俺が住んでる国……えーっとなんだっけ。確かイリオス王国。この国ってどうやら四季があるようで。
転移してきた頃は春前くらい。ついこないだまでは春の日差しが暖かくて日中は薄着でも良いくらいの気温だった。そして現在、どうも雨季に入ったようで、ここ数日雨に降られ続けている。
しかし傘と言う文化はございませんのよね〜。雨除けにローブを被るくらいで、撥水性の無いローブをレインコート扱いするものだから結局ずぶ濡れ。
魔物が居る世界だから武器を振り回す事を想定すると傘なんて邪魔になるだけ。こんな世界じゃ傘が生まれないのも広まらないのも納得なんだけどさ。
でもそれが当たり前の文化をみんなが持っているものだから、みんな雨に対してあんまり拒否感がないと言うか。気にするのは泥はねと、泥で足場を取られたり、滑りやすくなる事くらい。
ついでに言うなら、雨降ってるから外出ませんは許されない。魔物討伐や薬草採集は必須。なんなら外出を面倒くさがる奴が居るからこそ競争相手が減って丁度良いと仕事を漁りに来る冒険者も居るようだ。
まあ、これは冒険者に限った話で、一般市民は内職をしたり保存食を作ったり、家の補修だとか、道具の手入れだとかをするらしい。
では俺はと言えば、外出を面倒くさがる冒険者筆頭でして……。
「チ〜ト〜セ。お前、最近出不精が過ぎるぞ。今日は運動がてら依頼を受けにいこう! ニル、左腕を持て。私が右腕を持つ」
「はーい。チトセ様、おとなしくしててくださいね〜」
「やだッ! お金に困ってないんだから別にいいじゃないか!! 俺はそもそも運動は好きじゃない! 雨も好きじゃない!」
「子どもの様な駄々をこねるな……ヴェルダンディーナに見られていても同じ事をするのか?」
「するに決まってるだろ!?」
「激しく格好悪いな」
「あはは……チトセ様はどうされたらお外に出ますか?」
ソファにて寛ごうとする俺の両サイドに構える美女エルフのおぱーいに腕を挟まれながら考えてみる。
……例えば車。雨を凌げる屋根。身体も汚れず疲労しない移動手段。かなり理想的と言えるな。
それをなんとなーく伝えると、ロリアーナに背負われてしまった。そのままおっぱいを揉んでみる。やわこくてきもちぃ〜。
「揉むな」
「なんで背負われたんだ俺は」
「無視するな。……まったく。良いか? 出会った頃の様に私がお前を運ぶ。雨は厚手のローブがあれば良いだろう? 完璧じゃないか」
「しかもおっぱい付きか……百考くらい余地があるな」
「頭がエロで埋まり過ぎだ。……依頼が終われば、好きに触っても構わないから一緒に行かないか、チトセ?」
「今ならニルのおっぱいも付きますよ〜」
「乗った」
「私は少し腹が立ってきたかもしれない」
子コアラの様にリアにひしとしがみつく俺の背中にいつの間にかビャクが乗っていた。
「此方はここに失礼しますね」
「じゃあリリスはそのさらに上〜」
「振り落とすぞお前達……。チトセを運ぶのは移動速度を考えても合理的なんだ。なにせ、チトセは筋力が皆無だからな!」
リアの言葉を疑って掛かるニル、リリス、ビャクの三人に俺は自ら強く頷き、自負を持って肯定する。自分が最弱であると。筋力も魔力も少なく、女性陣の中で最弱のニルと比べても俺は虫ケラ程度の力しか無いのだと。
証明するために腕相撲をしたら、小指だけのニルに負けたからね。人としての尊厳が損なわれた様な気もするよ……。
そんなこんなで、俺はリアの背中にしがみつきながら自宅を出て、雨の中冒険者ギルドへとやってきた。
ギルド内は雨でも割と賑わっており、美人美少女四人組は良くも悪くも大変目立つ。そこにお荷物御輿男が居れば尚目立つ。
「あの〜、チトセさん? ロリアーナさんの背中に乗ってどうされたんでしょうか?」
気を遣って最初に声を掛けてくれたヴェルダンディーナさんを先ずはひと拝み。
「おはようございます、ヴェルダンディーナさん。今日も変わらず可愛らしい。雨の湿気で少ししっとりとした本日の髪も素敵です」
「あっ、えと、おはようございますっ。髪は……えへへ、セットが大変だったのですけど、褒めて貰えて良かったです!」
シニヨンがよく似合うお方だ。きっと彼女が笑う瞬間、空は晴れていたに違いない。
右隣のシンシアさんもウンウン頷いてるし、左隣のキリリルさんもニッコリしている。
ついでにちょっと言いにくい話題も逸せて一石数鳥な挨拶だ。
すると、急に袖を引かれて左を見る。そこではピンク髪の我が家いちエロい少女が髪を揺らすために首を振って左右に振っていた。
「おにーさん、リリスも褒めてよ。今日はくるっと髪の毛巻いたんだけどぉ?」
「寝癖じゃなかったのな」
「えっ、酷くなぁい!? 普通に酷くなぁい!?」
「じょーだんだよ。ちゃんと可愛い。よく似合ってる。……ふむ、ストレートも似合いそうだな」
「……じゃあ、明日やったげる」
ちょっと照れながら髪を指に巻いては伸ばして遊び始めたリリスの頭をリアの背中の上からぽんぽんと撫でる。
その際飛んできた「なんだアイツ、誑しか?」「なんだコイツ、誑しだわ」と言う左右の受付嬢達の声はシャットアウトさせて貰う。褒めただけで誑される奴が悪いんすわ。
「チトセ殿、此方はどうしましょう?」
「ビャクはなあ……ツーサイドアップとか絶対可愛いぞ」
「うわ、絶対可愛いわ。めちゃんこ可愛いわ」
「チトセ、ここでやりなさい。今ここで! ビャクちゃんの髪をまとめてあげなさい!」
声のでかい受付嬢達だ。髪をまとめる紐とリボンを指輪から取り出して俺はシンシアさんとキリリルさんの前に置いて一言告げる。
「今、自分達でやってみては如何かな?」
「……っ!?」
「……っ!!」
その時、二人の身体に電流走る。
俺は速やかにビャクを手招きして呼び寄せ、依頼を選ぶ間に二人に髪を纏めてもらう様に言って聞かせると、ビャクは背中の中ほどまである白髪を揺らしながら受付嬢達の前へと移動していく。
俺からのサムズアップに二人が拝み倒してくるのをリアの背中の上から受け止め、ようやく本題に移るとしよう。
「それでリア? 今日はどんな依頼を受けるんだ?」
「今日はチトセが居るからな、素材採集系ならなんでも行けるだろう。雨足が強いと視界が遮られるから、魔物討伐は控えたいと言ったところか」
「であれば……王都から北にある鉱山。そこに出現するミネラルトータスの甲羅に生える鉱石の採集と、その道中で採取出来るハイハーブと清浄の草花の採取依頼はどうでしょうか?」
「あの亀の出現場所は確か鉱山内だったか……雨の影響も少ないなら戦闘でも問題は無い。良い依頼だな。ヴェルダンディーナ、これらにするよ」
「では、皆さんの冒険者カードをお預かり致しますねっ!」
俺達は五枚のカードを渡し、ヴェルダンディーナさんが受け取って以来の受理手続きを行ってくれる。依頼書の文字が浮き上がってはするりと冒険者カードへと吸い込まれていき、依頼の受注の完了だ。
久しぶりに見たファンタジー演出に懐かしいなと目を細めていると、後ろからローブごと俺の身体を摘み上げられた。
「おいおい、なんだお前。大の男が恥ずかしくねえのか?」
相手は見知らぬ三人のお兄さん達。お風呂に入ってないのか少し臭って不快だ。
「恥ずかしく無いね。俺は弱い。俺には俺の役割があって、彼女の背中にくっついてたんだ。邪魔しないでくれるか?」
「あっそー。どうでも良いから退け。俺らが話あんのはそっちの綺麗なお姉さん達なのよ。雑魚は引っ込んでろ」
「『邪魔しないでくれるか?』だってよ! 俺たちの邪魔しないでくれるかぁ〜?」
「ぎゃはは! ママのミルクでも吸ってな! 背中に張り付く赤ちゃーん」
おおう、なんも言い返せねえわ。雑魚は事実だし、みっともねえのは理解してるしね。
とは言え、言われっぱなしじゃ俺以外の人らが怒るから、再度リアと男達の間に割り込んで睨みを効かせる。
「この四人、俺の女なんで。それ以上近付かないで貰えます?」
「うぜーってお前。馬鹿でも分かる嘘ついてんじゃねーよ」
「いや本当だから。同居してるし、おんなじベッドで寝てるし。朝も夜も同じ飯食って、同じ風呂入って、イチャコラしまくってるから。寝る前のキスといってらっしゃいのキスは欠かせねぇ日課だから」
「……おいおいおいおい、待て待て待て待て…………やめろクソ。したくもねえ想像しちまった」
「ママのミルクはそのうち俺が出させて吸わせて貰うから」
「うおぉぉぉやめろおおお!! ママのミルクの意味を変えるんじゃねええ!!!!」
「俺達の邪魔、しないでくれる? この後も色々ヤるんだからさあ」
「後ろで耳赤くする女ずるいだろお前えええ!! 俺らにも寄越せよおお!!」
事実と予定を語るだけで何故か膝を突いてしまったチンピラ冒険者達の肩をポンと叩いて、俺を赤ちゃん呼びしたやつの前で立ち止まり、小さく呟く。
「夜の赤ちゃんプレイ。ママは何人居ても良さそうだな」
「頼むから死んでくれないか……?」
「今度会ったら感想聞かせてやるよ」
「狂っちまうだろうがよお……嫉妬でよお!!」
女日照りな敗北者に追い討ちはやり過ぎだったらしい。嫉妬に狂ったお兄さんの一人が俺に殴りかかろうとした瞬間、そのお兄さんはさらに後ろから襟首を掴まれて後ろにポイと投げ飛ばされていた。
それをやったのは、褐色の肌と灰色の髪を持つ、スタイル抜群且つマッスルな女性、少し前からウチの常連になってくれたクロエさんだった。
「よお、チトセ。夜の赤ちゃんプレイ、アタシも混ぜなよ」
「ははっ、やあクロエさん……ちょっと相談して良い?」
相談所が相談するとはこれ如何に。でも話は通さないとね? 後ろを振り返ると、思った以上に冷え込んだ空気が流れていた。
まあ大体が「またかお前」と言う目線なのだが、一人ヴェルダンディーナさんだけが顔を覆う何故か開き切った手指の隙間から赤面した顔でこちらを覗いていた。
結果だけ言うなら、今回の依頼はクロエも加入して六人でいく事になったのだった。