今はセフレでいいから 〜ギャルな幼馴染のギャル友の初体験を手伝ったら、激オモ感情を向けられるようになった〜【電子書籍4巻4月24日 発売】 作:佐間野 隆紀
「……ねぇ、聞いてる?」
名も知らぬ男のその言葉は、すでにあたしの耳には届いていなかった。
あたしはただひたすらに自分の運命を呪っていた。
(なんでアイツがここにいんのよ……!)
それは予定より少し早めに着いてしまったアラウンドワンのロビーで、他のメンバーがくるのを待っていたときのことだ。
スマホをいじりながらポツンと一人で突っ立ってたせいか、あたしはすぐにナンパ目的の大学生っぽい男に絡まれることになった。
もっとも、それ自体はよくあることで、そこまで気にするようなことではない。
問題は、そんな男を適当にあしらっているときのことだった。
(稲村ユウト……!)
あいつは入口のほうからフラッと現れ、あたしに気づいた様子もなく、そのままゲームセンターのほうに向かって歩き去っていった。
いつもどおりのボサボサ頭で、スポーツブランドのロゴが入ったパーカーにジーパンという実に冴えない格好で——それなのに、視界に入った瞬間に気づいてしまった。
あたしはほとんど無意識のうちに歩き出し、呼びとめてくるナンパ男を無視してその背中を追った。
「ユぅ……稲村っ……!」
ゲームセンターの喧騒に負けないくらい大声で呼びかけると、ギョッとしたようにユウトが振り返ってくる。
「えっ……あ、眞鍋さん……?」
ユウトは驚いたように目を見開いていた。
自分でも恥ずかしくなるほど息を乱しながら、ユウトのもとへと詰め寄っていく。
「なあ、ちょっと待ってよ……え? なに? カレシ?」
――と、あとを追ってきたらしいナンパ男が、やや困惑ぎみに後ろから声をかけてきた。
(彼氏なわけないでしょ……こんな男、彼氏のはずがない……)
あたしは自分で自分にそう言い聞かせつつも、胸の鼓動が高鳴っていくのを感じていた。
彼氏、恋人……稲村ユウトが、あたしの……?
(違う……これは、ナンパから逃れるためだから……)
頭の中で誰にともなくそう言い訳をしながら、未だに状況を飲み込めていないユウトの腕を強引に掴み、そのままギュッと胸の中に抱え込む。
「そうよ。悪いけど、あたし、これから彼氏とデートなの」
その言葉にユウトが変な声を上げるが、睨みつけたらそれ以上は何も言わなくなった。
ナンパ男はチッと軽く舌打ちをしながら首をすくめ、それでも素直に諦めてくれたのか、踵を返してロビーのほうへと戻っていく。
「な、ナンパされてたの……?」
すっかり狼狽えた様子のユウトが訊いてくるが、あたしは答えず、そのまま彼の腕を引いてゲームセンターの奥へと引っ張っていった。
そして、多目的トイレの前まで連れてくると、周りに人の目がないことを確認してからユウトの背中を押すようにして中に入り、急いで鍵をかける。
――と、バッグの中からスマホの鳴る音が聞こえてきて、慌てて通話状態にしながら耳に押し当てた。
「詩織、もう着いてる?」
聞こえてきたのは、陽葵の声だった。
静かにしておくようユウトに手振りで伝えつつ、スマホに向かって告げる。
「ごめん、ちょっと急に家の用事で行けなくなっちゃって……」
「えっ、そうなの?」
「ほんと、ゴメン。みんなにも謝っといて……」
それだけ伝えて、一方的に通話を切った。
通話終了と表示されたスマホの画面を見つめながら、そっと溜息をつく。
ユウトのほうを見やると、困惑した顔で立ち尽くしていた。
「え……? ごめん、どういうこと……?」
まだ状況が飲み込めていないらしく、ひたすら目を丸くしながら訊いてくる。
間の抜けたその表情にある種の憎たらしさを感じつつも、すでに自分の中の奥底から湧き上がってくる感情に抗えずにいた。
彼氏――その単語が頭の中に浮かんでから、あたしのすべてはもうこの冴えない男子に塗り潰されてしまっていた。
「眞鍋さ……んぶっ……!?」
ユウトの腕を掴むと、自分のほうに思い切り引き寄せながらその唇を塞いだ。