依頼を終えて帰還した俺達は、ヴェルダンディーナさんに確保してきたハイハーブ、浄化の草花、ミネラルトータスの鉱物を提出し、依頼の達成手続きを終えた。
特に亀の鉱物は規定量以上の収穫だったので想像以上に良い実入りとなっていた。
マギアが依頼した量以上の鉱物はギルドが一時的に買い取る形となっており、後に依頼したマギアはギルドと交渉しながら買取る鉱物の量や種類を決めていくそうだ。
「あっあのさあリア、クロエ? ちょーっとだけで良いからさ? その鉱物を一種類一個ずつ貰えたりはしない?」
「ん? 別に私は構わないが」
「アタシも良いけど、なんに使うんだよ」
「コレクションしたいんだよ! 精錬されてない母岩付きの鉱物ってロマンがあるんだ! 棚に飾りたい!」
俺のロマンに共感してくれる人は誰ひとり居なかった。リリスやビャクすら首を捻り、受付のシンシアさんとキリリルさんなんてそう言う趣味があるのは知ってるけど理解出来ないわ〜とでも言いたそうな顔してさあ!
「素敵だと思いますよ? 美しい姿では無く、ありのままの姿を愛でる事が出来ると言うのは、なんだかとっても格好良いと思いますっ!」
ヴェルダンディーナ、オーマイゴッデス。
なんと美しく無垢な笑顔。その微笑みが俺のただの収集癖を高尚なものへと塗り替えていく。
「愛してる、ヴェルダンディーナさん。貴方だけが私の理解者だ」
「あいっ!? いやいやあのあの、えーとえーっと……!? ありがとうごじゃいましゅっ!」
「こちらこそありがとうごじゃいましゅ」
「んもぅっ! 怒りますよぉ〜!」
「……怒る姿も魅力的だ」
ヴェルダンディーナさんを崇拝しながら揶揄っていると、リアに襟首を掴まれて出口へと引きずられていく。
「済まないヴェルダンディーナ。うちのチトセが騒がせた。また後日謝礼させにくる。ではな」
「本当にごめんなさい。チトセ様はお馬鹿なんです。この後たっぷりこってり“しぼって”おきますので」
リアに引きずられながらもヴェルダンディーナさん達に手を振り、ギルドを後にして帰宅する。
「へー、ここがチトセ達の家か。結構住み心地は良さそうだな」
「なになにー? クロエもウチに住むぅ? リリスは構わないよ!」
「いや、それはやめとくよ。チトセが居ないと生きられない身体にされそうだからね。今でもギリギリだってのに……。あ、チトセ御所望の鉱物達は机の上に置いておくから」
クロエにお礼を告げればさっぱりとした返事が返って来て、用は済んだとばかりに玄関へと踵を返していく。
「チトセとはまた相談所で。それ以外とはまたギルドで会おうぜ。そん時はまた一緒に依頼をやりたいもんだ」
「こちらこそ、またよろしく頼みたい。頼もしい前衛だった」
「此方もクロエなら構わない。実力に大きな開きも無さそうで行動しやすかったゆえ」
「ハハッ! ロリアーナとビャクにそう言われると自信がつくよ! それじゃあまたな!」
気持ちの良い男前女戦士クロエはにっかりと笑って我が家を去って行った。ほんの少しの寂しさが湧き上がり、ほんの少しの静けさが訪れる。
ここ数日の間、常に一緒に居ただけに彼女の居ない空間がどこか物悲しく感じてしまう。
と、そんな空気をくしゃくしゃに丸めてポイっと放ってしまうような明るさでニルがこちらへ振り向いた。
「チトセ様〜? それじゃあそろそろお仕置きしましょーか! お部屋に行きますよ! 私達と言うものがありながらヴェルダンディーナさんに簡単に愛を囁いた罰として、いっぱい搾ってあげますからね?」
「えー、ニルがしたいだけじゃないの? それ」
「悪いですか?」
「悪かないです! でも……折角帰ってきたんだし、まずはお風呂に入ろうか。その後いっぱいお仕置きしてくれ〜」
「じゃあリリスもご一緒しよーっと」
「それならビャクは私と買い出しだ。雨が止んでいる今のうちに行っておこう」
「心得た」
俺達はバラバラに動き出す。まずは全員装備を外し、自室にてそれらを仕舞っていく。俺は大して装備を着ていないので、パパッと着替えてお風呂を洗い、なけなしの魔力をマジックアイテムに注いでいく。
買い出しに出かける者、お湯が貯まるまで家事や家の掃除を始める者。皆んなのいつも通りの姿を千里眼で見ていると、俺の知る日常に戻った気分になる。
でもきっと、冒険して、依頼を熟して、家に帰ってくるのも含めて、彼女達にとっては日常なのではないだろうか。
俺の知らない皆の勇ましい姿や、勇敢さ、機転を効かせた判断など、ずっとそこにあった筈の沢山の魅力を発見出来た素敵な冒険者活動だった。
「偶には一緒に行くのも悪く無いかも……」
お湯を貯めるマジックアイテムに魔力を注いで、湯が出るのを待つ。
我が家にとっての癒しの場、風呂。贅沢に大量のお湯に浸かって、溜め息を吐き出し、汗と汚れを洗い流す日常の象徴。
数日間、風呂に入れて居なかったのでお湯が出てくる瞬間ですら非常に待ち遠しい。その時を今か今かと待つ。
……待つ。…………待つ。………………待つ。
あれ? え、出ない!? マジックアイテム……壊れた!?
その日、我が家の日常は唐突に終焉を迎えたのだった。
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と言う事で、現在私ことチトセは冒険者ギルドを訪れています。
そこで先ずする事と言えば、こちらに気付くや否や俯いてしまわれたオーマイゴッデスに買ってきたクッキーを差し入れる事であります。
「先ほどは多大なるご迷惑をおかけ致しました事、ここにお詫びと共に謝罪させて頂きます。安易に愛を囁いてしまい、大変申し訳御座いませんでした。宜しければ受付嬢の方達とご一緒にこちらのクッキーをお召し上がり下さい」
ニルに詫びを買っていけと送り出された俺は、最近美味しいと評判だと言うお菓子屋さんにてクッキーを多めに買ってきて、ヴェルダンディーナさんの前で直角に腰を折っている次第だ。
「チトセ君って結構稼いでるのね〜」
「これ今話題のとこじゃない。やるわねチトセ」
「シンシアさん、キリリルさんには日頃からお世話になっておりますので、別途贈り物としてマドレーヌをお贈りさせて頂きます」
「「やるわね、チトセ」君」
両隣は陥落。チョロいもんです。肝心のセンターは?
「いえ! 気になさらないで下さい! ……あはは。私、本当に気にしてないので。冗談だってちゃんと分かってますから……!」
…………俺は直ぐに両隣に視線を投げ掛けた。ジト目が返ってきた。
ヴェルダンディーナさんの表情は酷くしょんぼりとしておられる。明るく振る舞おうとする彼女の空元気に心が痛む思いだ。
ハーフリングの小さな身体がさらに小さく見えて、小さなお手手がもっと小さく見えて……。
その小さな手をそっと掬い上げる。そして優しく包み込み、指輪から一輪の白い野花を取り出してその瞬間に手を広げる。
「わっ……!」
「悲しませたかった訳では無いんです。口をついて本音がちょっと漏れただけなんです。どうか、ヴェルダンディーナさんには花のように素敵な笑顔で居て欲しい」
「……もぅ。そうやって女の子を弄んでるんですね……?」
「そうなんですよね〜」
「酷い人なんですから……えへへっ」
晴れやかな笑顔が咲いた! ミッションコンプリート!
実はこの花は、途中で野営した場所に咲いていたハイハーブが花を咲かせた姿らしいのだが、かなり珍しいらしく取っておいたのだ。……場所的にニルとエッチした場所だったのだけど、まあそこの因果関係は分かんないから!
左右の受付嬢達にもサムズアップして見せると、二人からは逆さを向いたサムズアップが返ってきた。ははっ、照れ隠しかな!
「それで、謝る為だけに戻って来られたんですか? 何か他に用件があったのでは?」
「ああ、そうなんです! 実は……」
後光が見えるかと思うくらいのタイミングで差し出されたノアの方舟のような助けた船に飛び乗った俺は、悪意の洪水から逃れて我が家の大ピンチを説明する。
すると、先ほど達成した依頼の主であるマギアの個人工房を紹介された。どうもヴェルダンディーナさん曰く腕が良いらしいので期待出来る。
俺はヴェルダンディーナさんのさっきよりも大きくなったが変わらず小さな可愛いお手手を包み込み、ブンブンと上下に振りながら感謝を述べ、左右の受付嬢から飛んでくる冷たい目から逃げるべくギルドを走り去ったのだった。
◆
「えへぇ、見て下さいシンシアさん! キリリルさん! 綺麗なハイハーブの花を貰ってしまいました! いつ取り出したんでしょうか! まるで魔法みたいで……チトセさんはとってもとっても凄いですねっ」
「ヴェルちゃんはそれで良いの? ああ見えて……って言うか、どう見てもあの人はモテモテだよ?」
「ディーナ、よく考えなさい。アレは友人くらいが一番気楽なタイプだわ」
チトセが逃げ去った後、受付嬢達はお昼時の暇な時間に雑談を交わしていた。
話の内容は主にチトセとヴェルダンディーナのこと。
ヴェルダンディーナよりも少しだけ混み行った関係にあるシンシアとキリリルからの進言に、それでもヴェルダンディーナは笑みを浮かべる。
「チトセさんが素敵な人なのは初対面の頃から分かっていました。ずっと丁寧な言葉遣いで話してくれますし、気遣いも沢山してくれます。お二人とも仲が良い時点で人間性は心配していません!」
「それは……」
「女を侍らせてなければ頷いてあげたんだけど……」
「一夫多妻なお国柄ですから、そこは大丈夫だと思いますけど? ……それに、私はそう言う意味で人間の方に好かれる事は無いと思いますし……」
ヴェルダンディーナが自らの身体を撫でる。
ぺったんこと言っていい薄い胸。括れもあまりない胴体。大して大きくもないお尻。
シンシアとキリリルは思った。「似たような小っちゃい可愛いビャクちゃんが居るやんけ!!」と。
それを声に出して言うべきか、否か。二人は悩んだ末にしばらくは黙っている事を選ぶ。
何故ならこの二人はヴェルダンディーナを見守り隊だから。喜怒哀楽どんなヴェルダンディーナも見守りたい。それはそれとして友人としてアドバイスもしたい。二人はそのどちらもを掴み取ろうと必死だったのだ。
そんな三人の姿を遠い酒場の席から見つめる一人の少女の姿があった。
「ふーん。お姉ちゃんがねぇ。……見極めてやろうじゃん」
少女は小さく呟き、棒付きの飴玉を噛み砕くのだった。
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