職場を購入してから数日が経った。
ようやく家具が揃い、ロリアーナに手伝って貰ってレイアウトを決め、生活用品を整え、スーツをビシッと着込み、そして最後にドアの上に看板を設置したら……。
「完成! 長くは無かったが濃い日々だった……」
マイエンジェルと出会い、受付嬢と大人の関係になり、エルフのお姉さんと出会って、妹さんを助けて、そしたら少女が追加で二人増えて……。
「色々あったけど、それも含めて思い出か。さあ、なんでも相談所、開店だ!」
ドアに掛けていた閉店中と書かれている札を反転させ、開店中にする。
「後はのんびりお客を待つとしよう」
相談室にて、便利な魔道具でお湯を沸かし、白湯を飲む。ナッツを摘みながら千里眼で街の様子を眺めて暇を潰していると、早速玄関ドアに取り付けていたベルがカランカランと音を鳴らした。
初のお客さんかとすぐに立ち上がり廊下に顔を出す。
「いらっしゃーい! 相談ならどうぞこちらに〜! って……」
「やっほーおにーさん!」
そこに居たのはリーンリース。今日は俺が選ぶ羽目になった俺好みの格好をしているようだ。が、しかし! 俺は今は営業中!
「……お金取るぞ?」
「うん! ちゃんと相談に来たんだよー!」
「ん」
ビジネスなことを承知な上での来店ならば無碍には出来ないな。リーンリースを手招きして呼び寄せる。
「お邪魔しまーす」
「膝に乗るなってば。いつも言ってるだろ?」
「えー、いいじゃーん。おにーさんも嫌じゃ無いでしょ?」
「お前は自分の身体が魅力的なことを分かった上でやってる節があるから駄目」
「……んー。……実は相談ってそれについてなんだよね」
俺の膝の上に乗っている事で、胸元がパッツパツのブラウスを見下ろしてしまう。真下に見える突き出た豊かな胸に目を奪われざるを得ない。
フレアスカートは生地が少し薄めなのか、リーンリースのふにふにと形を変える柔らかな尻肉をとてもよく感じる。
だがそれら色欲を打ち負かして、リーンリースのぱっちりお目目と気合いで目を合わせて続きを促す。
「あのね、リリスの身体ってちゃんと魅力的なのかなぁ? 街を歩けばいっぱい視線は飛んでくる。おっぱいにもお尻にも、それを嫌だとも思わない。でもねえ? こんなにアピールしてる人に触られないってちょっと心配なの……」
なに? 触れって事? 俺がお金払った方が良いやつか?
でもリーンリースの様子はふざけた感じでは無い。割と真剣に悩んでいると感じる。
……それならまあ、真面目に答えてやらないとか。
「あのな、俺からすればお前達にはちょっと負い目がある訳。その上、リーンリースはまだまだ若いし、手を出すには憚られる。可愛いとも魅力的だとも、セクシーだとも思うけど、俺は手を出しにくいってだけ」
「ふぅん? 負い目とか気にしなくて良いのに」
その理由が知りたい。助け出してから数日、事あるごとにみんなは言う。だがあの惨状の因果関係を紐解けばそれは俺に行き着く。
俺はリーンリースに問う。何故気にしなくて良いと言うのか。そして何故俺に擦り寄ってくるのかを。
「そもそもの話だよ? おにーさんが摘発しなかったら私達は確実に売られてた。きっと碌でも無い所に行ってたの。餓死の方がきっと幸せだって思ってたくらいなんだから」
この世界ってそんなやばいの? 特殊なプレイヤーの巣窟なの? ちょっと勘弁して欲しいんだけど。
「だからね、おにーさんは何処までも恩人なんだよ。平凡な死を貰えたかと思ったら助けてもくれた。あのあったかい光……心地良かったなぁ」
「あー、あれは神様パワーだから俺の力じゃ無いんだよ。装備も塵になっちゃったし」
「でも、神様パワーを使ってくれたのはおにーさんじゃん。じゃあおにーさんのおかげだよ?」
……この子は、力の所在では無く、それをどう使って誰が使ったかを重要視するんだな。
なんでも無い事のように、それが当然であるかの様に俺を見上げてくるまっすぐな瞳。……思わず吸い込まれてしまいそうな魅力を湛えている。
「それにね、お家に住まわせてくれて、お小遣いもくれて、あり得ないくらい恵まれてる。私達はおにーさんに感謝して恩返ししないとバチが当たるってレベルなの。どうせ行く宛ても無いし、やりたい事も特に無い。ならさぁ〜?」
リーンリースがこちらに身体ごと向き直る。
大きな胸をわざと押し付け、自らの衣服に指を引っ掛けて徐々に引き上げていく。
「どうやって恩返しするかなんてぇ……決まってると思わない?」
巨乳、その下乳が曝け出され、桜色の綺麗な乳輪がチラリと覗く。
ああ、そうだな。そうだよなあ。恩返しの方法なんて決まってるよな。
「消費した金額と、命を助けた恩と、優しくしてやった気遣いと、他にも色々あるもんなぁ」
「うんっ、そう、そうだよ! いーっぱいあるの♡ 返しきれないくらいの恩が♡」
リーンリースの顎に手を添え、ほんのりと上気した顔を上向けさせる。そして声を幾分低くして言ってやる。
「いーっぱい働いて、耳揃えてきっちり返済しような。……先ずは冒険者登録からだ」
「ちっがーう!! なんで今の流れと声のトーンでそんな真っ当な事言うの!?」
真っ当な事を言って怒られる世界、こわっ。
「ロリアーナに話つけて訓練してもらおうか。リーンリース、お前には才能がある。誰にも負けないくらい強くなれる才能だ。俺を組み伏せて襲えてしまうくらいの才能だ」
「おにーさんを襲うのは今でも出来るし」
悲しい事言うなよ。涙が出るだろうが。
「でもなあ、普通に働いといた方が良いぞ? 家に住んだ以上、徴税される。年に大銀貨五枚分以上の働きは必要だ」
「真っ当な事言うなぁ! ……おにーさんはリリスのこと嫌い? 苦手?」
「好きだな。真面目で真っ当だから」
「じゃあなんで?」
「地獄を味わった分、幸せに生きてもバチは当たらない……。だから簡単に身体を差し出すな。もっと人と世界を見て、その上で俺を選ぶんなら相手してやる」
リーンリースが立ち上がる。俺から離れて向かいの席へと腰掛けた。
そして俺が飲んでいたコップをとって中の白湯を飲み干してしまった。
と言うか粗茶出すの忘れてた。お茶請けとかもうちょっとちゃんとしたのを買っとくか。
「相談します」
「ん? さっきしたろ」
「別の」
「ん。言ってみ。お代は後払いでいいから」
「リーンリースとエッチしてほしいです」
数秒の沈黙。のち、俺の口からため息が出た。それも長いやつ。
男娼になったつもりはない。が、サキュバスの本能みたいな問題もあるかもしれない。人間基準の考え方ではこの子は折れない可能性が高い。
恋愛だとか、デートだとか、そう言う方向に真っ先に思考が回ってない時点で、性行為が重要な位置付けにあるのは確定か。
身体を売るだとか、男はこれが好きでしょとか、そう言うんじゃ無くて。本当に自分に出来る一番の恩返しが性行為だと言う感覚もあるかもだよな。
「しっかたないなぁ。取り敢えず一回だけ。良いな?」
「うん!」
俺が肯定すれば、リーンリースは今までで一番嬉しそうに笑った。
ブラウスの背面に小さく入れられた切れ込み。そこから千里眼越しに見える小さな羽を羽ばたかせ、勢い良くこちらに飛んでくると俺の腕に抱きついて来る。
なんだかパパ活みたいな気分だが、買われたのが俺ってのが違和感。
「ベッド、行くか」
「リリス経験無いから! よろしくね!」
………………。俺はどんな顔すりゃ良い。喜べば良いのか? 面倒くさがれば良いのか? ともあれ、最初にすべきは玄関ドアの札を反対向ける事。
「開店一時間で閉店とはな」
「……そんなにするの?」
「いやいや、ヤってる時に人が来たら気まずいだろ」
「な、なぁんだ。……丸一日するのかと思ったじゃんか。……それでも良かったけど」
頭どピンクサキュバス。
取り敢えず一回だ。一回だけ相手して、それでおしまい。
……そう決めとかないと、色々まずい気がするんだよね。