今はセフレでいいから 〜ギャルな幼馴染のギャル友の初体験を手伝ったら、激オモ感情を向けられるようになった〜【電子書籍4巻4月24日 発売】 作:佐間野 隆紀
「詩織、明日ってヒマしてる?」
金曜日の放課後のことだ。
下校前、なんとはなしにスマホのインカメを鏡代わりにして前髪をなおしていると、クラスメイトの川崎陽葵が声をかけてきた。
セミロングの黒髪に癖のない整った顔立ちをした、仲のよい女子グループの中ではわりと真面目そうな子だ。
「別に、予定はないけど」
あたしが答えると、陽葵は小さくガッツポーズをする。
「よかった。ねえ、明日、みんなでスポッティいかない?」
(スポッティか……)
反射的に溜息が漏れそうになるのを堪えながら、胸中で独りごちた。
誘ってくれるのは嬉しいが、正直なところ、気が進まないというのが本音だった。
運動はあまり好きではないし、どうせ遊ぶならカラオケとかのほうがまだマシだ。
ただ、まだ新学期がはじまって間もないこの時期にノリの悪い姿を見せるのは、これからの学園生活のことを考えると得策ではない気もしていた。
「他に誰がいくの?」
「女子は姫香とわたしだね。あと、高城くんと雪平くんも来るって」
挙げられた名前は、いわゆるクラスの『陽キャ』グループの面々だった。
実際はあたしたち女子グループとそれに絡んでくる男子たちといったものなのだが、端から見る分にはきっとひとまとまりに見られていることだろう。
(夏希は不参加か……)
そんなことを思いつつ、ふと気になることがあって訊いてみる。
「あれ? 姫香って、いつも土日はバイト入れてなかった?」
「別の子と変わってもらうってさ。ほら、この前一度、誘い断ってたでしょ?」
そう言えば、そんなこともあったな――と、先日のことを思い出す。
冴島姫香はあたしたちのグループの中で最も派手な子で、コスメやアクセなどにかける費用を捻出するため、週に三、四日ほどバイトをしているという話だった。
「姫香、高城くんのこと気になってるみたいでさ。この前はいきなりだったからどうしようもなかったみたいだけど、その分、今回はリベンジしたいみたいよ?」
陽葵が耳打ちするように顔を近づけてきながら、ニヤニヤと笑って言う。
高城というのは、あたしたちによく絡んでくる男子の一人だ。
なるほど、あたしの知らないところでそんなことになっていたのか。
高城辰也――見た目はどちらかというと地味な部類だが、なにかスポーツでもしているのか上背があって体格もいいため、女子からは密かに人気が高いと聞く。
姫香は少しミーハーなところがあるし、きっとそんな高城の印象に惹かれたのだろう。
(どうせ同い年なんてガキなのに……)
頭の中でそう独りごちながら、とりあえず明日の件に関しては予定を空けておくと陽葵に伝えて教室をあとにした。
昔から周りの男子はガキばっかりで、恋愛対象に思える相手なんて一人もいなかった。
進学すれば新しい出会いもあるかもと期待したが、蓋を開けてみればけっきょくなにも変わらない。
何度か上級生からデートに誘われたこともあったが、どいつもこいつも性欲が服を着て歩いているように見えて、嫌悪感を抱くよりも先に脱力してしまった。
処女だったころはさっさと初体験を済ませてオトナの女になりたいと思っていたが、それでもこんな猿どもを相手にするのは自分の価値を下げるようで気が乗らなかった。
(いい男を探すなら、やっぱマチアプとかで数をこなすしかないのかな……でも……)
そんなことをぼんやりと考えながら廊下を歩いていると、非常階段のほうから見覚えのある二人連れが姿を現し、そのまま交差路を昇降口のほうへと曲がっていく。
あれは夏希と――。
(稲村……ユウト……)
胸の奥がドクンと高鳴るのが分かった。
全身の脈が早くなり、急に首筋がカァッと熱くなっていくような感覚を覚える。
稲村ユウト――ひょんなことから、あたしの初体験の相手になった男子である。
見た目は冴えない地味な男子だ。
いつもボサボサ頭で、いつも眠そうな顔をして、いつもスマホばかりいじっていて、クラスメイトと会話らしい会話をしているところもほとんど見たことがない。
あたしも初体験をしたあの日から、とくに会話らしい会話はしていなかった。
当たり前だ。あんな陰キャとあたしでは、立ってるステージが違う。
たまたま処女を捨てるのに手頃な相手だったから利用しただけ――そのはずだった。
なのに、最近はいつの間にか目で追っていることが多くて、そんな自分に気づいてからはむしろ意図的に避けてすらいた。
だけど……いや、だから、だろうか。
今、あたしは稲村ユウトから――並んで歩く二人の姿から、目が離せなかった。
前方を歩く夏希とユウトはあたしに気づいた様子もなく、そのまま楽しげに談笑しながら昇降口のほうへと歩いていく。
というか、夏希のほうが一方的に話しかけたり小突いたりしているだけで、端から見る分にはユウトがギャルにいびられているようにしか見えなかったが……。
二人がやってきたのは、普段はほとんど使われることのない非常階段のほうだった。
(……なにしてたんだろう……)
心臓が嫌な跳ねかたをしていた。
二人がなにをしていようと関係ないはずなのに、何故か気になってしょうがなかった。
そして、頭の中が、あの日の熱く甘く激しい体験の記憶に塗り潰されていく。
(ユウト……)
あたしは二人の姿が廊下の奥に消えていくまで、ただじっとその場に立ち尽くしていた。
※
「んっ……くふっ……んんっ……」
鼻から声が漏れ出てしまうのを抑えることもできず、あたしは無心で自分のアソコに指を這わせていた。
(ああ、ユウト……)
カーテンを締め切った薄暗い自室の中、ベッドの上でひたすら自分を慰める。
脳裏に浮かんでくるのは、あの冴えない男子の顔――そして、あたしの体を知り尽くしているかのように絶え間なく快楽を与え続けてくれた、あの優しい指先の感触だった。
「んっ……ふぅっ……ん、んっ……」
ブラウスのボタンを外して手を差し込み、ブラジャーをたくし上げて乳首を抓む。
反対の手はショーツの中に入れて、コリコリに硬くなったクリストリスを指先で擦った。
あの日の感覚の残滓に浸りながら、自分の手と記憶の中のユウトの手を重ねてゆく。
(あっ……いくっ……ユウトぉ……)
甘い痺れが全身を包み込み、やがて恥も外聞もなく快楽のことしか考えられなくなる。
はぁ、はぁ――と、息が荒くなるにつれて自然と口が開いていき、あたしの舌が無意識に相手を求めて突き出されていった。
失敗だった。勢いであいつとキスなんかするんじゃなかった。
あまりにも甘やかなあの感触が、今もあたしの脳裏にこびりついて離れない。
(ユウト……キスしたい……ユウト……)
「ぁっ……はぁっ……んっ、くぅぅっ……」
電流のように全身を愉悦の波が駆け巡り、アソコから熱い飛沫がぴゅっぴゅっと勢いよく噴き出してくる。
ギュッと体を硬直させたまま全身を包み込む甘やかな感覚に身悶え、やがて訪れる多幸感と倦怠感に包まれながら、ぐったりとベッドの上に脱力する。
(あたし……マジでどうなっちゃってんだろ……)
乱れたブラウスとスカートをなおしながら、ただただ重い溜息をつく。
あの日から、あたしの毎日はすっかり変わってしまった。
脳裏にちらつくあいつの顔を振り払いたい一心でスマホにマッチングアプリをインストールしてみたりもしたが、けっきょく使わずに消してしまった。
(ユウト……またあんたと……)
認めたくない。決して認めたくはないが――。
あたしの毎日は、いつしかあの冴えない男子にすっかり塗り潰されてしまっていた。