エルフィーリア様は俺の話を疑う事なく信じてくれた。……たった一つの事を除いて。
「なんでも相談所店主、チトセ様。本当のスキル名を伺ってもよろしいでしょうか」
気づいてんだろうなあ。知識の宝庫たる本を詰め込んだ塔に籠り切ってた王女だぞ。強力なスキルの名称を知り、シェーアさんから俺のした事を聞いて照合出来ていてもおかしく無い。
しかもそれをここで聞いてくるか。俺のスキルを知っているのはビャクとニルだけ。リアとリリスにはまだ教えていない。クロエなんて言うまでもない。
そんな中嘘だと言われるのも嫌なのに、認めるのはもっと嫌に決まっている。
だが隠せば隠すほど信用を失う。しかも相手は第五王女。だから隠す訳にはいかない。封建社会めんどくせえ……。
「本当のスキルを聞いた上で私に干渉しないと誓って頂けるならお教えしましょう」
「誓います」
「破ったら?」
「破った場合には……。この王女と言う身分を捨て去り、チトセ様にこの身を捧げても構いません!」
あ。こいつ確信犯だ。
まるで人生を賭しても良いと言ってる風に聞こえるが、俺のスキルを『千里眼』だと知ってる場合、エルフィーリアにとっては非常に好都合なのだから。
「貴方にメリットしか無いので却下します」
「………………」
場に沈黙が降り、数秒の虚無が訪れる。
おそらく俺の身内は何言ってんだお前って思ってる。
でもあちらさんはきっと何言ってんだシェーアって思ってる。
俺の確信に満ちた表情を見たエルフィーリア様は後ろを振り返った。
「シェーア、どこまで話したのですか?」
ほら。否定出来ず、唯一俺の情報源になり得る騎士に詰め寄っちゃったよ。
「信用を得る為に全て。万能薬のレシピを探すどころか薬そのものを作ってしまう御仁です。その時点で引き込むべきだと思ったが故の行動に御座います」
「馬鹿騎士。これでは赤っ恥です! わたくしが望んで奴隷になりたがっているようではないですかぁっ!」
ツカツカとシェーアさんに歩み寄ったお姫様が御乱心なされた。ぽかぽかとシェーアさんを叩き、恨み辛みをぶつけている。
ちょっと可愛いとか思ってない。このお茶目な王女様良いな〜とか思ってないぞ。
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一時弛緩した空気が漂ったが、王女様がこほんと咳払いをすると空気が締まった。
「では、話を戻して。今は貴方のスキルを暴く事はしないでおきましょう」
「擦り寄る気まんまんじゃん……」
「こほん、おっほん、うえっおほん。あーあー。良いですか? 一先ずわたくし達は敵では無く、共通の敵と目的を得ています。協力して頂けますか?」
俺は最初からそうするつもりだったので勿論イェス。
しかし残す所は囚われた人達の解放のみ。この二人がマントを用いて単独で行動しているのは既に俺の目には見えている。そうなってくると問題は囚われた人達の輸送や移動だ。一番近い街でも半日は歩く。その間の護衛も大変だ。
この二人に果たしてそれが出来るのか……?
「良いでしょう。しかし、牢の鍵などはこちらが確保しています。そしてこう言った盗賊のアジトにて得た宝物は発見者に所有権があるそうで。……我々にきちんと譲って頂けますか?」
「っ……ええ、ですが、都度相談させて頂けますでしょうか」
「『相談』……ふふ。ええ、私、なんでも相談所の店主ですから」
俺の目はぴくりと動いた眉を見逃すような目では無い。精々搾り取ってやるぜ〜。
こうして俺達は一時的に協力関係を築いたのだった。
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あれから部屋を出て、俺達が先行する形で檻のある場所へと迷い無く進んでいく。
ちなみに最後方ではビャクがシェーアに向けてずっと睨みを利かせている。よっぽど賊が嫌いらしい。番犬みたいで可愛いな。
そんな事を考えている間に新たな下り階段が見えてくる。同時にツンと鼻をつく饐えた匂いがしてきた。
これは一度嗅いだことのある匂い。ロリアーナとニルヴァーナを救出しに潜入した際と同じだ。
階段の下には真っ直ぐ通路が続いており、その左右の牢に何人もの人達が囚われていた。皆げっそりとしているのは、おそらく抵抗出来ないように食事量を制限されているせいだろう。
俺達は声をあげる元気も無くした人達からの救助を願う瞳を一旦振り切り、一先ず最奥を目指す。
「おい、チトセ……助けねえのか?」
「後でね。大勢を引き連れて一番奥まで行ってからまた帰ってくるのは面倒でしょ。クロエが仮に薬草採取と討伐した獲物を回収する依頼を同時に受けたらどっちを先に片付ける?」
「採取だ。獲物を運ぶのは手間だからな」
「そゆこと」
他にも助けたい気持ちのあった子達が居たが、皆今の話で納得はして貰えたようだ。その点、王女様は分かってる。夢を現実にする為には物事に優先順位と切り捨てるべきものがある事を知っているんだ。
お話によく出てくる夢見がちで頭の中お花畑な人ではなくて良かった。
人捕らえエリアを抜けると、次は珍しい魔物押し込めエリアになった。
中には薄青く透き通ったミスリルのような鉱石を背中に生やすミネラルトータスや、額に宝石を嵌めた栗鼠カーバンクル、一本角を額から生やした白馬ユニコーンなど、さまざまな魔物が閉じ込められていた。
なんかどいつもこいつもやたら大人しくて気になるので、俺は皆んなに手のひら返してごめんなさいをし、先に討伐依頼を少しだけ片す事を選ぶ。
クロエとリアにはミスリルを掘り掘りしてもろて、カーバンクルを小さな檻から解放し、ユニコーンも、そのほかの魔物達も解き放つ。
「君らは先に行きな。二度と人間に捕まらない様に気を付けるんだぞ」
不思議と敵意を感じない魔物達を順次解放していく。王女様も魔物に興味は無いだろうし構わないだろう。
カーバンクルの様に小さな子から、ユニコーンのような人間大くらいの魔物まで。ギリギリの通路を多くの魔物達がお行儀良く歩いて去っていく。
そんな魔物達を誘導するように幾つかの光の玉がふわふわと漂っており、これを深く見てみると“精霊”と言う言葉に辿り着いた。
「この鉱山の精霊様だ……ニル、祈りを捧げよう」
「はい……」
エルフには見えているみたいだがそれ以外には見えていないらしい。俺がなんとなく手を振ると、光の玉も同じように横に揺れた。
「人の手で森や山を侵し、人の手で解放したならプラマイゼロかな? ゼロになってると良いな……」
「私達でも言葉を交わす事は叶わない。アレは神の使いとも、自然そのものとも言われる。感謝と畏怖を抱きこそすれど、お互い親愛は無い。人の機微と同じものは無いと思った方が良い」
「リアが言うなら……そうなのかねぇ。取り敢えず、続き行くか」
珍しい魔物押し込めエリアの先はいよいよ宝物詰め込みエリアだ。
しかしここだけはさらに厳重。幾つもの認識阻害魔法陣が部屋に不規則に設置されており、多分普通に歩くと向かい側にある上り階段に勝手に辿り着いてしまう配置だ。
広い空間なのに無意識に壁に寄らずに歩いてしまう。壁に辿り着いてもいくつも認識を阻害されて、宝物庫に続く道に辿り着かない。
そう、俺の『千里眼』が無ければね!
いやね、きっとこの魔法陣を無効化するアイテムくらいあるとは思うんですけどね。無視出来るならするじゃん。ほんとごめん首輪の人達。
「おーい、皆んなこっちだ。おーい……。ああ、声だけじゃ認識阻害されまくっててどうにもなんないのか」
声を掛けても、仕掛けを暴いてもなかなかこちらに来れない仲間達を一人一人手を繋いで引っ張りながら誘導する。
王女様には触れたくないのでそこはシェーアさんを挟んでな。
「あのぉ……ちょっと傷付きますよ?」
「御身を思えばこそです。ねえシェーアさん」
「ああ、店主の言うとおりだ。おっとすまない、もう少しぎゅっと握ってくれるか? そう、指を一本ずつ交互に……よし。良いぞ。……んふふ」
なんか下心の見える騎士と恋人繋ぎをさせられたが、まあ良い。
そうして全員を左側の壁の角へと案内したら、斜めに続く道を行く。
その先にようやくあった宝物庫。
金銭では無く、磨かれた宝石や宝飾、絵画などの美術品。見るからに凄そうな武器や防具、その他マジックアイテムの山が俺達を出迎えた。
「お宝の宝石箱やぁ〜」
「チトセ殿、此方には言ってる意味がよくわかりませぬ」
突っ込みを貰いつつ、俺達はまずはこの中身を目録にしていく。
今回は俺達が発見者という事で所有権は俺達にあるが、持て余しそうな美術品や絵画や宝石細工などはこの場で王女様達に物々交換をしてもらう事にした。
王女様の方も貴族やお偉方との交渉材料が欲しかったそうで、かなり乗り気。俺はシェーアさんが万能薬探しの旅で得てきた世界樹の素材とこれらを交換。
武器や防具は、身内が欲しがった物以外をさらにほかの素材と交換。
マジックアイテムに関してはほぼ全てをこちらが独占し、これ以上はまた後ほど応相談という事にした。
王女様もこれには硬めのニッコリ。色々と欲しい物がありそうだったもんね〜。またゆっくりと交渉しましょうね〜。
さて、本番はここからだ。
「それじゃあ最後の大仕事。囚われた人達の解放を始めましょっか」