目を覚ますと、ふっかふかのベッドに寝ていた。めっさ気持ち良い。
そして俺の眠るベッドに顔を預けて眠っている少女が二人。
一人は白髪の狐耳と九本の狐尻尾を持つ十五歳手前くらいの少女。
一人は捻れた角と悪魔の様な細長く先がハート型の尻尾を持ったこちらは十五歳くらいの少女。
この子達はあの地下空間の数少ない生き残りだ。
千里眼で見ると、狐娘が九尾の妖狐で、角とハート型の尻尾を持つ娘がサキュバスである事が分かった。便利なお目目だよ。
にしても、やっぱり空間を切り張りして繋げるってのは大変な事らしい。
昨夜俺が使用した“銀の鍵”の効果は単純。現在地と望んだ場所に扉を作り空間を繋げると言う物。
たった数秒の行使で莫大な魔力を溜め込んでいた指輪の魔力を消費し切った上に、俺の内側にあった魔力すら食い切ってのけた、馬鹿たれ燃費アーティファクト。
再生の首飾りの説明にあったように、魔力は生命力になる。ならばそれは逆も然り、生命力もまた魔力になる。俺は魔力を超えて生命力をいくらか持っていかれたのでぶっ倒れたみたいだな。
のそりと身体を起こすと、狐耳がヒクヒク動いて、涎を垂らした少女が寝ぼけ眼でこちらを見上げた。
「おはよう、狐の子」
「ふぁぃ、おはよー……。むにゃぁ……」
白髪狐少女はあどけないお眠な様子で俺を癒すと、再度頭をベッドに落として穏やかな寝息を立ててしまった。
俺はベッドから降りて、狐ちゃんを代わりにベッドに乗せておいた。
そして隣で寝たふりをしているサキュバスちゃんも抱えて、ベッドに寝かせておく。
さて、とりあえず千里眼。
キッチンにロリアーナとニルヴァーナさんが居て料理中。調理器具はまだ無かった筈だから買ってきてくれたのかな。
街の様子は……変化無し。件の屋敷も……変化無し。いや変化はあった。屋敷の下から三十センチくらいまでが新品みたいに綺麗になっていた。
隠し扉や鉄扉も開けたまんまで戻ってきたのであの地下空間が見つかるのも時間の問題かな。
「サキュバスの子、ゆっくり寝てて良いからね」
「すぴー、すぴー……」
濃いピンク色の髪と顔付きに似合わないボンキュッボンなグラマラスボディ。今では珍しいらしいサキュバスの血に先祖返りして目覚めたことで、奴隷狩りにあった不憫な子。
そんな子がこうしておふざけ出来るくらい安心してくれているのは何故か……俺が弱いからだろうな。
まずもって肉体の出力が違う。魔法の才もある。この子はすごく強くなる。千里眼はそんな事まで分かる様になっていた。
サキュバスちゃんの頭をぽんぽんと撫でて、俺は部屋を後にする。
我が家の構造は単純で、正面ドアからまっすぐ廊下が伸びており、左手側にキッチン、リビング、ダイニングがまとめられた大部屋と、客間が一つ。右手側に寝室と客間が一つずつと言った構造。
その他トイレとお風呂もついている、前の世界と比べても一人暮らしには豪勢な家なのだが……五人も居ると気持ち狭いな。
俺は大部屋に繋がるドアを開ける。
「ん? チトセの様子はどう……だ……チトセ!? 起きて大丈夫なのか!? 魔力欠乏で倒れたのにもう動けるのか!?」
「あっ姉さん! 包丁持ったまま行かないの!」
ロリアーナが心配のあまり強盗ばりの様相でこちらに迫ってきている事以外は無事だな。
俺は静かに両手を上げて無抵抗を表明しておく。
「俺の身体はそもそも魔力が少ないんだよ。だから魔力の回復も早いらしい。心配かけて悪かった」
「そうか……よかったぁ……」
この世界に来た拍子に俺も魔力自体は獲得している。しかしその絶対量が貧弱オブ貧弱。鍛える方法はあるらしいが、今更俺が鍛えても使い物になるのは十数年後だ。
なので俺はバトルに関わる可能性を胸を張って否定している。死にたくないもんな。
ロリアーナからの抱擁に頭の中がでっかいおっぱいで埋め尽くされる中、肩越しにニルヴァーナさんと目が合う。
二人が出会えて良かった、生きてて良かった。俺の罪が増えなくて良かった。情けなくも色んな気持ちが巡るが、取り敢えず黙礼。
「チトセ様、この度は私達をお救い下さりありがとうございました」
「お礼は貰えない。俺には相応しくない。君達を餓死させかけたのは俺の所為なんだ。エルフ、サキュバス、九尾の妖狐は特に生命力が強かった。だから命があっただけで、地獄の様な苦しみだった筈だ。……だから、お礼は貰えないよ」
俺は俺のしでかした事を二人に話した。扉の向こうで盗み聞きしている二人にも聞こえる様に少し大きめの声で。
俺が中途半端な人助けをした所為だと。悪党どもを一網打尽に出来なかった所為なのだと。だから、申し訳無い……そう謝罪した。
頭を上げると、誰一人怒ってはいなかった。それどころか笑ってすらいた。
俺の“目”にも悪感情は映らない。寧ろ、暖色系のオーラが増えた様な感じがする。ロリアーナからは特にそれが顕著だった。
疑問は尽きない。しかしこの状況に流されてしまいたい程度には、俺は小心者だった。
「取り敢えずご飯にしましょう。お腹、空いてませんか?」
奔放な姉と違って理性的で穏やかなニルヴァーナさん。彼女の言葉に反応する様に俺の腹の虫が鳴った。
エルフの二人は良く似た笑顔でにっこり微笑むと、ドアの向こうの二人を連れてきて、席に着ける。
テーブルと椅子、食器などもロリアーナが買ってきてくれたらしい。
そうして、すっかり見違えた我が家の光景に驚きながらも、まずはご飯を食べる事にしたのだった。
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食事というのは気を緩ませてくれるらしい。
みんなの自己紹介、経歴なんかもあまり暗くならずに知る事が出来た。
ニルヴァーナ。ロリアーナの妹。姉に似て美人だが、可愛さを多分に含んだ人好きのする容姿。そのくせ、スタイルも良い。この姉妹は揃って容姿がずば抜けているな。
そんな彼女は、ある日山菜を取りに出掛けた際に攫われた。そこからは数奇なもので、奴隷狩りから奴隷商に売られ、奴隷商から奴隷の購入者の元に運ばれる際に再度奴隷狩り。
そこからまたしても奴隷商に売られて運ばれる際に魔物に襲われ、一人助かる。しかし鎖や錘で身動きが取れず、新たな奴隷狩りに捕まってあの地下空間に運ばれたそうだ。
この世界では街と街の移動に大変なコストと時間が掛かるので、攫われてからの数年間のほぼ全ての時間を攫われ続けて過ごした、被誘拐のプロ。
リーンリース。サキュバスの少女。年齢は十五歳だが身体がえっち過ぎる。ゆるふわした髪型や喋り方をするが、ヴェルダンディーナさんとはまた別の空気感を漂わせ、色気と妖艶さが凄い。
先祖返りと言うのもあって、生まれである羊獣人の両親からは煙たがられ、故郷でも良い思いはしていなかったので、この新天地には色々と期待しているようだ。
ビャク。九本の尻尾を持つ狐獣人の少女。外見年齢は十五歳未満にすら見える。が、実年齢はもちっと上。九尾は寿命が長いからか成長も少し遅いらしい。
故郷では半神格化されていたが、それ故に身動きが取れず退屈で仕方が無かった。そんな折に奴隷狩りに攫われて呑気に面白がっていたが、ご飯があんまり貰えなくて力が出ずに割と前から死にかけていたと教えてくれた。
「ロリアーナとニルヴァーナはともかく、そっちの二人は行く宛て無いだろうけど、俺の家は狭いしな……」
ちなみに敬称は要らないと全員から言われたので外している。代わりに俺の事を好きに呼ばせろと言われたが。
「リリスはね、おにーさんとなら狭くても良いよぉ?」
「そうですね。
身体ちっこいし幅は取らんだろうが……俺の仕事スペースが無くなる。金に関しては問題無いだろうけど……うぅむ。
「チトセ殿。お部屋の広さに困っているなら此方が広げて見せましょう。九尾は神通力を持ち得ます。空間を押し広げて固定するなど造作も無い」
「でも部屋数は変わんないでしょ」
「無念……」
白く大きな狐耳がヘナっと垂れてしまった。分かりやすくしょげるので試しに頭を撫でてみると、手に擦り付ける様に頭を動かしてくる。犬っぽい。髪サラサラで手触り良いな。狐耳もこりっとしてて面白い。ずっと触ってられそうだ。
「ディーナ嬢と言い、チトセは小さい子が好きなのか?」
「小さい子も好きなだけだよ。ロリアーナみたいに大きな子も好きだぞ?」
好きの意味は多少違うが。
ロリアーナにはその違いはどうでも良かったのか、エルフ耳をぴこぴこさせてそっぽを向いてしまった。
「話を戻すが、このままじゃ俺も仕事が出来ないし、ロリアーナの部屋も用意出来ない。……家、買い換えるか」
「まあっ! 姉さん、良かったね!」
「…………ニル、あれはそう言うのじゃ無いぞ。宿代わりの部屋を言っててだな、とにかくあいつは奥手なんだ」
奥手と言う訳では無いのだが……まあ良いや。
「おにーさんお金持ち?」
「いいや? おにーさん、君達が囚われてたあの場所のお金を掠め取ってきたんだよ」
「お宝は見つけた人のものでしょー? じゃあおにーさんのお金じゃない?」
「……ふっ、あっはは。そうだな。そう言う事で良いのかもしれない」
俺の機嫌が良くなったのを見たリーンリースが背中の羽をパタパタと動かして小さく飛びながらやってくる。
「んー!」
「なに? 撫でろと?」
「ビャクが気持ち良さそうだったから」
突き出された頭に手を置いて撫でる。ふわりとした手触りの髪からは甘い香りが漂ってきた。側頭部から生える角にも触れて撫でてみる。
「あんっ♡ ぞわぞわしちゃ〜う」
身を捩った事でおっぱいが揺れる。貫頭衣越しのおっぱいがばるんばるんって。すごい、これは立派なサキュバスだ。
「とりあえず、三人の服を買わないとだな。あとリーンリースとビャクにはこれ」
「指輪?」
「婚約でしょうか? 少し早いですが、お受けしましょう」
「違うっつの。魔力流してみ? 発動するから」
指輪の異空間から取り出したのは新たな指輪を二つ。
その効果は……。
「すごっ、ビャクの耳と尻尾消えちゃったよぉ! 人間だぁ!」
「おぉ、リリスの角と羽と尻尾も消えてしまわれた。これは見事な幻術。魔力を注ぐだけでこれ程とは……」
「これは古代の遺物。アーティファクトって言われてる規格外の品らしいぞ。人間以外の種族が人間に化ける為に作ったらしいが、結局人間の手に渡ってるんだから皮肉な話だけど」
これがあればもう安易に奴隷狩りには合わないだろう。見えないだけでそこには有るから少し気を付ける必要はあるが、外だって自由に歩ける筈。二人にはきっと必要な品だ。
「これ程の逸品を贈られてしまっては、嫁入りも吝かでは御座いません」
「助けただけの女の子にこんなにしてくれるなんて……おにーさんって実は誑し? リリスも誑されそ〜」
「君らの為になるから渡しただけだってば。すぐ男女の関係に行くなマセガキ共め」
狐とサキュバスの本気か分からないじゃれあいにやんわりと付き合いはするが、ニルヴァーナはともかくロリアーナのジト目が痛い。
一先ずお洋服の買い物と、お家の買い物行きましょーねー。
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昨日はあれからロリアーナと二人で買い物に出かけ、三人の適当な衣服を買いにいった。その後は家具代の建て替えだとか、新たにベッドやソファを購入して、その後は着替えた皆んなと改めてお買い物……。
正直お金の消えて行く速度に肝が冷えたが、リーンリースの言葉で掠め取った金銀財宝が使いやすくて命拾いした。
後は、あれだ……。やっぱり殺しかけて、その上で助けたみんなが笑っている姿にほんのり救われるんだよ。俺は小心者だからな。
そんで翌日、俺は一人でギルドにやってきていた。と言うのも、新たな家を探す為だ。
前の家は継続して住む。って言うかあの子らの家にする。部屋が三つあるので、今の環境に慣れて自活出来るまでは二人一部屋として住んでもらうのが良いだろうってな訳。もう一個の部屋は俺の寝室ね。
今日買いに来た家は職場。相談所専用の小さめの家を買う予定だ。
相談に来る人だって一対一じゃ無いと流石に居心地悪いだろうしね。
と言う事で、今日もヴェルダンディーナさんの前へ。
「どーもどーも」
「チトセさんっ、おはようございますですよっ!」
「おはようございますですよ〜」
「もうっ、真似しないでくださぁい!」
はぁ〜……かんわいい。小さな両手をぶんぶん振って精一杯の抵抗を見せる様はもう悶えて当然。
左右を見れば俺の気持ちを代弁する様に仏の様な穏やかな笑みを浮かべるシンシアさんとキリリルさんが見える。
嫌な事を一時でも忘れさせてくれるこの場所は俺にとって大切な場所だと再認識する。
「今日はですね、思い切って職場を買おうかと思いまして」
「じゃあ、少し小さめのお家でしょうか?」
「ええ、それと前に買った家の近くが良いなと」
「承りました! 少々お待ちくださいねぇ〜!」
物件をまとめたファイルを取りに行った小柄な姿を微笑ましく見守っていると、キリリルさんがやってきた。
「チトセ、貴方もしかしてロリアーナと住むの? だから自宅と職場を分けるんじゃ?」
「あぁ、それがなんとも不思議な事に、俺以外に住む人が四人も増える事になりましてね。仕事どころじゃ無いもんで」
「はぁあ? 一体どう言う事よ? ちゃんと飲み会出来るんでしょーね?」
「それは職場として買う家の方でやりましょうか。俺もお二人との時間は大切なのでね?」
しょうがない人を見る様な目で見られたが、直ぐに大人の微笑みと軽やかなウインクを飛ばすと持ち場に帰っていった。
「お待たせしましたぁー。キリリルさんとのお話しのお邪魔でしたか?」
「いいえ。ヴェルダンディーナさんを待つ間の暇を潰してくれていたんですよ。キリリルさんは気の利く優しい人ですね」
同僚が褒められて嬉しいのか、三割り増しのニコニコ笑顔で新たに物件を紹介してくれたヴェルダンディーナさん。
俺が希望したエリア近くに程良い大きさの家があったので、そこをヴェルダンディーナさんと共に仲良く内見した後、状態も良かったので直ぐに購入を伝える。
お店を開いたらヴェルダンディーナさんも遊びに来てくれるそうで、その時は全力でサービスしようと思う。
その後はヴェルダンディーナさんの紹介で家具屋に行き、自宅と職場の分、合わせて必要なものをしっかりと購入。
最後に一つだけ俺の店の看板の製作を依頼しておいた。
色々あったけど、これでようやくお店を始められるってなもんだ。
拾った金のお陰で稼ぐ意味はもうあんまり無いかもしれないけど、それでも働き続ける事が大事なのだから。
異世界に来てからおよそ一ヶ月。
想定外の事に見舞われ、想定外の状況になってはいるが、俺はようやく目標を遂げる事が出来たのだった。