マジックアイテムの構造の把握、アトリエにある素材の把握、そしてバックヤードの掃除を終えて、足の踏み場と客が座れる椅子と机が現れたのでそこに腰掛ける。
「マジックアイテムのなんたるかはある程度理解出来た。その上でお前の相談内容について少し話をしようか」
俺が切り替えたのが分かったのか、あちょりえは表情を切り替えて俺の膝の上にこちらを向いて座った。そのせいで目の前にちょっと可愛い顔があってドキっとする。
「近いんだが……まあちっこくて軽いから良いけど」
「せーんせっ」
「なに?」
「呼んだだけ……みたいな?」
「彼女ヅラすんな?」
可愛い顔と上目遣いで人を呼ぶな。惚れてまうやろ。俺の元いた世界であちょりえの顔面レベルは十分以上に可愛い方だ。惚れてまうやろ。
膝の上であちょりえの身体を半回転させて、いつもビャクを乗せる時の感覚であちょりえのお腹に腕を回す。
「良いかあちょりえ。まずお前には良い道具と、売れる道具と、同一の品を作る再現性の重要さを教える」
「んえ? 良い道具と売れる道具は……イコールなのでは?」
「ノットイコールだ。例えば、火も水も風も出せて、虫除け機能もあって、灯りが付いて、部屋を綺麗にするマジックアイテムがあるとしよう」
「ふおぉぉぉ! 絶対売れますっ!」
「ばーか。売れねえよ。まず最低価格が金貨十枚(一千万)はするだろ。技術料が半端じゃなく高くなる。こんなもん買うより、それぞれの能力を持った魔道具を一種類ずつ買う方が安上がりだし、使い勝手が良い」
「それは……確かに。一種類の魔法だけなら高くても大銀貨。安ければ銀貨数枚です。画期的なアイディアでしたけど、売れないんですね……ふぇぇん」
理解出来る頭はあるのに、独学なせいで誰も教えられなかったのがこいつの不幸。その上でさらにコミュ障な所為で人に慣れるまで碌に会話も出来ないのも不幸。さらにさらに、なまじ一人でなんでも作れた所為で頼る意味を見出せなかったのも不幸。
能力を磨くだけでは生きていけないんだなあ〜。興味深い。
「次、再現性。簡単な用途のマジックアイテムが案外売れ筋なのは分かったか? 値段もお手頃、だから壊れた時に取り替えるのも楽。なんならストックを買う家もあるだろう」
「ふんふん、です」
「だが、あちょりえの場合、一個しか売ってない。お前がマジックアイテムをどんなに精巧に、丁寧に作り上げていたとしても、買ってくれる人が一人しか居ないんじゃ、その価値が広まって行かない」
「……名前を売る事にも繋がってくる訳ですか」
「そゆこと。このマジックアイテムがおすすめだと口コミで広がっても、この店には二つ目が無い。その商品以外に信用が無いので、他の商品を買ってみようとも思えない。マジックアイテムは高価なものもあるからな」
「お客のリピートどころか、顧客が増えない訳ですね……」
あちょりえのマジックアイテムは凄く出来が良い。
マジックアイテムの基本的な構造を簡単に説明すると、特殊な魔法文字が刻まれたプレートを中心に、魔石から魔力を搾り取る機構や、魔力を注ぎ易いパイプだったりを繋げ、任意で一定の効果を発揮出来るように組み立てる必要がある。
マギアの一番の腕の見せ所が魔法文字を刻むプレート。
ここにどれだけ複雑な内容を丁寧に刻み込めるかが腕の良し悪しを決める。
あちょりえの刻むそれは、まるで機械が出力したのかと思うほどに繊細且つ均一の溝と、シンプル且つ無駄の無い使い方をしている。
そしてこの店の掃除をした際に、何度も何度も削っては捨てたプレートや、数多の下書きが書き殴られた用紙、そう言った物を幾つも幾つも……それこそゴミ山の様に見てきた。
……ちゃんと努力しているのに、日の目が当たらない。ちゃんと努力の成果を出しているのに、人の目に入ってくれない。
そんなの、悲しいだろうが。
アトリエの黒い髪を撫でる。
「んぅ……? せんせぇ?」
「アトリエ、お前は一度他所の店を見て来い。どんな物をよく売っているのかを調査して、それを作ってみろ。きっとそれだけでお前の店は繁盛する。お前は認められるべき努力をしていて、それに見合う技術がある。俺はお前を凄いと思うよ」
「……はい」
アトリエの声が少し震えていた。俺の腕に、雫がポタリと降る。
少しの間だけ、俺はアトリエを抱きしめてやり、彼女の頭を優しく撫で続けるのだった。
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アトリエが少し落ち着きを取り戻したので、仕事の話に戻るとしようか。
「今回の相談内容は画期的なアイディアが欲しいと言う事だったが、結果だけを見れば応える事が出来なかった。よって、俺のポリシーとして金銭は貰わない」
「そ、そんなっ! せんせはいっぱいしてくれて……払わせてくださいぃ!」
「金無い奴から金は取れん。代わりに、俺が作って欲しいなーと思うマジックアイテムを作って欲しい」
「それなら……! はい! なんでも!」
物々交換と言うには俺のした事と価値が釣り合わないのだが、結果的にアトリエの店を繁盛させられたら良いなと思って色々と案を出していく。
「あれだ、生活用品が欲しい。生活の質を一段階上げるようなもの。例えば冷風、温風を出して室内の温度を調節出来る物。食べ物を冷やして保管出来る保存庫。火の勢いを調節出来るコンロ。トイレを綺麗に出来る物、汚物を除去出来る物、他にも色々あるだろ? 今まで不便だな、面倒だなと感じていた事を取り払えるマジックアイテムが欲しい」
一応そう言った需要を満たす店はある。王都の至る所でこう言った商品は売ってはいる。しかし庶民向けでは無い。どれもこれもが高価で、無駄な装飾のなされた貴族や豪商向け。
一般市民にも普及させる事で、生活に使う時間を減らし、より生産効率を上げられれば王都の繁栄にも繋がると言うのに、為政者は何やってんだろね。
「一般人向けの高額マジックアイテム……なるほど。需要があるから貴族が買う。なら、無駄を省いて簡略化したものでも十分に利便性があって普及しやすい! 画期的!」
メモを終えたアトリエがぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねて喜ぶ。
ふっふっふ。あまり褒めないで欲しい物だが……俺にはまだ作って欲しいものがあるのだよ。
「それとな、振動する魔法文字があるだろう? あれでゴニョゴニョ。スライムの残骸を凝固させる物もあったろ? それをゴニョゴニョ。形状はこんなのと、こんなので。他にもこういうのがあったら嬉しい良いかも」
「はあ……? 作るのは簡単ですけど、どう使うんですかぁ?」
「作ってくれたら実践してやるよ。後これは依頼料の金貨一枚。制作依頼だから高めに払っとく。後から修正をお願いするかもしれないからさ」
俺が手渡した金貨を眺めて目を輝かせるアトリエの顔を持ち上げ、再度その唇を奪う。
「んっ!? ……んちゅ、ぷはっ。せ、せんせ……♡」
「出来上がるのを楽しみにしてる。頑張れよ、アトリエ。俺はお前を応援してるからな」
「はい! 頑張ります!」
こうして俺はアトリエと別れ、雨の中店に帰ると再度店を開店させた。
結局あの後、やってきた客は居らず、閉店間際に雨の中駆けてくるメリアさんだけ。大きな胸をばるんばるんと揺らし、雨で張り付いたシスター服がボディラインをくっきりと浮かび上がらせ、そのドスケベボディを振り乱す様は目に毒。気に毒。あそこもドクドク。
依頼は変わらず中出しセックス。メリアさんを絶頂の彼方へ飛ばしながら、俺もまたメリアさんを堪能する。
シスター服が乾くまで裸でいちゃつき、教会まで送り届け、自宅に帰ればリリスに怒られる。
ロリアーナとニルヴァーナに迎えられ、ビャクを甘やかし、リリスの機嫌を取りながら、穏やかに一日を終えた。
=====
アトリエに依頼してからおよそ一週間。
雨が降ったり止んだりで、可もなく不可も無い売り上げを出しながら、雨天の今日も『千里眼』で女湯覗きでもしていると、店にやってくるアトリエの姿が見えた。
俺は先んじて相談室を出てアトリエを出迎える為に店のドアを開ける。
「あっ、せんせっ! 出来ましたぁ! 出来ましたよぉ!」
「わぁったから、落ち着いて歩いて来い。転けるぞー」
家の塀の上から頭だけを見切れさせたアトリエが雨に濡れた石畳の上をぴょんぴょん跳ねては嬉しそうに手を振る姿に頬を緩める。
しかし俺の言葉は耳に入っていても落ち着かないのか駆け足気味のアトリエは、うちの敷地に入ってぬかるんだ地面を踏んだ途端に前のめりにベシャリと倒れた。
「おい!? 言わんこっちゃ無い! アトリエ! 大丈夫か!?」
「ふぇぇぇぇん……痛いでふ……」
顔を上げたアトリエは鼻から血を流し、ローブの内側の服ごと泥で汚していた。
うちの店の敷地は飽くまで賃貸だ。家の取り壊しだとか改装だとかの為にも敷地内に石畳などを敷く事は出来ない。水捌けを良くする様な工夫もされていないので転ける時は転ける。
まあ、俺は一度も転んだ事は無いのだが。
ともかく、スーツのまま雨の中に身体を晒し、泥や血で汚れる事も諦め、怪力の指輪を嵌めてからアトリエを抱き上げて店に入れる。
すぐに雨避けのローブを脱がせて一旦クロークに掛けておき、指輪からハンカチと薬草を取り出す。
ハンカチの間に薬草を挟んでパンッと力強く叩き、薬効を染み出させてからアトリエの鼻血を拭いてやり、鼻筋や内側をハンカチで軽く拭い、アトリエに自分でハンカチを持たせる。
「このままだと風邪を引く。アトリエ、悪いが服も脱がせるぞ。代えの服は俺のを貸してやるから」
「ふぁぃ……ありゃりゃまひゅ」
アトリエの仕立ての良い一張羅のボタンを外し、その内側のシャツも脱がせる。貧相な身体付きと可愛らしい下着が見えるが、こう言う時に興奮出来るタイプでは無いので問題無い。
泥だらけのスカートも脱がせ、俺が部屋着として着るダル着を上下セットでアトリエに渡す事なく、ズボッと着させてズボッと履かせる。
マッサージ用の台にアトリエを腰掛けさせ、後ろに回り込んでタオルを取り出して泥はねと雨で汚れた髪を拭いていく。
「せんせ……私のこと、絶対好きです……よね?」
「妹くらいの感覚だわ。鈍臭いし、妙な所で馬鹿だし、ズボラだし、下着黄ばんでるし。あと、ほっとけないしな」
「下着は忘れてくださいよぉ〜……えへへ」
お世話されるのが嬉しいのか、俺に髪を拭かれることに抵抗せず流されるままのアトリエ。
髪をある程度綺麗に出来たら、次は顔や首筋についた泥を、水で濡らしながらタオルで拭き取る。
間近で瞬く青く美しい瞳が、何度も嬉しそうに弧を描くので、俺も何度か吸い込まれそうになりながらアトリエを綺麗にした。
アトリエの服の汚れは俺の持ってるマジックアイテムで落とせるが、濡れたものはどうしようもない。以前のメリアさん同様、部屋干しだ。
「温かい飲み物でも持って来てやるから、少しゆっくりしてろ。鼻血が止まるまでハンカチもちゃんと鼻に当ててろよ?」
「はーい、せんせっ」
調子の良い奴だ、まったく。
キッチンに移動し、お湯を出すマジックアイテムで茶葉を入れたティーポットを満たす。軽く揺すって色を出し、蒸らす時間を考慮してカップと共に相談室に運ぶ。
中ではアトリエが俺の服の匂いを笑みを浮かべて嗅いでおり、俺と視線が合うと顔を真っ赤にして部屋の隅で蹲ってしまった。
「ひぃん……」
「俺の匂い、好きか? おっさん一歩手前だと思うんだが」
「せんせの……だから……です」
「そう。じゃあ、ありがとうと言わせて貰おう。それよりこっち来い。俺が淹れた紅茶を飲まないとは言わせないぞ」
まだ耳を赤くしたままのアトリエが俯いたままこちらにやって来た。
その様がなんとも揶揄いたくなる物で、俺は自分の膝の上を叩いてみせる。
アトリエは何度か逡巡を見せたのち、俺の横にやってくるとゆっくりと俺の上に腰掛けた。
「ほい、紅茶。砂糖は?」
「……い、いただき、ます」
「ん」
砂糖をスプーン一杯分掬って、世界樹の枝で紅茶を混ぜる。
「あの、せんせ。罰ゲームですか? こんな木の枝で混ぜて……」
「……そうだなあ。飲み比べてみろ。俺の紅茶にも一杯分の砂糖を入れてスプーンで混ぜる。木の枝とスプーンの違い。面白いぞ? ちなみに俺は木の枝の方が好きだ」
「…………せんせが、言うなら」
下ろした黒髪を耳に掛けて、綺麗な所作で紅茶を一口ずつ飲んだアトリエは、俺の膝の上でその味の違いに驚いて見せる。
真上を向いて俺にその感動を伝えようとする様はやはりどこか子どもっぽいのだが。
「枝、美味しい! ですね!」
「これは世界樹の枝でな。どうもこの枝に含まれる魔力だとか生命力が溶け出してるみたいなんだ。良いだろう?」
「良いですね! すごく! ……はい? 世界樹? ……え? あの?」
「そう、あの。とある筋から貰ったんだよ。また飲みたけりゃ、うちに相談しに来い。客には振る舞う様にしてるんだ」
「お嫁さんになっても良いですか?」
「客じゃないから出ないぞ?」
「せんせのけちんぼ」
生意気な小娘にデコピンし、俺も改めて飲み比べてみる。
……うん。どっちも美味いが、世界樹の枝で混ぜると元気が湧くと言うか、ホッとする感じが段違いで染み渡る。余韻が美味しいまであるな。
「か、かか、関節キスですよぅ……」
「キスなら何度もしただろ?」
「あ、あぅ、えぅ……うぅ……」
俺の胸元に赤くなった顔をうずめて隠すアトリエの顎をまた持ち上げる。
涙目のアトリエがキスして欲しそうな顔をして見上げてくる。瞳を閉じて唇を小さく突き出し、行動でせがむ。
……意地悪してぇ〜! でも流石に可哀想か。触れるだけのキスをしてやり、額にも口付けをしておく。
顔を離せば、そこにははにかむ美少女が居て、きっと今押し倒せば押し倒されてくれるだろうと確信出来る。
出来るからこそ、俺は行かない。
「さっ、それじゃあそろそろ今日の用件に移ろうか?」
「へ……? あの?」
「どうした? 俺の依頼した物を作ってくれたんだろう? 早く出してくれ」
「……せんせの意気地なし!」
「ぶち犯してやろうかこいつ」
「あっ、これ依頼されたブツです! へへ! 如何でしょうか!」
俺が静かに漏らした言葉に、ずっと肩に掛けていた鞄から次々と作り上げた物を机の上に出していくアトリエの小物臭さ。好きですね〜。
そして重要な依頼したブツ達は……。
まず、ピンク色の楕円形の物体から線が伸びてダイヤル付きのリモコンに繋がっている物。
次に、コケシの様な形をした物。こちらは頭に当たる部分が弾力性のあるスライムを凝固させて作られている。胴体部分は硬質な素材で作られており、マジックアイテムのスイッチが取り付けられているな。
最後に、指を引っ掛ける様な輪っかと、直径一センチくらいの球が数珠の様に繋がった物。
言い換えるなら、エッチな粗品達だった。