」
「はいっ。字は、書けますかぁ? 私で良ければ、代わりに、書きますよっ!」
ゆるふわちゃんのゆっくりと聴き取りやすいボイスの後に渾身のにっこりスマイルが飛んでくる。
うあぁっ!! なんて眩しい!! なんだこの子!! 受付嬢レベルが高過ぎる!!
俺は並ぶ列を間違えたのか? 両隣の受付嬢のお姉さん達へと視線を飛ばす。
『気持ちは分かる。手ぇ出すなよ』
『貴方は正常よ。手ぇ出すなよ』
そんな笑顔が返ってきた。俺は全力でお二人へと頷き返し、拳を胸へと当てて誓いを立てる。
すると左右の受付嬢からサムズアップが返ってきた。グッドコミュニケーション。仲良くやれそうだぜ。
「あっあのぉ〜。字は、書けます、かぁ? 大丈夫なのでしょうか?」
可愛いらしいコロコロと転がる声で、心配と不安が重なったのだろう、手を胸の前でぎゅっと握りながらこちらを伺ってくるゆるふわちゃん。
右の受付嬢が顔に手を当てて天を仰いだ。
左の受付嬢が豊かな胸を——いや心臓を抑えて机に伏した。
ああ、きっと俺はこの人達と仲良くやっていける。そう確信した。
「すみません、字は出来れば代筆をお願いします。それと、どうやら言葉は喋れそうです。ご心配おかけ致しました」
「っ! あっえっと……それは良かった、ですっ! あはは、ちょっと恥ずかしいですねっ。あっ、私、名前をヴェルダンディーナと申します! お気軽にヴェルか、ディーナとお呼び下さい!」
めっちゃ重要キャラみたいな豪華な名前してんなこの子。ヴェルダンディーナ? 格好良いかよ。
「すみません、いきなり略称と言うのも失礼なので、ヴェルダンディーナさんと呼ばせて下さい」
「はい! 構いませんよっ! えへへ」
えへへ、て。……えへへ、て。くっそぅ……幸せにしてぇ。
なんだこのヴェルダンディーナワールドは。フルネームで呼ばれるのは不慣れなのかちょっと照れ臭そうなんだよ。可愛いかよ。
『お前やるやんけ。一杯奢ろか?』
『いや、奢らせろ。お前はよくやった』
そんな目線がサイドから飛んでくる。二人ともジョッキを表したハンドサインをぐいっと傾けてくる。俺もまたそれと同じものをぐいっと傾ければ、拳が出てきた。俺は二つの小さくて綺麗な拳に俺の拳を合わせて絆を結んだ。
「なんだか、仲良しさんなんですねっ? 私も拳ぐってしたいですっ!」
「ごほぁっ……ええ、しましょう。皆んなでしましょうか」
「ふあぁ! はい!」
思わず吐血しちまうくらうの純粋な笑顔だ。両サイドの受付嬢は真顔で瞬時にヴェルダンディーナさんの隣にやってくると、俺達は三人で拳をぶつけ合い、ヴェルダンディーナさんの拳を待つ。
「わぁ! えっと、行きますよぉ〜! えいっ!」
えいっ!!!! おわああ!!!! なんて威力だ!! 意識を保つのがやっと!! ああ!? 受付嬢ライト! 受付嬢レフト!! 気をしっかり持て!
二人は笑顔と共に動きを止めて真っ白に燃え尽きていた。
そんな二人に挟まれる中、ヴェルダンディーナさんだけはにっこにこの笑顔で自分の拳を大事そうに撫でていた。
このあと、俺はなんとか致命傷に抑えてヴェルダンディーナさんと会話を進め、冒険者登録をする事が出来た。
俺が登録を終えた頃には受付嬢ライトとレフトは復活しており、交代の時間になったのかカウンターをワイルドに乗り越えると俺の腕を掴んで酒場へ直行。
早速奢られたビールを片手に乾杯の掛け声はこっそり「ヴェルダンディーナ」。
俺は人生で初めて、男女の友情を確認した。
そのまま飲みながら数々のヴェルダンディーナさんのエピソードを受付嬢ライトことシンシアさんと、受付嬢レフトことキリリルさんから聞いていく。
俺達の間には絶えることのない笑顔が咲いており、そのままの勢いで酒場をハシゴ。
しかし俺は今日の寝床となる宿を取っていないから、そろそろ失礼したいと言うとシンシアさんの家で飲んでそのまま泊めてくれると言うのだ。
この世界で初めて出来た友人であるシンシアさんからの好意に俺は甘えて、その日はそのまま飲み明かした。
貯金だけはしていたので、ATMのお金も全部換金されてカバンに入っている今の俺はちょっとした金持ち。
この程度の豪遊でヴェルダンディーナ仲間との仲を深められるならお金だって本望だろうさ!
翌朝。
シンシアさんとキリリルさんと俺は全裸だった。二人の股からは白濁とした液体が垂れているのが確かに見えた。
いや、ちゃんと二人の足を開いて、股にあるびらびらを開いて一番下の小さな穴から垂れているのを確認したので間違い無い。
男女の友情など無かったのだと俺は知った。
異世界生活一日目。プラマイで言うなら圧倒的プラス。異世界も悪く無いかも。
相談所を開くまではもう少し話数を掛ける予定です。