※この作品はR-18です。

異世界なんでも相談所   作:上り坂は下り坂

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5話 道具は正しく使いましょう

 

 ロリアーナから受け取ったイヤリング。二つで一つのイヤリングの縁はとても太く、簡単にその行方を辿る事が出来た。

 見つけた先には数々の檻と、その檻に囚われた魔物や人々の姿が。

 そんな檻の一つに続いた縁の果てには、衰弱し切ったエルフの少女が居たのだった。

 

 

 現在時刻は夜の八時。この異世界では文明の光が多く無いので闇が深まり、子どもも大人も眠りに着く時間。

 

 そんな時間に俺はロリアーナの持つ不思議なポーチ、マジックバッグから出されたロリアーナの体臭のする闇に紛れる黒いローブを受け取り、身に付けていた。

 

「ロリアーナって良い匂いするよね」

「……そう言う空気じゃ無い。あと恥ずかしい……」

「ごめん、でもあんまり肩肘張らなくていいよ。安全な道は見つけてあるから」

 

 ロリアーナには、片方のイヤリングを見つけたことを報告している。ちょっとした場所に忍び込むとも。

 それだけで何かを察した様子ではあったけど……。でも言った通り割と安全なんだ。

 

 何せあの空間には、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あの場所に繋がる階段は二ヶ所。そのうち一箇所は街の外、遠くの方にある洞窟へと繋がっており、もう一ヶ所は以前大捕物が行われたもう誰も住んでいない古い屋敷に繋がっていた。

 

 行方不明者の捜索で俺が占った時に覗いたのは地下牢の様な場所。

 今回のはその地下牢よりもずっと下。あの犯罪者集団は俺達が思うよりもずっともっと大きな犯罪者集団だったのだろう。

 

 よって、俺には中途半端に解決に導いてしまった罪がある。

 犯罪者集団が捕まった事で、地下で世話をしていた悪党も逃げ去ってしまったんだ。それによって生き地獄を味わわせてしまったとも言えるのだから。

 

 俺は目指すべきゴールからルートを辿り、ロリアーナの背中から進路を指差し続ける。

 

 それから数分。屋敷の前にたどり着いた。

 しかし、屋敷は元犯罪者の根城になって居た事で、今もまだ衛兵が屋敷周りを巡回警備している様だ。

 まあそれでも穴はある。千里眼による俯瞰視点で警備のいないタイミングでロリアーナを動かし、難なく侵入成功。

 

 屋敷の中には誰も居ない。ただ静か過ぎて、ロリアーナの本当に小さな足音でさえよく響く。

 俺はロリアーナに靴に布を巻く様に指示して、磨かれた石の床を超えていく。

 

 そこからは、以前に調査が入ってから動かしていないらしい、どでかい像がずれた所に現れた穴——地下牢へと続く穴を降りてゆく。

 徐々にすえた匂いが漂い出すが、布を口に巻いて耐える。

 

 地下牢の鍵は全て開け放たれており、その扉も全てが開放されていた。念入りに調査した後が見られるが、地下空間に繋がる道はこちらには無い。

 地下牢へと降りてきた階段。その左側の石壁を押し込み、横にスライドさせれば……。

 

「本当に……あった。チトセの言う通りだったな……」

 

 俺としてはこう言うギミックは勘弁してほしい。反対側の床に残る跡から仕組みを解く羽目になって地味に不安だったんだよ。これで入れなかったらどうすんだって。

 

「降りよう。焦らず急ぐぞ」

「了解」

 

 俺はロリアーナの背中に乗って、長い階段を駆け降りていく。

 そして長い階段の先にある、重苦しい両開きの鉄扉をロリアーナの怪力でこじ開けると。

 

 千里眼で見た広大な地下空間へと辿り着いた。

 

 しかし思わず顔を顰める程の死臭がする。糞尿の臭いもそこら中からしている。下手をするとここから感染症や伝染病が生じかねない。出来れば死体や汚物は焼却処分したい所だが、ここは地下。酸素が無くなれば俺達が死んでしまう。

 きっと今、生きている人全員を救う事も出来ないだろう。

 

 俺には目しか、千里眼しか無い。見る事しか出来ないのだから。

 

「ロリアーナ、右手に進んで三番目の角で曲がって。そのまま真っ直ぐダッシュ」

 

 お目当てのエルフ少女の檻の前で彼女を止めたら、左手側を指差し背中から降りる。

 

「あぁ……ニルヴァーナ。ようやく……ようやく会えた……!」

 

 姉と違って大分格好良い名前だな、妹さん。

 

「口内を調べてみろ。イヤリングがある筈だ。おそらく持ち物を取られる中で、それだけは譲れなかったんだろうな」

 

 ロリアーナは俺の言葉に即座に頷くと、痩せ細った妹さんの口へとゆっくりと指を入れ、引き出す。

 指には、少し形が歪んでしまっていたが、ロリアーナが持っていたそれと対になるイヤリングがあった。

 

 ロリアーナは静かに涙を流していた。ニルヴァーナさんを抱きかかえ、立ち上がってもなお止まらない雫。

 更には歯がギシリと鳴り、唇を噛みちぎってしまったのか口端からは赤い雫が垂れ落ちた。

 

 俺はロリアーナの頬に手を添えて、目を合わせ、淡々と告げる。

 

「少し漁りたい物がある。付き合ってくれ」

 

 俺はロリアーナを先導しながら、人では無く物品が積まれている部屋へとやってきた。

 

 俺はそれら物品を千里眼で見ていく。

 

 スキルの使い道と言うのは、存外教えられた事以外にも色々とあるらしい。

 千里眼は遠方を見るだけで無く、人の感情や心の機微も視覚で見れる。そして人とは別に物の事も見れるらしい。要は道具の効果や使い方も分かるのだ。

 

 その中から、効果の高いらしい淡い緑のポーションを見つけ出し、ロリアーナへ渡す。

 

「これ、まだ効果がある。効果が高く品質の高いポーションは衰弱にも効くそうだから、飲ませてやると良い」

「……だが、ここにあるのは」

「使われない道具に価値は無い。俺はごっそり貰っていくつもりだよ。その上でこれらの道具を正しく使ってみせる。人の役に立つ様に、人の命を助けられる様に」

「……チトセ」

「それは俺が手に入れたポーションだ。俺の為に、正しく使ってくれ」

「……ありがとう」

 

 ポーションを飲まされたニルヴァーナの身体に、劇的な変化が生じていく。

 骨が浮き出ていた身体に肉が戻り始め、血色が良くなっていく。それでもまだまだ痩せ細っては居るが、即身仏の頃に比べれば一千倍マシだ。

 

 その様子を見届けたら、俺はアイテムを漁っていく。

 

 指輪型のマジックバッグことマジックリング。

 純ミスリルで出来た長剣。

 大気中の魔力を吸いあげ、所有者の生命力を回復させる再生の首飾り。

 身に付けた者から音も匂いも姿も隠すインビジブルマント。

 

 その他多種多様なアイテム達を指輪にしまっていく。

 中には呪いのアイテムや、金銀財宝、神聖な祭具や宝具まで。

 

 それらを出来る限り指輪に格納し、その中からボロボロの旗と槍を取り出し、旗を槍先に取り付ける。

 

 これは『聖なる旗槍(きそう)』。神様からの加護を受けた槍と旗を、聖水で清め続けた神聖な物。

 

 何故それがこんな場所にあるのかと言えば、戦争で失われたと思われていたが、実は旗と槍が別々になり、文明を象徴する品として各地に散って、前所有者が新たにオークションに出すべく輸送中、それを襲撃したこいつらのアジトにて皮肉にも再集結した。そしてそれを見つけた俺が合体させただけ。

 

 千里眼は物品の過去すら遡れるらしい。まさしくチートだが、大助かりだよ。

 

 だだっ広い地下空間へと戻ってきた俺は、旗槍を地に突き立て、千里眼で見た文言を唱える。

 

「神聖なる輝きよ、大地を照らせ。神聖なる威光よ、民を照らせ。神聖なるその御力で、遍く闇を照らしたまへ。『ディバイングリッター』」

 

 ボロボロの布がはためきだし、錆びついていた槍が輝きだした。

 

 その輝きはこの地下空間を満たすと、次の瞬間には元の暗闇に戻っていた。

 

 そして、旗と槍は役目を終えたと言わんばかりに塵となって消えていく。

 

「っ!? チトセ! 命が……生命力を感じるぞ! 幾つかある! 私が抱えていたニルヴァーナも……すっかり身体が戻って……」

「ロリアーナ、魔物はどうだ?」

「そちらは……何も感じない」

 

 どうやら神の光は人を助けてくれたらしい。

 一先ず確認の為に周囲を見て回ってみるが……神の力とは空恐ろしい。

 

 魔物はおろか、死体も汚物も消え去っていた。お陰で悪臭はもう無い。更には微かでも息をしていた者達が蘇っていたんだ。

 

 正直言って想定外。道具がボロボロだっただけに、精々綺麗になれば御の字程度の思惑だったんだが……。

 

「ロリアーナ、済まないが生存者を集めて来てくれ」

「ああ! もちろんだ! ……やっぱりチトセは凄いな!」

 

 ロリアーナはニルヴァーナさんを背中に背負うと、着ていたローブで括り付け、そのまま生存者の居る方向へと駆け出していった。

 ニルヴァーナさんの首と手足がガックンガックンになっているが、ただの健康体に戻っているので問題は無いだろう。

 

「ロリアーナって夜目もきくし、生命力も感じ取れるんだな。優秀過ぎだろ」

 

 知れば知るほど恵まれた人だ。なのにそれを鼻にかけない良い人だ。

 

 さて、俺は俺で指輪から新たに道具を二個取り出してっと。

 一個は魔力を貯蔵し任意で取り出せる指輪。

 一個は銀色の鍵。

 

 これでどうにか出来ると良いなぁ〜。

 

 

===

 

 

 銀の鍵を虚空で捻ると、カチャリと音がして木製の扉が現れる。

 

 その扉を開けると、屋台で買ったジュースとご飯が置かれっぱなしの机と椅子が二脚置かれただけの部屋が見えた。

 

 俺はそこにロリアーナとニルヴァーナさん、他二名を押し込んで、最後に自分も入った後、ドアを閉める。

 

 ドアは閉まると消え去って、同時に俺の身体に凄まじい脱力感が訪れた。

 

 気が遠くなり、膝を突く。

 ロリアーナが駆け寄ってくるが、声が遠い。血の気が引いていく感覚に逆らえず、倒れた……気がする。

 

 まあでも、さ。やるべきは事はやり終えたんじゃないかな。

 

 ほのかな満足感を抱いたまま、俺は気を失った。

 

 

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